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美しき異形達

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第四十六話 横須賀その二

「遊ぶ場所とかは入られるよ、それでな」
「それで?」
「丁渡いい時間だしさ」
 薊はにこりと笑ってこうも言った。
「あの中に入ってな」
「そしてなのね」
「あの中で食おうな」
 これが薊のこの場での提案だった。
「そうしような」
「アメリカ軍のお料理ね」
「今日は土曜日だしバイキングやってるぜ」
 薊は笑ってだ、菊に話した。
「千円位で何でも食べられるぜ」
「それは凄いわね」
「アメリカ軍のそうしたサービスは凄いんだよ」
「伊達にアメリカ軍じゃないってこと?」
「かもな、自衛隊の基地に入ったら凄い親切にしてくれるけれどさ」
 まさに食事の箸も動かして食べさせてくれるまでにだ、特に陸上自衛隊の人達の親切さは相当なものらしい。
「アメちゃんはそこが違うんだよ」
「千円位で食べ放題」
「アメリカの場所だからドルに替えないといけないけれどさ」
 店に入る前にだ。
「それでもなんだよ」
「千円でなのね」
「それでおつりはチップで渡すんだよ」
 薊は仲間達にこのことも話した。
「チップはあっちの礼儀だからな」
「そこが日本と違うわね」
 菫も薊のその話を聞いて言う。
「やっぱり」
「ああ、あそこはアメリカなんだよ」
「日本にあっても」
「基地の中はアメリカなんだよ」 
 このことは大使館も同じだ、その敷地内はその国の法律が適用されその国のルールで動いているのだ。
「だからさ」
「チップを置いておくのね」
 鈴蘭もその話を聞いて納得した顔になって頷いた。
「アメリカだから」
「そうそう」
 薊は鈴蘭の言葉にも笑顔で応えた。
「そこは覚えておいてくれよ」
「それでなのね」
「美味いものが安くさ」
「食べ放題なのね」
「ここは横須賀だから酒は駄目だけれどな」
 八条町や仲間内とはいかないからだ、アメリカ軍の基地の中というオープンな場所だからそれはというのだ。
「けれどな」
「食べることは」
「いいんだよ」
 薊は黒蘭にも話した。
「だからな」
「今日は食べるのね」
「そうしような、今から」
 その大通りを見つつの言葉だ。
「食ってそして」
「それからなのね」
 裕香が応えた。
「食べてから」
「ああ、孤児院行こうな」 
 薊が育ったその場所にというのだ。
「いよいよな」
「そうね、いよいよなのね」
「ああ、いよいよだよ」
「食べてからっていうのが私達らしいけれど」
「やっぱりまずは食わないとな」
 実に薊らしい言葉ではある、その言葉をあえて言ったのだ。
「何もはじまらないよ」
「全てはそこからね」
「食わないと死ぬしな」
「そうね、食べないとそれこそね」
「だからまず腹一杯食おうな」
 アメリカ軍の基地の中でだ、こう話してだった。 
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