| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ダンジョンにSAO転生者の鍛冶師を求めるのは間違っているだろうか

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

プロローグ

 
前書き
転生ものは初めてですが、温かい目で見守ってくれればと思います。
〈*注意:誤字脱字が多いです。〉
それと、オリジナル設定が所々にあります。
ご了承ください。
この話を読むのが二回目の読者には申し訳ありません。 

 
 炉の炎に赤く照らされている部屋の中、俺はだまだまと鎚を振るう。
 目の前にあるのは赤熱した鉄塊。
 俺はその鉄塊に鎚を振り下ろす。
 力に緩急をつけず、鎚を打ち付ける場所は無作為。
 その鎚の発する音はどこか軽く、まるで中身が伴っていないと自分でもわかる。
 鉄塊は自らを打つ鎚が空っぽであると理解しているように形を変えようとしない。
 だけど、軽い鎚の音が四〇回目を数えると、鉄塊の放つ光は赤から白に変わり、一際(まぶ)しい閃光を放つや、生を持ったように形を変えていき、やがて剣の形になると、輝きを失った。
 剣は長さ七〇センチ――ここではセンチを(セルチ)と呼んでいる――の銀刃の両手用直剣。
 能力値や限界強化回数からそれほど悪くない剣だとわかった。
 ウィンドウを閉じると、適当な鞘を見繕(みつくろ)って様々な剣や斧、槍が無造作に積み重ねられている二つの箱の一つに放り込んだ。
 そして、部屋の隅にある二つの箱から新しいインゴットを一つと鉱石を五個取り出すとそれを持って対角にある炉の前に行き、燃え盛る炎に入れた。
 炉の炎にあてられて、額から流れ落ちる汗を拭ってから真っ赤に染まって混ざり合った鉄塊をアンビルにのせて再び中身の伴っていない鎚を振るった。
 この一連の作業はSAOにおける《鍛冶》だ。
 作品のできは《鍛冶》スキルの熟練度と素材のレア度である程度決まるが、残りの少しは運に左右される部分がある。

 「ふっ…………」

 鎚を振り終わり、できた剣のウィンドウを開き、能力値を見てから、先程とは違う箱に放り込んで、炉から離れた場所に置いてある椅子に腰をかけ、溜め込んでいた息を吐いた。

 「精が出るわね、ヒロキ」

 すると、背後から見計らうように透き通るような声がかけられた。

 「入ってくるときぐらいはノックしてください、ヘファイストス様」

 鎚を振るっている途中に何者かが部屋に入ってきた気配に気付いていた俺は驚くことなく、振り返って答えた。
 振り返った俺の目に映ったのは、部屋の扉に背中を預けている朱髪の女性。
 女性は漆黒の眼帯で右目を覆い隠しているけど、それでも魅力的な顔立ちで、それに加え、手足もすらっと長く、腰は程よく(くび)れ、胸も奥床(おかゆか)しさを感じさせる膨らみを白いブラウスに与えていた。
 その女性の頭上にNPCだと示すアイコンと名前が浮かび上がる。

 「それに、精が出ていないことぐらい、あなた様が知らないはずがないでしょう?」
 「あら、何のことかしら。難しくて私にはわからないわ」

 俺の指摘を人を食ったような言い草で流す、俺がヘファイストス様と呼ぶ目の前の女性は、お気づきの方もいると思うけど――『神』だ。
 正真正銘の神だ。
 そして、俺の主神だ。
 何故神という雲の上の存在、もしくは非実在と考えられていた存在が眼前にいらっしゃるのかというと、この世界がそうだから、としか答えられない。いや、逆にこっちが何故いらっしゃるのかお聞きしたいぐらいだ。
 俺がこの世界に来て一番驚いたのが神の存在だったぐらいだ。
 話によると、神々は天界におられたそうだけど、何も起きない天界にごうんざりなられたようで、一部が下界におくだりになった、そうだ。
 なんだかあっけらかんとした話だけど、実際に目の前にいるし、他にも沢山の神様達がいるのだから、鵜呑みにするしかない。
 まあ、それはさておき、下りてきた神はそれぞれ【ファミリア】なる派閥を作って下界で暮らしていて、俺はヘファイストス様が()べている【ヘファイストス・ファミリア】に属している。
 何故神が派閥を作ったのかというと、自分を養ってもらうためだ。
 言っておくけど、ギャグでも嘘でもない。
 神は下界に下りてくるときに自らの神通力、ここで言う【神の力(アルカナム)】、を封じているそうで、下界にいるすべての神は下界の住人と何等変わらないのだ。
 それで、衣食住が必要になった神は【恩恵】を派閥の者――眷族と呼んだ方が正しいか――に与える代わりに養ってもらっているとかなんとか。
 それは俺の目の前にいるヘファイストス様も例外ではない。

 「で、今日は何の御用があってこのような薄汚れたところにいらしたのでしょうか?」

 俺はふて腐れたように卑屈になってみた。

 「用がなかったら来てはだめなのかしら?」
 「滅相もございません。ただ、多忙なヘファイストス様が俺のような奴にお会いになるとすれば御用があってのことだと愚考したまでのことでございます」
 「なら、その考えは間違っているわ――と言いたいところだけれど、残念、今日は用があってきたのよ」

 ヘファイストス様は俺の冗談を真に受けず、言う。

 「……また俺と直接契約を結びたい奴が出てきたのですか?」
 「ええ、そうよ。これでもう五回目」

 俺はヘファイストス様の返答にため息をつく。
 直接契約は、おおざっぱに言うと、店を介することなく鍛冶師と契約してオーダーメイドを作らせることを言う。
 ここで少し補足説明するために脱線すると、俺が属するこのファミリアは鍛冶師だけで構成されていて、鍛冶で利益をあげる鍛冶系と呼ばれる系統のファミリアだ。
 他にもダンジョン探索や農耕で売り上げる探索系、農耕系のファミリアは存在しているけど、俺は鍛冶師になるために鍛冶系ファミリアの中で最も規模の大きい【ヘファイストス・ファミリア】に入団したのだ。
 このファミリアだけでなく、他のファミリアもそれぞれに店を持っていて、鍛冶師の作品は沢山の武器のうちの一つとして店で売られることになる。
 これでは勿論鍛冶師は名を馳せることはできない。
 だから、鍛冶師には自分の鍛えた武器を売るもう一つの方法があって、それが冒険者との直接契約なのだ。
 直接契約で、契約者は望む武器を手に入れることができ、鍛冶師はスポンサーを得ることになる。
 つまり、双方に目立った損はない。
 だけど、俺は四度持ち掛けられた直接契約を蹴り、今回も蹴るつもりでいる。

 「入団一ヶ月で、五人に指名されることも、それを全て断った鍛冶師がいるなんてことも、長い間生きた私も聞いたことがないわ」

 何がおかしいのか、ヘファイストス様は楽しげに口元を隠してふふっと笑う。
 俺が何故蹴っているのかなど一番わかっているはずなにも拘わらず。

 「それで御用というのはそれだけですか?」

 と言って、俺はヘファイストス様に背を向けて作業に戻ろうとした。

 「いいえ、もう一つあるわ」
 「?」

 てっきり用が済んだとばかり思っていた、というか思っていたから作業に戻ろうとした俺は足を止めて振り返った。

 「【ステイタス】の更新をさせてちょうだい」

 俺の視線の先、ヘファイストス様は子供のような無邪気な笑みを浮かべて言った。


    ◆ ◆ ◆


 「いつ見ても飽きないわね、あなたのステイタスは」

 俺の背後に立つヘファイストス様は、そう言いながら、俺の背を指でなぞっている。
 俺には見えないけど、俺の背中には無数の【神聖文字(ヒエログリフ)】という文字が並んでいるはずだ。
 その文字が表すのは【ステイタス】で、つまり俺の能力値、だそうだ。
 ちなみにこの【ステイタス】が前述の【恩恵】だ。
 すなわち、背に【ステイタス】を持つのは神と契約を交わした【ファミリア】に属している眷族のみで、眷族は主神にステイタスを更新してもらうことで、【経験値】を能力値に反映するのだ。

 「はい、どうぞ」

 と、言って背後からヘファイストス様が更新した俺の能力値をほとんど神にしか読めない【神聖文字】ではなく、俺にも何故か読める共通語(コイネー)で書いた羊皮紙を差し出してきた。
 俺はまくり上げていた上衣を下ろすと、それを受け取った。
 そこに書かれていた内容は以下だ。


 トキワ・浩希
 Lv.4
 力:B723→726 耐久:A846→847 器用:I19→23 敏捷:C573→574 魔力:I0 片手重直剣:C 重金属装備:C 武器防御:D 限界重量拡張:F 軽業:F 鍛冶:I
 《魔法》
 《スキル》
 【冷却時短(ソードスキルクールタイム・リダクション)
  ・ソードスキルの冷却時間の短縮。

 【硬直時短(ポストモーションタイム・リダクション)
  ・ソードスキルの技後硬直時間の短縮。

 【瞬間変換(クイック・チェンジ)
  ・ストレージ内の任意の装備を自動的に装備もしくは変換。

 【急所誘導(クリティカル・ブースト)
  ・クリティカル率の向上。

 【武器硬化(セミ・デュランダライズ)
  ・装備した武器の耐久値向上。

 【攻撃加速(ウェポン・ブースト)
  ・攻撃速度の向上。

 【攻撃強化(アタック・ブースト)
  ・装備した武器の攻撃力向上。
         :
         :
         :
       (中 略)
         :
         :
         :
 【体力強化(スタミナ・ブースト)
  ・行動距離及び速度の向上。

 【摩擦増加(グリップ・リーインフォース)
  ・転倒(テンプル)発生率の下降。
  ・武器落下(ファンブル)または、武器奪われ(スナッチアーム)武器落とされ状態(ディスアーム)発生率の下降。


 ここで、ステイタスの説明をすると、能力値は最低がI、最高がSで、数値に表すとIが0~99、Hが100~199、Gが200~299、Fが300~399、Eが400~499、Dが500~599、Cが600~699、Bが700~799、Aが800~899、Sが900~999だ。
 これらの数値は俺の【経験値(エクセリア)】に応じて増えるらしい。
 【経験値】は俺が経験を通して得た全ての事柄のことをさし、神はそれを見ることができて、さらには加工し能力値に反映できるのだそうだ。
 【経験値】はこれらの能力値だけでなく《魔法》や《スキル》にも影響をするようで、発現する魔法はその人が経験したものの色が出るそうだ。
 それと、力、耐久、器用、敏捷、魔力の能力値(アビリティ)とは別に、レベルが上がると、【経験値】によって得られる追加能力、【発展アビリティ】がある。
 それは特殊または専門的能力で、耐異常、魔導、鍛冶などがある。
 これらの能力値には明確な数値は設定されてなくて、アルファベットで(くらい)づけされている。

 「やはり、それほど変わっていないですね」

 手渡された羊皮紙に目を落として言う。

 「何を言っているのかしら?あなたのステイタス以上に変わっているステイタスはないと思うわよ」

 ヘファイストス様は後ろから俺が手に持っている羊皮紙を覗き込んで言った。

 「初めからLv.4で、能力値も力、耐久、敏捷が平均Bなのに、それ以外は最低のIで、発展アビリティも見たことも聞いたこともない名前ばっかりで、一つは必ずある魔法のスロットも一つもないし、スキルがこれ、どれほどあるのよ。それに一つだって私の聞いたことのあるスキルがないわ。変わったところばかりじゃない」

 その意味で言ったつもりはないんだけど、そう言われるのも仕方ないみたいだ。
 俺がこんなステイタスなのは(ひとえ)に俺がSAOからの転生者だからだ。
 この『世界』がどのような世界なのかまだ完全にわかっていないが、ステイタスを見るに、俺はSAOのときのステイタスをこの世界に適応できるようにコンバートされたようだとわかった。
 SAOでは能力値は耐久(HP)筋力(STR)敏捷力(AGI)だけで、耐久はレベル上昇毎に増加し、筋力と敏捷力はポイントを貰え、自分でどちらかに振って強化する。
 つまりSTR振りの前衛(タンク)、AGI振りの中衛(ダメージディーラー)のどちらかを自分の意志で選べて、能力値を見ればわかると思うけど、俺は前衛だった。
 ちなみに魔法が存在しないSAOには後衛(サポーター)というポジションはない。
 スキルには、魔法が存在しないSAOに設定された最大の攻撃システム――ソードスキル――があり、予備動作をシステムが検知することで発動する。刀剣だけでなく斧、槍、投剣、体術といったSAOに存在する様々な武器に対応したスキル系統が無数に存在する。
 発動時には武器が発光するライトエフェクトと、攻撃軌道を補正するシステムアシストを伴い、通常攻撃を遙かに凌駕する破壊力と攻撃速度を得ることができる。その反面、所定の硬直時間と冷却時間が存在する。
 この他にも、索敵、聞き耳、バトルヒーリング、武器防御、限界重量拡張といった戦闘補助系のスキルや、鍛冶、料理、裁縫といった生産系のスキルなど、多種多様なスキルが存在している。
 それと更にスキルModというスキルを鍛えて、熟練度がある値に達すると会得できるボーナス的なスキルがあり、それには武器スキルの熟練度をあげていくと得られる《クイックチェンジ》、《クリティカル率上昇》などがある。
 まあ、つまりSAOでの能力値がこっちの世界の【ステイタス】になって、SAOでのスキルがこっちの世界の【発展アビリティ】になって、SAOでのスキルModがこっちの世界の【スキル】になったということだと思う。
 ただ、SAOには鍛冶スキルはなかったはずだった。
 鍛冶スキルというカテゴリは存在したが、スキルとしては《片手用武器作成》などの名で存在しているはずだった。
 あくまで推測だけど、ヘファイストス様によると、《鍛冶》という発展アビリティはもともと存在していたらしく、SAOで俺が鍛冶師不在でもメンテできるために保険で習得していた《装備修復》スキルがコンバージョンで《鍛冶》の発展アビリティになったと思われる。
 それと、レベルに関してはSAOでは47レベルだったのを鑑みるに、一〇の桁をとってこっちのレベルにしたと考えて間違いはないと思っている。
 だけど、このこと全てを誰にも明かすつもりはない。
 それは目の前のヘファイストス様も含む。
 なぜなら神々の一部には欲に素直なやからがいるらしく、そんなことが知られれば探究心の鬼となった神達に一生追い掛けまわされると言われたのだ。
 目の前の神、ヘファイストス様から。
 俺は静かに暮らしたいだけだので、俺のステイタスはヘファイストス様ともう一人の人物しか知らないし、俺が転生者だと知っている人に至っては、誰もいない。
 そして、同じ理由で俺は直接契約を避けている。
 直接契約すると、いやがおうでもその冒険者にほぼ毎日会うことになり、俺の異常性がばれる可能性が著しく上がるのだ。
 すなわちわざわざ神に追いかけ回される趣味はないので、直接契約を望んでくれている冒険者にはお引取願っているのだ。
 それを目の前の神様はわかっているはずなのに、

 「あなたには飽きさせられないわ」

 とかおっしゃって完全に他人事みたいな感じでいるのだから、質が悪い。

 「邪魔するぞ」

 ため息をつきたくなるのを堪えていると、唐突に扉が開いて、一人の女性が入ってきた。
 その女性は後ろでまとめている長く艶やかな黒髪といい具合に小麦色のすべやかな肌が目を引き、左見をヘファイストス様のものに似た眼帯が覆っていてわかりにくいが、顔立ちは目の前にいる神に劣らず整っている。
 背丈は俺以上にあるのに、俺よりずっと細身だ。
 こんな女性が人間とあのドワーフのハーフというのだから驚きだ。

 「やはりここにいたか、主神よ」

 その女性――名を椿・コルブランドと言う――はヘファイストス様の姿を認めると、顔をしかめて言った。
 彼女は、【ヘファイストス・ファミリア】の団長、つまりこのファミリアの鍛冶師の代表であり、俺の秘密を知る人物だ。
 ちなみに、Lvは5だ。
 別にこのこととは関係ないが、この人と主神だけは逆らわないと心に堅く誓っている。

 「仕事が全く片付いておらぬというのに」
 「ちょっとした休憩よ。今帰るところだったのよ」

 椿の小言を遮ってヘファイストス様は言うと、扉に向かって歩き出し、

 「じゃあ、またくるわ」

 と、言い残して出て行った。
 …………当分来なくていいですよ。
 その背中に心の中で呟く。
 椿もその背中を追って扉を潜る寸前、すっとこちらに目を遣ったと、思えば前に目を向け直して、出て行った。
 ……言うに及ばないことだとはわかるけど、俺は椿に嫌われている……っぽい。
 何故確信が持てないのかというと、まともに彼女と話したことがないからだ。
 というか、目さえ全然合わせてくれないのだ。
 とは言っても、嫌われるのは当然と言えば当然で、何の技術もなくただ鎚を振るっていれば、それなりの武器ができるのだから、他の鍛冶師に疎んじられことは覚悟していた。
 逆にかなり友好的なヘファイストス様に戸惑ったぐらいだ。
 まあ、強がりではないけど、気にしていない。
 この方が人が寄り付かなくていい。
 俺は手に持っていた羊皮紙を炉に入れて、機密文書を処分すると、作業を再開しようとインゴットと鉱石が置いてある箱に向かった。

 「んっ…………」

 そして、そこでインゴットが底をつきかけていることに気付いた。 
 

 
後書き
ご感想お願いします。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧