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食事をしながら

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5部分:第五章


第五章

「貴殿は私を謀略家だと言ったが」
「その通りではないのか?」
「彼は私など比べものにならない謀略家だった」
 そうだというのである。
「その彼の謀略は知らないのか」
「知ってはいる」
 フーシェもそのことは認めた。不都合ではないからだ。
「しかも冷酷だった」
「そうだな。多くの兵が彼により失われた」
「それはその通りだがな」
「ではだ。私とて必要からそうしたまでだ」
「謀略を使ったというのか」
「必要でなければ使いはしない」
 タレーランは落ち着き払って述べた。
「それだけだ」
「ではだ」
「今度は何だ」
「貴殿は何人の愛人がいた」
 今度問うのはこのことだった。
「それはわかっているか」
「さて」
 その問いにはとぼけてみせるタレーランだった。
「何のことか」
「ドラクロワ夫人は何だ?」
 フーシェはタレーランに対して問うてみせた。
「その他には何人いたのか」
「私は誰に対しても紳士だ」
 タレーランはそのことは自負と共に述べた。
「女性であってもな」
「無理強いはしないというのだな」
「彼女達が私を愛してくれたのだ」
「それは今もだな」
「それだけだ。私は何も悪事はしていない」
 少なくとも無体なことはしていないというのである。
「女性に対してはとりわけ紳士的なのだ」
「しかし子供はいるな」
「さてな」
 そのことにもとぼけてみせるのであった。
「数えていない」
「女なら誰でもいいのが貴殿だな」
「美しければだ」
「それなら誰でもいいか」
「何か不都合があるというのかな、それで」
「よくもまあ平気でいられるものだ」
 フーシェはまたしてもシニカルに言ってみせた。
「何人も愛人を持ち。隠し子をもうけてそれで」
「かつては普通だった」
 悪びれずに返すタレーランだった。
「革命前はな」
「貴族達の間ではか」
「結婚なぞ所詮は家と家のつながりに過ぎない」
 これは本当にそう考えられていた。貴族達の間では結婚はいわば仕事の一つだったのだ。それで愛人を持つことも当然のことだったのだ。
「それでどうして不都合がある」
「そう言うのか」
「そうだ。私は貴族社会の中でそうしていただけだ」
 何の臆面もなくだ。タレーランは言い切ってみせる。
「美食についてもそうだ」
「賄賂もか」
「そうだ。それだけだ」
「革命に対する罪だな」
 フーシェの言葉にだ。剣呑なものが宿った。
 
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