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美しき異形達

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第四十七話 院長の話その十

「どうもね」
「日が差さないのかよ」
「だって山奥にあるのよ」
 奈良県の南のだ、日本でも屈指の山岳地帯と言っていいその場所のだ。
「日なんてね」
「あまりか」
「木が多くて人も少なくて何もなくて」
「裕香ちゃんいつも言うけれどつくづく凄い場所だな」
「何か暗いイメージが強いの」
「場所がそうなんだな」
「そうなの、そのことからもね」
 裕香自身も今は暗い顔になっていた。
「私もうあそこには戻りたくないの」
「そうなんだな」
「同じ奈良県でも北ならいいわ」
「奈良市とかか」
「そっちは開けてるし明るいから」
 それに尽きた、裕香にとっては。
「あそこならいいわ」
「それで夏休みにも実家に戻らないんだな」
「そうなの、前にも言ったけれど」
 それで薊と共に寮で暮らしているのだ。
「もう戻らないわ」
「奈良県の南部ってそこまで凄いんだな」
「そうなの」
「結構賑わってるイメージはあくまで北か」
「北だけよ、南はそんなのだから」
「北と南で人口も違って」
「南部全部合わせても奈良市より人口少ないのよ」
 極端なことであるが事実だ、尚これは広島県もそうらしい。広島県は広島市等沿岸地域に人口が集中しているのだ。観光等の産業も。
「そうした開けてないイメージもあって」
「暗いんだな」
「そうなの」
「ううん、やっぱり場所がな」
「暗いとね」
「孤児院とかそういう問題じゃないな」
「そうよね」
 裕香は自分の村のことからあらためて語った。
「ここは明るい場所なのね」
「皆明るいし雰囲気もさ」
「そういうことなのね」
「そうそう、じゃあ明日はな」 
 薊は話が一段落してから話を変えた。
「横須賀巡りしような」
「海自さんの基地に行くのね」
「あと三笠も行けたら行きたいし」
「横須賀中央駅前も」
「また行こうな」
 あの場所もというのだ。
「あそこ洒落た美味しい店が多いんだよ」
「横須賀らしく」
「そう、まさにさ」
「じゃあ明日は」
「あそこで食おうな」
 こうも言う薊だった。
「あそこは何でもあるしさ」
「どんなお料理も」
「中華もイタリアもな」
「イタリアはね」
 裕香はくすりと笑ってこう返した。
「もうね」
「今な」
「食べてるわね」
「洋食って言うべきだけれどね」
「イタリアにはナポリタンないらしいな」
 実はそうなのだ。
「これあくまで日本だけにあって」
「そうみたいね」
「学校でイタリアから来た娘が言ってたな」
「これイタリアにはないって」
「けれど美味いってな」
「イカ墨はあるって言ってたわね」
 ネーロという、あちらでは。
「そういう風に」
「だったな」
「じゃあ洋食ね」
「そうなるな」
 薊はまた裕香に応えた。 
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