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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン26 鉄砲水と真紅の瞳

 
前書き
今回からフィールド表記をちょこっと変えました。
というか邪魔蠍団回、なんか知らないけどだぶってたんですね。今初めて知りました、すみません。

前回のあらすじ:お帰りなさい、万丈目。 

 
「やあ、少しいいかな?」

 そう言っていつも突然なフブキングこと吹雪さんが僕の店に入ってきたのは、万丈目が元に戻ったその日の昼休みだった。正直なところ徹夜なんてやり慣れないことをしたせいで眠くてしょうがなかったが、まさか追い返すわけにもいかないので店内に迎え入れる。お客ならもう少し頭もはっきりしたのだろうが、彼がケーキを買いに来たわけではないことだけは、雰囲気ですぐに分かった。

「はい、どーしたんです?」
「少し君と話がしたくてね。まず、万丈目君が元に戻ったらしいね。おめでとう」
「いえいえ」

 少し表情を柔らかくして、まずは今朝会ったデュエルについて話を振ってくる吹雪さん。にしても、あの時観客はいなかったはずなのにどんだけ耳早いんだこの人。

「それで、本題なんだけどね。……君は、最近の亮について知っているかい?」
「亮って、カイザーのことですか?いや、どうも世間には疎くて」

 一度エドに負けてからだんだん負けがかさんできて、プロとしてのランクをどんどん落とされたところまでは僕も見ている。だけど、この様子だとまだ先の話がありそうだ。

「ふむ、君ならそう言うと思ったよ。僕の口から説明するより、この記事を読む方が早いだろう」

 そう言いつつ吹雪さんがサッと差し出したのは、よく翔も読んでいるデュエル雑誌だ。何度も読み返したらしく開いて固定した跡があるそのページは、見開き1ページ使ってある特集を組んでいた。

「地獄の貴公子、ヘルカイザーに迫る……?」

 どうなってるんだ、これ。悪そうな顔で腕組みするカイザーの服は、プロ入りしてからもずっと着ていた白いものから万丈目並みの全身真っ黒にチェンジしていた。イメチェンでも図ったのかとそのまま記事を読み進めていくと、そこには目を疑うような内容がつらつらと書き連ねてあった。
 いわく、ヘルカイザーとは一時期表舞台から姿を消したカイザーが新たな戦術を手に入れ文字通り地獄の底から蘇ってからの名前であると。以前のポリシーであったリスペクトデュエルをかなぐり捨て、どこまでも貪欲に勝利のみをリスペクトするその姿勢には熱狂的なファンも多く、その人気はすでに昔を上回るほどになっていると。

「えっと……」

 なんだこれ、といいたいのをぐっとこらえる。あのカイザーがヒールに移行なんて、もう何がなんだかさっぱり分からない。しかもこの写真見る限り、それがなかなかサマになっている。

「僕も初めて見た時は目を疑ったけど、これが現実みたいなんだ。彼は今、僕らの知る亮とは別の人間になっている」
「で、でもこれだってスポンサーとかに言われてのキャラ付けかもしれないし」
「その可能性も考えてみたさ。だけど昨夜の亮の試合を見て、確信したんだ。あれは亮が目指していたリスペクトデュエルのやりかたなんかじゃない。純粋に勝利のみを獲りに行く、容赦のないデュエルだ」

 随分きっぱりという吹雪さん。よくよく見ると昨夜何度も試合を検証してあまり眠らなかったのか、目の下には隠そうとしていても隠しきれないほどの隈があった。カイザーとの付き合いは僕よりもずっと長い吹雪さんがここまではっきり言うのだから、そうなのだろう。ただ一つ、よくわからない点があった。

「でも、なんでそれを僕に?こう言っちゃなんですけど、海の向こうにいるカイザーの話なんてここでしたって」
「チッチッチ。確かに君の言うことにも一理あるけど、僕はとある確かな筋から情報を手に入れたんだ。カイザーはジェネックス参加のため、明日この島にやってくる」
「………」

 とある筋ってなんだ。これまで謎に包まれてきた吹雪さんの地獄耳の秘密にほんのちょっぴりだけ近づいた気がしたが、これ以上関わりあうとろくな目に合わないような予感がしたので追及はしないでおく。さわらぬ神にたたりなしって言葉もあるし、そもそも吹雪さんの話がどこに行くのかがいまだにはっきり見えてこない。カイザー、いやヘルカイザーが来るのはわかったけど、それをわざわざ翔や明日香じゃなくて僕の店に伝えに来たのはどういうわけだろう。その疑問に気が付いたらしく、ポケットに手を入れて1枚のカードを取りだす吹雪さん。

「こ、これ!?」
「そう。僕がかつて飲み込まれていたダークネスの力を封印したカードだ。この封印を解けば、またダークネスのマスクが出てくる仕掛けになっている」

 そんな物騒なもんまだ持ってたのかこの人。まあ、世間の目から見れば地縛神カードだって似たり寄ったりなのだろうが。そのダークネスのカードをじっと見つめてから視線を外し、今度は僕の目を見て一言一言絞り出すように話す。

「僕は明日、亮にデュエルを申し込むつもりなんだ。彼が表舞台から姿を消してから今までの間に何があったのかはわからない。だけど友人として、彼にはもう一度昔のデュエルにかける思いを取り戻してほしい。そのためなら、僕はこの力をもう一度使うことだって辞さないつもりだ」
「いや待って待って待って」

 いくらなんでも話が飛躍しすぎている。カイザーがおかしくなったのはわかった。それはいいとして、なんでそれを止めるためにダークネスの力が必要になるというのかがわからない。
 そして、そんな素朴な疑問に対する吹雪さんの答えがこれだ。

「君が僕をダークネスから解放してくれた時に一瞬見せた力、あれはダークネスに負けず劣らず邪悪なものだった。闇の力を使うことで闇の力を振り払うことができるのならば、僕は喜んで亮の闇を祓うためにこの力を使おう」

 そういえばあのデュエルではまだチャクチャルさんが表に出てきてなくて、勝手に溢れてくる地縛神のパワーの影響をもろに受けていた。あのころはまだ制御の方法が全然わからなかったから、やたらと攻撃的で後先を一切考えない、ちょうど先代の呪いを受けてた時期みたいなことになってたっけ。
 だけど、そう考えれば吹雪さんの考えにも一理あるのかもしれない。毒を以て毒を制す、というわけか。

「(実際どうなの、チャクチャルさん?)」

 とはいえ確認を取らないことには不安なので、ここは脳内で専門家に問い合わせてみる。わりと即答が多いチャクチャルさんにしては珍しく少しの間考えていたふうだったが、ややあって答えが返ってきた。

『間違った話ではない。その男が何らかの外部的な要因で心の闇を増幅されているなら、という前提があってこその話だが。ところでマスター、この男の狙いはもう勘付いているか?』
「(そりゃまあね。ありがとー)」

 闇のプロから言質もとれたので、改めて吹雪さんに向き直る。そう、ここまできたらいくら僕でもこの人が何を言いたいかぐらいわかる。何も言わずにデュエルディスクを起動させ、デュエルするには距離が近すぎたので少し吹雪さんとの間隔を取る。

「………すまない。だけど誤解しないでくれ、僕は無理強いする気も、強制する気もないんだ。だけど、どうしても怖いんだ。ダークネスの力を使うことが」
「気にしないでください、吹雪さん。そのマスクをつけて、デュエルしましょう。もしまたダークネスに飲み込まれたら、力技でもう一回引っぺがしてあげますよ」

 要するに僕はこれから、吹雪さんがダークネスの力に慣れるための予行の相手をするわけだ。確かに明日ぶっつけ本番でダークネス化してもしもそのままダークネスに呑まれることのリスクを考えると、この特訓は不可欠といえる。今ならたとえダークネスの制御に失敗しても、去年と同じく僕が勝てばダークシグナーの力でまた封印することができる。
 だけど根はまじめで優しいこの人のことだ、ここに来るのだって悩んで悩んで悩みぬいてのことだったに違いない。僕にもう一度ダークネスの相手をさせていいのか、と。それでもこの人は、苦しみながらもカイザーのために僕に頭を下げることを選んだ。本当は僕だってダークネスの相手をするのは怖い。だけど、吹雪さんは僕ならたとえ自分が暴走しても止めてくれると信じてくれた。なら、万が一のことがあってもその期待に応えよう。それがデュエリストとしての、というより遊野清明としての生き様だ。
 吹雪さんが震える手で手にしたカードを引きちぎると、そこにはカードの切れ端ではなく鼻から上を覆い隠すブラックマスクが握られていた。ゆっくりとした動作で、それを顔につけていく。その目が完全に覆われる直前、最後に一瞬だけ不安と恐怖と罪悪感でいっぱいの吹雪さんの目が見えたので、せめて僕への罪悪感だけでも薄まるようにと笑いかけてみせる。

『まったく、損する人間だよマスターは』

 褒め言葉として受け取っておくよ。

「「デュエル!」」

「……の前に、どう?吹雪さん。ちゃんと意識ある?」
「あ、ああ、まだ大丈夫だ。僕の先攻、魔法カード、竜の霊廟を発動!デッキからドラゴン族を1体墓地に送り、それが通常モンスターならばさらにもう1体墓地に送ることができる。通常モンスターの真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を送り、これによりさらに真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)を墓地に。そしてカードを1枚伏せ、エンドフェイズに墓地から真紅眼の飛竜の効果を発動。通常召喚をしていないターンのエンドフェイズ、このカードを墓地から除外して墓地のレッドアイズを蘇生させる!出でよ、真紅眼の黒竜!」

 真紅眼の黒竜 攻2400

 1ターン目からいきなり召喚された、吹雪さんの原点ともいえる可能性の竜。今のところはまだダークネスの力も抑えられてるみたいだし、とりあえずは何も気にせず目の前の敵をどう倒すかに集中しよう。

「僕のターン、ドロー。……ここは、モンスターをセット。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 吹雪 LP4000 手札:3
モンスター:真紅眼の黒竜(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
 清明 LP4000 手札:4
モンスター:???(セット)
魔法・罠:1(伏せ)

「ならば僕のターン。レベル4以下のモンスターの守備力ならば十分対応できるか……トラップ発動、メタル化・魔法反射装甲!このカードは装備カードとなり、モンスターの攻守を300ポイントアップさせる」

 真紅眼の黒竜 攻2400→2700 守2000→2300

「そして魔法カード、黒炎弾を発動。場に存在する真紅眼の黒竜の、元々の攻撃力ぶんダメージを与える。放て、レッドアイズ!」

 金属のような光沢を全身に纏わせたレッドアイズが、口を開いて赤黒の炎の球を吐き出すと、僕の伏せカードの上を飛び越して、その衝撃が直接こちらを襲う。

 清明 LP4000→1600

「だ、だけどそのカードを使うターン、レッドアイズは攻撃ができない……」
「確かにな。だが、それはあくまでも真紅眼の黒竜のみのこと。私はメタル化・魔法反射装甲を装備したレッドアイズをリリースし、デッキからこのカードを特殊召喚する!出でよ、レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン!」

 レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン 攻2800

 さっきまでの金属風なコーティングがされただけのレッドアイズとは違い、本当に体中が機械に改造されたレッドアイズ進化形態の1つ。手札に来たら一発アウトという厳しい召喚条件とメタル化の効力が失われるという大きなデメリットから、ただでさえ希少なレッドアイズの中でもさらに見ることは難しいと言われている。
 だけど、今この局面においては厄介なカードだ。なにせ、黒炎弾のデメリットに縛られることがないのだから。

「っていうか吹雪さん、口調!あと一人称!」
「え?ああ、おっと済まない。では気を取り直して、バトルだ!ダーク・メガ・フレア!」

 レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン 攻2800→??? 守300(破壊)

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。さあ、遠慮せずにかかってきてくれ」
「もっちろん!ドロー、墓地からフィッシュボーグ-アーチャーの効果発動!手札の水属性を1体捨てて、このカードを特殊召喚する。さらに魚族モンスターの召喚に成功したこの時、シャーク・サッカーを特殊召喚」

 フィッシュボーグ-アーチャー 守300
 シャーク・サッカー 守1000

 僕の手札にはデッキ最強の攻撃力(固定値)を誇るモンスター、青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツドラゴン)が控えている。このままこの2体をリリースすれば……と思ったところで、吹雪さんの口元に笑みが浮
かぶ。

「甘い!永続トラップ、サモンリミッターを発動!このカードが存在する限り、お互いに1ターンに2回までしかモンスターを場に出すことができない。すでに2体のモンスターを並べた君はこのターン、もうアドバンス召喚は行えないな」
「ぐ……ターンエンド」

 吹雪 LP4000 手札:2
モンスター:レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン(攻)
魔法・罠:サモンリミッター
 清明 LP1600 手札:3
モンスター:フィッシュボーグ-アーチャー(守)
      シャーク・サッカー(守)
魔法・罠:1(伏せ)

 たいして動けないまま、的を用意するだけでターンが終わってしまった。だけど吹雪さんだって次のターン2回までしかモンスターを出すことはできないのだ、とりあえずはまだ凌げるだろう。

「僕のターン、ドロー。ブラックメタルでシャーク・サッカーに攻撃!ダーク・メガ・フレア!」
「今だ!墓地からキラー・ラブカの効果発動!このカードをゲームから除外してその攻撃を無効にし、さらに次の僕のターンの終わりまでブラックメタルの攻撃力を500ポイントダウンさせる!」

 レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン 攻2800→2300

「ほう、先ほどアーチャー蘇生のために墓地に送ったカードでリリース用のモンスターを残したか。いいだろう、ならばこれでターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!お望みどおり出してあげるよ、僕のモンスターを。2体のモンスターをリリースしてアドバンス召喚、青氷の白夜龍!それから白夜龍でブラックメタルに攻撃、孤高のウィンター・ストリーム!」
「その攻撃は通しだ」

 青氷の白夜龍 攻3000→レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン 攻2300(破壊)
 吹雪 LP4000→3300

「まずは一撃。さらにカードを伏せて、ターンエンド」

 吹雪 LP3300 手札:2
モンスター:レッドアイズ・ブラックメタルドラゴン(攻)
魔法・罠:サモンリミッター
 清明 LP1600 手札:2
モンスター:青氷の白夜龍(攻)
魔法・罠:2(伏せ)

「わた……いや、僕のターン、ドロー」
「吹雪さん、ホント大丈夫?」
「ああ、まだ大丈夫だよ。魔法カード、融合を発動。手札のレッドアイズと、同じく手札のメテオ・ドラゴンを素材とする!」

 融合。そうか、確かに融合なら一度の召喚で簡単に上級モンスターを呼び出せる。

「次はこのカードだ、メテオ・ブラック・ドラゴン!」

 隕石の、そして宇宙の力を手に入れた、レッドアイズ系統の中でも最高の火力を持つモンスター。体の表面からはあまりの熱量のために陽炎が立ち、口からも灼熱の息が吹き出される。

「バトルだ、バーニング・ダーク・メテオ!」
「ブルーアイスっ!」

 手を伸ばしてもどうにもならない。巨大な隕石が降り注ぎ、かわすこともままならずに氷のドラゴンがその下に沈んでいく。

 メテオ・ブラック・ドラゴン 攻3500→青氷の白夜龍 攻3000(破壊)
 清明 LP1600→1100

「くっ……だけどこれで残り手札は一気に0枚、あれさえ倒せればまだ押し通せる……」
「それは無理だな。リバースカードオープン、融合解除を発動!メテオ・ブラックをエクストラデッキに戻すことで、墓地からその素材となった2体を特殊召喚する!」

 真紅眼の黒竜 攻2400
 メテオ・ドラゴン 攻2000

「これは2体を一度に特殊召喚しているためサモンリミッターに妨害されることもなく、そしてバトルフェイズ中に召喚されたモンスターはそのまま攻撃が可能となる!レッドアイズの攻撃、ダーク・メガ・フレア!」
「いいや、まだまだデュエルは終わらせない!トラップ発動、リビングデッドの呼び声!甦れ、青氷の白夜龍!」

 青氷の白夜龍 攻3000

 攻撃力3000のモンスターが再び蘇った今、攻撃力2500にも満たない吹雪さんのモンスターには打つ手がない。大人しくターンエンドを宣言され、辛うじてつないだドローに賭ける。

「僕のターン、ドロー!シャクトパスを召喚して……」

 少し迷う。普段ならこのままシャクトパスを残しておくのも悪い選択肢じゃないのだが、なにせ相手はレッドアイズだ。悪名高き黒炎弾の2発目を食らう前になんとか勝負をつけたいし、ここは多少前のめりでも戦うべきだろう。

「そのシャクトパスをリリースし、シャークラーケンを特殊召喚!これでこのターンはもうモンスターが出せないけど、それでもいいさ。バトル、シャークラーケンでメテオ・ドラゴンに攻撃!」

 シャークラーケン 攻2400→メテオ・ドラゴン 攻2000(破壊)
 吹雪 LP3300→2900

「そのまま連撃、孤高のウィンター・ストリーム!」

 青氷の白夜龍 攻3000→真紅眼の黒竜 攻2400(破壊)
 吹雪 LP2900→2300

 先ほど灼熱の隕石を喰らったお返しとばかりに放たれた極寒のブレスが、黒い竜の全身を一瞬にして氷漬けにして白く染める。よし、これで流れはだいぶこちらに傾いた。

「ターンエンド。どう、吹雪さん?」
「ああ、さすがにお前は強いな。去年私と戦った時よりもさらに強くなっている………くっ、いや、まだ大丈夫だよ清明君」
「………どこが?」

 さすがにこれで心配するなというのも無理があるので試しに聞いてみる。どう見ても乗っ取られかかってるんですが。

「確かにいつもと違ってこれまでなかった力が全身に溢れてくるのを感じるよ。だけど、だんだんコツが掴めてきたんだ。昔の僕はダークネスの支配から逃げ出したい、そのことばかり考えていた。だけど今は亮のためにも、ここでダークネスを逆に支配してやるっていう意志がある。自分から戦う意志を強く持っていれば、闇の力は決して敵にばかりなるものではない」
「まあ、そう言うならそうなのかもしれないけど」

 というか実際のところ、闇の力ってなんなんだろう。僕の場合はチャクチャルさんがそばにいるときは完璧に制御できてるから、今一つピンとこない。ダークネス戦や先代に憑かれてた時みたいになるのが飲まれてる、って認識でいいんだろうか。やっぱりよくわからない。それに、これ以上考え込んだらデュエルに身が入らなくなりそうだ。

「ま、こんだけ身近なところにいい例(地縛神)がいればそのうちわかる日も来るか。大丈夫っていうならこのまま続けるよ、吹雪さん」
「ああ、もちろん」

 吹雪 LP2300 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:サモンリミッター
 清明 LP1100 手札:1
モンスター:青氷の白夜龍(攻・リビデ)
      シャークラーケン(攻)
魔法・罠:リビングデッドの呼び声(白夜龍)
     1(伏せ)

「僕のターン、ドロー。マジック・プランターを発動し、場の永続トラップであるサモンリミッターを墓地に送り2枚ドロー。ねえ清明君、特別に見せてあげるよ。僕の手に入れた、新しい力。僕の最高の切り札を」
「え?」

 吹雪さんの手札はたったの2枚。そこから出てくる切り札なんて、一体何をするんだろう。だけど、さっきまでとは気迫というか威圧感というか、そういったものが段違いだ。

「これが僕の切り札!真紅眼融合(レッドアイズ・フュージョン)を発動!このターン他のあらゆる召喚及び特殊召喚を封じる代わりにデッキのモンスターを融合素材にすることができ、呼び出したモンスターの名前を真紅眼の黒竜とする!」
「デ、デッキから直接の融合!?」
「まず、3枚目の真紅眼の黒竜。そしてレベル6のデーモンと名のつく通常モンスター、デーモンの召喚を墓地に送ることで融合召喚!悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン!!」

 激しく燃え盛る、蝙蝠のような翼。口からも炎が漏れ出し、筋骨隆々なその体躯はついさっき見たアームド・ドラゴンに勝るとも劣らない……いや、むしろ全身から立ち上る妖気だけならこちらの方が上か。破壊を振り撒くその姿は、まさに悪魔と竜の融合体という表現がしっくりくる。

 悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン(真紅眼の黒竜) 攻3200

「これが、吹雪さんの新しいエースモンスター……」
「そうさ。先に言っておくけれど、悪魔竜のバトルが始まればダメージステップ終了時まで相手はあらゆる効果を発動できない。これが最後のバトル、シャークラーケンに攻撃!メテオ・フレア・オリジン!」
「最後の?」

 なんだか嫌な予感がした。最後、とはどういう意味だろうか。シャークラーケンと悪魔竜との攻撃力の差は800、それを受けても僕のライフはまだ300残る。ということは、あのモンスターにバトル中のカードの発動を禁止する以外にまだ何か効果があるということ……!

「メインフェイズ終了前にトラップ発動、イタクァの暴風!このカードの効果で、相手モンスターの表示形式を全部変更するっ!」
「何!?次の攻撃につなげる気か」

 突然吹いた暴風に巨大な翼が煽られ、それが影響して業火の塊がわずかに向きをそれる。直後、決して広いわけではない店の中にとてつもない破壊音が響いた。その衝撃の凄まじさから、改めてその破壊力を思い知る。

 悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン(真紅眼の黒竜) 攻3200→守2500

「ふー……危ない危ない」
「そんなカードをずっと伏せていたとはね。いいよ、攻撃してくればいい。残りの手札を伏せて、ターン終了だ」

 これで悪魔竜は2500の守備力を晒すのみとなった。白夜龍で攻撃すれば楽に倒せるし、そのままシャークラーケンのダイレクトで終わり、のはずだ。だけど、吹雪さんのあの余裕。絶対に負けるはずがないと言わんばかりのあの態度がどうにも引っかかる。あのモンスターそのものなのか伏せカードの方なのかはわからないけど、あの人はまだ何か奥の手を抱えている。
 なら、次の僕が打つべき手はなんだろう。そもそもこれ、本当に攻撃を誘ってる?それともただのブラフ?最初は絶対何かあると思ってたけど、ここまで執拗に言ってくるってことはやっぱりブラフだったりするんだろうか。そう考えると、このターン攻撃する気はなかったけどやっぱり攻め込むべき?それともやめるべき?
 だけど、ここで止まるなんてそれこそ僕らしくない。

「お望み通りにバトルするさ!孤高のウィンター……」
「その攻撃を通すわけにはいかないな!トラップ発動、バーストブレス!ドラゴン族を1体リリースすることで、その攻撃力以下の守備力を持つモンスターをすべて破壊する!迎え撃て、悪魔竜!」

 悪魔竜の瞳が真紅に輝き、おもむろに立ち上がって全身を赤熱させるとそのまま白夜龍に正面から突撃していく。燃え盛る竜と氷の竜が真っ向からぶつかり合い、激闘の末に2体の姿が光に包まれる。そして光が消えた時、どちらもフィールドには残っていなかった。

「さすがにやるね、吹雪さん。これでターンエンド」

 吹雪 LP2300 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 清明 LP1100 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:リビングデッドの呼び声(対象無)

 ちょっと余裕ぶったこと言ってはみたけど、割と今シャレにならないピンチです。うーむ。

「僕のターン、ドロー。伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)を召喚し、そのまま効果発動。このカードをリリースし、デッキからレベル7以下のレッドアイズを特殊召喚する」

 真っ黒な卵にひびが入り、少しづつ赤い光が中から漏れ出す。なるほど、あれが割れてレッドアイズが生まれるってことか。だけど吹雪さんの墓地にはすでに3体の真紅眼の黒竜がいる、精々出てくるのは真紅眼の飛竜ぐらいだろう。
 だが、その予想は的外れだった。卵が割れて中から出てきたモンスター、あの姿は間違いなく本家真紅眼の黒竜……いや、違う。よく似てはいるけれど、形が少し違う。

「これがもう1つのレッドアイズ……生まれ出でよ、真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)!」

 真紅眼の黒炎竜 攻2400

「これが最後のバトルだ、ブラックフレアドラゴンでダイレクトアタック!パラレル・メガ・フレア!」
「これだけギリギリの楽しいデュエルなんだ、まだまだ終わらす気はないね。その直接攻撃宣言時、手札からゴーストリック・フロストの効果発動!攻撃モンスターを裏守備表示にして、このカードを裏守備で特殊召喚する!」

 目の前に降ってきた雪の塊が、黒い炎を受け止める。厚着をした雪だるまがその上からぴょんと飛び降り、こちらに向けて親指を突き立ててみせてからいそいそとクロッシュの中に引っ込んだ。この稲石さんからもらったカードのおかげで、今回も敗北から助けてもらったわけだ。

 真紅眼の黒炎竜 攻2400→セット状態
 ???(ゴーストリック・フロスト) セット状態

「ターン終了だ」
「僕のターン。あのモンスターの守備力は本家と同じ2000、だったらこのカードで勝負。フロストをリリースして、氷帝メビウスをアドバンス召喚!効果でもう使い道のないリビングデッドの呼び声を破壊しておいてからバトルフェイズ、真紅眼の黒炎竜に攻撃!アイス・ランス!」

 氷帝メビウス 攻2400→???(真紅眼の黒炎竜) 守2000(破壊)

「これでまた1体撃破。僕はターンエンドだよ、吹雪さん」

 吹雪 LP2300 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 清明 LP1100 手札:1
モンスター:氷帝メビウス(攻)
魔法・罠:なし

「僕のターン。魔法カード、思い出のブランコを発動!甦れレッドアイズ!」
「ここでまたレッドアイズ!?どんだけ引きがいいってのさ」
「おいおい、それはお互い様だろう?さらに墓地から伝説の黒石、第二の効果を発動。墓地のレベル7以下のレッドアイズをデッキに戻し、このカードを手札に加える。ただし伝説の黒石は1ターンにどちらか一つの効果しか使えない、このターンは手札で温存しよう」

 真紅眼の黒竜 攻2400

 このターン、レッドアイズとメビウスの攻撃力は同じ。まさか攻撃してくることはあるまい。

『いや、それは違うぞマスター。思い出のブランコにはデメリットがある。エンドフェイズに呼び出したモンスターが破壊されるデメリットがな』
「バトルだ、レッドアイズでメビウスに攻撃!ダーク・メガ・フレア!」
「なるほど、突っ込んでくるしかないってことか。しょうがない、メビウス!アイス・ランス!」

 真紅眼の黒竜 攻2400(破壊)→氷帝メビウス 攻2400(破壊)

「こうしてみると、去年君と初めてデュエルした時のことを思い出すね」

 一瞬何を言っているのかと思ったけど、少しして思い出した。そういえばあの火山の中でのデュエルの時も、レッドアイズとメビウスが相打ちになる局面があったんだっけか。

「懐かしいもんですね、何せこの1年がむちゃくちゃ濃かったからもっと昔の話みたいで」
「ああ、まったくだ。………まあ、まだお互いに感傷に浸るような年じゃないね。悪かった、デュエルを続けよう」
「ええ。僕のターン、ドロー!」

 ここでアタッカーになるモンスターさえ引ければダイレクトアタックできたのだが、そうそううまくはいかないものだ。やむを得ない、このターン攻撃は諦めよう。

「モンスターをセット。これでターンエンドです」

 吹雪 LP2300 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 清明 LP1100 手札:1
モンスター:???(セット)
魔法・罠:なし

「僕のターン、ドロー!貪欲な壺で悪魔竜、ブラックメタル、レッドアイズ2体、メテオ・ドラゴンをデッキに戻して2枚ドロー。ついにこのカードを引いちゃったか……いや、僕だって覚悟はできている。行くよ、清明君!まず伝説の黒石を召喚してその効果で、デッキからさっき戻したレッドアイズを特殊召喚する。そしてそのレッドアイズをリリースし、このモンスターを特殊召喚!出でよ、真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)!」

 レッドアイズが闇に包まれ、より戦闘的に進化を遂げていく。体つきはよりシャープになり、高速飛行には邪魔になるだけの両足は退化し、体中にあふれ出るパワーがオレンジ色のラインとなって全身を彩る。

「このモンスターの攻撃力は、墓地のドラゴンの300倍アップする。今は1体のレッドアイズに伝説の黒石、真紅眼の黒炎竜で計900ポイント分か」

 真紅眼の闇竜 攻2400→3300

「バトルだ、ダークネス・メガ・フレア!」

 真紅眼の闇竜 攻3300→??? 守100(破壊)

「水晶の占い師のリバース効果。デッキトップ2枚をめくり、1枚を手札に。ダブルフィン・シャークとアクア・ジェット……ここはダブルフィン一択か」
「最後の手札を伏せ、このターンはこれで終了する。長いデュエルだったけど、そろそろ決着がつきそうだね」
「決着?確かにそうですね。でも、勝つのは僕だ!ダブルフィン・シャークを召喚、そして効果発動!自分の墓地から水属性魚族のレベル3または4のモンスターを特殊召喚する!シャーク・サッカー復活!」

 ダブルフィン・シャーク 攻1000
 シャーク・サッカー 守1000

「だが、これで君はこのターンの召喚権も使った。そのモンスターだけでどうする気だい?」
「無論、勝ちに行くんですよ。魔法カード、ミニマム・ガッツを発動!僕のモンスターを1体リリースすることで相手モンスターの攻撃力を0にし、さらにこのターンそのモンスターが戦闘破壊された時にその元の攻撃力ぶんのダメージを与えることができる。このサッカーの力で、真紅眼の闇竜の攻撃力を0に変更!」

 真紅眼の闇竜 攻3300→0

「なるほど、確かにその方法なら低レベルで攻守も低いモンスターが大ダメージを出すことができる、か」
「そういうこと。ダブルフィンで真紅眼の闇竜に攻撃!」

 ダブルフィン・シャーク 攻1000→真紅眼の闇竜 攻0(破壊)
 吹雪 LP2300→1300

「あとは効果ダメージで……」
「清明君、確かに君の戦略は間違っていない。だが君がこのデュエルに勝つことはできない」
「え……?」
「トラップ発動、レッドアイズ・バーン!自分フィールドのレッドアイズが破壊された時、お互いのプレイヤーはその元々の攻撃力ぶんのダメージを受ける!」

 ダブルフィンに噛みつかれた真紅眼の闇竜の姿が急激に膨れ上がり、内側から爆発する。その衝撃波は一瞬でフィールドを覆い尽くし、全部を消し飛ばした。

 清明 LP1100→0
 吹雪 LP1300→0





「引き分け、かぁ……」
「いや、どちらかといえば僕の負けだろうね」

 吹雪さんがダークネスマスクを取り外しながら、疲れた顔でつぶやく。

「なんで吹雪さんの負けになるんですか?」
「どうにも僕はドロー運が悪くてね。このデッキのポテンシャルを最大限に引き出せれば、もっと早くに決着はついていたはずなのに。なまじ君や十代君、亮みたいなドロー運がずば抜けた相手が周りにたくさんいるからそう思うだけなのかもしれないけど、それでもそういう意味じゃ君たちが羨ましくてしょうがないんだ」
「ああ……」

 吹雪さんのデッキは確かに極悪だ。言ってしまえば、レッドアイズ出して黒炎弾2発で勝負がつくんだから。でも言われてみれば確かに、この人がそのやり方で勝利を手にしたという話はあまり聞かない。だいたいレッドアイズでビートダウンして勝つイメージだ。

「まだ僕はレッドアイズの力をフルに引き出せてない。それができない以上、僕にとってはまだまだなのさ」

 なるほど、と言いそうになったがそこでふと気づいた。じゃあ僕は、まだ不完全なレッドアイズにあれだけ苦戦した挙句引き分けに持ち込まれたってことか。なんか複雑な気分。

「ともあれ、ダークネスの制御も少しつかめた気もするよ。本当にありがとう、清明君。君にはいくら感謝してもしきれない」
「何回も言ってるじゃないですか。気にしないでって。実際、僕も楽しかったですし。………次はまた、僕が勝ちますからね?」
「ああ、楽しみにしてるよ。だけどまず僕は明日、亮とデュエルする。もしよかったら、君も見においでよ。じゃあね~」

 最後にそう言って、吹雪さんは来た時と同じように突然帰っていった。全く、吹雪というより嵐のような人だ。
 とはいえ明日、か。ヘルカイザーとやらにいったい何があったのかも、直接会えばわかるかもしれない。これは、行ってみるしかあるまい。 
 

 
後書き
これだけ前ふりやってますが、次回がヘルカイザーVSダークネス吹雪になるかはまだ未定。
つくづく思うけど、4000ライフでの吹雪さん強すぎ。急な強化で余計に殺意が跳ね上がってるし。 
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