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とんだ花嫁

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3部分:第三章


第三章

「王妃の顔を見たいな」
「はい?」
「王妃様のですか」
「そうだ、顔を見たい」 
 こう家臣達に言うのだ。その威厳のある顔に今は悪戯っぽい笑みを浮かべて。
「是非な」
「肖像画を御覧になられたのでは?」
「それを」
「わしは本当の顔が見たいのだ」
 こう家臣に言い返す。
「是非な」
「是非にと言われましても」
「それは」
 家臣達は王の言葉に難しい顔になる。
「一体どうしてですか」
「どのみちおわかりになられることなのに」
「間も無く婚礼です」
「その時まで待てませんか」
「待てぬ」
 返答はこんなものだった。
「だから言っているのだ」
「では。どの様にして」
「王妃の顔を御覧になられるのですか」
「決まっている。盗み見るのだ」
 こんなことを言い出した。
「そうするのだ」
「お世辞にもいいとは言えませんね」
「全くです」
 家臣達は明らかに咎める顔だった。
「王ともあろう方がです」
「しかしそれでもなのですね」
「見ると言ったら見るのだ」
 言っても聞かない感じだった。
「わかったな。それではだ」
「わかりました」
「それでは」
 家臣達も観念した。そうしてであった。
 王は王妃が宮殿に到着するとだ。早速その部屋の天井に忍び込んだ。その忠実な家臣達も彼が心配でついてきている。
 そのうえで覗くのだった。だがまだ王妃は来ていなかった。
「ここまで来たらですね」
「どうしてもですね」
「そうだ、絶対に見るぞ」
 やはり言っても聞かない。天井からじっと部屋の中を見ている。
「これからな」
「まあ王妃は十七歳の方ですし」
「期待してもいいですかね」
「期待しておるぞ」 
 実際にそうだという王だった。
「だからだ。よいな」
「わかりました。王を御一人にはできませんし」
「我々も」
 一緒にいるのだった。そうして彼等は王妃が来るのを待っていた。
 暫くするとだ。部屋の中に誰かが来た。それも何人もだ。
「では王妃様」
「こちらです」
「はい」
 まずはだ。野太い声だった。
「わかりました。それでは」
「太い声だな」
「はい、それにです」 
 家臣の一人が王に応えた。
「あのフランス語はイタリア訛りです」
「ということは」
「あの声の主が王妃なのか?」
 王は上から部屋を覗きながら首を捻った。
「そうなるのか」
「というとです」
「あの方でしょうか」
 家臣達は今度はその部屋の中に来ている一際見事な、眩いまでの装飾で飾られたドレスの女性を指し示して言った。
 
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