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遠ざかった春

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3部分:第三章


第三章

「俺達とあっちの人達はな」
「俺もスロバキア人は嫌いじゃないさ」
「俺もだ」
 彼等はチェコ人である。この国のその一方である。
 その彼等がだ。スロバキアのことも話すのだった。
「兄弟みたいなものだからな」
「そうだな」
「それでだ」
 ドボルスキーは話を戻してきた。
「やろうな、時が来ればな」
「ああ、絶対にな」
「本当の意味で独立して俺達自身で国を動かしていくんだ」
 つまりソ連の衛星国から脱するというのだ。
「絶対にな」
「そうだな。ただ、ソ連はどうする?」
 ヤナーチェクは真剣な顔になってドボルスキーに問うた。
「あの連中は」
「表立ってはやらないさ」
「表立ってはか」
「それでもやっていこうぜ」
「それでもか」
「ああ、隠れるんだ」
 そうするというドボルスキーだった。
「それでな」
「地下に潜伏するか」
「それでやっていこうな。同志達を集めてな」
「そして何時の日か絶対にな」
「俺達自身の国を」
 彼等は誓い合った。そうしてだった。
 長い間密かに活動した。その間に二人共結婚して家族もできた。長い年月彼等は待っていた。そして遂にその時は来たのだった。
 一九八九年のことだった。東欧が激震に包まれた。所謂民主化だ。
 その渦の中にチェコスロバキアもあった。そしてだ。
 プラハ市民達は立ち上がりだ。民主化を目指した。
「今度こそだ!」
「ああ、春だ!」
「春を俺達の手に!」
「今度こそな!」
 こう言い合いそして蜂起した。その中にだ。
 彼等もいた。そしてだった。
 後ろに多くの者達がいた。それは。
「行こうか!」
「大統領官邸に!」
「今から!」
「よし、行くぞ!」
「いいな!」
 ヤナーチェクとドボルスキーが彼等の先頭に立つ。そしてだった。
「俺達の国をな」
「今度こそ手に入れる」
「いいな、だからだ」
「ここは戦うんだ」
 こう話す彼等の顔には皺がある。それぞれの髪も減ってきている。特にヤナーチェクの額はだ。かつてよりもさらに広くなっていた。
 だが彼等はだ。あの時うに戻っていた。そしてである。
「来たな」
「ああ、やっとだな」
 二人で言い合うのだった。
「俺達の春がな」
「この国の春がな」
 それが来たというのである。
「もうソ連が何をしてもな」
「やってやろうぜ」
 こう言い合ってそのうえで向かいだった。彼等は遂に成功させた。
 
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