| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第28話

強襲するアルファーをライフルで迎撃する。零式の守りを容易く突破した光の奔流は、アルファーが発した球体の守りに反らされる。同タイプ、いや同じ機体とも言える相手だ。能力も同等以上のものがあるのだろう。だが解せないのは攻撃の『理由』だ。敵対行動をしたわけでも、害になる行為をしたわけでもない。一切の意図が見えないのだ。

『丹下!』
「!織斑先生!」

ヴァンガードのオープンチャンネルに、先生から通信が入った。よし、事態が少し良くなった!

「突然アルファーの攻撃を受け、現在迎撃中、指示を!」
『その制作者の伝言だ。『遊んであげて』、だそうだ』
「無茶苦茶な!篠ノ之博士は!?」
『紅椿の調整後、姿を消した。どこに居るかも分からん、更に作戦で人員も割けん。悪いが、丹下に任せる』
「ならゼロ達の回収を!」
『繰り返すぞ、人員は割けん。通信は以上だ』

アルファーの翼から発射される無数の羽をスフィアで受け止めながら、通信のやり取りをするが、帰ってくるのは無情な結論。ゼロの安全の為に離したのが裏目に出るなんて、完全に予想外だ。先生の言葉も、口調の裏に苦々しさを感じさせるが、それで好転はしない。ならば!

スフィアの中で、ヴァンガードが輝く。再び適した姿となるために。六枚のウイングが、小さくなり両肩の表と裏にくっ付く。更にもう六枚のウイングが成生され、肩の上部に四枚、残りは腰の後ろに尻尾のようにくっ付いた。スラスターは以前の四基、倍以上の出力になったそれに戻る。外見は棘だらけにも見える。

「行け!」

アルファーを指差し、肩のウイングを一気に射出、飛び回る新たなるウイングが、翡翠の光線と刃で、羽を撃ち落とす。邪魔する羽を排除し、盾から剣を抜く。アルファーも羽の発射を止め、柄の無い鋭角な両刃の剣を展開した。

勝負だ、束ヴァンガード!

───────────

二つのヴァンガードがすれ違い、激しく火花を散らせる。鏡写しのような攻防が続き、きっかけを掴めない。攻めて駄目なら!

アルファーを覆うようにスフィアを出す。自らを中心にすれば、守りになるが、相手に使えば檻になる。だが、考えることは向こうも同じようで、まったく同じタイミングで、アルファーの球体に閉じ込められた。

「千日手かよ…。だがっ!」

ライフルで球体に穴を開ける。アルファーも展開した大型の銃器でスフィアを砕く。次は火力対決か。

光の奔流が衝突する。突破したのはアルファーの光、だがこっちも全力ではない。ライフルにセットされたカートリッジを外し、腰のサイドアーマーに付けられたら別のカートリッジと入れ替え、もう一度撃つ。今度はアルファーの光の打ち破り、アルファーを襲う。このライフルはカートリッジのエネルギーを消費して発射する。当然、消費次第で威力も変化する。負けたのは燃費重視、入れ替えた後のは高威力高燃費の一射、満タンでも二回しか撃てない。代わりに、下手なISは一発で絶対防御だが。カートリッジは充電式のローテーションで、ライフルに最初にセットされた分を含めて7つ、今は残り5つ。サイドアーマーに付けておけば充電されるが、予断をアルファーが許す筈もない。

ライフルの一射を避けたアルファーが、一回り巨大化した翼を広げ、剣を振りかぶりながら羽を射出し突進。速度も翼が大きくなった故か上昇している。身を捻り羽をいなすが、その羽が有り得ない角度で急旋回し、背後から再び迫り来る。自動追尾に驚きながら、ウイングで羽を落とし、アルファーの剣を盾で受け止める。剣が差してある盾は、鞘でもある。本来は無謀な行動だが、極めて近づける手段でもある。その体制のまま、アルファーに問う。

「なんでこんな事をする、答えろ!」

確認するのはその一点。篠ノ之博士の差し金か、乗っ取りか、はたまた、それ以外か。

「命令ですか?」
「聞いているのはこっちだ、その命令とやらをしている人物が居るのか?」
「回答せよと、ご命令ですか?」
「…、そうか。前提が間違ってたか」

てっきりアルファーに命令した者がいると思っていたが、そもそもコイツは命令なんか『受けていない』。自分の意思で戦っているらしい。では、何の為に?

「知りたい…。産まれた意味、ここにいる理由…。何も…、何も分かりません…」
「んなの知らん。しかも、こんな方法で分かる訳もない!」

盾で剣を受け流し、ライフルを撃つ。一回転してアルファーは無傷。再度高機動の空戦が始まる。2つの軌跡が二重螺旋を描き、激突の度に周囲に飛び火する余波が、雲を蒸発させる。

「命じてください…!何でもいい、私が私でいられるだけの、命令を…」
「お断りだっ!」

アルファーの懇願をバッサリ切り捨てる。命令されて唯々諾々と動くだけなら人型と変わらない。だが、アルファーには意思がある。

「しっかり自分で歩け!お前はお前だ!」

尻尾のようにくっ付いたウイングを射出、同時に剣を抜き、ハイパーモードを発動。装甲が金に輝く。

「ヴァンガード、フルドライブ!!」

握った右手から剣にエネルギーが集まり、翡翠の光を纏う。射出されたウイングはアルファーを掠めた後に、背後からアルファーを強襲し、球体に隠れたアルファーを俺に向かって押す。これで決める!

翡翠の光纏いし剣で、球体を刺し貫く。剣を手離し、すれ違い距離を取った所で、翡翠の残滓が残る右手を握り締め、叫ぶ。

「クラッシュ!!」

俺の声と握り締める右手に反応し、剣に集まった翡翠のエネルギーが球体の隅々まで行き渡り、大爆発。ウイングが腰に戻り、右手を開き、背後から来る剣をキャッチ。アルファーの方に向く。

「悔しいか?なら、それはお前のものだ!誰から与えられる事のない、お前だけのものだ!」

作られたばかりで世界を知らず、縋る何かを求めたアルファー。知らないなら、学べばいい。最初に与えるのが苦い経験と言うのは若干申し訳ない気もするが、追々知るだろう。喜怒哀楽、仲間、様々な事柄を。

「アルファー!俺はお前を肯定する!祝福には手荒すぎるが、誕生祝いだ!」

ヴァンガードの『角』にエネルギーを集束する。本邦初公開だ、伊達や酔狂で、こんなモノを付けると思うなよ!

「ようこそ、この世界に!」

そのままスラスターの力出を全開にし、黄金に煌めく角がアルファーの胴に直撃、肩を捕まえ、逃げられないようにして空中から急降下。砂浜に叩きつける。その衝撃は、周囲の砂を高く飛ばし、砂煙で視界が阻害されるほどに凄まじいものだった。

力を使い果たし、ISを解除し座り込み、アルファーに語りかける。

「ーつーつ学習すればいいさ。得るもの全部がお前のものになるんだから」
「…、はい。マスター」
「………。何だ、その返事?」

奇妙な流れになってないか?さっきまで撃墜する気マンマンでやり合った相手をマスターと呼ぶのは変ではないのか?

「先程のエネルギーが、電脳に干渉しマスター登録されました。私も一応ISですので…」
「なんてこった…」

知らぬ間に束式ヴァンガードのマスターになっていた。

───────────

自覚無しで大変な状況を作ったようで、何はともあれ、織斑先生に報告するため、旅館に戻った早々に、その織斑先生直々にお出迎えしていただいた。事情と内容は把握済みなのでとやかく言われはしなかったが、私的な理由でISを使用した事は咎められた。

「やむを得ない事情ではあったが、丹下、お前は謹慎だ。部屋で大人しくしていろ」
「ゼロ達は?」
「『お前が無理やり連れ出し、一方的にISで攻撃を仕掛け、騒ぎを運良く聞きつけた宮間達が止めた。』そう言う筋書きだろう?無罪放免だ」

先生の返事に安堵の息が漏れる。泥を被るのは俺だけでいい。今頃、ゼロは宮間さん達とじっくり話しているだろう。納得するまで言葉を尽くし、答えを出すことを願う。

ゼロと恋する少女達の今後を祈りながら、アルファーの一件を報告する。その返事もあっさりしたもので、

「そうか。ならしっかり面倒を見ろ」

と、とってもシンプルな御言葉が。先生、ペットじゃないんですから…。

「だが、便宜上アルファーはISで、所有者はお前だ」
「篠ノ之博士は!?」
「アイツは『私作』とは言ったが『私のIS』とは言っていない」

色々手は貸すと先生には言ってもらったが、先行きは不安。やらかしたのは俺だ、受け入れるとしますか。

「先生、話は変わりますが、作戦の結果は?一夏達は?」
「作戦は失敗だ。今から今後の協議に入る」

失敗…、仕留められなかったのか。軍用ISの名は伊達ではなかったようだ。
その上一夏達の状況を知って歯噛みした。一夏が密漁船を守って、撃墜されたらしいのだ。すぐにでも駆けつけたい思いはある、が、『今』は動けない。今、は。

故に、先に疑問を解決すべく、アルファーに尋ねる。

「何で俺を攻撃したんだ?」
「私にもよく分かりません。ただ、私の中の何かが突き動かした、気がします」

答えになっていない答えだが、それでよしとした。何かしらの本能が、アルファーを刺激したのだろう。

「でも、次からは、無闇に攻撃なんてしないで、言葉で伝えるんだ。いいな?」
「はい。マスター」

しっかり頷いたアルファーに満足していると、

「織斑先生…!篠ノ之さん達が!!」

相当慌てた様子で山田先生が駆け込んできた。曰わく、無断で軍用IS相手に再び出撃したとのこと。一夏を落とされたリベンジ、だろう。織斑先生を見る。難しい顔をしている。

「織斑先生、軍用IS撃墜作戦の参加と無断出撃の篠ノ之達の救援の許可を」
「謹慎だ、と言ったぞ丹下」
「後でいくらでも処罰を受けます」
「…、監視下に置けるだけまし、か。丹下、許可する。ただし、先の織斑等の二の舞はするな」
「了解!!」「現在目標は篠ノ之達と交戦中、篠ノ之達には帰還後私の下に来るよう伝えろ」

先生の指示を受け、旅館を飛び出し、三度ヴァンガードで飛ぶ。そして追随するアルファー。…待機を命じるのを忘れていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧