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パンデン

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第一章

                  パンデン
 ネパールにはじめて来てだ、日本の若い登山家である大山貴一は大柄な身体の上にある
逞しい顔で先輩の春日俊一郎に言った。
「聞いていましたけれどね、ここの寒さは」
「実際に来てみるとだろ」
「はい、予想以上ですね」
 そこまで寒いとだ、そのネパールの首都カトマンズの宿で言った。
「高山にある国だけあって」
「そうだろ、俺はここに来るのは三度目だがな」
「うち一回はチョモランマに挑戦でしたね」
「ああ、何とか頂上まで行けたよ」
 世界一高いこの山にというのだ。
「大変だったぜ」
「そうらしいですね。まあ今回は」
「ああ、あの山には登らないがな」
「別の山を登って」
「それでな」
 春日も言う、日に焼けた優しい顔立ちだ。大山よりも大柄だが引き締まった感じでむしろ彼よりバランスが取れている身体つきだ。
「ネパール自体も観るからな」
「観光もするってことですね」
「そうだ、けれどな」
「けれどですね」
「ネパールに来たのがはじめてならな」
「何かありますか?」
「まずはこの国をじっくりと観てな」 
 そのうえでというのだ。
「よく知るんだ」
「この国自体を」
「それからだ、山に登るのはな」
「まず山に登るんじゃなくて」
「山に登ろうな」
「山のあるそのl国を知ってこそですね」
「登らないとな」
 春日は大山に登山家として言うのだった。
「登山をするのならな」
「山だけを知るんじゃなくて」
「その山がある国を知ることなんだよ」
「先輩がいつも仰ってることですね」
「そうだ、じゃあいいな」
「まずはこのカトマンズをですね」
「見て回ろうな」
 春日は大山に温厚な優しい言葉で言った、そして実際にだった。
 彼は大山を連れてカトマンズの街を歩いた、そうして街の色々な場所にも行って飲んだり食べたりもした。
 そのカトマンズの街を歩いてだ、大山は春日にこんなことを言った。
「いや、確かに空気は薄くて寒いですけれど」
「それでもだよな」
「はい、落ち着いた感じで」
 それでとだ、春日にカトマンズの人達がよく行く感じの食堂の中で地元の料理を食べながら言うのだった。中国とインドのそれぞれが混ざった様な料理だ。
「いいですね」
「そうだろ、俺達がいる静岡とはな」
「また違いますよね」
「静岡っていうか日本は人が多過ぎてな」
「賑やかで」
「ここみたいに落ち着いていないからな」
 こう大山に言うのだった。
「どうもな」
「けれどここは落ち着いていて」
「それがいいだろ」
「しかも人は素朴で」
「そこもいいだろ」
「本当に。それと」
 ここでだ、大山はカレーを食べつつこんなことを言った。
「ここって色々な人がいますね」
「民族の話か?」
「はい、何か」
「ああ、ネパールは実は多民族国家なんだよ」
「やっぱりそうですか」
「中国とインドの間にあってな」
 そしてというのだ。
「国土は広くないけれどな」
「それでもですね」
「色々な人がいるんだよ」
 そうした国だというのだ。
「そこもまた面白いんだよ」
「そうした国ですね」
「ああ、ちなみにこの店はな」
 店員の女の子が自分の横を通り過ぎたのを見ながらだ、春日は大山にこうしたことを言った。 
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