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東方喪戦苦【狂】

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三十二話 揚羽蝶と真っ白な夜

白夜は、真っ黒なコートから白い色の携帯電話を取り出す。
これは、元の世界から持っていたもので、スマートフォンが復旧していた元の世界では今となっては古い、折りたたみ式のガラケーと呼ばれる携帯電話だ。

電話帳には殆ど名前が乗っていなかった。
いや、殆どの人がメールアドレスと電話番号だけで名前が書いていない。

しかし、一人だけ、『アゲハ』と、名前までちゃんと設定されている。

アゲハは、白夜を覚えていなかった。
しかし、白夜は少しでもいい、思い出して欲しかったのだ。

白夜は想う、元の世界での話を。
孤立していた白夜
孤立していたアゲハ

…想えば、二人は境遇まで似たりよったりだ。

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「ねぇ、あいつ」 「おい!聞こえるって!」
「気持ち悪い」
「うわ…また来たのかよ…」 「あいつに聞こえたら殺されちまうよ!」
「なんで生きてるの?」 「さっさと死ねよ」
「もう来なきゃいいのに…」 「化物に耳があるわけねぇだろ。」
「人間の皮を被った化物が…」
小学5年生の時のクラス。
私は窓際の席から外を見ていた。

私が孤立するきっかけは、一人女の子を不良から守ったから。

ある路地裏、私は同い年と思われる少女が不良に絡まれているのを見た。

道行く人達は自分が可愛いとでも言わんばかりに無視をする。

私はその時なぜか放っておけなかった

私は腕には、自信があった。
不良は三人、そして私は一人
勝てるとは思わなかったので女の子を逃がして頃合いを見て私も逃げよう…と。

しかし、私は勝ってしまった。
どんなに負傷しても襲ってくる不良を、病院送りにし、私は無傷。
襲われていた女の子は、私を見て言った

「化物」と。

…私は救ったのにと口篭るが数分でどうでも良くなった。

私は最悪の境遇で生まれ、最悪の境遇で育ち、最悪の人生を送った。

父は失踪、母は売女。
私は孤児院に、職員からは人間扱いされない。
孤児院の奴らは弱い立場の私を罵倒。

相変わらず教室の中でも罵倒が起こる。
大丈夫聞こえてない、私はただの化物だから。

自重気味に自分に言い聞かせ外の空を仰ぐ中、教室の扉から激しく音をたてて誰かが入った。

私は外を黙視。
入って来た者が誰かなんて気にしない。
しかし、教室は静まり返った。

「ねぇ」

「ちょっと!」

「聞いてよ!」

「ねぇ!」

「白髪の人!」
…?

私はそこで声のする方向を見た。

いつの間にか少女が私の目の前に立っていた。

「やっと気づいた。」

私のこの少女に対しての最初の印象は「なんだこいつ」だった。
青というより…水色?の髪の毛でポニーテールを作っている。
小柄(私が言えないが)な少女だった。

「…ねぇ!ちょっと聞いていい?」

「…どうぞ」
この子は明るいイメージがある。

暗い性格の私とは絶対に合いそうにないタイプだ。

「あなたが、女の子を守って不良をボコボコにした子?」
「…え?」
私は驚いた。

不良を再起不能にしたことはともかく、なぜ私が女の子の事を守ったことを知っているのだろう。

私の動揺を少女は見逃さなかった。
「やっぱりあなたなのね!」
「…」
私は俯きもしないものの相変わらず顔も上げない

「ねぇ!私と友達にならない?」
そう言ってその少女は私に手を差し延べた。

ー思えばこの頃私は初めて救われた。

私は躊躇いがちに手を重ねた。

そして初めて人の温もりに触れた…
あまりの温かさに、
火傷してしまいそうな温かさに。
私は俯いて、涙を流した。

「…ねぇ…これ…使ってよ。」
少女は私にハンカチを渡した。

私はそれを受け取って涙を拭う。

ハンカチには、あげは、とあどけない平仮名で書いてあった。

私はハンカチを少女に渡して言った。

「…ありがとう、アゲハ。」
アゲハは私に微笑んで返してくれた。

そうか、この子も足りないのか。
足りない子…

私と同じ子…

足りないのに、偽って。
辛いのに、明るく振る舞って
悲しいのに、誰もいない


欲しくて欲しくてたまらないのに我慢をして強がって、偽って、感情を閉ざす。

そんな社会不適合者。



私は気がついたら笑みを浮かんでいた。 
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