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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  木の葉崩し

 医療室で簡易的な治療を受けた後、カトナは少し困ったように壁にもたれかかった。
 やはり血液を無理にぬきすぎたせいで、血が足りないらしい。
 もともと、他の人間よりも小柄であるので、血もまた人より少ないのだ。
 なのに、無理やりぬいてしまったから、頭がくらくらしたような状態が終わらない。
 …多分、毒のせいもあるだろうと、カトナは冷静に思考する。
 間違わないでほしいのは、カトナの血液をぬいて毒を抜いたとしても、毒の効果が消えるわけではない。
 蛇に噛まれたとき、血を吸って毒を吸い出すという行為をするが、あれは応急処置であり、尚且つ、蛇の毒は胃のなかで消化されるから無害なのであって、ほかの毒ならば、命にかかわることもある。
 カトナは血を吸うのではなく、流すことで毒を抜きだした…といったが、それで毒が効かないのであれば、今頃、何万人の命が救われているという話である。
 血液を循環して摂取される毒だから、血液を吸い出したら毒がなくなる…なんていうのは、全くの間違いだ。どう頑張っても血液が循環し、毒が体内に回れば、全てを吸い出すことなんて無理だ。
 というか、本当に解毒をするならば、その毒に合った抗体がつくられなければならない。
 カトナがやったのは荒療治の中の、荒療治であり、プラシーボ効果…自分は治ったという思い込みが及んでいたから、あの時は戦えたのだ。
 まぁ、プラシーボ効果を引き起こすために、脳のチャクラ経路を少しいじくったりはして、なんとか興奮状態に持ち込んで、だからこそ、勝てたのだ。
 現在、あの毒に対する抗生が作られるまで、何時間、何日かかるかは分からないが、それでも今すぐ動けるわけではないだろう。

 「何も起きないといいんだけどな…」

 ぽつりと呟いて、カトナはずるずると力なくその場に座り込む。
 奈良の試合も終わり、次はサスケの番である。もう始まってしまった試合であるが、しかしそれでも、サスケの応援をしようと考えていたのに。
 どうしてか、体が上手く動かない。
 なんとしても起き上がるつもりだったのだが、しかし、それが出来ないほど疲弊…いや、眠りたいのかもしれない。
 ふわり、ふわりと羽が舞っているような感覚がする。
 つかれているから幻覚でも見ているのかと、眩暈がするなか、カトナはぼんやりと視線を彷徨わせる。
 ばたばたと、医療室の人が倒れていき、すれ違った人が床に寝転んでいる。
 自分も彼らのようになってしまいたいと、そんな思いがカトナの思考をよぎる。
 このまま、眠ってしまいたいなと、カトナは瞼を降ろしかけ。





 自分の頬を思いっきりビンタした。





 ぱぁあああん、という音と強烈な痛みに、彼女の眼が開かれる。
 真っ赤になった頬と手が痛々しいが、彼女の眠気を振り払うには十分だった。
 が、用心を重ねているのか。カトナは自分の頬の内側の肉を勢いよく噛みちぎる。
 凄まじい痛みが襲い、口内が血の味で満たされるが、カトナはそれを悲鳴すらもらさずに耐えきる。

 「寝るな」

 ドスが効いた低い声で呟くと、カトナはゆらりと立ち上がる。
 間違いなく、敵襲。
 しかも、カトナを眠らせられるほどの幻術。
 現在、チャクラが足りないので、物理的な痛みで自身の目を覚まさせたカトナであるが、しかし、一瞬とはいえ、その幻覚に気圧されたのもまた事実である。
 術式の系統的に、多分、医療忍者が多いこの一帯には、特に強いチャクラコントロールで行われたという事くらい推測できるが、それでも、弱っているとはいえ、自分が、このカトナが幻術にはまりかけ、傷つけられた。
 自分のチャクラコントロールが秀でていることを自覚してるカトナでさえも、後れを取ったということは、相当強い術者だろう。
 医療忍者を真っ先に封じに来たところから見る限り、会場の幻術の方が術の効力がまだ弱いだろう。
 しかし、術者の精度はカトナには勝らなくとも、普通の上忍はこえれるレベルだ。
 カトナの周りでこの幻術を破れる下忍は、写輪眼が扱えるサスケ、九尾により幻術が効きにくい身体になっているナルト、それにカトナが手をかけて教えているサクラぐらいだろう。
 実力がわからないが、おそらくサイと…勝敗の結果次第ではシカマルも幻術は聞いていない筈だと、冷静に考えつつ、廊下を一気に駆け抜ける。
 どのようにして仕掛けてきたのか。その目的は何なのか。どのくらいの戦力であるか。
 全てが分からない中、しかし、カトナはあることを分かっていた。
 この首謀者が、いったいだれかということを、カトナは言われるまでもなく察していた。

 「大蛇丸…!!!」

 ぎりっと歯を噛みしめたカトナは、怒鳴り付けたくなる衝動をこらえる。
 狙いはサスケ、だろう。だが、それは今すぐでなくてもいい筈だ。
 おそらく、木の葉の里を本格的に狙ってきている。
 先程の試合が終わって、カトナが絶不調のところを狙っている…わけではないのかもしれないが、九尾の人柱力と誤解されているカトナを封じに来ていない筈がないだろう。
 このことから考えれる可能性から、砂が協力している可能性は九割を超える。
 やばい、と、カトナは必死に、いつもよりはやく走って走って、走る。
 相手には一尾がいる。しかも、サスケの予測で言えば、毒が盛られている可能性もある。
 カトナと同じ毒を盛られたとなれば、あの我愛羅という男が尾獣化してしまう可能性も高い。
 もしも尾獣化されたら…この里の戦力で太刀打ちが出来るのは、同じく人柱力であるナルトぐらいのものだ。
 それほど、人柱力に封じられた尾獣の力は強大なのだ。
 だからこそ、皆がこぞってその力を欲し、そして容れ物を作ってまで手に入れようとし、その恐るべき存在を封じておこうとする。
 カトナは尾獣と対峙したことがないから、実際にその強さはよくわからない。
 だが、尾獣の中でも最強、九つの尾を持つあの狐は、四代目火影である実の父…波風ミナトの命を奪ったことがあるのだ。
 その強さは、自分が今まで戦ってきた中でも断トツであり、いままで戦ってきた強き忍たちをものさしにしてその強度を図ったとしても、はかりきれないだろう。
 それほどの歴然とした差があるのに、ナルトが追いかけた。
 もし、もし、ナルトが負けたら間違いなく殺される。
 想像して、いやだいやだとカトナは頭を振り、必死にその考えを覆そうとした時、彼を見つけた。

 「…ねじ!」

 会場で途方に暮れていた彼は、カトナの呼び声に安心したように振り向く。

 「カトナ、お前も無…事ではないようだな」

 ある場所…頬で視線を固定している彼に、カトナもまた視線を追いかけるように指を這わせ、じくじくと痛む頬を無視する。

 「チャクラ足りないから、痛みで目覚めさせた」

 あっさりとそう言ったが、彼女の頬は、見ているだけでこちらも痛みを感じるほどに赤々しい。
 幻覚から目を覚ますためとはいえ、自分の身体をまるで物のように扱っている彼女に、ネジは微かな苛立ちを感じつつも、辺りを見回す。
 二人に全く気が付いていないが、敵の忍びらしい人間と上忍が入り乱れて戦っており、どこに誰が居るかが全く分からない。
 ネジは舌を打って、カトナに尋ねる。

「俺はテンテン達と合流し、ガイ先生の指示を仰ぐが、お前はどうする気だ」
「決まってる。ナルトに合流する」

 そういって、カトナは全身を集中させて。
 ありとあらゆる全てを思考から排除して。敵の居場所だけ把握して。
 敵と上忍のなかを、一気に駆け抜けた。
 ネジが驚いて声を上げるまえに、床を強く蹴飛ばして跳ね、観客席を駆け上がる。
 善良な観客数名を踏んでしまったようだが、それもまた見なかったふりをして、カトナはもといた場所に立ち、見回す。
 会場を見回したカトナの目は、いちはやく、サスケをとらえ、サクラも捉え。

 しかし、一人が見つからない。

 愕然とした面持ちで固まった彼女を見つけたサスケが、素早く駆け抜け、カトナの元による。
 頬に残る痛々しい傷や、見えていない筈の彼女の口内にある傷などについて言及しようとしたサスケは、直前でカトナの表情に何も言えなくなる。
 カトナの体内に、音が一切なくなって、ただ、鼓動が響く。
 疑問が体を支配し、そして指先に痺れが走るような感覚。
 どくどくと、心臓がうるさい。
 黙れ黙れと、何度も何度も言い聞かせるのに、なのに止まらないのだ。
 辺りを見回して、縋るようにサスケの服を握る。
 震える声で尋ねる。

 「…なる、と、は、」

 サスケはその言葉に沈黙で返した。
 それが答えであった。
 ナルトが我愛羅を追いかけた。ここまでなら許せる。ここまでなら、まだいいのだ。
 けれど、サスケもカトナもナルトから離れているということが駄目だ。
 いざという時に九尾を抑え込めれる二人がいないということは、駄目だ。
 悪夢が、頭をよぎる。
 大蛇丸によって見せられた、自分が見たことのない、見る気もなかった、恐ろしい夢。
 あのチャクラを纏ったナルトの姿。そして、それによって見える光景。
 さぁっ、とこちらがわかるくらいに顔を青ざめさせて震えだしたカトナを落ち着かせるために、サスケは言う。

 「大丈夫だ。大丈夫。ナルトの奴なら大丈夫だ」

 サスケにも彼女の焦燥がわからないでもない。
 我愛羅は一尾であり、そしてナルトは九尾だ。
 戦いの途中に引きずられたりするかもしれない。
 それによって、もしも…もしも、九尾が顕現でもしてしまえば。
 ぞくりと、彼の背筋に寒気が走る。
 里人に見られてしまえば、取り返しがつかなくなる。
 彼女にとって、それは何よりも恐れるべきことであり、今の彼女を瓦解させかねない。
 それはなんとしても避けねばならないと、サスケはカトナの手を振り払うように走り出せば、カトナもまた慌ててそれを追いかけた。
 お互いの心に降り積もる最悪の展開の予想を、見て見ぬふりしながら。 
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