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本日のお題

作者:相生
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4/24 ヒーローみたい

 
前書き
 3Zじゃない学パロ。 

 

 本当に偶然だった。旧校舎に入っていく大勢のチンピラと土方さんを見つけたのは。
 土方さんが誰かと喧嘩したという話は嫌というほど聞いていたし実際喧嘩が強いらしかったが、その喧嘩を直接見た事はなかったから何となく興味が湧いた。本当にただそれだけで、心配なんてしていなかった。
 辿り着いたのは鍵が壊れて開きっ放しの屋上。俺は物陰に隠れて様子を見る事にした。
 確かに土方さんは滅茶苦茶強かった。素手で数人を殴り倒し、チンピラが持っていた竹刀を奪うとそこから暫くはあの人の独擅場。
 それでも、チンピラの数が多過ぎたらしい。怪我を負う事が増えて息が荒くなっていた。
 このままじゃまずいだろう。いくら喧嘩が強くても、人間の体力は無限じゃねェ。このまま放っておけば土方さんは確実に負けるだろう。
 ……仕方ねェ。後でしっかりご褒美貰わねェと。
 物陰から飛び出すと近くにいたチンピラが持っていた竹刀を強奪、手当たり次第に薙ぎ倒していく。
「おまッ……!」
 一番驚いていたのは土方さんだった。一瞬目を見開いて硬直したが、すぐに前を向いて喧嘩を再開する。
「何てこったィ。ヒーローみてぇなタイミングで出てきちまった」
「アホかァァァ! お前みてェなドSなヒーローがいてたまるか! つーか何でいるんだよ!?」
「部活サボる場所探してたら、偶然アンタがここに入るのを見かけたもんで」
「部活サボるなよ……」
 土方さんは心底呆れた顔をしながらチンピラをまた一人、二人とコンクリートの床に沈める。最初に比べたら格段にペースが落ちているのは、怪我のせいか、それとも俺が来たからか。勝手に後者と受けとっておく。
 いつの間にか背中合わせになりながらチンピラ達を伸していき、いつの間にか屋上には俺と土方さんだけになった。
 気絶していた奴らは逃げ出した奴が抱えていったようだ。無駄な掃除をしなくて済むので非常にありがたい。

「……で、土方さん」

 壁に背中を預けて煙草に火を点けている土方さんに近付いて声をかけると、あからさまに面倒臭そうな顔をされる。
「助けてやったんだからご褒美下せェ」
「俺ァ助けろっつった覚えはねーよ」
 紫煙を吸い込んで吐き出すその仕草が妙に色っぽくて、少しだけ興奮した。
「あのまま放置したらアンタ倒れるまで暴れてたでしょうが」
「……」
 責めるように軽く睨めば無言で目を逸らす。図星だ。何とも分かりやすい。
「土方さん」
「あー……褒美って、何が欲しいんだ。命とかはナシだからな」
「チッ」
「聞こえてんぞコラ」
 もう怒鳴る気力すらないのか、その声にはいつもの声量も迫力もない。結構出血してるから仕方がないか。
「凭れるなら俺に凭れて下せェ」
「……お前が優しいとか気味悪ィんだけど」
                                              
 言いながら煙草を携帯用灰皿に押し付けて素直に凭れかかり、肩に顎を乗せて遠慮がちに背中に腕を回して抱き着いてくる。そんな動作が堪らなく愛しくて、俺より大きな身体を強く抱き締める。
 この人は高い矜持が邪魔をしてなかなか素直になれないだけで、本当は結構甘えるのも甘やかすのも嫌いじゃない。
 こうして機会さえ作ってやれば、ぎこちない仕草で甘えてくる。俺だけが知っている、この人の顔。
「本当はすぐに保健室行かねェとだけど……」
「……先生いるだろ」
「だから、もう少しこのままでいやしょうか」
「ん」
 首を捩って見てみれば黒髪から覗く耳がほんのりと赤い。
「土方さん、ちゅーして下せェ」
「……」

 いつもなら断られるだろうお願いに、土方さんは気まずそうに顔を上げて――そっと触れるだけのキスをくれた。

 それが精一杯だったらしく、触れたのはほんの一瞬。それでも俺の心は充分過ぎるほどに満たされていく。
「何驚いてんだ」
「いや、断られると思ってたんで」
「……今日は特別だ」
 そう言って土方さんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 ――こんな顔を見れるなら、たまにはアンタだけのヒーローになってやらなくもない。 
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