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ソードアート・オンライン〜黒の剣士と青白の童子〜

作者:柚希
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SAO編
  攻略会議と再会

 
前書き
最近バタバタしてまして……
更新が遅れてしまいました、すみませぬ
それではどうぞっ 

 
青白の童子

アニールブレードを手に入れて、宿で休息ーーもとい講習会を開いてから一ヶ月近くが過ぎていた。
レイはキリトと行動を共にしつつ人探しを続けていた。
しかし、未だに見つかっておらず今に至る。

そんなある日、今滞在しているトールバーナという街の近くでキリトとレイはレベリングをしていた。


「破ァッ!」

掛け声とともに槍が光り、《ツイン・スラスト》を放つ。高速二連の刺突がホワイトウルフにヒットし、ポリゴン片へと変える。
レイはAGIに多めに振っているので槍の刺突スピードが驚異的なまでに速い。その上、SAOには器用さなんてステータスがないにも関わらず器用な槍捌きを披露している、恐らく彼女が現実でできることなのだろう。
本当にこの少女は何者なのだろうと考えつつ、俺ことキリトも《ソニックリープ》をホワイトウルフに当て消滅させる。
今の戦闘が終わり、俺たちは互いにレベルが一上がった。
俺が十三で、レイが十二になったはずだ。

「ふぅ、そろそろレベルが上がりにくくなってきたね」

「ああ、この層の安全マージンは超えてるし、今日はもう戻ろう」


今日は早めにレベリングを終えたのには理由がある、後約一時間後、トールバーナにある広場で第一層の攻略会議が開かれるのだ。
βテスト時はがむしゃらに突っ込んでいたが、今そんなことをすれば死亡確定コース行きだ。
取り巻きであるルイン・コボルト・センチネルはボスであるイルファング・ザ・コボルト・ロードが倒されるまでポップし続ける。
ロードのHPを四分の一まで削ると武器をタルワールに変えて攻撃してくる。一撃もらうとHPが半分近く削られ、回復しようにも取り巻きのセンチネルにたかられて止めを刺される。 だからこそ集団でやるのだ。


「攻略会議を開くっていうことは誰かがボスの扉を見つけたってことだよね?」

「βテスターは俺だけじゃないし、そいつらが人数を揃えて挑めば確実に見つけられるだろうな」


βテスターは安全マージンを取っているはずなので、トールバーナにいるβテスターを集めれば一層攻略も夢ではないだろう。

そうこうしているうちにプレイヤーがちらほらと見えてきた。

「お、着いたな」

始まりの街に残る人は多いがここトールバーナにも来ている人はいる、しかしトールバーナにいるプレイヤーたちを見て俺とレイはあることに気がついた。

「生気、というか活気がないな」

「そうだね、みんなわかってるんだよ」


始まりの街にいればHPが減る恐れはない、しかし現実の肉体は別だ。ログアウトすることができないということはつまり、何も飲まず食わずでいるわけで、今だに俺たちが生きているということは誰かお偉いさんが病院にでも搬送の手筈を整えてくれたのだろう。
それでも、点滴だけで過ごすにも限界はある。一体何年保つのかはわからないが、一層でこれほど手間取っていてはいずれは死が追いついてしまう。


「限界が来る前にわたしたちがこのゲームをクリアしないとね」

不意に、前を歩いていたレイが呟いた。
前を向いているためどんな顔なのかはわからないが、その声には確固たる決意が滲み出ていた。

俺たちは広場に集まる前にポーションを買い、武器屋で武器の損耗を回復させてから広場に向かった。


「おっと、始まるところか」

「だね、ポーションとか買ってたら時間かかっちゃったね」
広場に着くと、中央にいる青髪に片手剣と盾を装備した青年が目に入った。おそらく彼がこの会議の主催者なのだろう。
軽く咳払いをしてから息を吸い込むと、演説が始まった。

「今回は俺の呼び出しに応じてくれてありがとう。俺の名前はディアベル、気持ち的にナイトをやってます」

きっと彼がボス部屋を見つけたパーティのリーダーだろう。
陽気な声で発せられたジョークは場を和ませた。

「おいおい、ジョブシステムなんてないだろう」
「勇者って言いたいんだろー」
「ナイト様〜」

声援に似た声と口笛まで聞こえてきた。
おそらく彼のような人がリーダーになれる資格を持っているのだろう。きっと彼が、これから先の攻略の指揮者になるのだろう。

そんなディアベルを俺たちは興味深く見ていた。俺たちの他にも見ていた人は大勢いた。
例えば、ローブで顔を隠したプレイヤーが二人、別々の場所に座っているのでパーティではないだろう、一人は無感情に見つめているが、もう一人は好奇の目でディアベルを見ていた。

ちなみに隣のレイはというと。

「ナイトって体張ってみんなを守ってくれる職だよね、死ぬまで守ってくれるのかなぁ……」

「いや待て⁉︎ 死ぬまでやったらダメだからな! ってか最近発言が黒いぞ」

慣れなのかわからないが、最近レイの発言が黒くなってきた、しかも平然と言うから恐ろしい。

陽気な雰囲気に包まれていた場は、ディアベルが真剣な表情をしたことで場も真剣な空気になった。


「昨日!俺のパーティがボス部屋を発見した!」

その言葉に集まった殆どのプレイヤーがどよめいた。
ボス部屋が見つかった噂は出回っていたが、やはり人に断言されるのとでは格が違う、それもこんな真剣な表情の人に言われれば余計だろう。
何より、彼は嘘を付くようには見えない。

「……俺は、この層をクリアして、始まりの街で待っているみんなに、このゲームを終わらせることができると伝えたい」

ディアベルの熱弁に皆それぞれ頷き、聴き入る。彼の顔は真剣そのものだ。

「だが!俺一人にできることにも限度がある。そこでみんなにも協力して欲しい!俺はこのゲームをクリアしてみんなとともに現実に帰りたい!そうだろ?なぁ!」

拳を握りしめ、ディアベルは叫んだ。一瞬の沈黙の後、一人のプレイヤーが拍手し、それに呼応するようにその場の全員が拍手をしていく。

ディアベルは頭を下げ、感謝を表す。

「ありがとう。それでは早速、攻略についてだが……」

攻略に関する話をしようとした時思わぬ邪魔が入った。

「ちょい待ち!」

広場に降りてくる階段の上からその声は聞こえた。
全員が声のした方を見た。頭に無数のトンガリがある男だった。
男は軽快なステップで階段を駆け降り、ディアベルの前まで来た。


隣のレイは男をなにやら考えながら見つめていた。
俺がどうしたのか尋ねると、あぁと納得したように頷く。

「見たことあると思ったらモヤットボールじゃん」

「ぶっ……」

笑いそうになるのを必死にこらえる。何を言いだすんだこいつは、聞こえてなさそうだからいいものを。


「ワイはキバオウっちゅうもんや!攻略会議を始める前に、この中に詫び入れなあかんやつらがおるはずやで!」

詫びを入れるーーその言葉だけでキリトにはそれがβテスターだと予想できた。
自分も含めたβテスターはこのゲームを有利に進められる知恵を持っている。そんなことからβテスターは様々な人から嫌われている。
ディアベルはキバオウを見据え、ゆっくりと口を開いた。

「その詫びを入れなければならないというのはβテスターのことかな」

「せや!奴らには金と装備を置いていってもらうんや!そうでもせえへんと一緒に戦うなんてできへんわ!」


それはつまり、自分たちを装備で強化してβテスターは死ねということか?
……ふざけてる。

不意に隣のレイがトントンと俺の腕を突く、その顔は中央のキバオウを見据えているが、俺にだけ聞こえる声で呟いた。

「大丈夫、君みたいに優しいβテスターがいるってちゃんと知ってる人だっているよ」

「っ⁉︎ あぁ、さんきゅ」

その場は沈黙に包まれていたが……

「発言いいか?」

肌が黒く高身長で筋肉質の男が立ち上がった。
ディアベルは男に無言で頷く。

「俺の名はエギル。キバオウさん、あんたはつまり、情報を自分たちで占めてるβテスターが許せないから、金と装備を置いていけと言っているんだよな?」

「そうや!なんか文句でもあるんかいな!」

「これがなにかわかるか?」

そう言ってエギルは一冊の本を実体化させた。

「知っとるで、モンスターの情報なんかが詰まっとるんやろ。雑貨屋とかに置いてあったはずや、それがどないしたんや」

「いいか、これを作ったのはβテスターたちだ。皆いいか、情報は誰にでも手に入れられたんだ。この場ではそれを分かった上で論議するものだと思ったんだがな」

この事実にキバオウは顔をしかめる、しかしキバオウにはβテスターに詫びを入れさせる手段がもう一つあった。

「わかった、そのことに関してはもう何も言わん。せやけどな、まだあるんや!
βテスターどもはこのクソゲームが始まった瞬間に、残った右も左も分からん九千人の初心者を見捨てて消えよった!それに加えて奴らは旨いクエストやら狩場を独り占めして、自分らだけ強ぅなってったんや。初心者たちに関しては知らんぷりでな」

仁王立ちをして、辺りを睨む。

「こんなかにもおるはずやで、β上がりのやつらが。そいつらに土下座させて、今まで溜め込んできたアイテムと金を吐き出してもらわんと、命を預けることも預かることもできへんと、そう言うてるんや!」

仁王立ちのまま、周りに睨みをきかせる。
キバオウと同じ考えの者は当然いるだろう、ネットゲーマーなら尚更だ。
初心者である自分たちは思うようにレベルが上がらないのにβテスターたちは狩場を独占して上げていく。
つまりは嫉妬や妬みだ。
そう言ってしまうのは簡単だが、このデスゲームに関しては死人が出てしまっている。
恐らくこの男は、あたかも初心者たちの代弁者の様に振る舞い、仲間を増やし、あまつさえ経験者たちのアイテムを得ようとしているのだ。
狡猾で利己的だが、この男の言うことも一理はある。

βテスターたちも生き残ろうと必死だったのだろう、この極限状態で他人のことまで気にかけろというのは難しい、みんな必死だったのだ。

そしてキバオウはあることを知らなかった。彼の言い分を言いくるめてしまうほどの事実を。

「少しいいか?ナイトさん」

今まで傍観していたローブ男がすっと立ち上がる。

「……ああ、構わないよ」

ディアベルは気持ち的にもナイトと呼ばれるのは好んでいるが、今この場ではふざけたことなどできない、それ故に真剣な表情のままだ。

男にもそれが伝わっているのか、フードのローブからわずかに見える口には笑みはない。

「そこの……キバオウとか言ったか? あんた、βテスターが九千人の初心者を見捨て、自分たちだけ強くなって後は知らんぷりと言ったな?……その情報はどこから手に入れたんだ?」

「ワイは見とったんや、こんデスゲームが始まった瞬間に、βテスターどもは一目散に次の街に走りよった、九千人の初心者を置いてや! そのせいで今日までに二千人も死んでもうたんや、せやからワイは、βテスターどもにアイテムやら金やらを置いてけ言うとるんや!」


二千人の死亡者ーー、ここにいる全員が知っているが、改めて言われると実感が湧いてくる。
この場の皆が沈黙する、例に漏れずフードの男も沈黙している。それを見たキバオウは訝しむ。

「なんや、だんまりかいな。ひょっとしてあんた「仕方ないか」なんやと⁉︎」

男はゆっくりとした歩調で、広場中央にいるディアベルの下まで行き、ストレージから折りたたまれた紙を取り出し渡した。

ディアベルは戸惑いながらも受け取る。

「これは?」

「読んでみてくれ、そうすればわかる」


ゆっくりと紙を開き、ディアベルは黙読する。すると、ここからでも分かるほどに、ディアベルの目が見開かれた。

「これはっ……⁉︎」


俺とレイ、キバオウその他フード男を除く全員が不安そうにディアベルを見つめる。
ディアベルはフード男を見やり、男が頷くのを確認すると、コホンと咳払いをして、ディアベルは息を吸い込み、書かれていた内容を読み上げる。

「……十一月三十日、統計報告。
本日三十日までのSAO死亡者約二千人のうち、βテスターの死亡者はおよそ……」

そこまで言ってディアベルは言葉を詰まらせ、鎮痛な面持ちになるが、皆が見守る中、それでも言葉を続けた。

「三百人だ」


広場全体がどよめきに包まれる、βテスターが、初心者より知識と経験を持っていた彼らが三百人も死んだ、それはこの場の全員を驚かせるには十分だった。
案の定キバオウも面食らったようだったが、すぐさまディアベルに向く。

「そんなん、出所のわからないデマやろ!」

しかし、ディアベルは頭を横に振る。

「キバオウさん、この統計の製作者の欄には、ミト、それからアルゴと書かれている。おそらく鼠のアルゴだろう。……このミトというのは君のことでいいのかな?」

「ああ」

フード男、もといミトは短く答える。


鼠のアルゴーー前線で戦うプレイヤーで知らぬ者はいないとまで言われている情報屋アルゴ。売れるものは自分のステータスでさえも使う。情報によって金は高いが、その分信頼されている。そんな情報屋からの情報とあればこの場の全員が信用するのは当然であった。


「死亡者二千人のうち三百人が元テスターということは、このゲームにおいてもはやβテスターなんてアドバンテージが存在しなくなりつつあることが分かると思う。これから先、βテスターだからと言って彼らを蔑ろにし続けるのは攻略の効率的に良くない。……別に今すぐ名乗り出ろとは言わないが、鼠を通して情報を流してくれるとありがたい。
要は、今何をすべきなのかを話し合って欲しい。それだけだ」

最初と同じように悠然と自分の座っていた位置に戻る。
皆異論はないようだ。

「うぐぐっ……へんっ」

さすがにキバオウも折れ、近場の席にどかっと座った。

「ほっ……」

場が収まったことに俺は一息ついた。
隣のレイはフード男、もといミトを凝視している。

「あの人、もしかして……」

隣の俺でもわずかに聞こえるくらいの声で呟く。
もしかして、彼が探していた人物なのだろうか。


「三人とも、貴重な意見をありがとう。キバオウさんの意見も分かるよ。オレだって右も左も解らないフィールドを、何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだからさ。でも、二人の言うとおり、今は前を見るべきじゃないか?元βテスターだからと言って排除するのは得策ではない、排除した結果、攻略が失敗したら意味がないじゃないか」

さすがにナイトを自称するだけのことはあると思わせる、こちらも実に爽やかな弁舌だった。聴衆の中でも深く頷いている者が何人もいる。元テスターを断罪するべし、という雰囲気が変わるのを感じて、俺は安堵の息を漏らし、続くディアベルの言葉に耳を傾けた。

「みんな、思うところはあるだろうけど、今だけはこの一層をクリアするために力を合わせて欲しい。どうしても元テスターとは戦えないっていう人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ。ボス戦では、チームワークが大事だからね」

ぐるりと辺りを見回し、最後にキバオウをじっと見る。
キバオウはしばし視線を受け止めていたが、盛大に鼻を鳴らすと押し殺すような声で言った。

「ええわ……ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、白黒つけさせてもらうで」


「ああ……さてみんな、先ほどのエギルさんの話にもあったガイドブックだが、この会議が始まる前に最新版が発行された」

その言葉に全員がどよめく。
通称アルゴの攻略本、鼠のアルゴの本、というだけでなく、多くのプレイヤーがこの本の恩恵を受けていることから、信用できるというのが大きい。

「この本には、一層ボスの攻略法が載っていた。今からこの本を元に攻略会議を始めたいと思う」



広場中央でディアベルがボスの攻略方法を告げていく。
俺もβテスト時の記憶を思い出して反芻する。
隣のレイは聞き漏らすまいと真剣に聞いている。

一通りの説明が終わり、これで終わりかと思っていた俺は、続くナイトさんの言葉に喉を詰まらせた。

「それじゃ、早速だけど、これから攻略作戦会議をするのでパーティを組んでみてくれ。初めてのメンツで気まずいかもしれないが安全のためだ、了承してくれ」

なんだと……
俺とレイで二人だからあと四人集めないとか。
俺は先ほど発言していたフード男を見遣り、彼が未だ一人であるのを確認した。

「取り敢えず俺はさっきのフード男に声かけてくるよ」

レイは俺の方とは違う方のフードのプレイヤーを見ていて、そちらを誘う気なのだろう。

「わかった、わたしはあっちのフードさんに声かけてくるね」


お互いに別々のプレイヤーを誘いに向かった。
フード男はパーティが作られるのを見つめているだけで混ざろうとはしていない。
俺が近づいたのに気づくとゆっくりと立ち上がる。近づいて気がついたことは身長が俺よりも十センチ以上高いのと、フードから黒の混じった銀髪が覗いていることだ。年は俺よりも上だろうか。

「なああんた、よかったら俺たちとパーティ組まないか? ……もしかしてもう組んでたりするか?」

少し戸惑っているようなので組んでいるのかと尋ねると男はかぶりを振った。

「いや、いきなりだったんで驚いただけだ。アブれちまってたから助かる」

「そっか、もう一人いるんだけど、あそこで勧誘中だ」

「なるほど。宜しくな、ミトだ」

「こちらこそ宜しく、キリトだ」

軽く握手を交わし、俺が座っていた場所へ移動した。

少ししてからレイがフードのプレイヤーを連れてきた。なんとびっくり同い年くらいの女の子だった。
申請を送り、四人目のHPバーが視界に現れる。バーの下にある文字の羅列を見つめる。
【Asuna】アスナだろうか、彼女の加入で四人になったが、それでも人数が少ないためメイン部隊にはなれず、ボスであるイルファング・ザ・コボルト・ロードの取り巻きのセンチネルの相手をするE隊の補助をすることになった。
そのことにアスナさんはご立腹のようだ。

「これじゃあボスに一撃も与えられないまま終わっちゃうじゃない」

「仕方ないさ、四人じゃ、スイッチでPOTローテの時間が少し足りないんだから」

「…………スイッチ?ポット…………?」

俺は第二回講習会が必要なことを悟った。


会議が終わる頃には、レイとアスナはすっかり打ち解けていた。俺とレイが共同で借りている宿に風呂があるのだが、その話をするとアスナは目を輝かせて是非とも入らせてくれと頼んできたので宿に招くことにした。 ミトも誘ったのだが用があるとかで断られ、広場から出て行く。

「待って!」

不意にレイがミトを呼び止めた。

shidーーレイ

「待って!」
ミトというフードのプレイヤーを呼び止めた。彼が会議で発言した時から気づき始めていた。姿を隠せても声は変えられないからだ。見間違えるはずはない、やっと見つけた。

彼はゆっくり振り返り困ったような顔でわたしを見る。しかし、彼が言葉を発することはない。

「なんで、何も言ってくれないの?」

彼をずっと探し続けていた、やっと見つけたのだ。だからお願いーー

願いを乗せる声はか細く、しかしはっきりと出る。

「もうわたしの前からいなくならないでよ……透……っ⁉︎」

突然のことに反応が遅れたが、自分が抱きしめられていることに気づくわ、ハラスメントコードが鳴るが気にならない。

「すまない、もう少しだけ、一層が攻略されるまで待ってくれないか?」

ハスキーでしっかりとした声が鼓膜を揺らす。久しぶりの温もりと声に涙が止まらなくなる。

「ぅ……うん、待ってるよ。二年も待ったんだよ?あと一日くらい待てるよ」

そう言って彼から離れる、涙はもう止まった。
あなたとの約束を果たそう。

「明日の攻略、頑張ろうねっ!」

「ああっ」

こつんとわたしたちはお互いの拳をぶつけ合った。

 
 

 
後書き
超☆展☆開☆
これにはとある前提があるのでこんな展開になりました。
いつかその話も書けたらいいですね。

キリト)俺ら空気だよな
アスナ)そうね 
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