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魔法科高校~黒衣の人間主神~

作者:黒鐡
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九校戦編〈下〉
  九校戦五日目(4)×巫女装束と『氷炎地獄(インフェルノ)』

深雪と名無しである俺の試合は、一回戦の最終ゲームで名無し=俺は深雪の後になる。恐らく深雪側は無傷で、相手側は破壊されると思うから空間に氷柱専用の型を用意済みである。氷はエレメンツで使うが、用意は深雪の試合が終わってから準備する事になる。

朝から考えると長い待ち時間であるが、昼食の時間と休憩時間を挟んでいるんで俺や深雪も待たされた感覚はなかった。選手控え室にいるのは、深雪と俺と名無し=分身体がいたがほのかと雫の姿は見えない。昼食時に観客席で応援する、と言っていたから今頃エリカ達と合流したんじゃねえのか。ま、その代りに五十里と花音と真由美に摩利まで応援として来たのだった。

『まるで大応援団のようですね一真様』

『そうだな、俺としてはここにいていいのかね~』

『私もそうですが、お兄様がどういう風に破壊するかどうか見に来たのだと思いますよ』

『深雪様は「氷炎地獄(インフェルノ)」で一真様は滅かインフェルノの発展型か、それは試合後の感想としてとっときましょうか』

俺、深雪、蒼太、沙紀は念話会議でそれぞれの感想を言った。俺らが呆れ混じりではあったが、本心では念話で言ったが口にしたのは別のセリフだ。

「応援に来てくれるのは嬉しいんですが、こんな大勢でここにいてもいいのでしょうか?委員長も一応診察をしましたから、問題はありませんが」

バトル・ボードの準決勝で事故に見せかけた妨害工作により、摩利が全治一週間の怪我を負ったのは三日前。魔法治療よりも回復魔法により、ヒビまで回復させたので動いても問題ない程回復を果たした。ただし、運動をするような動きのみ禁止しているのでそれを守っていたように見えた。日常生活に支障は無いと、主治医である俺が判断した事なんだけどね。

「一真君からの検診で大丈夫と言われているから、問題はないさ。まあ私にいる周辺は、重傷扱いするので非常に困っているがね」

「俺と桜花や結衣と一緒に見ているので、お墨付きで言ってありますから七草会長もそんなに心配しないような顔はしないで頂きたいですな。それと本部に詰めてなくてもいいのですか?男子の方にも現在試合中らしいと聞いていますが」

「そう言われると気が楽になるけど、他の子は一真君が医師免許を持っていると言っても信じてくれなくてね。でもまあ桜花さんに結衣さんも見ているから、あとでそう言っとくわ。向こうにははんぞー君に任せてきたから、私も再来月には引退だし何でも一人でやっちゃうのは良くないと思うのよ。それと名無しさんがどういう風に試合を行うかは、本部のモニターでも分からないからね」

委員長の怪我を毎日のように診察しているので、特に問題はないがどうやら俺が医師免許を持ってちゃんとした診察をしているかどうかを疑っている様子だと聞いている。それに現役医師からも、俺が診察時の姿勢は現役と変わらない程だと言われている。あとは正論だが、最後に付けたしとして言ったのが無言状態となってる名無しがここにいるからだ。先程のエイミィや雫の試合でも、俺オリジナルデバイスを開発して試合に臨んでいるからな。モニター越しでは分からないので、直接見に来たと言っていい程だった。

「深雪。頼もしい応援団だが、逆に緊張しないようにな。深雪の試合が終わると、蒼い翼特別推薦枠を持つ名無しが出る予定だ。相手は、誰なのかは知らんがね」

「大丈夫ですよ。お兄様が見ていて下さるのですから、妹としての晴れ舞台は失敗しないようにしときます。それに私もそうですが、名無し様の試合の方が楽しみなのですから」

小さく吹き出す音が聞こえたりしていたが、俺と深雪にとっては過保護だと言われても実際は父と娘の会話風景である。深雪がステージに上がると、観客席が大きくどよめいたがまあ予想していたリアクションである。

「そりゃ驚くよね、あれは・・・・」

「でも似合っているよ。花音はそう思わないの?」

「似合い過ぎて驚くって言ってるの」

花音と五十里の会話をちょっとした音楽を聞き流しながら、俺はテキパキとモニターの準備を進める。一瞬でセッティングを終わらせたので、俺や蒼太達から深雪を見るけど・・・・。

『なぜそんなに驚くのだろうか』

と思った俺達。深雪の衣装は白の単衣に緋色の女袴に、白いリボンで長い黒髪を首の後ろで纏めたスタイル。黒髪の纏め方が厳密には異なるが、デバイスの代わりに榊や鈴を持たせると更に絵になる巫女さん。ただでさえ整いすぎている美貌が、その衣装と相まって、神懸った雰囲気さえ醸し出しているが、事実だけを言えば深雪も女神雪音である。なので、まるで女神雪音のような神々しい形容すら過言ではない程だった。

「可哀想に、相手の選手は呑まれちゃってるわよ」

「仕方がなかろうな。あれはあたしでも、チョッと気後れするかもしれん。・・・・ああ、もしかしてそれが狙いなのか?」

俺らの背中から聞こえる真由美と摩利の声は間違いなく、俺らの方に向けられていたので振り返りながら答えたのだった。

「狙いと言いますと?神社でよく見る巫女さんだと思えば、別に珍しい服装ではないかと思われますが」

「・・・・一真君はそれを分かっていて、あのような服装を指示させたのかしら?」

「ま、それが分かっている一真様の策略だと思えばよろしいかと」

蒼太が区切りとして言った事で、俺はモニターのコンソールへ向きを戻した。確かに神社の巫女さんだと思えば納得がいくが、深雪みたいな神秘的な美貌を持っているからか。観客や選手らを驚かそうとしている訳ではないが、実際に着せてみせると俺の策略だと思う程に呑み込まれてしまう程だった。

同じ和装でも雫の振袖にはあれほど抵抗感を示しておきながら、妹の巫女姿には何の疑問もないのが親バカな感性を持つ俺である。それに巫女服は、母親である奏が破滅世界から持ってきた巫女服=戦闘服を深雪用に用意したモノだ。

舞台裏でそのような寸劇が演じられている事を知った深雪であったが、いつも通りにやれば上手くいけると兄兼父である一真に言われた事だ。心を落ち着いて開始の合図を待っていたが、フライングは重大なルール違反なのであまり気合を入れ過ぎないようにと言われたからだ。無意識に魔法発動させる程、本来の悪癖はないに等しいので本人も十分分かっていながら、静かに待機となっていた。

フィールドの両サイドに立つポールに赤い光が灯ったので、深雪は薄く閉ざしていた目を見開いて瞳を真っ直ぐ敵陣へ向けた。観客席でため息が漏れたが、一箇所ではなく観客席のあちこちというよりほぼ全滅のような感じであった。意外な事に若い男性よりも若い女性の方が、その強い光を放つ瞳を陶然と見上げていた。会場は、試合を観戦する空気ではなく戦場のような空気だからだ。相手選手には気の毒だが、観客の目は深雪の一挙手一投足に釘付けとなっていた。これを見ていたエリカ達も、その空気に呑まれていっていた。

「深雪の眼、まるで敵を睨むような感じ。これは剣術同士の試合の空気のような気がする」

「俺もそう思うぜ、まるで敵兵を今から魔法で攻撃しますみたいな感じだもんな」

「雫もそうだったけど、深雪のデバイスも一真さんオリジナルなのかな?」

「いや違うと思うよ。あれはいつも使っている携帯端末型のようだから」

「私もそう思います」

「・・・・深雪の本領発揮」

とエリカ、レオ、ほのか、幹比古、美月、雫といった順番で言っていた。ライトの色が黄色に変わり、更に青へと変わった瞬間、強烈なサイオンの輝きが自陣と敵陣関係なくフィールドの全面を覆った。フィールドは二つの季節として分かれ、極寒の冷気に覆われた深雪の陣地と灼熱の熱波に陽炎が揺らぐ敵陣地。

敵陣の氷柱全てが、融け始めているのがよく分かる。相手選手は必死の面持ちで冷却魔法を編み上げているが、それさえも灼熱にするかのように効果がなかった。味方は厳冬を越えた絶対零度の地獄となり、敵は酷暑を越えて灼熱地獄のような感じである。自陣は氷の霧に覆われ、敵陣は昇華の蒸気に覆われた。

「これはまさか・・・・」

「『氷炎地獄(インフェルノ)』・・・・?」

摩利と真由美がまるで呻いているような感じが聞こえたけど、俺は背中越しで聞いていた。氷炎地獄でインフェルノと言うが、流石の会長でも知っていたかと思いつつ深雪の後ろ姿とモニターを往復している。中規模エリア用振動系魔法『氷炎地獄(インフェルノ)』は、対象とするエリアを二分し、一方の空間内にある全ての物質の振動エネルギー、運動エネルギーを減速させつつ余剰エネルギーをもう一方のエリアへ逃がして加熱する。エネルギー収支の辻褄合わせをする、熱エントロビーの逆転魔法。

たまに見かけるが魔法師ライセンス試験で、A級受験者用の課題として出題され、多くの受験者に涙を呑ませている高難度魔法。だけど、俺や深雪にとっては当たり前のように使う魔法でしかないし、元々対エリア用の魔法だからフィールドからはみ出すルール違反の心配は更々無いに等しい。神経質になる程ではないが、魔法というのはどんな簡単な術式だろうとも油断禁物であり、例え失格を宣告されようが俺らの者達が言わない限り見守っている。

「これで結果は見えましたね、深雪の勝ちだという事を」

「久々に見ましたが、流石とでも言っておきましょうか。敵陣内の気温は二百度を越えたフィールドとなっていますから、急冷凍で作った氷柱は内部に多くの気泡を含み粗悪な水で作られたという事をね」

「気泡が膨張して、熱で弛んだ氷柱はひび割れを起こしています。恐らく最後のシメをするのだと思われますね」

俺、蒼太、沙紀が静かに発言した事で深雪の最後の仕事として敵陣の氷柱は衝撃波が広がった事で崩れ去った。深雪が魔法を切り換えたので、気温上昇は止まった代わりに最後の方だけは、風の刃を放っただけで決着はついた。深雪は一礼をしたら、一気に観客席から湧いた声に手を振っていた。いよいよ俺の番となったので、司会進行役を桜花にやらせて、深雪は会長達がいる所に戻ってきた。 
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