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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 18 「私の大切な……」

 ヴィヴィオって子がどうにか落ち着いたこともあって、私達はヘリで聖王教会に向かった。
 その道中で、ヴィヴィオの面倒は常に見れる状態やないから聖王教会に預けるか、と提案してみたけど、なのはちゃんが戻ってからもう少し話してみるということでその話は終了した。
 聖王教会に到着した私達は真っ直ぐカリムが待っている一室へと向かう。彼女と会ったことがないなのはちゃんやフェイトちゃんの顔にはどこか緊張の色が見える。
 まあ初対面何やし仕方ないかな……カリムと話せばすぐに解ける気もするけど。
 一方ショウくんはというと、昔から私と一緒に何度もカリムと会ったことがあるだけに緊張の色はない。私の知らんところでカリムにお茶に誘われたり、騎士達との手合わせで聖王教会を訪れる機会も多かったから当然といえば当然なんやろうけど。
 そんなことを考えているうちに目的の部屋に到着。扉を叩くとすぐさまが返事があったため、私達は中へと入る。

「失礼致します、高町なのは一等空尉であります」
「フェイト・T・ハラオウン執務官です」

 なのはちゃんとフェイトちゃんは入室してすぐに綺麗な敬礼をする。カリムはそこまで畏まらんでも大丈夫なんやけどな、と思いもしたけど、最初の挨拶は肝心なので胸の内に留めておくことにした。

「いらっしゃい。はじめまして、聖王教会・教会騎士団騎士カリム・グラシアと申します。どうぞこちらへ」

 カリムに案内される形で奥にあるテーブルへと向かう。そこには昔ながらの友人であるクロノくんの姿があった。昔は小さかった彼も今ではすっかり大人の男性になっており、提督という肩書きを持っている。
 自分よりも階級が上の人間ということもあって、なのはちゃんは一言断りを入れてから空いている席に腰を下ろした。一方フェイトちゃんは、お兄さんであるクロノくんに敬礼しながら話しかける。

「クロノ提督、少しお久しぶりです」
「あぁ、フェイト執務官」

 ふたりの固いやりとりを見たカリムは上品に笑い、そのあと普段どおり気楽にしてもらって構わないと告げる。私やクロノくんも同意すると、なのはちゃん達の顔から緊張の色が薄れ始めた。

「じゃあ……久しぶりクロノくん」
「お兄ちゃん元気だった?」
「――っ、それはよせ。お互い良い歳だぞ」

 久しぶりに『お兄ちゃん』と呼ばれたからか、人前だったからなのかクロノくんは恥ずかしかったようで顔が赤くなる。その直後、私の隣から殺しきれなかった笑いが聞こえた。視線を向けてみると、口元を押さえているショウくんの姿があった。

「おいショウ、何を笑っているんだ?」
「いや……昔も似たような反応してたと思ってな」
「だからと言って笑うな。というか、友人なら僕の味方をするべきだろ」
「それは無理な話だな。知り合ってからの時間は大差がないし、今はフェイトと同じ部隊に居るんだ。そっちの味方をしたらフェイトから何か言われるかもしれないだろ。それに兄妹は何歳になっても兄妹なんじゃないのか?」

 ショウくんの問いかけにクロノくんは返す言葉がなかったようだ。名前が出ていたフェイトちゃんはフェイトちゃんで、何かしらショウくんに言いたいことがあるような顔を見せたけど、言うほうが不味いと思ったのか結局は何も言わなかった。

「クロノ提督とショウさんはとても仲がよろしいのですね」
「まあ……10年程付き合いがありますから」
「ふふ、別に照れなくても……ねぇショウさん?」
「そうだな……親しい故に困ることもあるんだが」

 ショウくんのカリムに対する言葉遣いになのはちゃんやフェイトちゃんの顔には焦りが現れる。
 長い付き合いのあるクロノくん相手なら問題ないけど、カリム相手には不味いと思ったんやろうな。まあ一般的には正しいことやけど、ショウくんとカリムは前から交流があるし、普段どおりに話してええって言ったんはカリムやからな。
 そのため私にはショウくんを咎める理由はない。そんなことよりどうして彼の表情が曇っているというか、げんなりしているかの理由を考えたいと思ってしまう。
 クロノくんと親しいだけに困ること……そんであの表情…………あぁなるほどな。ショウくんって何気に大変なポジションにおったし、今もおりそうや。それに場合によっては、矛先がクロノくんだけやのうてなのはちゃん達にも向くかもしれへん。

「困ることだと? 僕がいったい何をした?」
「何って……エイミィとケンカした時は必ず相談してくる奴が何を言ってるんだ」
「――っ、おいその話は今……」
「いやする。人間誰しもケンカする時はするから相談するなとは言わない。けどな、お前ら夫婦はたまに面倒臭い」

 ふむ……夫婦って言い方からして相談してくる相手はクロノくんだけやないんやろうな。お互いに仲直りしたいと思ってるんに、直接行くんやのうて年下のショウくんを頼る。ショウくんはふたりとは付き合いが長いし、なんだかんだで力になろうとするし……まあ愚痴も言いたくはなるやろな。

「リンディさんっていう頼れる母親が居て、相談すれば力になろうとしてくれるであろうフェイトって妹も居る。にも関わらず……」
「えっと、その……ショウ、そのへんで許してあげて。クロノ達も悪気はないと思うし、今度からは私が頑張るから」
「……そうか。……なら今度はフェイト、いやフェイトとなのはに話がある」

 自分達に矛先が向いたことにフェイトちゃん達は驚きの声を上げる。これからショウくんが話すであろう内容は想像できるが、止めるべきかというと止めない方が良いものだろう。

「えーと……私達ショウくんに怒られるようなことしたかな? これといって失敗したような覚えはないんだけど」
「あぁ、別に仕事に関しての文句はない。お前らが仕事をきちんと捌ける奴らだってのは知ってるからな」
「じゃあ……何を言いたいの?」
「それは……もう少し実家や地球に帰れってことだよ」

 その言葉で文句を言われる理由に見当がついたのか、なのはちゃんとフェイトちゃんの目が露骨にショウくんから外れる。

「お前らが忙しいのは分かってるけどな、実際のところもう少しくらい休暇は取れるんじゃないのか? 桃子さん達はもちろんアリサやすずか、ディアーチェもお前らのこと心配してるんだからな」

 桃子さんやリンディさん達はなのはちゃん達の家族やし、アリサちゃんやすずかちゃんは大切な友達やからな。ショウくんの言うことは最もや。私は家族みんなとこっちに移り住んどるからふたりほど責められはせんやろうけど、休みがあったらアリサちゃん達には会いに行くべきやろうな。
 ……王さまとは特に顔を合わせんと。
 アリサちゃん達とは地球で任務がある際に拠点を提供してもらっとる都合上会う機会はあるけど、王さまはそういう時に限って魔法世界の方に行っとることが多い。
 普段はアリサちゃん達と同じ大学生なんやけど、ショウくんの代わりにレーネさんの面倒を見たりしとるからな。……王さまはショウくんの奥さんかって言いたくなる。
 今の恋人は機動六課。そんな風に人には言うとるけど、一度はショウくんに告白した身。正直に言ってしまえば、彼への想いはあの日から変わらず持ち続けている。表に出したりはせんけど、人並みに嫉妬したりすることはある。
 とはいえ、優先順位で考えるとやはり『自分の恋路<機動六課』なわけで……大体告白したときにあれこれ言ってしまっている以上、最低でも機動六課の試験運用は終わらせんと進展させるのはダメや。

「そ、そういうショウくんは……」
「お前らの近況を誰が教えてると思ってる?」
「はい、すみません。可能な限り対処します」

 なのはちゃん、こうなることは半ば分かってたやろ。それなのに言うあたり度胸があるというか、分の悪い賭けが好きというか……こういうときくらいは諦めも必要と思うで。

「さて、今日は一応仕事も兼ねて来とるからな。おしゃべりはこのへんにして本題に入ろうか。まず昨日の動きについてのまとめと、機動六課の裏表について。それから……今後の動きについて」



 聖王教会での用事を終えた私達は、速やかに機動六課に戻った。時間帯はすでに夜になっているし、ヴィヴィオに会いに行かなければならない人物もいるため、すぐさま解散する。

「ほならな、みんな」
「うん」
「情報は充分、大丈夫だよ」
「お前もさっさと休めよ」

 そう言ってなのはちゃん達は、ヴィヴィオが待っている部屋へ歩き始める。
 みんなの後姿を見送るのはこれまでに何度もあった。やけど聖王教会で機動六課設立の理由を話したことで、自分の中での扉が開いてしまったのか、不安やみんなを頼りたい気持ちが溢れてきた。気が付けば私はみんなの方へ駆け出しながら話しかけていた。

「あのな……私にとってみんなは命の恩人で大切な友達や。六課がどんな結末や展開になるかは分からへんけど……」
「はやてちゃん、その話なら出向を決めるときにちゃんと聞いたよ」
「俺達は自分で考えて納得した上で今ここにいる」
「だから大丈夫だよ。それにはやてや八神家のみんなは、なのはの教導隊入りや私の試験をたくさんフォローしてくれた。今度は私達がはやて達をフォローする番」

 みんなの顔はとても温かな感情に溢れていて、思わず目頭が熱くなってしまう。涙を流さずに済んだんは心配を掛けたくないとか、部隊長としての威厳のようなものを考えたからやと思う。

「あかんな、それやと恩返しとフォローの永久機関や」
「あはは、そうだね。でも友達ってそういうものだと思うよ」
「それに今のところはやては何も間違ってないと思う。だから何かあった時は、胸を張って命令して」
「部隊長だからって全部抱え込もうとするなよ」

 嘘偽りない笑顔を浮かべるみんなを見て、私は本当に良い友達を持てたと幸せな気分になった。なので自然と元気な返事が出た。
 話も一段落したため、みんなはヴィヴィオの居る部屋へと歩き始める。私はみんなを見送った後、部隊長室に戻った。
 部屋の明かりはつけずに窓際にあるイスに腰を下ろし、携帯していたデバイスを取り出す。いつものように一段上の引き出しに仕舞おうとした瞬間、不意にアルバムが目に留まった。私はそれを手に取り、机の上で広げる。
 小学生の時になのはちゃんにフェイトちゃん、アリサちゃん、そしてすずかちゃんと一緒に撮った写真。中学時代のアリサちゃんとすずかちゃんが写っている写真に、なのはちゃんとフェイトちゃんと一緒に撮った写真。シグナム達と一緒に撮った写真、と様々な思い出がアルバムには詰まっている。

「…………ぁ」

 アルバムを捲っていると、不意に1枚の写真が目に飛び込んでくる。
 それは私にとって誰よりも大切な人……ショウくんと最初に撮った写真だ。そこに写っている彼の顔は嫌そうにしているけれど、アルバムを捲るに連れて表情は明るく優しいものになっていく。
 ほんま……ショウくんは変わったよな。
 冷たく人を寄せ付けようとしなかったのに今では多くの人と普通に接してる。最も近くに居った身としてはとても嬉しい……ことではあるけど、どこか寂しいとも思ってしまう。そう思うのはショウくんのことを独り占めしたいと本心では思ってるからかもしれん。

「部屋の明かりくらい点けたらどうなんだ?」

 突然聞こえた声に驚きながら視線をドアの方へ向けると、呆れた顔を浮かべたショウくんが立っていた。明かりがどうのと言ったのに彼は何もせずに私の方へ近づいてくる。あえて点けていないと思ったのだろうか……ってそんなことを考えとる場合やない。

「ちょっ、何勝手に入ってきとるんや。しし知らん仲ではないとはいえ、一応私部隊長やで。そういうのは良くないと思うんやけど!?」
「あのな、だったら返事くらいしろよ。中に気配があるのに何度呼んでも返事がないと心配になるだろ」

 どうやらアルバムに夢中というか、ショウくんのことを考えすぎて聞こえてなかったらしい。
 よ、よかったぁ……シグナム達やったら必要以上に心配されとったやろうし、グリフィスくん達やったら部隊長としての威厳に関わるところやった。別に威張るつもりはないけど、少なからずちゃんとした部隊長としての姿は見せときたい。そうやないと外野から余計なこと言われる機会が増えそうやし。
 そんなことを思った直後、ショウくんが目の前に迫っていた。ふとアルバムに目を落とすと、そこには中学3年生の時に一緒に撮った写真があった。
 それは昔のものと違って引っ付いていたり、手を繋いだりしていない。距離感で言えば、少しばかり離れているとも言える。
 でもそれは私とショウくんが異性としての意識を強めた証でもある。普段の状態で見られても問題はないけど、今見られると間違いなく私はボロを出しそうだ。そのため慌ててアルバムを閉じた。

「何を見てるかと思ったらアルバムか。まだ昔を懐かしむ歳でもないだろうに」
「それはそうやけど、今日アリサちゃん達のことが話題に出たからな。会いたいって気持ちが出てもおかしくないやろ?」
「まあそうだな」

 ショウくんは窓へ近づいていく。私は人知れず安堵の息を漏らし、アルバムを引き出しの中に仕舞おうとした。直後、彼の口から静かに言葉が出る。

「お前……無理してないよな?」

 その言葉に私は一瞬動きを止める。無理や無茶といった言葉は周囲からよく出る言葉ではあるが、今の無理には普段とは別の意味合いがあるように思えたからだ。まるで私の中にある覚悟を見透かしているような……そんな意味合いが。

「いきなりどうしたんや。というか、ここに居ってええんか? あの子が待っとるんやないの?」
「あの子が1番懐いているのはなのはだ。なのはが居れば大丈夫だろう。仮に大丈夫じゃなかったとしても……お前かあの子かと言われたら迷わずお前を選ぶさ」

 さらりとそういうことは言うもんやないで。まあ10年以上の付き合いがあるのに、あの子を選ばれるとそれはそれで癪ではあるけど。

「あとで泣かれてもしらへんからな……質問の答えやけど、別に無理しとるつもりはないよ。毎日大変ではあるけど充実しとるって思えるし、体も至って健康や」
「俺が心配してるのは体じゃなくて心の方だ」
「そっちも健康や。隊長としての責任とかあるけど、それはなのはちゃん達にもあるし問題にはできへん」

 私の返事にショウくんは大きなため息を漏らし、そのあとゆっくりとこちらを振り向いた。彼の瞳は普段よりも鋭く私を咎めるようなものが感じられる。

「まあ……お前の人生はお前のものだ。どういう風に生きるのか、どういう道を選ぶのか……それはお前の自由だよ」

 自分の好きにすればいい、そのような言葉のはずなのに私はショウくんの顔から顔を逸らしてしまう。
 私の命は……ショウくんが支えてくれて、うちのみんなが守ってくれて、なのはちゃん達が救ってくれて、あの子――初代リインフォースが残してくれた命。あの日に味わった悲しみや後悔はこの世界の誰にもあったらあかん。……私の命はそのために使うんや。
 誰にも言ってはいないけど、私の中にはそんな想いがある。でもきっとショウくんには見破られてるんやろう。
 本当……ショウくんは昔から察しが良すぎる。それに救われたことも多いから文句は言えへんけど、でも今回ばかりは気づかんでほしかったかもしれへん。

「そう言うんやったらお説教みたいなのはなしにしてもらいたいな」
「ダラダラと言うつもりはないさ。ただ……お前は独りじゃない。お前を見てる奴はちゃんと居る。あまり生き急ぐような真似はするな。……それと」
「それと?」
「俺はあいつから……アインスからお前やお前の家族のことを頼まれてる。だからもしもの時は、たとえ命令違反だとしても俺は自分の意思で行動するからな」

 本当にそうしてくれるん?
 もしも私だけやのうてなのはちゃんやフェイトちゃんが危ない目に遭ってても、私のこと優先してくれるんか?
 そう言いたい自分は確かに居た。けれど、それを言ったらきっとショウくんを困らせる。彼が私の落ち込んだ顔や困った顔を見たくないように、私も彼のそんな顔は見たくない。だから私は……

「部隊長相手によくそんなこと言えるなぁ」
「今は友人として話してるからな」
「友人ね……なら指切りでもしてもらおうかな。口だけなんはもしものときに困るし」

 昔みたいに頭を撫でたり、抱き締めたりしてほしい気持ちはある。やけど私は自分から告白しながら我が侭を言った身や。必要以上に甘えるわけにはいかへん。

「指切りって……」
「ええからええから……指切りげんまん嘘ついたら集束魔法1発、指切った」
「おい……そこは針千本だろ。集束魔法なんてリアリティがあるというか、下手したらトラウマもんだぞ」
「あんなショウくん……女っていうんは現実的な生き物なんや。集束魔法が嫌なら迂闊な発言はしないほうがええよ。まあこんな指切りするんは私だけやろうけど」

 私の言葉にショウくんは肯定の返事をする。顔はどことなく呆れているけれど、こちらが笑うと徐々に明るいものへと変わった。

「ところで……いい加減あの子のところに行った方がええんちゃう? 子供は機嫌を損ねるとなかなか直してくれへんで」
「そうだな……そうさせてもらう。…………はやて」
「うん?」
「隊長としての仕事に関してはどうにもできないが、何かあれば頼れよ」
「最初の部分は別にいらんやろ……ちゃんと頼るときは頼るよ。私ひとりで出来ることなんて限られとるからな」
「そうか……おやすみ」
「うん、おやすみ」

 
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