| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ケスケミトル

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章

「あの服がインディオの人の民族衣装ってわかるけれどな」
「それでもですか」
「名前はですか」
「所長も」
 イーコは事務所の所長である、だからこう呼ばれたのだ。
「あの服の名前は」
「ご存知ないですか」
「インディオの服はな」
 首を傾げさせての言葉だった。
「ちょっとな」
「ご存知ないですか」
「それは」
「俺はインテリアデザイナーであってな」
 それで、というのだ。
「ファッションデザイナーじゃないからな」
「専門外だからですね」
「服の名前はですね」
「ご存知ないんですね」
「そうなんだよ」
 こう言うのだった。
「そこまではな」
「そうですか」
「そこまでは、ですか」
「ご存知ないですか」
「そうなんだよ、けれど変わった服だな」
 イーコはその服を見つつ述べた。
「デザインも模様もな」
「ああ、模様ですね」
「面白い模様ですね」
「幾何学や花のそれがあって」
「しかも」
 その模様の所々がだった。
「不完全なところもありますね」
「あれ何なんですかね」
「さてな、ちょっとあの人本人に聞くか」
 こうしてだった、イーコは。
 その娘が自分達のところに来て挨拶を交えさせてからだった。そのうえで娘本人に直接尋ねたのだった。
「その服は」
「はい、ケスケミトルといいまして」
 娘はその清楚な顔でにこりと笑って答えた。
「ウィチュール族の服です」
「そうですか。民族衣装ですか」
「そうなります」
「そうなのですね、いい服ですね」
「はい、私も普段は着ませんが」
 それでもと言う娘だった。
「好きな服です、今日は他の服が全部洗濯されていまして」
「それで、ですか」
「着ています」
「そうでしたか、あと」
「あと?」
「その模様ですが」
 店のコーヒーをスタッフ達と共に飲みながら娘に尋ねた。勿論娘にしてもコーヒーを楽しく飲みながら話している。
「あちこち不完全になっていますが」
「そのことですか」
「それはどうしてなのですか?」
「はい、ウィチョール族の考えで」
「そちらのですか」
「そうなんです、これはわざと不完全にしていなくて」
 模様の所々、それをだ。
「その方が生活を保障してくれると」
「不完全な方が」
「完全になればそれで終わりなので」
「だから、ですか」
「はい、未完成な部分を入れているんです」
 イーコににこりとして話した。
「そうしてるんです」
「成程、それでなんですか」
「私達独自の考えです」
「それはまた」
 思いも寄らない考えだった、仕事においては完璧主義者の彼にとっては。それで信じられないと思いながらも。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧