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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 05 「個別指導開始」

 機動六課設立後初めての出動はこれといった問題なく無事に終了した。後見人であるカリムやクロノからの評価も悪くはないらしいので上々の滑り出しだと言えるだろう。
 ただ……俺の中にはある不安がある。
 リニアレールの一件では、これまでのガシェットだけでなく大型のガシェットが出てきた。AMFの発生範囲や強度を考えると、新型と呼ぶにふさわしい性能を持っていると言える。高性能なものを作るにはそれ相応のコストが必要だ。
 しかし、敵は本当にあれだけの戦力しか出せなかったのだろうか。
 カプセルタイプのガシェットⅠ型、飛行機タイプのガシェットⅡ型は数十体投入されていた。それに対して、Ⅰ・Ⅱ型と比べて巨大なガシェットⅢ型は1体のみ。個別の戦闘力を考えればおかしくないようにも思えるが、敵の勢力は未知数だ。まだ戦力を投入できたとしても何らおかしくはない。
 もし増援を送れたのにしなかったのだとすれば……敵はレリックよりも何かを優先したことになる。それは何なのか……敵からすればレリック集めの邪魔になっているのは俺達機動六課だろう。なら必然的に前線メンバーのデータを集めようとするはず。

「……いや」

 今は考えるのはやめておこう。
 敵の全貌が見えていない以上、考えても答えが出るとは思えない。それに前回のデータが今度の戦闘で役に立つのは一部だけだろう。隊長陣はリミッターを掛けているため、全力のデータが取れているはずはないし、フォワード達も日々成長している。
 今日もポジション別に訓練を行っている。スバルが担当しているポジション《フロントアタッカー》は単身で敵陣に切り込んだり、最前線で防衛ラインを守るのが仕事である。そのため攻撃時間を増加させるのとサポートの必要性を減らすため、防御能力と生存スキルが重要になってくる。それを今頃、ヴィータに熱心に教えられていることだろう。
 ティアナがなのはに教わっている《センターガード》は、チームの中央で誰よりも早く中・長距離戦を制する役目を担っている。あらゆる相手に正確な弾丸を選んで命中させる判断速度と命中精度が必要だ。その為に迎撃の際は、敵の攻撃を避けたり受けたり動いたりせずに、足は止めて視野を広く持つ事が求められる。また、他のポジションへの指示を含む前線での戦術レベルの指揮能力も求められるので大変なポジションだ。
 エリオとキャロはそれぞれ《ガードウイング》と《フルバック》というポジションで、役割も違ってくるのだが、どちらも素早さが求められるポジションだけに一緒に訓練を行うことになっている。一応訓練は俺が見ることになっているが、今日はフェイトが訓練の手伝いに来てくれているので彼女に任せている。

「エリオやキャロはスバルやヴィータみたいに頑丈じゃないから、まずは反応や回避が最重要。例えば……」

 訓練用に設置しておいた攻撃用のスフィアが発光する。攻撃を準備している合図だ。
 スフィアの放った射撃は低速で直線的。機動六課内でも最速の移動速度を持つフェイトが当たるはずもなく、軽やかなステップで回避する。まあここで当たっては手本にならないのだが。

「こんな風に……まずは動いて狙わせない」

 動き回るフェイトをスフィアが追いかけるが、設定が低くしているため動きは遅い。これでは説明が進まないため、彼女は障害物の前でわざと止まってスフィアに標準を定めさせる。

「攻撃が当たる位置に長居しない」

 そう言ってフェイトは、攻撃をギリギリまで引き付けてから簡単に回避して見せた。動きを分かりやすく見せるために回避を遅らせたのだろうが、射撃の弾速次第では今のようなことはできない。だが誘導性がある場合は早めに動くのが悪手になることもあるため、見切りのタイミングが重要になる。

「これを低速で確実にできるようになったら……少しずつスピードを上げていく」

 フェイトの言葉に連動してスフィアの射撃精度や弾速が上がっていく。だが危なげない動きで彼女は回避を続ける……が、スフィアの囲まれてしまった。スフィアはタイミングを合わせ集中砲火を仕掛ける。無数の射撃が着弾し土煙が舞い上がった。

「「あっ……!?」」

 エリオとキャロはほぼ同時に声を上げた。フェイトの身を心配したのだろう。
 ふたりはフェイトの動きを追えていなかったようだが、着弾する寸前に高速移動魔法を発動させて動き出すのが見えた。ふたりの背後に移動するのは性質が悪いとも言えるが。

「こんな感じにね」
「え?」
「……あっ」

 背後に立っていたフェイトに気が付いたふたりは、先ほどまで彼女が立っていた場所に視線を戻す。土煙が晴れると、えぐられた地面が姿を現した。
 それは射撃の着弾視点からフェイトの立っている場所までU字のように出来上がっている。これもエリオ達に動きの軌道を見せるためにわざと作ったのだろう。

「す……すご」
「今のもゆっくりやれば誰でも出来るような基礎アクションを早回しにしてるだけなんだよ。スピードが上がれば上がるほど、勘やセンスに頼って動くのは危ないの」

 言っていることは最もであるが、フェイトほどの速度で動ける人間はそういない。今のエリオやキャロからすれば、現実味をあまり感じられない言葉だろう。だからといって信じないような真似はしないだろうが。フェイトとの間には確かな絆が結ばれているのだから。

「ガードウイングのエリオはどの位置からでも攻撃やサポートが出来るように。フルバックのキャロは、素早く動いて仲間の支援をしてあげられるように。確実で有効な回避アクションの基礎をしっかりと覚えていこう」

 微笑みかけるフェイトにエリオ達は元気に返事をする。じゃあさっそく訓練を始めてみよう、という流れになり、エリオ達はスフィアと障害物が待つフィールドに足を踏み入れた。必然的にフェイトは見守る立場になるため、先ほどからはたから見ていた俺の近くに歩み寄ってきた。

「ごめんね、本当はショウが指導するはずなのに」
「別に謝ることじゃないだろ。フェイトはふたりの隊長なんだし、俺は楽ができるんだから」
「あはは……私が隊長って部分だけで良かったんじゃないかな」

 苦笑いしながらのツッコミはあえて聞き流す。ここで反応するのはフェイトも困るだろうし、エリオ達にもきちんと意識を向けておかなければならないからだ。会話に熱中するわけにはいかない。

「……ふたりとも強くなれるかな」
「すでになってるさ。なのはの厳しい訓練にも付いて行っているし、キャロに至っては竜を使役できるようになっただろ。元々高い素質を持ってる奴らなんだ。日に日に強くなっていくだろうさ」

 無理や無茶な訓練はしていないし、やけになっている素振りもない。あの子達は言われたことを信じて熱心に訓練に打ち込んでいる。スバルも同じだろう。ただ……ティアナは心配だ。
 ランスターという名前にはひとつ心当たりがある。
 今からおよそ6年前、首都航空隊に在籍していたティーダ・ランスターという人物が任務中に亡くなっている。ティアナのプロフィールを見せてもらったが、彼の妹で間違いないだろう。
 悲しい過去であると思うし、ティアナの魔導師としての道に多大な影響を与えているはずだ。だがそれ以上に今の環境が問題になりそうではある。
 日頃行っている訓練やティアナの個別指導は、おそらく自身の成長を感じにくいものだろう。スバルならばどれほど耐えられるようになったか、エリオ達ならどれほど速い攻撃を避けられるようになったかが見える形で分かるのだから。
 加えて、ティアナを基準にフォワードメンバーを比較した場合、スバルは体力や魔力面で優れている。エリオには電気の魔力変換資質があるし、キャロには竜を操る力がある。このふたりは年齢が年齢だけにこれから伸びていく量も予想がしにくい。
 人が自分よりも才能がある者に出くわしたときに抱く感情は憧れといったプラスのものもあれば、妬みや劣等感といったマイナスのものもある。オーバーSランクとして知られている人物が隊長をしていることもあって、彼女は自分には才能がないと思っていたりしないだろうか。
 もしも思っているとすれば……かつての俺のように無茶な真似をしかねない。
 フォワード達を見る時間が長いのは俺となのはだ。なのはも全員きちんと見るようにはしているだろうが、訓練内容を考えたり、隊長としての責務がある。なら……

「ショウ、どうかした?」
「ん? あぁいや、何でもない。ただ……こいつらのことをちゃんと見ててやろうって思っただけさ」
「え? ……ショウは充分に見てると思うけど。エリオには……兄さんって呼ばれてるし」

 フェイト……それは俺が自分から呼べって言い出したことじゃないし、羨ましそうな目でこっちを見ないでくれ。というか

「あのなフェイト……呼んでほしい言葉があるなら言ったらどうだ?」
「そ、そんなの言えるわけないよ……変な人だとか思われちゃうかもしれないし」

 頬を赤らめて指をもじもじさせる姿は普段の凛としたギャップもあって可愛らしくもあるのだが、一体この人物はエリオ達に何と呼ばせようと思っているのだろうか。変な人だと思われる言葉なんてそうないと思うのだが。
 保護者的な立場としてはお母さんとでも呼んでほしいのかもしれないが、エリオ達とは一回りほどしか年齢は変わらない。エリオ達からすればフェイトはお母さんというよりはお姉さんだろう。

「それにそういうのって……自分から言うのもあれだろうし」

 いやいや、お前の義姉であるエイミィは昔俺にお姉さんと呼んでほしい的な発言をしていたぞ。
 あれこれ考えすぎて何も言えないのは良くない。だからはっきりと言ってしまえ、とも思いはするのだが……フェイトは過保護な面がある。
 エリオやキャロは境遇的にフェイトを邪険に扱ったりしないだろうが、感性が同年代よりも大人びているだけに、構われれば構われるほど早く自立しなければと思うのではないだろうか。それが『フェイトさん』という呼び名に繋がっているような気も……。

「なら今のままでもしょうがないな」
「う……そういうこと言わなくてもいいのに」
「はぁ……こっちはこっちで世話が焼けるな」

 
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