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木場祐斗がもし聖剣計画を達成できていたら

作者:PS
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 『聖剣』。
 文字道り聖なる剣だ。刀身に聖なる力を宿し魔を払い、消滅させる。故に魔がには強く下級ならば触れただけで大怪我を負い、一センチでも傷付けられれば消滅するほど強力な力だ。それも結局〈格〉によるのだが。

 一国を滅ぼせる核ミサイルがあったとしても、地球と同程度の隕石を破壊できないように下級の聖剣では魔王を斃すことはできない。どれだけ聖剣を使う者の技量が高くても攻撃自体が通じないのでは下級の聖剣で魔王を斃すことは出来ない。

 逆もまた然り。
 地球と同程度の隕石を破壊できる核ミサイルがあっとして、それが隕石に当たらなければ壊せないように、最上級の聖剣があっても下級の悪魔を斃せないことがある。だが武器の強さは使用者自体の能力関係なく強さに直結するので、武器が強いことに越したことは無い。

 そんな人間の味方である『聖剣』を扱うには因子が必要になる。この『聖剣』を扱える因子と『聖剣』本体があって初めて〈聖剣使い〉となれるのだ。

 〈聖剣使い〉は人類が持つ剣の切っ先。悪魔や堕天使、謂わば人間に敵対的もしくは考慮しない人外達に人間が殺されないよう守るのが仕事だ。だが人外なんていうバケモノに対抗するには一般的な人間が持つ正常の道徳と論理感の中で行動していては駄目だった。
 そして人類は男を切っ掛けに道を踏み外す。

 男の名は、バルパー・ガリレイ。

 大司教とまで呼ばれた男で、人間でありながらもっとも人間の命を奪った存在だ。
 狂気の一年。そう呼ばれる暗黒の一年があった。それは人間種が人外に対抗する為にあらゆる犠牲を許容しその屍を踏み越えて進化した一年であった。

 論理感、理性、道徳、そういうものが全て吹き飛び、強く、強く、強くなる為に人類はさまざまな事に手を出した。

 過去の偉人が禁術と指定した術を使い始めた。
 科学的に人外を越える為に人体実験を始めた。
 異能的に人外を越える為に人体実験をした。
 神が残した〈神器〉を解析する為に人体実験をした。
 〈神器〉を強化する為に実験した。
 〈神器〉を量産化するために実験をした。
 悪魔を捕まえて実験をした。
 天使を捕まえて実験をした。
 堕天使を捕まえて実験をした。
 人外に対抗する為の装備を纏い様々な勢力から武器や情報を強奪した。

 どれだけ死のうが構わない。誰が死のうが構わない。人類発展の礎となるのならば俺の/僕の/私の/自分の/妻の/夫の/息子の/娘の/父親の/母親の/祖母の/祖父の/命を捧げよう。
 我が命は今を生きるすべての人類に捧げよう。

 ――――人類に栄光あれ。
 ――――人類こそが霊長の最高種と知れ。
 ――――人類こそが全てを司る強者なり。
 ――――人類に刃を向ける存在(もの)は滅するべし。

 それは歪であったがあらゆる壁を越えて団結し狂信し推進する人類と言う名の一個の生物となった瞬間だった。
 始まりは些細なものだった。少なくとも、人類全体にとっては些細だった。
 ある者には英雄とも讃えられ、ある者には類稀なる人格破綻者と称されるバルパー・ガリレイ。

 彼は、聖剣に魅せられていた。子供の頃に読んだ聖剣の物語を忘れられず、なんども読み返す。お伽噺だとは思っても、想わずにはいられないほど魅せられた。
 聖剣の為ならどんな事でもする、そんな男だ。そんな男が、この現実に聖剣が存在するとしたら、彼がどういう反応を取るか誰でも理解できるだろう。

 ――――聖剣をこの手に。
 ――――至高の聖剣を、この手に。

 そして狂気的とも思える聖剣に執着し、再現し創造しようと行動した。

 ――――誰が死のうとも構わない。
 ――――聖剣を、この手に至高の聖剣を。
 ――――あのお伽噺を現実のものとして再現しよう。
 ――――いや、再現では生温い、この私が聖剣の物語に新たなページを加えてやろう。

 他者を顧みず己の欲望に取り付かれ万進した。だがそれは他の者には、人間を襲う人外(わるもの)を退治しようと頑張る男として見えた。そして、男の狂気は熱狂へと移り変わり人類を覆った。たった一人の大司教が動いたことにより、段々と教会そのものが人外排斥組織へと転じていった。

 それから一年が経ち、数々の非道な行為を続けた組織は潰れた。まだ何個は残っているだろうが、それでも一番大きな支部は潰れて熱狂も冷めた。再び世界に秩序が戻り、実験をするにしても一線を越えないようちゃんと法律も作られた。

 そして人類は、悪魔、堕天使、天使とも対等に戦えるだけの力をつけた。たった一年で、数十万年生きてきた種族と対等に戦えるだけの力を付けたのだ。地力で劣っているにも関わらず。
 それだけで人類がどんな方法に手を出したか、分かるだろう。そして人間の世界に秩序と法は訪れたが、まだ聖剣に心奪われた男(バルパー・ガリレイ)は捕まっていない。
 まだ彼は――――。



「――――生きている。聖剣を求めている。数少ない仲間と共に、聖剣の物語を紡いでいる」

 パタンと絵本を閉じて、僕は視線をベットでゴロゴロしている女性に向ける。

「これが人間がここまで発展した理由を纏めた本なんだけど、人外としてみて黒歌(くろか)はどう思う?」
「一言でいうと怖い、かな。どこにでも狂信的なヤツはいるけどそれでも随分と限定的だからにゃー、一時的にとはいえ自分も含めた種全体を捧げようとするのはやっぱり珍しいにゃん」

 黒歌。
 SS級のはぐれ悪魔。黒漆しの髪に黒い着物。男を魅了するであろう魅力的な体。ベットでごろんと寝っ転がっている。着物がはだけて、白い肌を晒している。たぶん彼女も意図してやっているのだろうから、注意しても「わざとにゃん」とか言いそうだ。
 誘っているのだろうか? 少し悶々としながらシャワーを浴びて濡れた体を拭いていると携帯電話が鳴った。でると最近ここに配属された戦乙女の女性の声だった。

『おはようございます。裕斗さん起きてますか?』
『おはようございます、ロスヴァイセさん。ええ起きてましたよ、なにかご用ですか?』
『えっと、上からの通達で駒王學園というところに移動になるだとか』
『へぇ、人員は僕だけですか?』
『いえ、裕斗さんと黒歌さん、そして私です』

 
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