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極短編集

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短編96「マシュ」

「マシュと寝る~」

 2歳になる息子が言った。

「えー、パパのマシュだよ!」

 と、冗談で言うと……

「めっ!(ダメ)」

 と、言い返された。

◇◇◇

 我が家には、馬のヌイグルミがある。名前はマシュだ。僕が昔、まだ独身だった頃に買ったのだ。高いタワーの最上階にヤツはいた。なんの気なしに歩いていると、目が合った。
 ヌイグルミは他にもあった。だけど、僕は迷わずヤツを買った。

『ありがとございます』

 そんな言葉が聞こえた気がした。さてさて買ったはいいが……困った困った!なんせ大の、男の大人がヌイグルミだ。とりあえず窓際に飾った。
 その夜。

「買っていただきありがとうございます。伝えたい事があり、お呼びしました」

 と、ヤツが言った。

「だと思ったよ!どんな魔法だ?なんで買ったんだろうかと、不思議に思ったんだよ」

 と、僕は言った。

「これから話す人と、あなたは絶対、結婚しなくてはいけません」

「はあ、なんだ急に!?」

「いいですか?その人と結婚するんですよ!」

 ……と、いう所で目が覚めた。夢だった。馬のヌイグルミは窓際にいた。

 ヤツは夢に時々出て来た。その後、結局、ヤツの言うとおりに、僕はある人と結婚した。どんな凄い人と結婚するのかと思いきや……

 なんて事ない職場の同僚だった。
 でもヤツの言った事に間違いはなかった。結婚後、すぐに辞職せざるを得ない事態になったが、その時に妻がいたからこそ乗り越えられたと思うからだ。
 そうそうヤツには名前があった。マシュだ。本名は、マシュマロというとの事だった。
 結婚後、妻に子どもが出来た。エコー検査の時、ドクターから……

「かなりマズいかもしれませんね……」

 と、言われた。夫婦でしばらく泣いた日々が続いた。ふと僕は、結婚後ダンボールにしまったマシュを思い出し取り出した。

「マシュ助けてくれ、こっちの世界に来れるよう助けてくれ」

 夜な夜な、マシュにお願いした。マシュは黙ったままだった。
 1ヶ月後の検診の日。

「不思議ですね!いや~こういう事って稀にあるんですけど……全く問題なしです」

 と、ドクターに言われた。本当にホッとした。

『稀にあるのかあ』

 どっかの誰かも、マシュみたいなヤツが身近にいるんだろうなあと思った。 
 息子が生まれてから、妻にこの話しを妻にした。

「話し聞いて思い出したんだけど……昔、デパートで馬のヌイグルミにお願い事した事があったよ。これから出会える人が幸せでありますようにって!なんでだか自分でも分からないけど」

 と、言っていた。
 その馬のヌイグルミは、マシュとは似ても似つかない(いや、マシュの方が手足短くてズングリムックリなのだ)立派な馬、みたいな馬だったそうだ。
 僕はそれを聞いて、馬同士でなにか連絡しあっていたのかな!?と思った。
 この間、久しぶりに夢の中でマシュに会った。僕は、言えなかったお礼を言った。マシュはどこかへ出かけなきゃいけないと言っていた。もう会えないのか聞くと……

「分からない」

 と、言っていた。
 マシュにはマシュの役目みたいなものがあるのかもしれないと思った。僕は最後に……

「マシュの願い事はないの?」

 と、聞いた。
 するとマシュは……

「笑顔を見る事」

 と、笑って言って、いつもの短い足で、パカパカ走って行ってしまった。
 その日僕は、泣きながら夢から覚めた。 気づくと、息子がマシュの手を持って心配そうに僕を見ていた。僕は安心するように……



「おはよう」

 と、優しく息子に言ったのだった。

おしまい
 
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