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ケスケミトル

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第一章

                 ケスケミトル
 メキシコ第二の都市グアダラハラでインテリアデザイナーをしているイーコ=チェコルは最近仕事のことで悩んでいた。
 それでだ、妻のニキータに自宅でこんなことを言った。
「最近家のデザインをしても」
「スランプ?」
「そうなんだよ」
 こうだ、やや褐色が入った肌の顔を困らせて言うのだった。目は黒く彫がありはっきりとしている。睫毛は長く眉は黒い。顎は見事に割れていて髪の毛はオールバックにしている。背は高くすらりとしていて足が長い。
 妻のニキータは茶色い髪でだ、肌は夫より白く目はアジア系の様に切れ長になっている。小柄であるが胸がかなり目立っている。小さな紅の唇が目立っている。
 その彼女にだ、こう言うのだった。
「同じ様な感じなんだよ」
「それはまた難儀なスランプね」
「もっとな」
「もっと?」
「斬新なのがいいかなってな」
「思ってるのね」
「俺は日常生活はいい加減だけれどな」
 自分でも自覚していることだ、酒が好きで朝も遅い。ついてに言えば家や事務所の掃除も妻やスタッフ任せだ。
「仕事はな」
「真面目っていうのね」
「そのつもりだよ、だからな」
「マンネリなのは」
「嫌なんだよ、それでな」
「完璧にっていうのね」
「仕事は完璧にしないとな」
 これが彼のこだわりだった。
「サッカーと一緒でな」
「メキシコのね」
「野球でもな、日常性生活は加減でもな」
 それでもというのだ。
「仕事はなんだよ」
「それでマンネリだと」
「嫌なんだよ、完璧かつ斬新に」
「そこが難しいところね」
「ああ、どうしたものかな」
「新しい依頼受けてるわよね」
 ここでだ、ニキータは夫に問うた。
「そうよね」
「ああ、今度はな」
「今度は?」
「この街からすぐに行ったな」
 イーコはグアダラハラについて述べた。
「ハリスコ州とナヤリ州の境の」
「シェラ=オクシデンタル?」
「そうだよ、あそこの人に依頼受けてるんだよ」 
 新しい家の、というのだ。
「自分達の家のデザインを」
「あそこって確か」
「ああ、インディオのな」
 所謂先住民族のだ。
「ウィチョール族の人がいる場所だよ」
「そうだったわね」
「ハリスコ州の方だよ」
 グアダラハラのある、というのだ。
「そこの人から依頼受けてるんだよ」
「受けるわよね」
「ああ、勿論だよ」
 イーコは仕事の依頼は断らない、断ったらそれで食べられなくなると思っているからだ。それで、である。
「断らないよ」
「インディオの人ね」
「何かヒントになるか?」
「なればいいわね、インディオの人はね」
「俺達も血が入ってるけれどな」
 中南米の殆どの国では混血が進んでいる、二人にしてもそれぞれのルーツは知っている。所謂スペイン系とインディオの混血であるメスティーソなのだ。
「それでもな」
「純血の人達よね」
「そうなるな」
「それでその人達のなのね」
「ああ、仕事の依頼を受けてな」
 それで、というのだ。 
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