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少年少女の戦極時代・アフター

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After21 鳥なき星のコウモリ ①


 龍玄たちが花咲く大樹のクラックに飛び込むなり、クラックは閉じた。ロード・デュークに追わせないために戒斗が閉じたのだと察せられた。

 足を着けるべき地面の感触がないのに、自分たちは落ちることも登ることもしていない。次元の狭間というフレーズ自体はよく聞くが、無重力空間だと知ったのは初めてだ。


『戒斗くん……っ』
『――咲ちゃん。今はあの人を信じて進もう』

 龍玄が後ろから月花の肩に手を置くと、月花はふり返らないで肯いた。

『舞さん。僕たち、どっちへ進めばいいですか?』
「紘汰かあたしの本体のいるほうへ。気配を辿っていく。案内するから付いて来て」

 碧沙の顔で舞として話す光景にももう慣れた。龍玄と月花は肯き返した。

 舞を真ん中に、左右に龍玄と月花が手を繋ぎ、彼らは舞に手を引かれるまま漂い進んだ。
 憧れの舞と手を繋いでいることも、この状況ではプレッシャーによる動悸にしか繋がらなかった。


 ふいに舞が止まった。

「――何かいる」

 龍玄、それに月花が、舞を後ろにしてブドウ龍砲とDFバトンを構えた。

 暗い中、パルプアイを限界まで駆使し、龍玄はそれが逆さまにぶら下がったコウモリだと分かった。

『インベス――』
『見張りかな?』
『多分ね。ということは、この先には確実に紘汰さんと舞さんの本体がいる』

 ぎょろり、とコウモリインベスが目を剥いた。

『今お前、俺のことインベスって言ったか?』

 言葉を発したのはコウモリインベスのほうだった。
 今までの敵がオーバーマインドだったことを鑑みれば、ここに配置されるのもオーバーマインドで然るべきだ。

 ――思い出す。カラスインベスを討った時の、胸に込み上げた苦渋。

『そんな化物の名前で呼ぶんじゃねえ! 俺には(かわ)(もり)琢磨っていう立派な名前があるんだ!!』

 わん、と音が衝撃波となって龍玄たちを襲ったように感じた。

「きゃっ」
『づ……っ』
『耳が~っ』

 龍玄も月花も舞も揃って両耳を塞いだ。

(コウモリといえば超音波だけど、このオーバーマインドは怪音波を出す能力があるのか)

『インベスじゃんどう見ても!』
『じゃあ何でお前らは人間で、俺だけこんなバケモノになんだよ! 答えてみろよ!』
『そ、れは』

 コウモリインベスが人間の、河守の姿に戻った。

「家にあった食い物は全部食った。火事場泥棒みたいにコンビニや外食屋から食い物を取って食ったりもした。それでも結局は段々、段々食糧が尽きてって……飢え死にするくらいならってヘルヘイムの果物食った俺の何が悪い!? 死にたくないって思って道端になってる木の実食べるのが、地球に帰れなくなるくらい悪いことなのか!? 帰せ。帰せよ! 俺を地球に帰せよぉ!」

 ――カラスインベスだったクラスメートは言った。どう名乗っても自分たちはしょせんインベス。ヘルヘイムの果実を摂取しなければ餓死する。

『帰ったって、あなたはもう地球で生きていける体じゃない』

 オーバーマインドの食糧確保を許すということは、地球に再びヘルヘイムの侵略を許すことを意味する。
 そうさせないために、紘汰と舞は地球からヘルヘイムにまつわるモノを連れてこの星に来たのだ。

『これ以上の地球へのオーバーマインドの侵入は、僕たちアーマードライダーが許さない』
「……助かった奴はいいよなあ。自分だって同じ穴のムジナだってのに、たまたま運がよかっただけで人間面できるんだからさあ」

 河守はコウモリインベスへと変異した。

『取引したんだよ。ロードと。ここでお前らを始末したら、次に地球に行く便には俺を乗せてくれるってな。俺は地球に帰るんだ。帰るんだ!』

 龍玄は自分に言い聞かせた。

 ――今までのインベス退治と同じだ。インベスが人間と分かった後も、自分は躊躇なくインベスを屠ってきた。できないはずがない。

『――ここは僕が引き受ける。二人は先に行ってください』

 能動的に空を飛べるヒマワリアームズならば、舞、ひいては碧沙に何かあっても、守れる可能性は龍玄より高い。
 早く舞を本当の体に戻してやりたい気持ちと、妹の体を案じる気持ちを合わせて、龍玄は舞と月花を先に行かせるという選択をした。

 カッティングブレードを1回切り落とす。

《 ブドウスカッシュ 》

 龍玄はコウモリインベスに銃口を定め、トリガーを引いた。
 着弾したエネルギーショットにコウモリインベスが身悶える。

『今の内に!』

 舞は不安いっぱいに龍玄を見つめていたが、やがて月花の手を取ってコウモリインベスを追い越して行った。

『逃がすかよ!』
『行かせない!』

 龍玄はコウモリインベスの進行方向に飛び出し、再びブドウ龍砲を撃った。

『ぐっぞぉ……てめえには良心ってもんがねえのか! 同じ地球人だぞ!?』
『可哀想だとは思う。けど、それとこれとは別問題だ』

 怒りに火が点いたのか、コウモリインベスが飛び上がった。

 コウモリインベスは右へ左へ自在に飛び、鉤爪で龍玄を裂いた。その動きに追いつけるほど龍玄はまだ無重力空間に慣れていなかった。

『このっ!!』

 視界にちら、とでもコウモリインベスが入れば銃を撃つが、全く当たらない。
 翻弄されている。

 もう何撃目か。コウモリインベスが龍玄に迫る。
 しかし、鉤爪が龍玄を抉ることはなかった。

 目の前に不可視の壁でもあるように、コウモリインベスはそれにぶつかり、龍玄から距離を取った。

(バリア? まさか!)

 ふり向けばそこには、妹の体で異能を使った舞がいた。 
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