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真田十勇士

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巻ノ五 三好清海入道その三

「そういうことじゃ」
「ではこれより」
「勝負じゃ」
 こうしてだった、二人は向かい合い。
 そのうえではっけよいの後でだった、両者はぶつかり合った。清海はその両手から怒涛の張り手を繰り出した。
 張り手は一撃一撃が衝撃波が起こるまでだった、しかもそれだけではなく。
「速いのう」
「うむ、疾風の様じゃ」
「威力だけではないぞ」
 誰もがその張り手を見て驚きの声をあげた。
「あの者力だけではないか」
「速さもあるか」
「ただ強いだけでなく」
「速さも併せ持っておるのか」
「恐ろしい男じゃな」
「ほう、素早さも使うか」
 毎年この大会を見ている男はその清海を見て感嘆して言った。
「これまで滅多に使わなかったが」
「うむ、相当な相手にしか使わなかった」
 別の毎年見ている男も言って来た。
「清海が速さを全開にするのはな」
「真田の若殿がそこまでの相手と見てこそ」
「それ故じゃな」
「そうじゃな」
 だからだと話すのだった、そして。
 幸村はその猛烈な張り手をだ、正面から受けたが。
 一歩も怯まない、観ている者達はこのことにも驚いた。
「何と、真田の若殿もか」
「全く怯んでおらんぞ」
「あれだけの張り手を正面から受けておる」
「体格も違うというのに」
「何という御仁じゃ」
 こう言って驚くのだった。
「ううむ、これはまた」
「恐ろしいのう」
「あの若殿ここまでも強かったが」
「いや、清海の張り手にも怯まぬ」
「凄い御仁じゃ」
「全くじゃ」
 幸村にも驚くのだった、土俵ではまさにがっぷり四つだった。
 その勝負を見つつだ、海野が言った。
「互角じゃな」
「うむ、そうじゃな」
「互角じゃ」
 穴山と由利も言う。
「殿と清海はな」
「まさに五分と五分」
「そうじゃな」
「力は清海の方が強い」
「やはり力ではあ奴じゃ」
 その巨体から来る力は幸村を凌いでいるというのだ。
「しかしな」
「殿は技がある」
「その技で力を補っておられる」
「その分な」
「そうじゃな、しかもじゃ」
 海野はさらに言った。
「殿はそれだけではない」
「力と技だけでなくな」
「殿は他にもあるからのう」
 二人も笑って言う。
「だからな」
「この勝負は殿のものじゃ」
「殿はその持っておられるものを使われる時を待っておられる」
「まさにな」
「そういうことじゃな、ではな」
 また言う海野だった。
「それを何時使われるか」
「見ようぞ」
「ここはな」
 穴山も由利もわかっていた、この勝負がどうなるのか。しかし幸村はまだその時を待っているだけで清海と力比べをしていた。
 その中でだ、清海は。
 幸村にしきりに仕掛ける、しかしだった。
 幸村は凌ぐ、その幸村に言うのだった。
「わしの力をここまで凌いだのは貴殿がはじめてじゃ」
「いや、それがしもここまでの剛力の持ち主は」
 幸村も言う。
「はじめてでござる、だから是非」
「わしをか」
「はい、家臣に迎えたいと思いまする」
 是非にと言うのだった。 
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