| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

日向の兎

作者:アルビス
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

2部
  村人

村長に言われて近くの街まで出て、こうして依頼内容を書いた看板を掲げている。理由としてはごく単純だ。二年ほど前から活動していると言われる、とある警備会社への依頼の為だ。
その会社は俺の村のように、忍を雇えないような貧しい奴らからの依頼を率先的に引き受けるらしい。その報酬として、僅かばかりの賃金と警備会社の親会社であるラビットカンパニーの支店の出店許可を求めるのだ。俺たちが払うその報酬も、俺たちにとってメリットがある。ラビットカンパニーの支店が立つと言うことはわざわざ遠い街まで農作物を運ぶ必要もなく、採れたものを直ぐに売りに出すことができる。街まで運んでいる最中に作物の質が落ち、値切られるという事が実質なくなるということだ。
ただし、忍の里へ一度は任務の依頼を行い、それが承諾されなかった場合のみ依頼を受けるという条件付きだがな。
今現在、山賊に頭を悩ませている俺たちの村は一度は里に依頼したのだが、任務の途中で山賊の頭が忍者と分かると同時に、違約金として依頼の為に支払った金は取られた。そして、再契約の為の料金を要求されたが、俺たちの村にそれを支払うだけの金はなく、そこで任務は打ち切られたのだ。
そもそも、村を襲っていたのは通常の山賊で山賊の頭の姿を見たことすらない俺たちにとって、違約金の話は寝耳に水だった。だから、違約金を取られた俺たちは途方に暮れるしかなかった。
そんな時に村にその警備会社の広報を名乗る黒いスーツ姿の女が現れ、会社の概要説明と依頼方法を書いたビラを配っていったのだった。その内容に胡散臭さを感じながらも、背に腹は変えられないという事で、こうして街で依頼内容を書いた看板を掲げるという謎の依頼方法をしている。
こんな方法では一体どれ程の時間、俺はここに突っ立ていなければならないのか甚だ疑問だが、俺がそれについて考えると同時に後ろから声をかけられた。
「ご依頼ですか?」
俺は驚いて振り返ると、そこには黒縁の眼鏡をかけた、白スーツの女が立っていた。女の顔立ちはどこか幼さを感じさせるものではあり、雪のような白い髪も相まってどこか浮世離れした印象を受けた。
「あんたが警備会社の?」
「はい、何かご不満が?」
彼女はクスリと笑いながら、眼鏡越しに青い瞳をこちらに向けた。
「あ、いや……」
俺が慌てて無礼を詫びようとした瞬間、彼女は俺の口に指先を当てて言葉を遮った。
「我々はこれでもそれなりのプロ意識は備えています、そして我が社のモットーは信頼は実力で勝ち取るもの。ですので、言葉で言い繕うつもりはありませんよ」
彼女は子供のような屈託のない笑みを浮かべつつ、指を離して俺に対して最初と同じように同じ事を聞いた。
「ご依頼でよろしいのですね?」
「ああ、そうだ。だが、あんた、どうやって俺を見つけたんだ?」
「そうですね、文字通り見つけたからとしか言えませんね」
「冗談はよしてくれ。ずっとこの場所にいたってのか?流石に冗談としては面白くないぞ」
「そうですね〜冗談ですよ〜」
彼女は少し拗ねたようにそう言うと、俺に対してくるりと背を翻し、俺たちの村の方へ足を進めた。一瞬、依頼を拒否されたのかと内心焦りもしたが、どうやらそういう訳ではなく、単純に俺たちの村の方へ行こうとしただけのようだ。
その時、俺は一つ聞き忘れていた事がある事を思い出した。
「あんた、名前は?まだ聞いてなかった筈だよな」
「あーあまり仕事上、名乗りたくはないのですけど。この仕事、忍の里から色々と睨まれていますからね」
「だが、世話になる相手の名前くらい知っておきたいだろ?」
彼女はしばらく考え込むように額に手を当ててから、再び俺の方を向いて懐から取り出した一枚の紙を手渡してきた。それは銀色の兎がデザインされた上品な名刺だった。
「ラビットカンパニー新規事業部門 部長 大筒木 ヒジリ……これがあんたの名前か?」
「ええ、部長と言っても人の殆どいない部門の、ですがね。警備会社というのもあくまで試験運用段階の企画で、発案者の私がこなす羽目になったということです。私としてはオフィスでの書類整理でのしておきたかったんですけどね」
彼女は少しおどけた様子でそう言うと、再び村の方へと足を向けた。既に下調べを終えていたのか、その歩みには一切の迷いがなかった。




「本日は我が社にご依頼頂き、誠にありがとうございます」
ヒジリは村長の家へ着くと、集まっていた村の面々に深々と頭を下げた。村の 面々はヒジリの姿を見て落胆を隠せないというような表情を浮かべたが、彼女はそれを気にする風もなく、笑みを崩さぬままにアタッシュケースから必要な書類などを提示し始めた。
「まず、契約内容の確認ですが、山賊の撃滅で相違ありませんね?」
「ああ……それなんだが、あんたが戦うのか?」
「ええ、なにかご不満が?」
「失礼だが、あんたが戦えるような人間にはとてもじゃないが見えない。何か証拠を見せてくれ」
確かにそれに関しては俺も同感だ。確かに彼女の雰囲気は不思議な物があるが、それでも彼女の姿はどこからどう見て成人前のそれだ。
とてもではないが、荒くれ者の集まりである山賊をどうにかできるようには見えない。スーツ越しではあるが、彼女の体型などはモデルや女優と言われた方がしっくりくるような物に思える。引き締まってはいるが、戦ったりするような体ではない。
だが、俺たちのそんな考えをよそに、彼女はしばらく考える素振りを見せた。そして、何か考えが浮かんだのか一つ頷いて、俺たちを見回した。
「証拠ですか……分かりました」
彼女はアタッシュケースから一枚の紙を取り出した。大きさとしてはA4くらいの紙で、その内容は宣伝用の物のようだがそれはさして重要ではなかった。彼女はそれを全員に見せると、突然クシャクシャに丸めてその手で握りしめた。すると、彼女の手の中からミシミシと異常な音が聞こえてきた。とてもじゃないが、あの音は紙から発せられるような音ではない。
そして、彼女は再び手を開けてから立ち上がり、飴玉くらいのサイズにまで丸まった紙を村長に渡してこう言った。
「それ、開けますか?」
彼女は少し意地の悪そうな笑みを浮かべると、再び座り直し書類の作成に取り掛かり始めた。その間、村長や村の面々は紙を開こうとしたが、僅かばかりも開くことは出来なかった。
全員が挑戦し終えた頃になって彼女はペンを置き、にっこりと笑みを浮かべて先程と同じ言葉を繰り返した。
「なにかご不満が?」
村長達は渋々といった表情で彼女から差し出された契約書にサインしながら、観念したようにこう言った。
「……あんた方に依頼しよう」
自分達の娘、もしくは孫のような年齢の小娘に頭を下げねばならんのだ、ああいう表情になるのは分からなくはない。
とはいえ、単純な腕力の証明でしかないが、彼女の力は俺たちよりも上だという事が分かった。そして、彼女の態度から察するに、まだまだ力を隠し持っているのだろう。
「ありがとうございます、それでは依頼の完了を確認後、支店出店の許可と支払いをお願いしますね?」
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧