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美しき異形達

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第五十二話 来訪者その七

「チャンスって言えばチャンスよ」
「私もそう思います」
 桜もだった。
「ここはこの方のお誘いを受けましょう」
「そしてお話を聞きましょう」
 菫は伯爵を見ていた、その彼を。
「全部ね」
「それがいいわね、というかこれ本当に最高の機会よ」
 鈴蘭は向日葵の言葉を補完する様に言う、そこでしっかりとした顔になってそのうえで言うのだった。
「行きましょう、その別荘ね」
「ここで断ってどうなるのか」
 黒蘭はこうまで言った。
「絶対に行くべきよ」
「私は戦わないけれど」
 それでもとだ、裕香も薊に答える。
「行かないといけないと思うわ」
「だよな、答えは出てるよ」 
 薊は腕を組んで言った。
「じゃあ行くか、いや」
「いや?」
「あたし達だけじゃなくてな」
「先輩もなのね」
「ああ、先輩も呼ぼうぜ」 
 薊はその目を鋭くさせて裕香に答えた。
「ここはな」
「そうね、絶対にね」
「ああ、今から連絡しような」
「それは私が既にしているよ」
 伯爵は薊が智和に連絡をしようと携帯を出したところで言った。
「もうね」
「早いな」
「そう、だからね」
「先輩もか」
「一緒に来るよ」
 その別荘にというのだ。
「だからね」
「行こうか」
「丁渡いい具合に車が来た」
 かなり巨大な黒いリムジンだった、それが伯爵の横に来た。運転手は黒髪の鼻の高い初老の男だった。着ているのは執事の服だ。
 その彼がだ、こう伯爵に言った。
「旦那様、只今参りました」
「丁渡いい時だよ、では」
「これからですね」
「この娘達を別荘に案内しよう」
「それでは」
「では乗ってくれ給え」
 伯爵は薊達にあらためて告げた。
「今から別荘に行こう」
「ああ、しかしな」
「何だね、今度は」
「リムジンかよ」
 薊はこの高級車についても言うのだった。
「すげえな」
「ははは、私にとっては何とでもないよ」
「お金はか」
「そう、幾らでもあるからね」 
 だからだというのだ。
「錬金術で生み出せるからね」
「黄金そのものをか」
「黄金だけでなくどんな宝石もね」
 そちらもだとだ、伯爵は穏やかでかつ悪戯っぽい口調で話していく。
「生み出せるからね」
「錬金術って本当に凄いな」
「何なら君達にもダイヤの一個でも」
「別にいいよ」
 薊は伯爵のこの申し出は笑って断った。
「そんなのはな」
「無欲と言っていいのかな」
「お金とか宝石は嫌いじゃないさ」
 薊もそうした欲は否定しなかった、他の面々も薊と同じ顔だ。誰もそうした意味では聖人君子ではなかった。
 だがだ、薊は伯爵にこうも言った。
「けれどそういうの貰うことはな」
「抵抗があると」
「それでだよ」
 だからだというのだ。
「遠慮させてもらうよ」
「そうなのだね」
「ああ、ただでそういうの貰いたくないよ」
「後で何かある」
「そうも思うしな」
 薊は自分の考えを伯爵に対してありのまま話した。
「じゃあな」
「ではね」
「この話はそういうことでな」 
 これで終わらせてだ、そしてだった。 
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