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悪徳

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4部分:第四章


第四章

「宴のな」
「宴のか」
「まずはローマだ」
 ローマだというのである。
「市民達に馳走だ」
「ふむ、そうだな」
「彼等の支持もまた必要だからな」
「その通りだ。彼等を招こう」
 ローマの市民達を宴に招くというのだった。
「それはバチカンの外でだ」
「外か」
「中でもまた行う」
 中についても語られるのだった。
「中は。各国の貴族達と」
「他の司教の方々にもだ」
「全ての支持が必要だからな」
 言葉が念入りなものになっていた。
「だからだ。中でもだ」
「それはいいが」
「しかしだ」
 中での宴については異論も出て来た。
「市民はともかく貴族だな、中は」
「そうだ」
「ただ馳走するだけでは支持は得られまい」
「そうだ。彼等は肥えている」
 冷静にこのことが述べられた。
「ならば。ただ馳走するだけではな」
「あまり効果はないぞ」
「無論それも考えている」
 冷徹な読みを感じさせる言葉であった。
「それはな」
「というとどうするのだ?」
「何を考えている?」
「狂宴だ」
 冷徹な読みはすぐに消えてまた邪悪な笑みが言葉に含まれてきた。
「それを考えている」
「狂宴!?」
「何だそれは」
「意味がわからないが」
「女だ」
 その邪悪な言葉はそれを指し示した。
「馳走に美酒に女だ」
「それ等を振舞うのか」
「無論馳走も美酒も外のものとは違う」
 それについても述べられた。
「そのうえ女はローマ中の娼婦から集め」
「それもまた振舞うというのか」
「どうだ?これで」
「面白いな」
 くぐもった笑いでの返事であった。
「そういうものもな。だが」
「だが。何だ?」
「バチカンの宴だな」
「そうだ」
 答える方もくぐもった笑いになっている。彼等はお互いそこにある邪な心を隠してはいなかった。隠そうともしてはいないのだった。
「バチカンでの宴だ」
「背徳だな」
 バチカンには決してないとされているものだ。
「まさに。そうした狂宴はな」
「しかも十字架の前で行うというのはどうだ?」
「さらにいい」
 声は他の者達にも及んだ。皆くぐもった笑いを浮かべ続けるのだった。
「尚更な。主の御前でそれはな」
「異教のようだ」
「だが異教ではない」
 笑って否定されたのはこの場合異教だけではなかった。
「ここはあくまでバチカンなのだからな」
「では聖なる宴なのだな」
「そう。聖宴だ」
 そういうことにされてしまった。
「バチカンにあるのだからな」
「それではその聖宴に呼ぶ方々も決めよう」
「そうだな。おおよその話はついた」
 これまでの話で、ということである。
「それではだな」
「そうだ。まずはボルキアーノ公爵に」
「バカニーニ伯爵」
「それにレンツェ司教もだな」
「めぼしい人物に各国の大使殿も呼んでおこう」
「うむ、そうするか」
 こうして話が練られていった。程なくして枢機卿のうち何人かは急死し中には不慮の火事で若くして世を去ることになってしまった者もいた。皆その非業の死に涙せずにいられなかったがここであることも囁かれるのであった。
 
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