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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-30




「くっそ、さすがに広範囲殲滅タイプとのタイマンは厳しいなあ。しかもあれ絶対暴走してないだろ。さっき二次移行してから動きが読みにくい。あれにはAIなんて積んでないからなあ……おい、ナターシャ。いつまで続ける気だ?」
『あら、もうばれちゃったのね。まだまだ戦っていたいのに、だってあなたこういう時でもないと全力で戦ってくれないでしょう? だから続けるわよ。止めたいなら、私を倒しなさい!』


 そうして辺りにばらまかれる高エネルギー弾。それらをすべて紙一重で避けて福音に向かって飛んでいく蓮。その蓮に向かってナターシャが続けざまにエネルギー弾を打ち出していく。それは蓮の道を塞ぎ、後退を余儀なくされた。
 すぐさま右手のブレードをアサルトライフルに切り替え、牽制として打ち出す。危なげなく避けたナターシャは、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を用いて一気に距離を詰める。そのままの勢いで繰り出される右ストレートを蓮はアサルトライフルを犠牲にして防御する。ひしゃげて使い物にならなくなったアサルトライフルを海に投げ、再びブレードを展開してナターシャに振るう。
 距離を取る暇もなく、振るわれたブレードを半身になって避けたナターシャは、エネルギー体になっている翼で蓮を包み、エネルギー弾を打ち出す。いくらか被弾しながら、ナターシャに近づき顔を殴る。殴られたことで若干の隙間を開けてしまい、そこから蓮が飛び出す。


 これだけの激しい攻防が短い間に行われている。こうして説明している間にも攻守が目まぐるしく切り替わり、機体に傷を刻んでいく。だが、どれもお互いに卓越した操縦技能をフルに使い、決定打には至らない。全てをいなし、避け、防いでいる。それでもお互いのシールドエネルギーは確実に減っていった。


『――――しまっ』


 ガゴォンと低く鈍い音が辺りに響いた。
 弾幕として打ち出されたエネルギー弾にブレードを投げつけ、爆発させた蓮は、それによって視界が防がれたことを利用して多段瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)をここに来て初めて使い、成功させてナターシャの直上に瞬間で移動した。そしてナターシャの頭に向かって蹴り込んだ。あまりのことに反応しきれずにまともに食らい、頭を揺さぶられて軽い脳震盪を起こしてしまい、機体を立て直す暇もなく海に突っこんだ。


『もう終わりだ。丁度迎えも来たぞ』
『あ、本当だわ。楽しかった時間ってあっという間に過ぎていくものね。特に最後の一撃、とても効いたわ』


 ナターシャの近くに潜水艦がいた。それは亡国機業の作戦の中で使われるもの。今回はこの潜水艦が束が二人の戦闘海域にジャミングをかけている間に回収するというもの。二人の戦闘が予定よりも長引いてしまい、時間がギリギリだったが、セーフだ。まだジャミング効果は続いている。何とか潜水艦が学園側の索敵範囲を抜けられるだけの時間はありそうだった。


 ようやく終わった。今回は穴だらけで予想外のことがたくさん起こったが、それが結果的にいい方向へ導いてくれた。今回ばかりは織斑の奴に感謝だ。あいつと箒が教師側を混乱させてくれたから、こんなにも楽にできた。
 ふうと一息つくと千冬のものへ連絡を入れた。


「こちら御袰衣。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃墜。機体、コアともに海に静に回収は困難。操縦者、ナターシャ・ファイルスは……死亡を確認しましたが、機体と共に沈みました」


 ◯


 時間は少し巻き戻り、束と一夏の戦闘。それは戦闘というにはあまりにもお粗末なものだった。もはや蹂躙。


 一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で束に肉薄し、雪片弐型を振り下ろすがそれを紙一重で避けられ、がら空きになった顔に向かって蹴り込む。クリーンヒットしてふっとばされてまた距離を開けられ、束がつまらなそうに頭を左右に振る。
 先程からずっとこれの繰り返しで一夏が同じことしかしてこないため、束はもう飽きて蓮のことばかりを考えていた。


「……あーっもう! なんで私がこんなにもイライラしているの! それもこれも全部お前のせいだよ。お前が弱いから、私に一撃も入れられないからつまんないんだよ」
「なっ……」
「ほらほら、馬鹿にされても何も言えないんだね。あはは、笑ってあげようとも思えないよ。弱すぎて反吐が出そうだ。せっかく二次移行(セカンド・シフト)した白式が可哀想に見えるなあ」
「そ、そういう束さんこそ、俺のことを落とせてないじゃないかっ!!」
「――――はあ?」


 一夏の言葉に束の雰囲気が変わる。まるで別の人格に切り替わったかのように。先程までのどこかほのぼのとしていた感じは面影も無くなり、殺伐とした雰囲気を漂わせている。
 あまりの変わりように思わず一夏は委縮してしまった。それが命取りになることもあるのに。その一瞬のすきをついて一夏を落とすことだって出来た。けれども束はそれをしなかった。否、出来ないのだ。彼女は、蓮から一夏を落とすのは止められていた。攻撃はその良いようだとしてもいいと捉えられるのだが、今の状態からして一度攻撃してしまうと、止まらなくなってしまうことを自分が一番わかっていた。


 それをあいつはいいように捉えたのだ。束は最初に切り結んだブレードをサイド展開した。あれ以来粒子化して何も持たない状態でずっといたのだが、先ほどの言葉で限界を迎えかけていた。
 もう何かあれば、動く。抜身の白刃のような雰囲気をすべて一夏にぶつける。


 一夏は後悔していた。束の力量を見誤っていたのだ。勿論、ISの生みの親であるため油断はしていなかった。でもよくよく考えてみれば、束は、篠ノ之束なのだ。篠ノ之箒の姉。剣道の全国覇者である箒が一生かかっても勝てる気がしないとまで言わしめるほどの実力の持ち主なのだ。
 篠ノ之流を十一歳で免許皆伝にまで至っている。まだまだ届きそうにない一夏からして見れば雲の上のような存在。思わず、後ろに下がってしまった。


「――――」
「――――ッ! しまっ――――」


 音もなく一夏に突っこんでいく束。自分できっかけを作ってしまい、さらには待ち受ける準備をしていなかったため反応が出来ない一夏。どうなってしまうかは明白だった。
 居合の構えから抜かれる一撃。これの威力が分からないほど一夏は馬鹿じゃなかった。その上ISのパワーアシストつき。もはや詰んでいる。


 ――ギャリリィッ!!
「そこまで」


 あわやといったところで束の刃を止めたのはいつの間にか来ていた蓮であった。
 束の刃が一夏のシールドエネルギーに食い込んだところで蓮が止めた。束が持っているものと似たようなブレードを逆手に持って腕一本で食い止める。それだけで彼の技術の高さがうかがえた。
 蓮を視界に収めた束は一夏を両断しようとしたブレードを投げ捨てる。


「あっ、れんくん!」
「もう終わったぞ。帰投命令が出ている。無事にすべて終わったから早く帰ろう、さすがに疲れた」
「えへへ、ごめんごめん。そうだね、戻ろっか」


 未だ呆然としている一夏に向いて蓮は言う。


「何をしている、さっさと戻るぞ。お前が遅れるとこっちにまで迷惑なんだ。それにお前は待機命令を違反しているからな、それ相応の罰が与えられるだろうよ」


 そう言って蓮は旅館に向かって飛び去っていく。その少し後ろを束が追いかける。どんどん二人と一夏の距離は開いていく。そうして見送っていく一夏は二人が水平線の向こう側で小さくなるまでただ立ち尽くしていた。


「くっそおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!!」


 一夏の叫びは誰にも聞かれることなく波の音にかき消されて消えていった。


 ◯


「すまなかった、御袰衣、束。正直あいつのことはこちら側の監督不行き届きだ」
「べつにいーよ、ちーちゃん。もう終わったことだしね、それにこっち側の目的も果たせたし」
「目的?」
「ん? あっと、私の個人的なものだよ。欲を言えば『赤椿』の稼働データがもうちょっと欲しかったぐらいかな」
「そうか……。ともかくすまなかった、部屋でゆっくり休んでくれ。……それで? 織斑、何故お前は勝手に飛び出していったんだ」


 旅館前で千冬や真耶とセシリアをはじめとする待機組が出迎えてくれた。だが、真耶の束と蓮の見る目には少しの恐怖が宿っていた。それにセシリアとシャルロットは二人の方を見向きもしなかった。人間受け入れられないことがあると目を背けたくなるものだ。二人もそれと同じだろう。それに二人がどんな行動を取ろうが今のところ実害はないのだから。


「お疲れさま、すごかったわよ」
「お疲れ様です、兄上、博士」
「ああ、済まないが先に部屋に戻らせてもらうよ。もう疲れた」


 そう言って旅館の中に入ると出撃の時よりは幾分かにぎやかになっていた。室内待機命令も解かれたらしく、何かが終わったと生徒たちも感じているんだろう。そんなにぎやかな廊下を蓮と束の二人は歩いていく。少し歩いていくと教師に割り当てられているフロアにつく。そこまで行くと旅館の喧騒から少し離れた。


 二人に割り当てられていた部屋に入る。出て行くときに閉め忘れたのか、窓は全壊に開いていた。そこから夕日の光が差し込んで薄暗い部屋を照らす。窓から顔を出して外を見ると、夕日の光を海が反射してきらきらと輝いていた。水平線の向こうには半分ぐらい沈んでいる夕日が見える。


「終わったね」
「終わったよ、あとは仕掛けるだけ」
「いったいどうなっちゃうんだろうね」
「さあな、何が起こるかは分からないだろ。それに何が起こるか分かっていちゃ何も面白くない。でも、自分から動かないと何も変わらない平凡な日常が過ぎていくだけ」
「そうして行動に移してみると、この世界は異物を見るように排除しにかかってくる。やっぱり住みづらい」
「だからこの世界を変えるんだろう? その結果が成功だったって、失敗だったって関係ないんだからな」
「そうなの? 私的には結果が出ないと嫌だなあー」
「……束らしいな」
「それが束さんですから」


 胸を張って少し誇らしげに言う束。そんな束を見て蓮は笑う。


「むうっ、どうして笑うんだよー」
「いや、ただな。束がそうやって純粋に笑ってるのを久々に見たなってな」
「いいっ!? ……いきなりは反則だよ。そうやっていっつもれんくんは私の心を揺さぶってくる。そんなんだから、もうれんくんなしの世界なんて考えられないんだよ」


 そう呟いて束は蓮の隣に並ぶ。二人の顔を風が撫でていく。束の長い薄紫色の髪が靡いて、それと連動するように吊り下げられていた風鈴が高い音を鳴らす。


 二人の会話をドア越しに聞いていた人影があった。その正体はラウラ。何かを悔しがるように歯を食いしばって拳を握りしめる。その近くには鈴もいたが、ラウラは気づいていなかった。


(どうして兄上の隣にいるのが私じゃないんだ。どうしてあんな奴なんだ。私だって兄上に愛されたいのに……)
(嫉妬、独占欲。強欲ね、そんなんだからあんたは外されるのよ。可哀想ね。本当に哀れだわ)


 鈴は何処からか通信機器を取り出して何かを打ち込み始めた。その時に出る音がラウラに聞かれるのを嫌がってか、にぎやかな生徒フロアの方に向かって歩いていく。案の定入力音を聞かれていたが、ラウラはそれが鈴が出したことに気付けなかった。
 そんなラウラを鈴は蔑んで入力を終えて、送信する。


『……ラウラ・ボーデヴィッヒ。除名処分。マイクロチップ摘出後、記憶抹消』


 
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