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美しき異形達

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第四十九話 一時の別れその七

「この強烈な野薔薇の匂いじゃ」
「わからないわね」
「全部アウトか」
「そうよ、勿論触覚もね」
「あんたが近寄らない限りはな」
「この花びら達が防いでくれるわ」
 肌から感じる感覚、外のそれを察しようにもだった。
「そちらもね」
「そうだな、けれどな」
「けれど?」
「これでお手上げって訳でもないからな」
 薊はこと戦いにおいては諦めるということがない、そのことがここでも発揮されるのだった。それでだった。
 今は何処にいるのか怪人に対してだ、こうはっきりと言った。
「見えなくても聞こえなくてもな」
「匂わなくとも触れなくともというのね」
「ああ、まだあるぜ」
「私がいる場所を探すことが」
「ああ、さあ来いよ」
 怪人がここで薊を襲って来ることはわかっていた、いる場所がわからずともそうして晦ましている相手を攻めることはこの場合常識だからだ。
「その時にわかるぜ」
「挑発かしら」
「挑発?違うな」
 薊は舞い散る花びらの中に紅蓮に燃えている己の身体を置いたまま言った。
「あんたを探してるんだよ」
「そのうえでの言葉だというのね」
「そうさ、じゃあな」
「来いっていうのね」
「そうさ、何時でもな」
「言うわね、けれどその言葉には乗らないわ」
 怪人はその言葉に笑みを入れて答えた。
「私も馬鹿ではないわ」
「だよな、あんたも結構な」
 頭が切れるというのだ。
「だからな」
「そうよ、そう簡単にはね」
「だよな、けれどな」
「けれど?」
「あんたはもうすぐ倒れてるぜ」
 つまり敗れているというのだ。
「あたしの前にな」
「ではそうしてもらおうかしら」
「そうさせてもらうな」
 棒は手に持っている、その中で。
 薊は怪人を探していた、例え察することが出来るものを全て封じられていてもだ。それでもであった。
 薊は諦めていない、そして。
 不意にだ、後ろの方を振り向き。
 その時にだった、両手に構えていた棒を右手に持ち替え。
 それと共に伸ばしてだ、横に振ってだった。
 その後ろの方に叩き付ける、そこにだった。
 怪人がいた、燃え盛る棒が怪人を打ち。
 それでダメージを与え動きを止めてだった、そこから。
 薊は一旦棒を手から離して一気にだった、怪人に向かって突っ込み。
 その腹に渾身の一撃、両手での掌底を浴びせてだった。
 そこから全身に燃え盛る炎をぶつけた、その時にだった。
 怪人の背に符号が出た、薊はその符号を見てにやりと笑った。
「決まったな」
「よく私の居場所がわかったわね」
「直感だよ」
「それを使ったのね」
「生きものは見たり聞いたりだけじゃないだろ」
「ええ、その感覚もあるわね」
「第六感だよ」
 まさにそれだというのだ。
「それで距離を察したんだよ。それにな」
「それに?」
「あんたは頭がいいからな」
 このことからも言う薊だった。
「そこも使ったんだよ」
「私が頭がいいことからも」
「そう、頭のいい奴は慎重に動く」
 薊はまだ立っているが死を間近にしている怪人に話した。 
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