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俺と乞食とその他諸々の日常

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三話:お嬢様と日常

「リヒター、今からヴィクターのとこに行かへん?」
「その前にどこから家に入ってきたか教えてくれないか」
「ベランダや」
「家のベランダがいつのまにかどこでもドアになってた件について」

 おかしい、しっかりと鍵をかけたはずなんだが。
 こいつは一体全体どうやって中に入ったんだ。あれか、家の合鍵でも作ったのか?

「エレミアの神髄に鍵開ける技があったんよ」
「他の499年に土下座しろよ、それ作ったやつ」

 何、おかしな技開発しているんだ。エレミアらしく戦闘に活かせる技を作れよ。
 それともあれか? 暗殺でもするために作り出したのか。
 だとしたらジークは500年に土下座しろ。
 草葉の陰からガイストされても文句は言えないぞ。

「生まれて初めてエレミアの真髄に感謝したわ、ホンマに」
「お前がそんな使い方ばかりするから扱えないんじゃないのか」
(細かいことはええやん。それよりも早よ、ヴィクターのとこ行こ)
「こいつ、直接脳内に!?」

 まあ、ただの念話だけど。魔力が少なくて戦いには向かない俺だが念話ぐらいなら簡単に出来る。
 それにしても何でこうもヴィクターの所に行きたがっているんだ?
 何か呼ばれてたか……ん?

「ジーク、お前……」
「ど、どど、どないしたん? そ、そんな顔近づけて来て」

 ジークの顔に違和感を覚えて近づいてジッと見つめる。
 ジークはあわあわとしながら頬を染めるが俺は逃がさないように肩を掴み引き寄せる。
 そして、違和感の原因が口元であることを確信する。

「リ、リヒター…?」
「逃げるなよ、ジーク」
「そ、そんな急に言われても心の準備が……」

 俺は緊張で青い目を震わせるジークの顎に優しく手を添えて引き上げる。
 潤んだ目が下にあるので丁度上目遣いで俺を見つめる形になる。
 そして、ふっくらとした柔らかそうな淡いピンク色の唇に―――


「お前、俺のチョコレートアイス勝手に食べただろ」


 ―――チョコレートが僅かではあるがしっかりと付いていた。
 あー、とか、うー、とか言いながらジークが目を右往左往させるが俺からは逃げられない。

「最後の一本……楽しみにしていたのに食べたんだな?」
「えーと……てへ☆」
「すいません、管理局ですか? 家に泥棒が入ったんですけど……」
「あー! お願いやから通報はせんといて!」
「黙れ、明日の新聞の一面に『地に落ちたチャンピオン』という見出しを載せてやる」

 恥ずかし屋のジークにはかなり堪える仕打ちだろう。
 俺の端末を必死に奪おうとして抱きついて来ているが知らない。
 あ、でもおっぱいが当たっていて気持ちいいから許してやる。

「ばれないようにヴィクターの家に行くことを提案したのか」
「そんな怒らんといて。どうしても食べとうなったんよ」
「分かった。取り敢えず、ヴィクターの家には行ってやるがその代わりヴィクターに言いつける」
「うぅ……今から気が重い」

 ここはジークの保護者じきじきに叱ってもらおう。
 ヴィクター相手ならジークも頭が上がらないからな。
 しかし、ヴィクターの方もよくこんな娘を欲しがるな。あれか?
 バカな子ほど可愛いというやつだろうか。まあ、何はともあれ行くとするか。






「まったく、ジーク。盗み食いなんてはしたない真似を教えたつもりはありませんわ」
「ごべんなしゃい」

 案の定ヴィクターに叱られてべそをかきながら謝るジークを見ながら俺はエドガーに出してもらったチョコレートアイスを食べる。
 いやー、流石に美味い。やっぱり、金持ちが普段食っているもんは美味いな。
 まあ、毎日だと飽きるだろうけど。俺は庶民派なんです。

「リヒターも毎回家の子が迷惑をかけてごめんなさい」
「ナチュラルに家の子って言いきったぞ、こいつ」

 ジークの親御さんに謝ってこい。俺も文句言いに着いていくから。

「いいですか、リヒター。手のかかる子供を見たら世話をしたくなるのが母性本能というものです」
(ウチ)はヴィクターと一つしか違わんのやけど……」
「誇り高き雷帝の血を引く、このわたくしヴィクトーリア・ダールグリュンが。か弱い子を見捨てるなど言語道断ですわ!」
「もうええもん……どうせ、(ウチ)なんて……」

 ジークのツッコミを完全にスルーして何故か格好良く言いきるヴィクター。
 やけに様になっているところがなんかムカつく。
 ジークがウジウジとして床に絵を描いているがそれに関しては自業自得だ。
 普段の行いを偶には振り返れ。

「ああ、ジークがまた拗ねて! もう、これだからやめられないんですわ!」

 拗ねているジークの頭をよしよしと撫でて満面の笑みを浮かべるヴィクター。
 ジークをその状態に追い込んだ奴が慰めている光景は中々にシュールだ。

「元凶が慰めても意味ないだろ。なあ、エドガーお前も何か言ってやれ」
「お嬢様は保護者状態になられましたらしばらく戻られませんので無駄ですよ」
「……お前も苦労しているんだな」
「執事ですので」

 若干遠い眼をしながら無駄と言い切るエドガーが余りにも不憫だったので労うが寂しげな笑顔と共に執事ですからと返されてしまう。
 ヴィクターも普段はまともな奴なのにジークが絡むとおかしくなるからこいつも大変だろう。
 今度、男だけでどこかに遊びに誘ってやろうと心に決め俺は二本目のチョコレートアイスを頬張るのだった。

「ところでリヒター。ジークはきちんとご飯を食べていますか?」
「ああ、それはもう。俺の弁当のおかずを食いつくす位には」
「そう、それは良かったわ」
「なあ……なんで(ウチ)が目の前におるのにリヒターに聞くん?」
「そう言われても、放っておくとあなたはジャンクフードしか食べないんですもの」

 娘の食生活を気にする様はどこからどうみても母親だ。
 ジークもジークで頭を撫でられて少し嬉しそうにするな。
 そんなのだからヴィクターの母性本能をくすぐるんだ。
 普段も戦闘中の半分ぐらいの凛々しさを持て。まあ、そんなジークなんて怖いけどな。

「そないなことないよ。ちゃんと野菜だって食べとる」
「あら、例えば?」
「タ……タンポポ」
「却下ですわ」

 バッサリと切り捨てられてガックリと肩を落とすジーク。
 だが、俺には当然だとつっこむ前に言いたいことがある。

「タンポポって食えたのか」
「お腹減ったらなんでもいけるもんよ」
「お前よく今まで生きてこれたな」

 ひょっとしてジークの生存能力って何気に高いのか?
 そう言えば野生児並の生活をしているよな……まあ、主食は俺かヴィクターへのたかりだけど。

「もし、俺とヴィクターがお前に飯を与えなかったらどうなる?」
「飢え死にする」
「分かっているなら少しは働いたらどうだ?」

 キリッとした顔で断言するジークに冷たく返してやる。
 働いてない身の俺が言うのもなんだけど最低限の食費ぐらい稼げ。
 前にも言ったが俺はお前の紐になってやるつもりはないからな。

「仕事なら我が家のメイドなんてどうかしら」
「正気か? それともお前は自宅をビフォーア○ターする気なのか、ヴィクター?」
「ジークのメイド服姿が見られるのなら安いものですわ」
「ダメだ、こいつ……。早く何とかしないと」

 今ここで止めないと大変なことになる。主にエドガーの胃が。
 それと、家を粉砕されるのはごめんだがジークのメイド服姿は見たい。
 今度、ヴィクターと一緒に着させてみよう。

「なんか、(ウチ)ここに来てからずっと馬鹿にされとる気がする……」
「事実だから仕方ないだろ」
「ですわ」
「ですね」

 その後、無茶苦茶すねたジークだったが今度好きな物を買ってやると言ったらすぐに機嫌を直した。
 こいつ……チョロい。
 
 

 
後書き
タンポポはちゃんと料理したら普通に食べれます。 
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