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ONE PIECE《エピソードオブ・アンカー》

作者:蛇騎 珀磨
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episode14

「......ん?」


 とある沖合いで、昼間だというのに元気に飛び回るコウモリ。それに疑問を抱いたアンカーは咄嗟にその生き物を鷲掴みにした。
 小さな足に括り付けられた手紙に気付き、それがジンベエ宛てであると分かるとコウモリを鷲掴みにしたまま手紙を届けた。

 ジンベエは鷲掴みにされたコウモリを放すように促すと、アンカーから自分宛だという手紙を受け取り、その場で開いて見せた。


「何て書いてあるの?」

「世界政府からのようじゃ。わしを、王下七武海に加盟させたいらしい」

「お...おうか、し......?」

「王下七武海。世界政府が認めた7人の海賊の集団のことじゃ。大抵のことは何をしても海軍に捕まりはしない。それに、己に賭けられた賞金を無かったことに出来る。仲間に恩赦を受けることも出来る」

「へー」


 アンカーはよく分からないままそう言った。
 それを注意するのも忘れた様子で、受け取った手紙をジッと見つめる。「うーん...」と唸り声を上げたかと思うと、意を決したように顔を上げた。


「ーーこの話...わしゃあ、受けようと思う......!」

「はあ!?」

「何言ってんの、ジンベエ!? よく分からないけど、人間の仲間になるってことでしょ? 僕は嫌だ!!」

「七武海に入るのはわしだけじゃ。それだけで恩赦を受けられる。戦いたくない者や、家に帰りたい者の願いを叶えられる。...それに、捕まったアーロンも釈放させることが出来る」


 タイヨウの海賊団は、元奴隷だった者が殆どである。中には戦いたくない者もいるし、家族に会えない者もいる。何を言われても言い返すつもりでいたアンカーの口を閉ざしたのは、アーロンの釈放という言葉だった。

 釈放されたアーロンが感謝するとは思えなかったが、大勢の仲間を救う手立てとなるのなら...と考えた結論だった。


「お前さんも嫌いな海賊を続けなくて済む...」

「っ!!!」


 アンカーは武器を手に取った。そのままジンベエに振り落とす。


「な! 何のつもりじゃ!?」


 急な攻撃に反応し防御に使った腕の痺れを感じながら、アンカーを見つめる。


「アンタを人間の仲間になんかさせない!」

「何故分からんのだ! わしが七武海に入れば、多くの仲間が助かるんじゃ!!」

「そんなやり方はイヤだ! 僕は、人間なんかの仲間にはならない!!」

「この......っ、分からず屋があ!!」


 拳を振るう。それを腹部に受けたアンカーが後方に飛ばされる。
 かなり加減された拳だったが、体の軽いアンカーを吹っ飛ばすには充分な威力だった。
 その場にいた他の船員を巻き込みながら着地し、それが衝撃を和らげるクッションになったのか、アンカーはすぐに攻撃の構えを取った。

 アンカーの黄緑色の眼光が鋭くなる。戦闘中によく見られる、アンカーが本気になった時の表情である。
 節を2つに割り、片方をジンベエ目掛けて投げ付ける。それを避け、止めを刺すべく、再び拳を振るった。目標を失った鎌はマストに突き刺さる。


「これで終わりじゃ!」

「まだまだァ!!」


 アンカーの体がマストに引き寄せられる。突き刺さった鎌を引き寄せず、自分の体の軽さを利用してジンベエの拳を回避したのである。空中で器用に鎌を戻し、もう1度片方の鎌を投げ付ける。


「撃水っ!」

「撃水返しっ!」

「何ぃ!?」


 長く伸びた鎖で撃水を受け、その衝撃を崩さず、威力を殺さず方向転換だけを行う。鎖が海楼石で出来ていることと、長年に渡り相手の力を借りて戦ってきたアンカーだから出来る芸当である。
 ジンベエが放った威力のまま、今度はジンベエ本人に向かって行く。
 このままでは、船に大穴が空いてしまう。もう1度撃水を放ち、互いを相殺させた。


「ええ加減にせい! わしは、七武海に入る!!」

「そっちこそ、いい加減にしろ! 人間なんかの仲間になる必要無いだろ!」

「多くの仲間を助けるためじゃ!」


 ジンベエは飛んで来た鎌を避け鎖を掴まえた。


「!!」


 鎖を勢いよく手繰り、アンカーは問答無用にジンベエに向かって引き寄せられる。それと同時に拳を構える。


「千枚瓦...正拳んんっ!!!」

「くっ......らうかぁぁああ!!」


 突き出される拳の軌道は直線。アンカーは必死に体を捻る。目で見えていても、体が言うことを聞かないのだ。
 ジンベエの正拳突きがアンカーの頬を掠め、勢いを利用したアンカーによる鎌の一振りが繰り出される。


「むんッ!!」

「なっ!? がはッ、ぁ...!」


 ジンベエは攻撃を避けず受けきる。一瞬動揺したアンカーを突き出した方とは逆の手で、彼女の体を掴む。
 攻撃をしてこれないように、両腕ごと抑え込んだ。


「くそっ! 離せっ!!」

「何故分からん! お前さんだって、魚人島で...街で暮らせるようになるんじゃぞ!? 嫌いな海賊を続けることもなく、平和な暮らしが出来ぶへっ!」


 自由に動く足でジンベエの顎を蹴り上げる。


「勝手に決めるな! 海賊は嫌いだ。でも、自分が仲間だと思っている奴らを嫌うわけないだろ!」

「......」

「人間の仲間なんかになる必要無い! 僕はイヤだ!」

「我儘を言うな! お前さんがなんと言おうと、わしはがべッ! ええい! しばらく、じっとせい!!」


 ジンベエの正拳突きがアンカーの顔面に直撃する。
 衝撃で吹き飛んだアンカーに、たくさんの船員が駆け付けた。「やりすぎだ」と声が上がったが、ジンベエは返答しなかった。やりすぎなのは本人が一番よく分かっている。

 それでも、アンカーを黙らせるにはこの方法しか思い浮かばなかったのだ。


「アンカーを拘束しておけ。武器も取り上げろ。...わしは、これから魚人島へ向かう」


 ジンベエは、ぐったりして動かないアンカーを遠目で見つめ、心の中で数え切れないほど謝罪を繰り返した。 
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