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黒き天使の異邦人

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第4話 蹂躙



 海中の中を航行する潜水艦の一つである【イ402】は先ほど自分達が攻撃した機体、アストラナガンを無表情というよりも人形としか形容できない表情のまま見つめる。


「402より各艦へ、最初の攻撃は両方とも失敗した」

『それはこちらでも確認したわ、だが、アレは一体何なの……?』

「分からん、私達のメンタルモデルが予定を前倒しして構成させられたのと無関係ではあるまい」

『アレとの戦闘データ収集が艦隊総旗艦達より我らに与えられた任務だ、無理はしなくても良いでしょう』

「ああ」


 人形と評した通りに冷たい言葉と声色で空中でフィールドを展開して、自身達が放った浸食弾頭兵器を防御するアストラナガンを見ていた。
 その横に彼女と良く似た容貌を持ちレオタードに似た衣装を纏った少女に対して答えるが、彼女達に共通しているのは人形と形容するしかないほどに表情が乏しい事である。

 彼女達は海中という自分達の方が絶対に安全と言える位置にいる事により、油断という物が発生していた。
 この事については現在の人類を基準に考えている彼女達であれば仕方のない所ではあるが、一つだけ彼女達の誤算を上げるならば、相対している敵となっている存在を【現在】の人類と同等と考えた事にある。


「次はどうでる?」

『目標の潜航を確認、どうやら私達と海中で戦う様ね』

「奴は正気なのか?」

『ただ、奴の所為で一個艦隊が壊滅していることから油断はしない方が良いでしょう』


 上空のアストラナガンは浸食魚雷の爆発を避けるように上昇をしたと同時に、一本の剣を抜刀して海面へと急降下し海中へと身を躍らせたのを確認した402の口元に、今までの様な人形じみた物ではなく初めて笑みという感情を持った形で口元だけが歪む。
 それは通信を行っていた400も同じ様子であり、言葉こそ油断することを戒める物ではあったのだが、彼女の口元にも402と同じような笑みが浮かんでいることから、彼女達の胸中に去来しているのが何なのかを窺い知ることが出来た。


「なっ!?」

『は、早い!!』

「避けろ!33!!」


 海の中に潜ったアストラナガンを確認したと同時の状況の転換、これに彼女達は振り回されることになる。
 アストラナガンは空中にいる時と同じ速度で展開中の潜水艦へと一気に肉薄したのだから、これまでの人類における機動兵器と呼べる戦闘機の様な存在と同じように考えていた事を、ここにきて彼女達は思い違いに気付かされた。
 今、自分達が目の前で相対している存在は、この世界の人類が建造した物ではなく、自分達と同じように得体のしれない何者かの手によって建造されたのではないのか? と。

 そうして一気に自分達の寮艦である伊33に接近しつつ、アストラナガンは羽の形をした弾丸を翼より射出して400と402に対して牽制を行いながら、回避運動を行おうとした伊33を捉えて手に持った剣を両手で持ち振り下ろした。


「ば、バカな……」

『たった、たった一振りで……?』


 海中の戦闘状況を知らせる映像に信じられない光景が映る。
 接近を許した伊33が、まるで豆腐か何かを切るかのように艦の中央部より真っ二つに切り捨てられたのだ、今までに自身達を傷つける事が出来た存在を間近で見ることなど無かった事、それが彼女達の激しい動揺を誘う事になった。


「くっ!」

『402、防御に専念を!』

「分かっている!だが、何としてでも、隙を見つけて離脱しなければ」

『ええ』


 そうして彼女達はようやく理解する。
 自分達が仕掛けた相手がどれほどの化け物なのかを。







~黒き天使の異邦人~
~第4話 蹂躙~






 さてと水中でも空中とほぼ同じように動けるというのは、意外ではあったけどこれは敵にとっても同じだったらしく、先ほどまでの様な統率というよりも冷静で慎重な動きから、慌ただしく自分達の速度を上げて武装をめくら撃ちのように次々と魚雷やら音響魚雷を撃ってくる。

 何としてでもこちらの射程の外に逃げようとするような動きだな。
 ここで下手な形で逃げられては、こっそりと尾行でもされてアオガネの位置を特定されでもしたら、今までの努力が水の泡だ。


「ならば、ここで後もう一隻は沈んでもらうか、行け!ガン・ファミリア!!」


 位置を特定されないためには簡単だ、もう一隻か残り全てを撃沈するしかない。
 もしも向こう側から何らかのコンタクトが戦闘前に合ったのならば、応じて戦闘を回避するなどの方法があったんだが、向こうに戦闘の意思がありありで俺を沈める気で向かってくるという状況下で、こんな甘い事を考えていられるのは、アストラナガンという超戦力に搭乗している余裕なのだろう。

 これがヒュッケバインなどの機体だったら間違いなく、圧倒的に不利な戦いを強いられていただろうしな。


「あの緑色に輝いている紋章の浮かんでいる方、こっちに大きく損傷して貰うか沈んでもらうとするか」


 ガン・ファミリアを向かわせた方とは別の、緑色に輝く変な紋章を浮かべている潜水艦に俺は狙いを定めると、海中であるのに普通にエネルギーを発して羽ばたく事が出来る翼を使い一気に接近する。
 それと同時にチラリともう一隻の方を窺えば、何らかの防御フィールドと思われる物を展開しつつ、ガン・ファミリアの追撃から逃れようと必死で動いているのが確認できた。

 現状の機体速度はノット換算で、130ノットに一瞬で達して緑色の潜水艦の艦尾を捉える。


「その推進部を貰ったぞ!!」


 推進部がある艦尾に到達したと同時にZ・Oソードを展開、まるでバターや豆腐を切り裂くようにしてあっけなく潜水艦の推進部は切り裂かれて爆発を起こす。
 残りの艦体部分については先ほどと同じようにフィールドを発生させつつ、ベントを開いたのか大きく泡を出しながら沈降させていっていた。

 恐らくはこのまま逃走を図るのだろうと思われるし、俺の予想が正しいのであれば彼女達は失った艦体を自己修復で応急的であっても再構築できる。
 既に切り裂かれた艦隊の部分から不思議な光が漏れだして、早速と言って良いくらいに艦体が再構成されていっているのがその証拠だ。


「ならば、ここで完全に足を止めてもらうとしようT-LINKフェザー展開」


 翼を大きく広げて腕を組みT-LINKシステムへコンタクトし、緑色とも翠とも言える輝きの翼に鳥の羽を模した弾丸を出現させる。
 その数18、原作ゲームのアストラナガンが展開していた数は4か5程度の数だったと記憶しているが、自分で展開枚数を選ぶことが可能なようだ。


「フルファイヤ!!」


 もう一隻が俺の行動を見て嫌な予感を感じたのだろう、こちらへと向かおうとするがガン・ファミリアがフィールドが弱くなっているポイントを狙い撃ちにして牽制する為に、その迎撃に専念せざるを得ない状況へと追い込む。
 そうして全ての羽を奇妙な形の紋章が緑色に光る潜水艦へと、俺の一言で殺到し次々と突き刺さっていく。

 次々に突き刺さり全てが連鎖するようにして一瞬で爆発していくと、俺の目の前には大破して緑色の輝きも失われている潜水艦がゆっくりと沈降していっていた。


「人が、人の形をしたものが乗って居ないだけ、精神衛生的には良いんだけどな……」


 第二次世界大戦中の軍艦を模している事、つまりは人が乗れるという事で俺自身、最初に駆逐艦を撃沈した時は後味というか複雑な罪悪感に包まれていた。
 俺が自分の身を、命を守る為とはいえども、俺自身が向こう側でさえも経験した事のなんてない人を殺す感覚を感じてしまったのだから。

 だからこそ、撃沈した艦に人が乗っていない事を確認出来た時は安堵のあまりに涙が出てしまったんだが、まあ、それは置いておこう。


「もう一隻の潜水艦は、退いたか……」


 さっきまで俺の後方約2千mという海の中、俺達の様な戦闘が可能なものにとっては至近距離にいた潜水艦は、ガン・ファミリアを振り切って戦闘海域より逃走していた。
 だけど、さっきまでの飛行で俺はステルス機能であるASRSを解除していなかった、これはステルス機能を展開しても探知される技術を持っているという事なんだろうな、もしくは情報を収集されたかのどちらかだろう。

 まあ逃げた潜水艦の様子から今回は俺を追尾しようという意思は感じられないし、何よりもグズグズしていたら増援に囲まれる危険もある。
 そう判断した俺はアストラナガンの推進ユニットに出力を伝達し、一気にアオガネを目指すのだった。







 それからの俺は常にセンサー類から送られてくる情報を処理しつつ、周囲に敵が居ない事と追尾している存在がいないことなどの全てを確認して、アオガネへと降り立つ。
 海中でPT等の機動兵器を収容するアオガネ内のピットに降り立つと、周辺の海水が排水されて気圧も調整されていく。


「やっぱり狭い艦内での操作は苦手だな」


 何度も経験というよりも艦内であれば訓練できるから、暇を見つければ動かしているんだが未だに艦内での歩行は慣れないな。
 外を歩くよりも人一倍気を使わないと周辺の物にぶつかって機材を破損する恐れもあるし、最初に歩いた時はハロを一体ほど踏みつぶしてしまったしな、この辺は物凄く気を着けないといけない。


「ふぅ…… 最初の頃よりは大分上達したな……」


 アストラナガンをピットに寝かせるとコクピットを開いて、ハロの手により接続されたタラップに乗る。
 既にここが自分の家だと認識しているのか、タラップに降りて艦内の空気を吸った瞬間に家にいる安心感が胸の中にじんわりと広がっていく。


「やっぱりだ、元の世界に帰りたいという気持ちが薄くなっている……」


 この世界に来てもう2年が経過した今、色々と体を鍛えたり知識を新たに得たりして過ごしている内に、俺の中である一つの思いが消えていくのを感じていた。
 それは俺が元の世界に帰りたいと考える事が無くなったことと、更には元の世界での事が思い出せなくなっている事だ。
 スパロボの知識とかは普通に思い出せるし、様々な知識も俺の頭の中に残っているから新たな知識を得た事で思い出せなくなっているという事ではない気がする。


「それにどんな人生を送っていたのか、どんな家族がいたのか、それも思い出せなくなっている……」


 まるで顔も見えない誰かによって俺の記憶と意識が改変されているような、そんな得体のしれない不気味さをずっと感じていた。
 この事が分かった時からずっと日記のような形で前の世界での事を書き綴っていたんだが、まるでも何も赤の他人の記録を読んでいるような、そんな気持ちになってしまうのだ。


「どうしてしまったんだろうな、俺……」


 最初は元の世界に帰りたいという思いと、宇宙に出てみたいという思いが半々で混在していたというのに、今はもう元の世界に帰りたいという思いはほとんどなく、逆にここにある機体をもっと十全に扱ってみたい、宇宙に進出して見た事のない世界を見てみたい。
 こんな気持ちになっていっているのだ。


「まあ、今の状況だと霧の勢力を何とかしない事には行動も起こせないか……」


 俺が見下ろす格納庫ではハロ達が忙しそうに動き回ってアストラナガンの各所を点検しつつ、武装の整備を行っていた。
 アストラナガン本体はハッキリと言って各種に渡る整備の一切が不要というチートと言える存在だが、武装に関してはそうはいかない面が多い。
 Z・Oソードもガンファミリアも液体金属の状況確認やら、ファミリア内部の消耗部品の交換といった作業が行われている、今回は頭部に装備されているフォトンバルカンは使用しなかった為にいじっている様子はないな。


「自己再生、自己進化を可能とした金属か……」


 ズフィールド・クリスタル。
 これがアストラナガンの装甲に使われている材質の正式名称だが、自己再生に自己進化が可能というトンでもない材質だ。
 更にはエンジンも量子波動エンジンやらティプラー・シリンダーといった物を積んでいる。
 今も詳細はあまり把握はしていないが戦闘中にエネルギー切れを起こした事が無い事に加えて、受けたダメージも即座に修復されるから、この機体の異常性はハッキリと認識している。


「人類側と接触する時にはアストラナガンじゃない方が良さそうだな……」


 使われている技術に兵器として見た時の異常ともいえる性能などを考えた場合、もしもだが人類と接触するような事があれば別の機体で接触した方が良いのかもしれない。
 この世界の人々がどうなのかは分からないが、アストラナガンの技術を知れば、確実に碌でもない事になりそうだ。


「だからと言って、他の機体で出ようにも、なぁ……」


 そう他の機体で出ようにも隠す場所の問題やらが山積するし、日本までの航続距離に戦闘が発生した際の消耗を考えると、どの機体でも不安になる。
 まあアストラナガンがそれだけ以上というか、頭イッてるレベルにおかしい性能なんだけどな。
 とにかく、何らかの形でいずれは接触しないといけないだろうし、それまでに考えておけばいいか。

 そう考えると、先ほどの戦闘が終わってから空腹を感じていたために、俺は格納庫を後にするのだった。







 先ほどまでアストラナガンと交戦していた伊400は402のメンタルモデルとコアの回収に成功していた。
 400の艦橋内にて緑色のワンピースに似たドレス風の衣装を身にまとった少女は、女の子座りと俗に言われる座り方で座り込み、更には顔を俯かせて肩を震わせている。


「33のコアは発見できない…… 信号もないから消滅したのかもしれないわ……」

「そう、か……」


 回収に成功してからずっと402は肩を震わせており、400が話しかけても言葉少なく震える声で返事を返すばかりであった。
 そんな402の様子を400は戸惑っているように、どう接していいのかが分からないと言った様子で彼女を横目で見るだけだった。


「あの戦闘は、私達の完全敗北でした」

「……あ、あぁ……」

「それに、パイロットの技量も決して機体に劣る物ではありませんでした」


 思い返されるのは前回の戦闘の光景、相手となる機動兵器が持っていた常識という物では一切図れない超常的な性能に加えて、それを自在に操っていたパイロットの技量、全てがあまりにも高すぎるレベルで纏まっていた機体を相手に自分だけでも無傷で帰還して、寮艦を一隻失ったものの姉妹と言えるコアを回収できた事は喜ぶべき事だろうと思っていた。
 後は艦隊総旗艦へと報告を行うだけが自分の任務と思いなおした彼女は、進路を霧の艦隊の合流地点へと定めて向かうのだった。


(これは一体何なのだ? 奴の事を考えれば、胸が締め付けられて体が震える…… これは、一体……?)


 そう考えている一人の少女といえる姿をしたメンタルモデルの思いを置き去りにしたまま。
 彼女の中に目覚めた感情、それを彼女自身が真に理解するまで彼女はずっと自問自答を繰り返すことになる、この事の答えが出た時に彼女がどういった選択をするのか、それは彼女だけにしか分からないだろう。

 だが、元の正式な流れには無かった正体不明の存在の介入は、様々な方向へと既に影響を与え始めていた。

 
 

 
後書き
アルペジオ特有の『負けたらギャグ要員』は、このssに置いても健在ですw
負けちゃった彼女がどうなるのか、お楽しみに、というか原作でも半ばギャグ担当と化しているのは私の気のせい何でしょうかね・・・? 
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