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うわん

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第二章

 それでその妙三寺に向かった、寺の壁のところに二人出で来たのは五時二十五分だった。庄汰は自分の腕時計で時間をチェックして喜椎人に言った。
「あと少しだよ」
「三十分までだね」
「うん、あと五分」
「じゃあ五分経ったら」
「お寺の中からうわんって言って来る筈だから」
「それに応えないでだね」
「あえてお寺の中に引き擦り込まれて」
 そしてというのだ、二人共両手にバットを持っている。成敗する気満々だ。
「それで住職さんが変態だったら」
「成敗して」
「警察に突き出そう」
「変態許すまじ」
 二人で言ってだ、三十分を待った。そしてだった。
 五時半になった、するとすぐにだった。その寺の境内から大きな声がした。
「うわん!」
「来たな」
「そうだね」
 二人で顔を見合わせて話す、そして。
 あえてだった、二人共。
 何も応えなかった、するとだった。
 お寺の中からだ、壁を越えて黒い大きな人間のものとは思えない手が二本出て来てだった。二人をむんずと捕まえて。
 そして寺の境内まで壁を越えて連れ込んだ、その時は一瞬で。
 二人は身構える暇もなかった、二人が気付いた時いた場所は。
 墓場のど真ん中だった、墓石に卒塔婆が並んでいる。見れば墓石も卒塔婆もかなり古く乱れかけている。
 その中に入ってだ、まずは喜椎人が言った。
「何かここのお墓って」
「そうだな」 
 庄汰も墓の中にいて周りを見回しつつ応えた。
「結構な」
「荒れてるね」
「誰も手入れする人いないのかな」
「そうだ」
 こう返事が返って来た、そして。
 二人の前に真っ黒い肌をした僧侶がいた、やたら大きく背丈は三メートルを越えている。着ているのは僧侶の服だ、ただし袈裟は着けていない。
 その住職がだ、二人に言って来た。
「もうこの寺は廃寺でな」
「ああ、住職さんいないんだ」
「そうだったんだ」
「うわんって言って女の子を引き摺り込んで猥褻なことしてるかと思って」
「やっつけに来たけれど」
「住職さんいないのなら」
「その心配はいらないね」
 二人はここで自己完結した、だが。
 その真っ黒な大男は二人にだ、怒った顔で言って来た。
「そうした問題ではない」
「というと?」
「そういえばこの人が僕達を連れ込んだみたいだけれど」
「大きいね」
「人間離れした大きさだね」
「当たり前だ、わしは人間ではない」
 自分からだ、こう言って来た。
「妖怪だからな」
「えっ、妖怪!?」
「そういえば」
 二人は大男の言葉にぎょっとして言った。
「異常に大きいし」
「何か気配もな」
「普通の人じゃないよ、どう見ても」
「お坊さん妖怪なんだ」
「坊主の服を着ているが坊主ではない」
 大男は二人に今度はこう言った。
「わしはうわんというのじゃ」
「うわん?」
「さっきお寺の中から言った言葉だな」
「それがお坊さんの名前なんだ」
「言った言葉がそのままか」
「左様、わしは自分の名をそのまま寺の外を通った人間に言うことを習性としておる」
 大男、うわんは自分から二人に説明する。 
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