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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第36話 全ての奇跡には必ず理由がある 

 
前書き
どうも、蛹です。
『全ての現象には必ず理由がある』的な事をよく聞くので
そんな感じの題名にしたいなと思ってこうなりました。

たしかに、成功率とかの運も入ってはきますけど
それを引き上げる要素となることをしておけば
奇跡ではなく、それは実力になりますよね。
飛行機の緊急着陸が一番分かりやすい例ですね。

葉隠(とその仲間)の策略によって暗い穴の底へと
呑み込まれてしまったホークアイとジェーン。
二人は本当に穴の底にいるのかと訊きたいほど
余裕そうだが、本当に大丈夫なのだろうか?

それでは第36話、始まります!! 

 
「それよりテメェ!」

 ガツッ!

俺はホークアイの頬を掴んだ。
もうお分かりだろう、例のあの技である。

「俺の胸に勝手にうずまりやがって!!」

 ギュウウウウウウウウウウッ!!

俺はホークアイの頬を思い切りつねった。

「いででででででッ!不可抗力だよ今回は!!」

あまりの痛みにホークアイは
大きく身を捩りながら叫んだ。

「俺だって女なんだからな!」

俺は彼の頬から手を離しながら吐き捨てた。
ホークアイはしばらく頬をさすりながら黙り込んだ。
そして、何かに気付いたかのように言った。

「‥‥‥‥‥お前、うずまれるほど胸な――――――――」
「もう一発されたいか?」
「いや、遠慮しときます」

俺の発した殺気にホークアイは
冷や汗まみれの笑顔で即答した。

「ところで‥‥‥‥‥」

ホークアイは周りを見回しながらつぶやいた。

「ここはどこなんだ?」

今更か。ようやくそれに気づいたのか。
もっと早くにそう思わなかったのか。
こんな真っ暗の中で最初に大声で
ツッコむべきところではないのか。
それこそツッコみ係であるお前の
独壇場なんじゃないのか。

「‥‥‥‥‥地下だよ」

俺はため息をつきながら答えた。
上手く空洞が開いていたおかげで
俺たちは今ここで生きている。
天井の岩の隙間から入り込む空気のおかげで
地上ほどではないにしろ呼吸は出来ている。
しばらくはここにいても大丈夫そうだ。

「マジか‥‥‥運よく抜けてたもんだな。
 地下に水脈でもあってそれが枯れたのか?」

そんなピンポイントに枯れてるなんて幸運が
俺たちにあるのなら今すぐにそれを使って
画期的な方法でここを脱出したいものだが。

「んなわけないだろ」

俺はそう言って余計な事を考えるのを止めた。
ホークアイも言うことがなくなったのか急に静かになった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

俺は何も考えずにただ足元を眺めていた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

ホークアイもボーっとしているのだろうか。
ただ、何も言わず黙り込んでいる。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

しばらくの間、二人は黙り込んでいた。
しかし、突然ホークアイがその沈黙を破った。

「‥‥‥‥‥なぁ?」

と、俺に話しかけて来たのだ。
あまりにも急な転換だったので
俺は少々驚いて、返答をした。

「‥‥‥‥何だよ?」

どうせ、話すことがないから何か話そうぜ
みたいな会話を促すことでも言いたいんだろ。

「実はよ‥‥‥‥‥オレ、暗いトコ駄目なんだ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥はぁッ!?」

ホークアイの一言に俺はまた驚かされた。
だが、どうせ嘘だろうと思った。
会話を行うための冗談だと解釈していた。
だが、彼の声は真剣だった。

「ちょっと手ぇ触ってみろ。別に変な意味じゃねぇぞ?」

俺はホークアイの手に触れた。
ちょっとザラザラしているのは
さっき俺が岩を分解した時の砂ぼこりだろう。
そして、それとは別の事に俺は気付いた。

 フル‥‥‥フルフル‥‥‥‥‥

その手が小刻みに震えていたのだ。
これはわざとしているわけではないようだ。
手から伝わる何かが俺に即座に理解させた。

「オレさ‥‥‥‥小さいころに一人姉ちゃんがいたんだ」

ホークアイは少し頼りない声で語り始めた。

「オレは本当に小さかったからあんまり覚えてねぇけど
 いっつも抱えられてた事だけはうっすらと覚えてる。
 姉ちゃんは10歳にならないぐらいだったかな。
 オレは優しい姉ちゃんに毎日甘えてた」

彼は軽く頭をかいた。

「でもある日、変な格好をした奴らに
 姉ちゃんが誘拐されたんだ。
 だが、オレは何故かさらわれなかった」

頭をかいていた手を離して、その手の拳を力強く握った。

「小さい頃、生きるのに精一杯だったオレは
 夜というのが心底、恐ろしかった。
 物の陰から何かが這い出てきそうで。
 何かが姿を隠していそうで本当に怖かった」

握っている手の手首を、反対の手で掴んで握った。

「みんなに会ってからはそんなになくなったけど
 今でも、暗くて狭い所は正直苦手だ。
 息苦しくて‥‥‥怖くて‥‥‥泣きそうだ」

 フルフル‥‥‥フル‥‥‥‥

それでも、手の震えは止まらなかった。

「でも、お前の胸にうずまってる時だけは
 何故かここが怖くなかったんだ」

それを聞いた俺は少しムッとした。
そうか、だから昔の話をしたのか
と、俺は心の中で怒りを抑えていた。

「それは俺の胸が10歳並の大きさだからか?」

俺は苛立ちの混ざった声で訊いた。
ホークアイはいやいやいや、と
忙しく両手を振って否定した。

「なんつーかなぁ‥‥‥‥」

ホークアイは頭をかきながら、しばらく考え込んだ。
言葉にするのが難しいのだろうと俺は察した。

「姉ちゃんと同じ何かを感じるっつーか‥‥‥‥何つーか」

言葉の歯切りが悪い。やっぱり言いにくそうだ。
俺もホークアイの言いたい事は何となくは分かる。
でも、それをいざ言葉にしてみろと言われると
やっぱり難しい。
ホークアイがしばらくうんうん唸った後に
衝撃の一言をつぶやいた。

「‥‥‥‥ジェーンって、もしかして俺の――――――――」

その先に何を言おうとしていたかが
俺には何故か読み取れた気がした。

「はぁッ!?な、なな何言ってんだよ!?」

俺は焦りながらそこから先の言葉を
言わせないように大声で言った。

「‥‥‥そうか‥‥‥‥‥‥そうだよな‥‥‥‥‥‥‥」

ホークアイは弱々しい声でつぶやいた。
心なしか少し残念さを感じたような気がした。

「と、ところで、どうしてこんな所に
 人が入れるぐらいの空洞があったんだろうな?」

俺は話を方向転換した。

「それならもうすでに分かってる」

その続きを話す前にホークアイは
大きく呼吸をして気を静めた。

「‥‥‥‥‥‥"鎧虫"だよ」

それを聞いた瞬間、俺の背筋に寒気が走った。
まさか、そんな馬鹿な。そう現実を否定したかった。

「何でそんなことが分かるんだよ?」

俺は一応、"鎧虫"に見つかることを心配して
比較的小さな声でホークアイに訊いた。

「簡単さ。実際に俺たちが崩れた岩に潰されないでかつ
 酸素もあるぐらいの巨大な空洞を作れる生物はそれぐらいしかない。
 モグラとかそう言うのじゃ限界がある」

それを聞いた上では決定打に欠けるものがあった。
なぜ、生物の仕業である事が前提で話しているかだ。
さっきの地下水脈が枯れた可能性だって一応ゼロではないからだ。
それについて俺が問うと、ホークアイは笑った。

「いやぁ、だから簡単だって」

いや、笑いというよりは苦笑いに近かった。
暗闇の中、ホークアイは自分の足元を指さした。
そんな彼の向こうにある原因の存在に俺は気付いた。

「‥‥‥‥幼虫‥‥‥‥‥か」

"鎧人"である俺の目は可視光線の範囲が
人間よりもやや広いので、ある程度の暗さなら
意外とよく見えているのだ。
ホークアイの足元に岩に潰れた幼虫がいた。
大きさは1mはあるかもしれない。
なかなか大きく育っていたようだ。
これでホークアイが空洞の原因に気付いた理由が分かった。
実物が足元にいるのだから推理なんかよりも簡単な事だろう。

「は‥‥‥はは‥‥‥‥‥ヤベェな」

俺も彼につられて苦笑いした。
"鎧虫"の幼虫がここにいると言う事は
その親が必ずいるはずなのだ。
つまりそれは‥‥‥‥そういうことなのだ。
口に出す必要もない。というか出したくもない。

「どう‥‥‥‥するんだ?」

俺はホークアイに訊いた。

「どうするも何も‥‥‥‥‥なぁ?」

今の俺は重症で動けないし、ホークアイは普通の人間。
どう考えても、"鎧虫"の成虫に勝てるはずがない。
しかも、これはあくまで希望的な観測で
もしかしたら奥に複数体いるかもしれない。
不安要素しか出てこない今の状況では
さすがのホークアイもお手上げなのだろう。
いまだ苦笑いのままでいる。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ッッ!」

俺のこめかみを冷や汗が流れた。
外で葉隠を見つけ出す際に行っていた
"能力"で探索を始めた直後だった。
このあと、さらに最悪な知らせを流すことになる。

「‥‥‥‥‥‥来やがったみたいだ」

約100m先の位置からゆっくりと歩いて来ている。
大きさは‥‥‥‥‥10m程だろうか。
あまり急いでいるの様子でないのは
地面の崩落を恐れての事なのだろうか。
(もしそうなら、意外と知能があるのかもしれない)

 ‥‥‥‥ズシン、ズシン

地響きが聞こえ始めた。

「オイオイ、このままだと『オレらのせいで子供が殺された』
 と思って血相変えて突っ込んで来るぜ?」

無論だ。逆にそれ以外の反応が思いつかない。
見渡す限り、5、いや6体の幼虫が潰れている。
そんな中で俺らを見つけたなら、犯人と思われて当然だろう。
(実際、戦いに巻き込んだので、間違いではないのだが)

「どうすれば‥‥‥‥」

俺はこの体で出来る作戦を必死に考えた。
しかし、いくら考えてもこの状況を打破できる
ような作戦は“一つしか浮かんでこない”。

「‥‥‥‥‥‥やっぱりこれしかないのか‥‥‥‥‥」

シンプルかつ大胆。しかし危険性が高い。
特にホークアイの活躍が必要になる点が不安だ。
せめて、誰かもう一人でもいたなら楽だっただろうに。

 ズシンッ、ズシンッ

少しずつ近づいてくる地響きに
出来るだけ耳を傾けないようにして
俺はホークアイを呼んだ。

「ホークアイ」
「ん、何だ?良い作戦が浮かんだか?」

唯一の超危険な作戦だがな。
俺は少し息をつくと、考えた作戦を
出来るだけ簡潔に説明した。

「‥‥‥‥‥嘘だろォ‥‥‥」

ホークアイは顔を真っ青にしてつぶやいた。
表情からは不安という単語以外に見つかりそうになかった。



    **********



 ズシンッ!、ズシンッ!

ついに親"鎧虫"が姿を現した。
近くで見ると更に大きく感じた。
目測で12m級の巨大なタイプだった。

「ついにお出ましか‥‥‥‥」

ホークアイは睨みながらつぶやいた。
12m級"鎧虫"は彼をじいっと見ていた。
ちなみに"鎧虫"も可視光線の範囲が広く
おそらく俺と同じか、それ以上に
よく見えているはずである。

「頼むぜ、ホークアイ」
「おぉ!!」

そして、彼は今いる空洞内を
壁沿いに伝って全力で走り始めた。


――回想―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「俺がさっき岩を壊した技を使えばヤツを倒せるはずだ」

俺は親"鎧虫"が歩いて来ている方向を睨みながら言った。
それに対して、ホークアイは質問をした。

「それなら来た瞬間にすればいいんじゃないのか?」

俺は軽く首を左右に振った。

「いや、ある程度条件があるんだ」
「そんなに使い勝手のいい技じゃないわけだな」

事前に威力を見ていたホークアイは
どうやら納得してくれたようだ。

「で、オレはどうすればいいんだ?」

それは簡単だ。もっとも、それは
お前が"鎧人"か"侵略虫"であった時の話だが。

「時間稼ぎだ」
「‥‥‥‥‥‥嘘だろォ‥‥」

ホークアイは何となく気付いていたのか
げんなりした顔で言った。
まぁ、当然の反応だろう。

「俺が能力発動の条件を満たすまでの数分の辛抱だ」
「いやいやいやいや」

ホークアイは慌てて両手と首を振った。
完全に困りはてている。

「ただの銃しか武器がない俺が時間を稼げなんて
 物理的に無理に決まってんだろ!!」

それを聞いた俺は少し黙り込んだ。
やはり、普通の人間であるコイツには
いくらなんでも荷が重すぎる。

「‥‥‥‥‥それでも」

それでも、この作戦しかないから。
動けない俺にはこれしか出来ないから。

「これ以上、俺の傷がひどくなったら
 あの技さえ使えなくなるから‥‥‥‥」

俺は歯を食いしばった。

「‥‥‥‥‥お前だけが頼りなんだ」

俺は身を震わせながらつぶやいた。
“俺は何の役にも立たない”。
そんな事ばかりが頭の中を廻り
無力感に駆られて、涙が出そうだった。

「‥‥‥‥クソッ‥‥‥」

俺は手の甲で目を擦った。

 ぽんっ

「‥‥‥‥‥‥‥?」

ホークアイが俺の頭に手を置いていた。

 ワシャワシャワシャ!

「うわっ!、ちょ、やめ、何すんだよ!!」

急に髪をワシャワシャといじられたので
俺はホークアイを怒鳴った。

「‥‥‥‥‥ハハッ、それだよ」

ホークアイは笑いながら言った。
俺には突然のこの一言の意味が分からなかった。
よって、ボケーっとした顔でいる事しか出来なかった。

「マリーは笑ってるのが一番みたいに
 怒ってる時のお前は一番お前らしいよ」

ホークアイは笑いながらそう言った。
少しの間、俺はボーっとしていたが
やがて、笑いがこぼれて来た。

「うるせぇよ」

俺は頭に置かれたホークアイの手を
除けながらつぶやいた。

「で、やってくれるのか?」

ホークアイは笑いながら答えた。

「ヘッ、ここまで来たらやってやるよ!!」

そして、銃を抜きながらすくっと立ち上がった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ダダダダダダダダッ!

ホークアイは岩だらけで不安定な地面を
出来る限り出せるスピードで壁伝いに走り続けた。
実はここは完全な暗闇ではなく、天井の小さな隙間から
射し込んで来る光が中を僅かながら照らしているのだ。
それでも常人なら全く見えないだろうが、3.2の視力と
トラウマを解消するためにしてきた夜営が
ホークアイの夜目を鍛え上げた為
集中すれば、霞む程度にだが見えているのだ。

 ザザッ!

ホークアイは急に立ち止まり
両腕を上げて銃口を"鎧虫"の横腹に向けた。
狙うはただ一つ。弱点である"増殖器官"だけである。

「喰らえッ!!」

 ドンドンッ!!

彼の銃が火を噴きながら
弾丸が二発、発射された。 
 

 
後書き
ついに意を決したホークアイが放つ覚悟の弾丸!!果たして――――――!?

‥‥‥‥いや、何か“週刊少年ジャ〇プ”の中の作品って
続くときにこんな“あおり”が書かれているので
私もやってみようと思っただけです。それだけです。

実は暗い所が苦手なホークアイ。
小さい頃のトラウマならしょうがないですよね。
今は進んで夜営に徹していたおかげで
月明かりのある夜中なら大丈夫ですが
完全な真っ暗闇は未だ苦手なようです。

ジェーンが‥‥‥だいぶ心が弱くなってしまっている‥‥‥‥
駄目です。何とかしようと思いましたが
“怪我してる女の子”という状況が変わらない限りは
この性格から復帰できそうにありません。
彼女は次の章には回復できるはずなので
そこから彼女にも頑張ってもらおうと思います。

ついに始まったホークアイの“時間稼ぎ(たたかい)”。
彼は銃だけでどれほどの時間を稼ぐことが出来るのか。
ちなみに、次の話でジェーンの"超技術"が分かります。

次回 第37話 響き渡る静寂の音 お楽しみに! 
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