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カラミティ=ジェーン

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6部分:第六章


第六章

「そういうことだよ」
「かもな」
 一人がだ。ここでこんなことを言った。
「あんたは気が向いたからここに来た」
「それだけだよ。何度も言うけれどね」
「それで大勢の人を助けた」
 彼がだ。言うことはこのことだった。
「そういうことなんだな」
「そうなるね。それじゃあね」
「ああ、それじゃあ?」
「あたしはこれで帰らせてもらうよ」
 多くを言うことなくだ。踵を返した彼女だった。
 そして自分の馬に乗ってだ。彼等に話すのだった。
「元気でね。気が向いたらまた来るよ」
「ああ、それじゃあな」
「またな」
 こんな話をしてだ。そうしてだった。
 ジェーンは村を後にし荒野の中に消えた。黄色い乾いた大地と砂煙の中にその身を消してだ。彼女は何処かへと去ったのだった。
 ジェーンはこうした行動を繰り返した。何度もだ。
 そしてそのうえでだ。西部で生きていたのだ。
 しかしだ。やがてアウトローの時代は終わり西部も急速に治安が好転していった。フロンティアはなくなりインディアン達は居留地に押し込められ荒野の村は大きな街になっていき。ジェーンもまた。
 彼女についてだ。こう話されていた。場所はコンクリートのパブだ。その中で男達がビールを飲みながらこんな話をするのだった。
「ジェーンが死んだってか」
「ああ、遂にな」
「死んだらしいぜ、酒でな」
「それでな」
「そうか、死んだか」
 その話を聞いてだった。そのうえでだ。
 彼等はビールを飲みながら話していく。見れば彼等の服は西部のものではなくなっている。流石に東部の洒落たものではない。しかしだった。
 あの荒れた服ではなくいささか身奇麗なものになっている。その服を着た彼等がだ。バーボンではなくビールを飲みながら話すのだ。
「まだ若いだろ」
「五十三らしいな」
 ジェーンが死んだ歳まで話される。
「それ位だな」
「そうか、五十三か」
「本当に若いな」
「随分昔に思えるんだけれどな」
「若かったんだな」
「老けた風にも見えたけれどな」
 こんな言葉も出された。
「それでもまだそんな歳か」
「それで酒で死んだのか」
「酒好きだったからな」
 とにかくだ。ジェーンは酒好きだった。それは死ぬまで変わらなかったのだ。
 そしてだ。そのジェーンの死を知ってだ。彼等はだ。
 あらためてだ。こんなことも言うのだった。
「それでどうする?」
「どうするって?」
「どうするって何がだよ」
「行くか?」
 一人が言ったのである。こうだ。
「ジェーンの葬式な。行くか?」
「ああ、それな」
「隣の町だしな」
「じゃあ行くか」
「もうすぐだよな」
「悪い人じゃなかったしな」
 誰もジェーンを嫌っていなかった。彼女は確かに荒くれ者だった。しかしだ。
 その飾らない性格と面白い話でだ。彼女は誰からも好かれていたのだ。酒場に入れば西部での自分の話をしてそれで酒を奢ってもらっていた。
 その彼女が死んでだ。誰もが思うのだった。
「寂しくなるな」
「ああ、カウボーイの仕事も穏やかになったしな」
「コヨーテにサイドワインダーも減った」
「インディアンの奴等も居留地に入れた」
 西部の危険がだ。減ってきていたのだ。
 
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