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うわん

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第五章

「困ったことにな」
「ううん、子孫の人も来なくなって」
「それで墓も荒れるか」
「これは深刻な問題だね」
「厄介な、な」
「まことにじゃ」
 苦い顔でだ、うわんは二人に話した。
「昔からある話じゃがな」
「昔からなんだ」
「こうした話があるんだ」
「閉店とか廃寺とか」
「そういう話が」
「わしの場合は廃寺じゃがな」 
 確かにだ、昔からあるというのだ。
「そして寺が廃れるとな」
「そこにあるお墓も荒れる」
「そうなるんだな」
「そういうことじゃ、墓が荒れるのは忍びない」
 うわんは苦い顔のままだ、二人に言う。
「それでこうして人を連れ込んで掃除をさせておるのじゃ」
「そうか、成程ね」
「これで事情がわかったよ」
「そうじゃろ、では頼めるか」
「これも何かの縁だし」
「このお墓で眠っている人達のことを考えると」
 喜椎人も庄汰もだ、うわんの話を聞いてだ。お互いに顔を見合わせてそのうえで二人で話して言うのだった。
「放ってはおけないね」
「僕だって死んでそのお墓が荒れるって嫌だし」
「それじゃあね」
「手入れをしようか」
「頼むぞ。出来れば寺に誰か戻って欲しい」
 住職が、というのだ。
「そうすればこの寺も墓も元に戻るが」
「その辺りはね」
「どうにも難しい問題じゃね」
「それが根本的な解決じゃがな、しかしそれが出来ないと」
 うわんは最善の解決が出来ないならというのだ。
「こうするしかない」
「そうなんだね、じゃあ」
「僕達でよかったら手入れするよ」
「頼むぞ」
「けれどね、こうした廃寺は」
「少しでも減らしていきたいものだよ」
 二人は困った顔で、特にその口をへの字にさせて述べた、そのうえで荒れた墓をうわんと共に手入れした。
 そして墓を何日もかけて奇麗に整えてからだ、喜椎人は言った。
「僕お坊さんになろうかな」
「僕もそう考えたよ」
 庄汰も言うのだった、喜椎人と同じことを。
「将来はね」
「それでこうしたお寺をね」
「少しでも減らしたいね」
「そうしてくれると有り難い」
 うわんも切実な顔で述べる。
「廃寺が少しでも減ってくれればな」
「こうしたことも起こらない」
「うわんさんも困らない」
「そうじゃ、寺も墓場も整うからな」
 こう言うのだった、そのうえで。 
 奇麗になった墓場を見回してだ、今度はしみじみとした顔になって述べた。
「そうすればここにいる人達も喜ぶ」
「死んだ人達が眠っている場所もね」
「奇麗に保つ為にも」
「お寺にも跡を継いでくれる人が必要だね」
「お店でも」
「そうじゃ、跡継ぎが必要なのじゃよ」
 うわんはこう言ってだ、二人におはぎが詰められた箱を差し出した、そして言うのだった。
「連れ込んだ謝罪と墓を奇麗にしてくれたお礼じゃ、わしの手作りじゃ」
「あっ、食べていいんだ」
「そのおはぎを」
「食ってくれ、何ならおかわりも出す」
「じゃあうわんさんもね」
「一緒に食べよう」
「わしも食っていいのか、ではな」
 それではとだ、二人はうわんと共におはぎ達を食べた。そのおはぎは美味かったが二人もうわんも深刻なものをその中に味わった。


うわん   完


                            2015・4・16 
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