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俺と乞食とその他諸々の日常

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十五話:覇王と日常


 プライムマッチの翌日は三回戦なので今日も今日とて眠い目をこすりながら会場へと向かう。
 今日は俺的に注目の試合が目白押しだ。
 ハリー対リオちゃん、ミウラちゃん対ヴィヴィオちゃん、そしてアインハルトちゃん対コロナちゃんの試合がある。
 特にアインハルトちゃん対コロナちゃんの試合はこの試合に勝った方が四回戦で我らがジークとぶつかることになるのだ。
 見逃すわけにいかない。

「そういうわけで頑張れ、アインハルトちゃん、ティオ」
「あの、何がそういうわけなんですか?」
「何、気にすることは無い」
「はぁ……」

 試合間近というところでアインハルトちゃんと出会ったので激励も兼ねて肩の力を抜かすようなことを言ってみる。
 まあ、アインハルトちゃんに限って心配することもないだろうな。
 出来ればコロナちゃんとも会えたら良かったんだが、あの子はかなり落ち着いた子だから大丈夫だろう。

「この試合に勝てばリヒターさん達、次元世界最強と戦えるんですよね」
「でも、その前に立ちはだかる相手は手強いぞ?」
「分かっています……誰よりも」

 強い意志の籠った目で虚空を見つめ手を握りしめるアインハルトちゃん。
 確かに俺なんかが言わなくてもコロナちゃんが強いのは良く分かっているよな。
 やっぱり楽しみな試合になりそうだ。

「まあ、俺個人としてはアインハルトちゃんを応援させてもらうよ。コロナちゃんには内緒だぞ?」
「あ……」

 何故だか撫で心地の良いアインハルトちゃんの頭を無意識のうちに撫でてしまう。
 顔を赤くして恥ずかしがっているが嫌がっているわけではないのでそのまま撫でさせてもらう。

「……リヒターさんはどうして私の頭を撫でてくれるんですか?」

 上目遣いで見上げてくるこの子が天使に見えてしょうがない。
 このまま連れ帰ってしまいたくなるが事案が発生しそうなので止めておく。

「どうしてか……アインハルトちゃんみたいな妹が居たらな、と思うからかな」
「前にも言っていましたが妹ですか?」
「そうだな。俺は一人っ子だから兄妹に憧れているのかもな」
「どうして私なんですか?」
「片目の色が同じだから?」
「なぜ疑問形なんでしょうか……」

 今度は呆れたようなジト目で睨まれてしまう。
 だが、鍛え上げられた紳士にとってはご褒美にしかならない。
 いや、俺が紳士というわけじゃないぞ? 別にちょっとゾクリとしたりとかはしていないからな。
 本当だぞ。

「ま、今のは半分冗談だが……何というか、似ているんだよな」
「……誰にでしょうか?」
「家の半居候にかな」

 首を傾げるアインハルトちゃんに笑顔で応えてみせる。
 勝手な意見だが、どことなくジークとアインハルトちゃんは似ている。
 若干人見知りのとことか、しっかりしていそうでその実抜けていそうなところとか。
 ……何より、時折どこか悲しげな表情を見せるとことかがな。
 まあ、纏めるとだ。

「放っておけないところとか、ついつい構いたくなるところが似ている」
「それが妹に抱く様な感情に似ているという事ですか?」
「さて、俺は一人っ子だしな。でも、似ているんじゃないのか?」
「……また、疑問形ですね。つまりハッキリとした答えはないというのが答えなんでしょうか?」
「そうだな。俺みたいにネジの二、三本飛ばせば何となくでもいいかって思えるさ」
「断固として拒否します」

 真顔で言われた言葉がグサリと俺の心に突き刺さる。
 ティオ…… 疲れたろ…。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ。
 ティオ……。

「ティオを勝手に天国に連れて行こうとしないで下さい。逝くならご自分一人で」
「最近、俺の心が読まれまくっているんだが、何なんだ一体?」

 というか、アインハルトちゃんの風当たりが急に強くなったんだけどなんでだ。
 まさか、ミカヤのように性格が豹変してしまうのか?
 そんなことは断じて許さない。アインハルトちゃんは天使でなければならないんだ!

「小悪魔系というものです」
「そんなのウソだッ!」

 心が読まれている件についてはスルーの方針で行くことにした。
 深く考えても仕方がない。
 若干、俺が振り回されていることに戦慄しているとアインハルトちゃんが立ち上がって恥ずかしげに頬を朱に染めながら口を開いた。

「お……お兄ちゃん」

 やばい、やっぱりこの子は天使だった。
 思わず抱きしめてしまった俺を咎められる人間がどこに居るだろうか?
 いや、いない。しかし、遠目に俺を指差して通報しようとしている人間もいるわけなので素早く離す。
 やはり、どこかガッカリとした様子のアインハルトちゃんだったがもうすぐ試合なので気を入れ直して歩き出す。

「頑張ってこい、妹よ」
「は、はい!」

 俺の言葉に顔を真っ赤にして駆け出していくアインハルトちゃんを微笑まし気に見送っていたが後ろから肩をガッシリと掴まれたのでため息をつきながら振り返るとどこか目の座ったジークとバッチリと目が合った。
 本能的にこれはヤバいと判断したが逃げられない。

「なんや、随分楽しんどったみたいやなー。ところで関節技(サブミッション)の練習したいんやけど手伝ってくれへん?」
「我々の業界ではご褒美です」
「ほな、始めよっか」
「待て! 今のところは気持ち悪がって俺から離れるところだろ!?」
「だいじょーぶや、(ウチ)は変態さんでも嫌いにならへんから」

 俺の関節を逆方向に曲げながらジークが何か言ってくるが聞こえない。
 というか、それ以上は本気で曲がらない。
 こ、このままだと、アーーーーッ!





 所々外れてしまった関節を元に戻しながらジークと一緒にアインハルトちゃん対コロナちゃんの試合を観戦する。
 試合は二人の意地と意地の張り合いとなって死闘を思わせる凄まじいものになった。
 どちらも満身創痍の状態での最後のぶつかり合いは思わず手に汗握りながら見てしまった。
 勝者はアインハルトちゃんとなったがコロナちゃんにも拍手を送りたい。

(ウチ)の対戦相手はあの子になるんか……」
「なあ、少しいいか? 何でお前は俺の横にピッタリとついているんだ」
「他のお客さんもおるんやけえ、詰めるんが常識やろ」
「それはそうだが……近すぎないか」
 
 俺達の距離は肩と肩が触れ合うレベルで近い。初めはアインハルトちゃんを抱きしめていた俺への腹いせのつもりだったジークも言葉とは裏腹に肩が触れ合うたびに頬を赤らめてピクンと反応している。
 さっきまでは面白いのでタイミングを見計らいながら触れていたがいい加減飽きてきたので声を掛けたのだがどうやら意地でも動く気は無いらしい。

「あの子みたいに(ウチ)も、だ、抱きしめてくれたら離れたげるよ」
「天使と同等の扱いを受けようなど片腹痛いわ」
「なら、(ウチ)から抱きしめよーか。勿論関節技(サブミッション)でやけど」
「やめろ、争いからは何も生み出されないぞ!」

 しばらく押し問答をしていた俺達だったが結局俺が暴力の前に屈したことで現状維持に落ち着いた。
 触れ合う体温が少し居心地がいいなんて思っていなんだぞ。
 お互いにどことなく気まずくなってしまった為に黙ったまま次の試合を眺めていると救世主が現れる。

「チャンピオン、リヒターさん、頼みたいことがあるんですが」
「お、束縛プレイが好きそうなエルスじゃないか」
「誰が束縛プレイ好きですか! あれは高等戦術です!」
「あはは……それで、なんのお願いなん?」

 どこからか現れたエルスをいじることで気まずい空気を脱することに成功する。
 しかし、てっきり束縛プレイが好きだと思っていたが違ったのか。
 全く、紛らわしい。

「私をセコンドとして加えてください!」
「ええっ!?」
「チャンピオンの傍で勉強したいんです! お願いします!」

 深々と頭を下げるエルスにジークがオロオロとして俺に指示を求めるように見て来る。
 ふむ、俺としては眠る時間が確保できるから増えるのは一向に構わないんだが確かな力量を持ち合わせているかは調べないといけないな。

「仕事を抱いて過労死しろ」
「それじゃあ、世界の奴隷じゃなくて会社の奴隷です!」
「採用」

 こうして俺達の陣営にボケを理解しつつ正確にツッコミを入れてくれる戦力が加わった。
 
 

 
後書き

おまけ「こんな非日常~予告編~」

「リヒターさんがヴィヴィオさんを瀕死に追い込んだ…? な、何を言っているんですか?」
「確かに見たんです! リヒターさんがヴィヴィオに斬りかかっているのを!」

「どういうことですか!? リヒターさん!」
「お前達、勝者がいるということは俺達敗者がいるということだ―――覇王の末裔」
「ッ! まさか、あなたは!?」
「俺の真の名前は聖王諸国に滅ぼされたノルマン王国、
 正統後継者―――リヒテン・(ヴォート)・ノルマンだ」

「聖王諸国の末裔に報復をッ!」
「どういうことですの? リヒターの魔力はほんの少ししか無いはずなのにわたくしよりも多いだなんてあり得ませんわ!」
「さて、どういうことだろうな、雷帝の末裔よ」

「リヒターッ! 過去に振り回されるのは(ウチ)だけで十分やッ!」
「我にとっては過去(・・)ではないのだよ」
「ッ! その話し方、あんたは―――リヒターやない!」
「ふ、聡いな忌々しいエレミアの末裔。だが、全て遅すぎる!」

「ジーク……逃…げ…ろ」
「まだ生きていたか小僧ッ!」
「逃げへん! 絶対に(ウチ)が助けたげる!
 だって(ウチ)はリヒターのことが―――大好きやからッ!!」 

「またしても我の邪魔をするか、エレミアァァアアアッ!!」
「リヒターーーッッ!!」

 近日更新予定




 勿論、嘘ですよ(´・ω・`) 
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