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第3話 我が祈りは旭日と共に 其ノ3

 
前書き
遅れて申し訳ない(´Д` )
転職やら色々あったんですわ…… 

 
宇宙世紀0090年 12月8日
サイド6 リーア
第6市街区


「「実戦形式の実機演習?」」

暖かな陽射しが差し込むテラスの中央で、俺とラリーは揃って素っ頓狂に鸚鵡返しをした。

「ああ、なんでも任官前最後の試験らしい」
「え〜…何もこんな時期にやらなくても……」

ラトロワの言にまりもがぐったりと項垂れる。

士官学校卒業1ヶ月前の俺たちにとっては散々やった訓練だ。
とは言え、命令ならはやらねばならないのが軍人だ。

「これから教導官から命令がある。
明日の今頃はサラミス艦内だな」
「あんな骨董品が未だに現役なんて信じられんな」
「仕方ねぇだろ、軍縮なんだ。
それに……いい船だぞ、サラミスは。
量産性や整備性、なにより信頼性は群を抜いてる」
「また始まった、お前も好きだよな。
船の話になるといつもこうだ」

サラミスを骨董品呼ばわりしたラリーを窘めながらコーヒーを飲み干す。
12時を回った春の暖かい人口の陽射しが妙に心地良くて眠気を誘われたが、飲み干したコーヒーの苦味が全部吹き飛ばしてくれた。

「そろそろ時間だ、行くぞお前ら」

飲み干したコーヒーのカップを戻し、四人分の小銭をテーブルに投げて席を立つ。
これも姉や親父と同じ道を歩む為に必要な事だ。

「張り切って行くぞ〜。
気ぃ引き締めろ〜」
「「「了解ー」」」
「……やっぱ気の引き締めは各員に任せるわ……」


◉◉◉


23時間後
サラミス改級 グワラディア

「……で、今に至ると」
「最悪だな」

順調に進んでいた訓練は無事終了し、母艦となったサラミス改級グワラディアに全機帰投、サイド6へ帰還の途に着いた時だった。
所属不明のMSとムサイ級2隻の襲撃を受け、実機訓練は実戦となった。
迎撃に出た巌谷教官を含む教官機3機は、巌谷教官を残し潰滅。
グワラディアも艦砲を多数被弾し、MSの小口径実体弾を被弾したメインブリッジは軽微だったものの、艦長以下副長も死亡。
生還した巌谷教官も負傷しており、医務室で治療中だ。

「こんなの聴いてないぞ、畜生ッ‼︎」
「いや……死にたくない……ッ‼︎」

俺たち以外の訓練生は急な実戦に発狂したり喪失したり。
生き残った正規兵も久し振りの戦闘で満身創痍だ。

「状況を整理しよう」

修復されたメインブリッジで、俺は生き残った正規兵代表と訓練生、ラリー達の前で腕を組みながら声を発した。

「今グワラディアが居るのがこの宙域、ここがサイド6、でサイド6の手前にムサイ2隻。
動くに動けない。
然も辺り一面デブリだらけ、迂回しようにもデブリが邪魔で身動き出来ない上に、未だにジェネレータの生きてる艦艇の残骸があってムサイ級の正確な座標がわからないと来た。
通信装置はミノフスキー粒子で役に立たない、ジリ貧だな」
「確かに、だが相手もグワラディアがわからない訳だろ?」
「なんでそう言い切れる? ラリー」
「特定されてりゃとっくにヤられてる」
「なるほど、互いに相手が見えない訳だ。
迂回もできない以上、長距離攻撃は当てにならない。
距離をとっての攻撃は不可能って訳だ」

俺は顎に手を当てて考えた。

「艦内の酸素残量は後2時間。
それまでにムサイ級2隻と随伴のMSをやり過ごしてリーアにたどり着かにゃならん。
ノーマルスーツを着ればもう少し時間を稼げるかもしれんが……損傷した時に大方のスーツがダメになったからな……。
……少尉、本艦に残された戦力は?」
「…旧式のジムⅡが4機、内2機は小破。
船外作業用のモビルポッドが2機、グワラディアに関しては……側面ミサイルランチャー喪失、第2主砲塔損傷、残ってるのは第1主砲と対空機銃、船首ミサイル発射管のみだ」

生き残ったクルーで最先任だった少尉に問い、帰って来た答えにゲンナリした。

「どうするんだ? さっきお前も言ってたが、このままじゃジリ貧だぞ」
「…………遣り様は、ある」

俺はメインブリッジから望む外のデブリ群を見ながらそう言った。

「この宙域は1年戦争時からの艦船やMSの残骸が山の様にある。
無論その中にはサブジェネレータが生きてる奴もある」
「なるほど、デブリ群を囮にする訳か。
って事は、敢えて敵さんと殺り合う気か?」
「どのみちやり過ごしても連中は追撃して来る。
追撃なんぞされたらこっちはどうしようもない。
なら、消えて頂くに越した事はないだろう?」

俺は全員を見回し、ニヤリと笑った。

「現時刻を持って俺が指揮をとらせてもらう。
さぁ皆……パーティーを始めよう」


◉◉◉


宇宙を漂うデブリ群の中。
そのデブリの中に、不気味な単眼が揺らめいた。

ネオジオンの開発した重MS、ドライセン。

重MSの系譜を受け継ぎながら、高い機動力と堅牢な装甲を併せ持つ、ドムタイプの最新鋭機だ。

その背後にはゲルググ、ジムコマンドなど、全く統一性の無い機体が並んでいる。

ドライセンのモノアイが周囲を見渡し、ジムの残骸を見つける。
ドライセンのパイロットは舌打ちしながらアームを動かし、近寄ってきた残骸を叩いた。
慣性に従い、ジムの残骸はムサイの残骸にぶつかって跳ねた。

ここには居ない、そう感じたパイロットはモノアイの発光信号で仲間に伝えようと振り返り……。

ピーーッ‼︎

画面に映った所属不明機のマーカーを見つけた。

そこにあったのはザクⅠの残骸。
デブリ群には未だサブジェネレータの生きている物もある。
なんら不思議では無い。

だが……。

ピーーッ‼︎
ピーーッ‼︎ ピーーッ‼︎
ピーーッ‼︎ピーーッ‼︎ピーーッ‼︎

ビービービービーッ‼︎

周囲にある残骸が一斉に息を吹き返し、ヘルメットに内蔵されたインカムが大音量で騒ぎ出した。

「ッ‼︎」

1年戦争の亡霊に目をつけられたのか、3機を取り囲むデブリ群から一斉にロックオンされる。
ジムコマンドのパイロットが恐怖に駆られてマシンガンを周囲に撒き散らす。
放たれた弾丸がデブリ群に当たり、幾つかは爆発する。

ドライセンのパイロットは見た。

その爆煙の中から飛来する砲弾があるのを。

ドライセンのコックピットに配された全天周囲モニターが暗闇に包まれる。
ドライセンのメインカメラが破壊されたのだと気付いた頃、激しい衝撃に見舞われ、コックピットを炎が包んだ。


◉◉◉


《て、敵機…全機撃破ッ‼︎》
「いい腕だ。
な? 〝モビルポッド〟も使いようによっちゃまだまだいけるだろ?」
《心臓に悪過ぎる……》

ヘルメット内に響く同期生の言葉にふっ、と笑みを零す。

俺たちがやったのは至って単純な作戦だ。

デブリ群の中をノーマルスーツとモビルポッド、〝ボール〟で移動し、サブジェネレーターの生きている機体に細工を施して、敢えて敵MSのレーダーにジムⅡの欺瞞シグナルを映るように全チャンネルで発信。
敵MSが寄ってきた所で残骸に仕掛けた細工を起動させて動揺を煽り、デブリ群の中に潜んだボールの180mmキャノン砲を超至近距離から……グワラディアにあった2機と放棄されたサラミス級で見つけた2機、計4機による同時連続発射で、頭部とコックピットを破壊して無力化するという物だ。


「ドライセンの重装甲を貫通出来るか不安だったが、至近距離でなら180mmでも楽勝だったな」
《ジムコマンドが乱射した時は流石に肝を冷やしたよ……それに無傷のボールが見つからなかったらどうなってたか……》
「だが、さっき片付けた連中と合わせて計8機。
ムサイに搭載できる機体数からして、もう流石に残っちゃいないさ。
取り敢えずグワラディアを移動させよう。
これで相手の戦力はムサイ2隻のみ。
MSの居る俺等が有利だ」
《OK……これが終わったら後は好きにしてくれ……。
もう戦闘は懲り懲りだ》
「しっかりしろよ士官候補生。
もうすぐ任官だろうが」
《勘弁してくれ……》


《御勤め御苦労さん》


ラリーの声がヘルメットに響いた。
救援に来たつもりなのか、僚機のジムⅡとグワラディアも一緒だ。

《ほらよ、お前の機体だ、受け取れ》

ラリーが乗ってきたジムⅡのコックピットから這い出てきた。

「……ったく、余計なことしやがって……ま、悪くないな」

最早旧式となったジムⅡ。
その肩には、鮮やかな緋と白で描かれた旭日が翻っていた。


◉◉◉


粗方の昔話を話し終えた俺は、語り手の席をラリーに丸投げし、武蔵と共にカタパルトに出ていた。

半月の登る満天の星空を2人で見上げながら、夜風に当たった。
平和な夜だ。

「…なぁ武蔵」
「なんだ」
「……あの時こうだったら、とか考えた事あるか?」

きょとんとした顔で武蔵が俺を見る。
暫くした後、武蔵は静かに空を見上げ直した。

「…何度もある。
何度も思い返し、何度も嘆いた。
でも後悔は無い」
「そっか」
「ああ、そうだ」

2人を沈黙が包んだ。

「俺は……後悔、ばかりだ。
俺の采配で死んだ仲間の顔を、いつも不意に思い出すんだ。
あの時撤退していれば、あの時部隊を動かしておけば……あの時、俺が…もう少し早く……着いていれば……」

艦隊司令をやっていれば、嫌でも通らねばならない道だ。
同じ釜の飯を食い、同じ空気を吸い、同じ時間を過ごした仲間なら尚更だ。

「……なぁ司令官よ」

ふわりと、頭を抱き寄せられる。
武蔵は静かに俺の頭を撫でた。

「艦隊を指揮するとはそういうものだ。
それに、お前がそうやって思い出してやれるなら、死んで行った者達も本望だっただろうさ。
我々の死とは、命が尽きた時ではない。
人知れず忘れ去られた時だ」
「……そう…なのか、な」
「お前は純粋だ。
良い悪いは別にしても、私は好きだぞ」
「……ありがとう」

半月の夜闇の中、俺は武蔵の体温を身体で感じ続けた。

女性嫌いだったのを思い出したのは、それから1時間後だった。 
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