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カイン=パンジャン

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第一章

                  カイン=パンジャン
 ジャワ島のスラバヤはインドネシア最大の軍港である、だが華僑やアラビア系の人も多く国際色豊かでありかなり賑わっている。
 最近ではインドネシア全体がそうだが観光でも人が来ている。それでホテルも何かと営業に力を入れている。
 それはこのガルーダホテルも同じでだ、オーナーのトミン=スンダリは部下達を前にしてこう言った。尚スンダリは父の名でインドネシア人は父の名前を苗字にする人が多いが彼もそうなっている。中背でがっしりとした身体をしている。黒髪を短く刈っていて四角い顔に太い眉、彫のある顔で肌は浅黒い。
「制服を変えてお客さんにアピールするか」
「サービスや内装も充実させてますが」
「それに加えてですか」
「そうしよう、この街にも観光客が増えた」
「その観光客をこちらも手に入れる」
「そしてリピーターになってもらう」
「だからですね」
 部下達も彼に応える。
「制服を変える」
「そうするんですね」
「幸いうちは冷房もいい」
 内装を全面改装した時に充実させたのだ、インドネシアの経済成長がそうした方面の充実を可能にさせてくれた。
 そしてその経済成長がスラバヤを発展させ観光客も呼び込んでいる、それでスンダリも言ったのである。
「多少の服でもだ」
「暑くない」
「だからですね」
「制服もですか」
「変えますか」
「まず男性従業員の服だが」
 スンダリはまずは男のそれから話した。
「歌劇場みたいにするか」
「歌劇場ですか」
「そんな感じにしますか」
「そうだな、ウィーンでいくか」
 かなり真剣にだ、スンダリは部下達に案を出した。
「正式にデザイナーの人に頼んでな」
「ウィーン国立歌劇場のスタッフみたいな制服ですか」
「ああした制服にしますか」
「ああ、ネットの画像で観たが」
 そのウィーン国立歌劇場のスタッフの制服をだ。
「やっぱりいい、だからな」
「男性従業員の制服はですか」
「ウィーンでいきますか」
「そうだ、まあ細かいことは会議をしてな」
 そしてというのだ。
「決めよう、そしてな」
「女性従業員の制服もですね」
「それもですね」
「チェンジしますか」
「そちらも」
「そうだ、今は黒がメインの女性兵士の軍服みたいだが」
 膝までのスカートで露出の少ないだ。
「それをだ」
「チェンジですね」
「別のデザインに」
「そちらも」
「そうだ、そのことも会議で話していこう」
 そうしてだった、スンダリはホテルの重役達を集めて制服のチェンジについて話をした。その結果まずは男性従業員の制服が決まった。
「ではデザイナーの方はこの方にして」
「そしてですね」
「おおよそのデザインはオーナーのご提案通りに」
「ウィーン国立歌劇場でいきますか」
「うん、そうしよう」
 スンダリは会議室、絨毯は赤く見事だが内装自体はわりかし簡素に整っているその部屋の自分の席で満足した顔で頷いた。
「ここはね」
「はい、では」
「歌劇場の感じで格好よくですね」
「そして品性もある感じで」
「そうしますか」
「そうしよう、まああの歌劇場はね」
 ここでだ、スンダリは少し苦笑いになってこうも言った。
「色々な噂があるけれど」
「みたいですね、クラシックの錚々たる顔触れが芸術監督に就任していって」
「そして後味の悪い辞任をして出て行っていますね」
「中には散歩中に急死した人もいます」
 実際にいる、ウィーン国立歌劇場の芸術監督の中には。 
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