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寄生捕喰者とツインテール

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告げられるは詳細

 
前書き
更新遅れてすみません!



それでは本編をどうぞ。

 

 
運が悪いとしかいいようが無い。

 それ程間の悪いタイミングで、会長は割り込んできたのだ。


「テイルレッド、が、観束く、ん―――」
「か、会長!?」
「……」


 余程ショックだったのだろうか、生徒会長・神堂慧理那はテイルレッドから元の姿に戻った総二を見て、仰向けに倒れ気絶してしまった。

 変身を解いてしまい疲労も残っているため駆け付けられず、あわやコンクリートに激突と言う所で何時の間にか傍にいたグラトニーが、化物の左手で上半身半分を掴むと軽々持ちあげ地面に寝かせる。


 それから総二の方を向き、特になにを言うでもなく見つめ続ける。沈黙に耐えきれなかったか、先に総二が口を開いた。


「え、えっとさ……俺、世間ではアイドルと化マスコット扱いで幼女だけど―――」
「……知ってた」
「実は見たとおり本当は男なんだ……って、え? ……えっ?」
「知ってた」
「……はい?」


 喰いぎみに、被せる様に言ってきたために本当に知っていたのであろうと推測はできる。だがしかし、総二がグラトニーの前で変身を解いた記憶は無い。
 そして世間では男勝りな幼女としても捉えられているので言葉やそぶりだけでは判断できない。

 なら何故か……そのからくりはグラトニー本人―――と言っていいのかどうかは、エレメリアンという未知の生命体なので分からないが、とにかく彼女自身の口から語られた。


「……属性力(エレメーラ)の量と質、お前とレッドでおんなじ。分からない方が可笑しい」
「マジか……するってーと普段の姿を見た事も……?」
「ある。でもたまたま」


 属性力で見分けられ正体を見破られるとは思わず、今までずっと騙しとおしていた事もあって盲点となっていた要素であったが、それはそれで何故アルティメギルの連中は見破る事が出来ないかと言う疑問も生まれる。

 それに対してはトゥアールが推論を出す。


『総二様…年これはもしかすると、アルティメギル所属のエレメリアンと、グラトニーちゃんやドラグギルディを倒した青年に、事件となった腕のおっきなエレメリアンは、名称が同じなだけで異なる種類なのではないでしょうか?』

「ということは、前に言っていた単純な感情と趣味嗜好で分けられてるって事か?」

『その説が濃厚でしょうね。強さも特殊能力もケタ違い、常識の捉え方すら別ですから。』


 例に挙げるなら人種の肌の色や酵素の違い、イグアナなら陸特化か海特化の違い。
 他にもあげればキリは無いが、種類が同じでも食性や生息地域が違ったりするのだから、エレメリアン内でも同じ事が起こったって何ら不思議ではない。


 すると唐突に荒い足音が聞こえたかと思うと、彼女の付人であり総二達の学園の体育教師でもある、桜川尊が角から飛び出さんばかりの勢いで走ってきた。


「はぁはぁ……お嬢―――さまっ?」
「あっ」
「……………………あ」


 会長が心配で必死に飛び込んできたは良いのだが、その会長は地面に寝かされ、傍には紫色の少女グラトニーが何をするでもなく棒立ち、少しばかり離れた場所には愛香を抱いた総二の姿。

 一体どうなったらこんな光景が広がるのか等想像できる筈も無く、突発的に思考が混沌としても仕方が無い。

 それを察して総二も思わず中身の無い音を呟いてしまったのだ……グラトニーは一応自分も驚いておかねばと思ったか、何度も振り向いてからの棒読みにも近い呟きだったのだが。


 だが、沈黙は数秒と続かなかった。


「……言いたい事、聞きたい事は山ほどあるが、今はお嬢様の御身と津辺君の容体確認が先だな。そちらは運べるな? 観束君」
「え? あ、あっ、はい」
「なら家かそれとも休憩所か……君たちの事情を考えれば、拠点と言うのが正しいか」
「何を言ってるんですか?」
「隠さなくても良いぞ観束君―――いや、テイルレッドといった方がいいか」
「!」


 何故今来たばかりなのにそれを……総二はそう言いたかった。
 だが、考えてみれば会長がテイルレッドを追いかけたのぐらいは予想が付いているだろうし、総二の格好から言って会長に襲いかかったとは考えにくいし、気絶した津辺愛香に何故か突っ立っているグラトニーが居る。
 恐らくは光も見えただろうしで、判断材料が多かったからこそ、此処まで推理できたのかもしれない。

 かなり早い桜川教員の切り替えを受けて、落ちつこうとしていた総二が逆に呆然として生返事となってしまい、続く言葉にも馬鹿正直に驚愕の色を浮かべ、呆然としてしまう。


「案内してくれ。事情から察すれば、そこでゆっくり話した方が良いだろうな」

『招いても良いですよ総二様。寧ろここまで隠し切れていたのは奇跡ですしね』

  
 何とか聞こえた単語を整理して、連れて行っても良いのかどうか確認しようとするも、その前にトゥアールは許可を出した為、総二は面倒事消化と許可承諾をクリアした事でひとまず安どし溜息を吐く。


 ……その後聞こえてきた荒い呼吸は聞かなかった事にして。


「あの、今回の事は秘密にしてくれると……」
「分かっているさ。侵略してくる変態共と、それこそなんら変わらん変態達が中心となっている世間でのあの馬鹿騒ぎ、これを公表したならどんな事が起こるか容易に想像が付く」
「先生……」


 火を見るより明らかなのは当然のこと。
 阿鼻叫喚の大騒ぎやテイルレッドへの幻滅、非難轟々浴びせられるだろうこともあるが、もしかすると開き直る上級者まで出てくる始末となる可能性もある。

 そして混乱が広まりバランスが崩れれば、アルティメギルにとって最大の好機を作ってしまう事に他ならない。


「想像か付くからこそ、だからこそ守ろう。―――そして結婚も付けてくれるならなお良しだ!」
「つけません」
「…………な~に、冗談さ。この婚姻届に誓おう」
「間がありましたよね? 冗談じゃないですよね? 絶対」


 しかし問題はもう一つ、いやもう一人いる。
 先程から大人し過ぎる程にずーっと沈黙したまま立ち続けている、そもそも何時来たかも分からないグラトニーだ。



 どちらも口を開かずにまたも沈黙が走る――――が、答えを出す前に彼女は顔を虚空へと向け目を細め、彼女の周りの空気が歪んだかと思うと、スーッと幻の様に瞬きする間に消えてしまった。


「へ?」


 それこそ、先程までそこに居たのは気の所為かとでも言う様に、物理的な気配も……(常識的に)余り言いたくは無いがツインテールの気配も、綺麗さっぱり消え去ってしまっている。

 何が起こったのか総二も、後方の桜川教員も理解できず、結局訳の分からぬまま当初より予定していた説明を行うべく、歩を進めざるを得ないのだった。




 そして恐らくは―――――






「……尾行する?」
『アア、用事があるかラナ。タイミング見計らエヨ』
「……ん」


 後ろに微かに残る空気の“揺らぎ” と、“二つの声” には、気が付いていないのだろう。

















 喫茶『アドレシェンツァ』への道を、正義のヒロイン・テイルレッドこと観束総二はテイルブルーこと津辺愛香をおんぶして歩いていた。

 先の戦いで思わぬ弱点が発覚した挙句、敵の悪足掻きでとうとう耐えきれず気絶してしまった為、仕方無く総二が彼女を背負っているのである。

 その後ろには生徒会長が桜川教員に同じように背負われ総二の後を付いて行く。


 すると、不意に彼等の視線が後ろを向いた。


「ん……う~ん……むぅ」
「如何したのだ観束? さっきから後ろを見て」
「いや別に……何でもないですけども……」
「? そうか」


 総二も総二で、普段はあまり見ない桜川教員のツインテールが気になる様で、耐えきれないか先程から何度も何度も、桜川教員から疑問に思われるぐらいの頻度でチラチラみている。

 それを言えば「ならばいつでも見られる様にしてやろう」と婚姻届が飛んでくる可能性を考え、総二は誤魔化せるかどうかは考えず咄嗟に嘘をついた。


 不審に思われたのは仕方ないが、それでも桜川教員はこの場では納得する事に決めたらしく、それ以上は追及せず黙って総二の後について行く。


 誤魔化し切れたと判断して一応用意していたポジティブシンキング準備は取りやめ、せめて気が付かない様に、機嫌を害していませんようにと祈りつつ、何時の間にやら数メートル地点までさしかかっていた実家であり喫茶店である『アドレシェンツァ』を指差した。


「此処が実家であり、基地の入り口でもある場所です」
「アドレシェンツァ? というと、意味は何だったか?」
「それは―――」
「ああ思い出した。確かイタリア語で思春期だったか……言っては何だが、奇妙な店だな」
「うっ」


 全く喫茶店とは関係の無いどころか、そもそも喫茶店とは縁遠そうな単語ではあるが、だからといっていきなり自分の親の経営する店を変だの奇妙だの呼ばわれれば、普通文句の一つでも言い返す所だ。

 ……が、彼の母親のあの(・・)性格と趣味の為、それに明確に反論できず総二は口ごもる。

 
 またも謎の一つを増やしながら、総二は喫茶店のドアを開ける。


「ただいまー……」
「あら、総二お帰りな―――あら? あらあら」



 彼に背負われている愛香に、後ろにいる桜川教員と更に背負われている会長。

 中々に難解な状況ではあるが、《アレ》な総二の母親・未春は目を伏せ意味深な笑いを浮かべる。

 彼女は差し詰め、総二の説明を受ける前に理解していた、といった方がいい雰囲気を醸し出している。


「ふふっ……へぇ、なるほど? そう言う事なのね……」
「なっ!? 母さん言わなくても分かったのか!?」
「ううん、ちょっとカオスに傾いてて思考が追いついてない部分があるわ」
「ならなんで分かった風を装うんだよ!?」


 訂正、理解など出来ていなかった模様である。

 いい加減そうやって知ったかを中二病風味で披露するのは止めてくれと、暖簾に腕押しだろうがそれでも言わずにいられず、総二は口がすっぱくなるほど言ってきた事を、再度口にしクドクド諭す。

 次いでどのような状況があって愛香を背負う事になったか、会長と桜川教員が付いてきているのかを説明し、こういった事態には慣れっこなのか未春はすぐに呑み込んで納得した。


 ポカンとなっている桜川教員に心の中で謝りながら、総二は『アドレシェンツァ』カウンター奥の大型冷蔵庫に歩み寄り、ボタンを押すと摩訶不思議、いきなり秘密基地へのエレベーターとなっていたことが露見し、桜川教員は再び驚愕する。


「こ、ここまでとは……!」
「ふふふ、驚くのも無理ないわ。部外者がここに立ち入るのは初めてですもの」


 総二にじーっと見られている辺り、彼に「あんたも一応部外者の類だろうが」と思われているのは想像するに難くなく、ダガどうにもならないのか溜息を吐く。

 流石にものの数秒で到着とはいかないがそれでも地下までの距離を考えればかなりのハイスピードで下っていくエレベーターの中、未春は不意に総二の方を向いて何故だか珍しく母親そのものの雰囲気のまま嬉しそうに微笑んだ。


「それにしても愛香ちゃん……それでもちゃんと “気絶し続けてるなんて”、やっぱり可愛い所があるわね~」
「何言ってんだよ母さん、愛香は普通に気絶してるんだから続けるとか関係ないって」


 台詞の途中で気絶している筈の愛香がピクッと動いた気がしたが、総二は気が付かず不安そうな顔を向けるだけ。

 未春はそのの薄にますます面白くなってきたと微笑みをニヤニヤ笑いへと変え、そのままエレベーターの扉が開いた途端、前方から無駄に元気の良い声が投げ掛けられる。


「何やっているですか愛香さん!? そんな何も無い絶壁、いや筋肉の塊を押し付けるなんて総二様に負担しか行ってないじゃないですか! 重しのまな板を背負って歩くなんて苦行を味あわせるとは一体どういう……」
「あらトゥアール? その体はちゃんと綺麗にしておいたかしら?」
「NO!? NOOOOOOOOOOOOO!!」


 訳の分からない文句を言いながらトゥアールが近付いた瞬間、気絶していた筈の愛香が起き上がり、その裏には何も隠されぬ怖い物しか感じない笑顔で彼女の頭を掴む。
 その後無駄に流暢な、ホラー映画の外国人女優顔負けの叫び声が室内で反響して、やまびこの様に何度も聞こえ、それが影響したか会長が目を覚ました。


「ここ……は……?」
「お嬢様、気が付かれましたか。それでは―――いや、説明は詳しい物からして貰う方が妥当か、頼むぞ観束君」
「わかりました」


 嘘を伝えれば余計に混乱すると踏んだか、総二は素直に真実を話す事にした。そこからは彼なりに短く分かりやすくまとめた説明を会長へ聞かせる。

 世間で語られているエレメリアンの事、並行世界と言うものがありトゥアールはこの世界の住人ではない事、戦う理由な何なのかと言う事、……トゥアールの世界が滅んだなどのショックを受けそうな部分は覗いて。


 それでも幾つか理解可能かどうか不安になる内容も存在していたが、見た事の無い技術が詰まったモニター付きの内装を筆頭に、湧出する怪人たちの変態発言、それに繋がる今まで自分が狙われていた理由を聞けば納得せざるを得ない。


 そこから暫く三人とも黙りこくり、部屋にはシリアスな雰囲気をギリギリぶち壊さない音量で、別室へ移動したか遠くから聞こえる打撲音と絶叫のみがBGMとして流れ、未春も空気を呼んでいるのか椅子に座ったまま彼等を見つめている。


「やはり、夢ではなかったのですね」
「会長……」


 意外にもショックを受けている筈である会長が一番に口を開き、物悲しげな笑みを浮かべる様に総二は心が痛んだ。

 トゥアールがそう仕組んでしまい、そうならざるを経ない状況下で、しかもテイルレッドの時は何故だか本人の望まない悲鳴を上げてしまう事もあり、ある意味仕方なかったかもしれない。

 だが理由がどうあれ騙しているのが事実で、しかも度々物理的な急接近もあったのだから、申し訳なさでいっぱいにもなる。


 何時の間に終わったかそこに立っていた、妙に曇りが取れた顔の愛香と、曇りは無いがボコボコニなっているトゥアールも、申し訳なさで一杯な表情を見せた。



「ごめんそーじ……アタシがもっと踏ん張ってれば、こんな事には……」
「いえ、私にも責任があります。気絶程度で変身が解けるなど、危険にも程がある設計にしてしまって……」
「いいよ、二人とも」


 総二がもういいと言った理由は、何も彼等に負担を掛けない為だけでは無かった。

 少しばかり捉える位置を変えると、これではまるで姿を見てしまった会長が悪いかのような空気となってしまう。
 それを避けねばと総二は謝りの言葉を深くは受け止めた上で、しかしその場は流すことにしたのだ。


 しかし……会長の口から出てきた言葉は、思いもよらぬものだった。


「いいえ、違いますわ」
「違う?」
「気の所為か、と言うぐらいに希薄な疑問でしたけども……私、もしかしたら観束君がテイルレッドではないかと、そう思っていましたの」
「「「え、ええっ!?」」」


 完ぺきに見破っているか、疑問に思っているかと言う違いこそあれども、まさかのグラトニーに続く露見前に見切った第二者が居たとは、総二達も驚きを隠せない。

 部室で会長にのみテイルブレスが見えたのも、朧気に観束総二とテイルレッドを結び付けていたからかもしれない。
 テイルブレスに付いている認識阻害効果は、僅かでも元の人物と結びつけてしまうとその途端切れてしまい、見た目や所作が似通っていれば一発でばれる可能性をはらむものである為、即ちブレスが見えたのは故障では無かったのだ。

 総二と愛香が、大口を上げてパクパクさせる様には構わず、部長は続ける。


「テイルレッドのあの腕に抱かれるたびに……何故かは解りません。けれども確かに、確かに1人の殿方の事思い浮かべていましたの。ツインテールが大好きで、その思いに愚直な程まっすぐな……1人の男の子の事を」
「トゥアールちゃん? 首尾はどうかしら?」
「上々でございますお母様。バッチリ録音完了、最高音質にて残しております」
「では、アーカイブに登録するとしましょう。キッチリとね」


 シリアスを隠れ蓑に何やらトゥアールと未春が悪だくみをしているが、総二は極力見なかった事聞かなかった事として、会長に目を向け続ける。

 否、会長のツインテールに、と言った方がいいかもしれない。真面目に他者を見ているのは、この時点で室内六人のうち三人、半々に分かれていた。

 ……と、何やら機械を操作していたトゥアールの動きが止まった。


「アレッ……?」
「どうしたの? トゥアールちゃん」
「お、おかしいですねぇ……? 此処に登録しておいた分の台詞アーカイブが段々と―――ってのおおおっ!?」
「うおっ!? ほ、本当にどうした!?」


 何やら珍妙な叫び声を上げたトゥアールに、話どころでは無くなってしまい一旦切り上げ、全員が腰を上げてパソコンにも似た機械を覗きこむ。

 何やら撮り溜められている画像やら、録音済みを示す♪マークが、それこそ凄い勢いで消えて行っている。

 どうもコレが原因らしく、トゥアールはヘッドバンギングまでし始めた。


「や、やめてくださあああぁぁぁい!? 苦心して抜き出し編集した総二様のエロボイスが! 先に取ることのできた慧理那さんの声が! 幼女の純真無垢な神動画がアアアアッ!!」


 ……まあ、大事なモノは人それぞれだし、別段重要なモノが入っている訳ではなかろうとは、ここにいる全員(トゥアール除く)察しがついていた。
 なので、未春こそ表情が分かり辛いものの、パソコン―――みたいな何か―――の前は、何処となく白けた顔のオンパレードとなった。

 全てとはいかなかったものの三分の二近く消えていしまい、orz と銀髪を垂らして落ち込むトゥアールに、何か話さねばと思った総二が口を開く。


「な、なぁトゥアール。何でデータが消えたんだ? は、ハッキングでもされたのか?」
「ぐしゅん……この機材は……属性力(エレメーラ)で動いています……ひっく……それを吸い取られた挙句……ずずぅっ……そこを媒介としてデータを揺さぶられ……文字通りの力技で……ぐすっ……データを何も残さず消されたのです……根こそぎなので修復も無理です……ひぅぅ」
「そ、そうなのか……」


 電気で動かせばよかったぁ……とこの上なく落ち込むトゥアールを見ている総二に、同情心がこれでもかと湧きでてくるが、データが消える前に騒いでいた台詞を思い出すとそれも沈静化してしまった。

 以前、トゥアールのおっぱい、などと不意に発言してしまい、それを記録されずっと痛い目を見ている総二からすれば、これ以上恥辱を生む言葉を増やさせてなるものかと、そう思ってうのが当たり前である。

 よって総二の中には、それでも何処となく湧いてくる、遣る瀬無い思いだけが残っていた。


 トゥアールを荷物の様に愛香は運んで行き、奥の部屋に置いておいた後、咳払い一つして総二は話を再開させた。


「ゴメン会長。折角あんなに応援してくれていたのに、根っこから騙す様な真似して……」
「いいえ、良いですわ観束君。ヒーローが正体を隠すのは、至極当然のことですもの」


 そこで会長は辺りを見回し、首を傾げながら総二の方を見た。


「そう言えばグラトニーは……」
「彼女は知っているかもしれないけど、奴等と同じエレメリアンなんだ」
「ああ、ニュースでやっていたな。だが、あんな奴等と一緒にはできないと思うが……」
「私達も良く知らないけど、如何やら種類が違うらしいの。簡単に言えばアルティメギルは変態共、グラトニーはある程度常識人、って言った方がいいかも」
「なるほど……しかし、此処に居ないと言う事は、やはり敵でも味方でも無いと言う事か」


 ニュースでも度々取り上げられるグラトニーは、今こそ人々を救ってくれる新たな第三のツインテイルズとして期待されてこそいるが、総二達の側からすれば現時点の目的はシンプルなれど『これからの目的』は謎な第三勢力。

 加えてドラグギルディを瞬殺した青年に、柿色の巨大腕を持ったエレメリアン、彼等単純感情のエレメリアンの情報を知っているかもしれないキーとなる人物であり、思った以上に複雑な関係ではあるが、今言うことでは無かろうと総二は口を噤む。


 その後情報を整理し終え、確りと頷いた会長(のツインテール)を見て、総二は真剣な表情で告げた。


「もう分かっているとは思うけど、俺達がツインテイルズだって事は秘密にして置いて欲しいんだ。テイルレッドとして、戦えなくなるかもしれないし……」
「おねがい会長!」
「ええ、勿論ですわ。これ以上、迷惑をかける訳にはいきませんものね」


 ツインテール好きでなくとも思わず目を奪われる、整えられた美しい下結びのツインテール。ふわりと揺れたそれをしかと見つめ、総二はある決心をする。

 イスから立ち上がり、工具箱からある者を取り出した。それは黄色い腕輪―――見紛おう事も無い、間違い無くテイルブレスだ。

 総二の意図を察した愛香と、何時の間にか戻ってきていたトゥアールの目が丸くなるが、総二はまっすぐに会長の元へ歩いて行く。


「トゥアール……このテイルブレス、会長に託しても良いかな」
「総二様……!?」
「そーじ!?」


 二人が総二に心を問い掛けるべく詰め寄り、溜めた台詞を言いかけたと同時、世にも奇妙な現象が起こる。


「あっ!? エ、エレベーターが勝手に!」
「ブレッッゥウッ!? 嘘おっ!?」
「閉まった……と言うかの登って行っていますね」


 そう、エレベーターが勝手に駆動し、上階へと移動していったのだ。
 当然部屋の中には六人以外おらず、他には気配すらないので、誰も利用していない事になる。

 ならば……何故勝手に起動していったのだろうか。


「閉じ込められたのか!?」
「いえ、呼びもどせばいいだけなので……しかし誰が」


 二度も発明品の所為でぶち壊された空気だが、今回も何とか取り戻し、テイルブレス譲渡の話へと戻っていく。






 時を同じくして、エレベータ内。

 そこでは『二つ』の声が響いている。


「やっぱり、もう限界?」
『アア、俺の力を徐々に流しこんで行っテモ、これ以上はもたネェ。流しこみ過ぎたら逆にばれるかラヨ』
「なるほど……でも」
『デモ?』
「おなか減った」
『この状況と全く関係無イナ、そして繋がりも無イ』


 そこに居たのは、グラトニーだった。

 『風陰東風(ふういんこち)』と名付けた隠密技と、ラースの助力で今の今まで隠れ続け、総二達の会話をずっと聞いていたらしい……が、しかし何時もと姿が違う。

 血走っている左目には眼帯が付けてあり、化物の様な左腕は小さくなり人間と同じ質感となっているが、隠しきれていないのか所々タトゥーの如く浮き出ている。
 それは右足も同様だった。

 服は何時の間に用意したのか、下は陸上選手顔負けの短すぎる短パンとスパッツ、上は肩部分が露出した袖口の大きい長袖の服だった。
 中央には口とピザのマーク、その下に “berryhungry……” と英語が書き記されている。


 何故人間の様な体となっているのか、そして何故ラースの声が表に出ているのか―――実は、先の戦いでエレメリアンを食べた際、漸く一定値に達した為、人間化とラースの声の表面化が出来る様になったのだ。

 ちなみに瀧馬に戻らない理由はと言うと、エレベーター内に何が仕掛けられているか分かったモノではない為、エレメーラ摂取と力のセーブ、正体隠蔽が同時に行える格好でいるのだ。
 また、万が一客が居た場合の対処の理由もある……が、実はもう “close” の札は欠けてあるので、この理由で気を張るのは徒労であるのだが。


 エレベーター内にはやはりカメラと録音機材があり、そこから微妙に吸い取り続けて、機能を狂わせていた。
 先のトゥアールのデータ消失事件も、恐らく彼らの犯行だろう。


 ……エレメーラ摂取よりも、くだらない事に対する怒りに思えるのは、此方の気のせいだろうか。


「会長、ツインテイルズに入るのかな……」
『だとしタラ、単純感情種の話は一旦お預けダ。新人なのにアイツらの相手何かしタラ、瞬く間に喰われっちマウ』
「うん……妥当」

 漸く喫茶店内へと着いたエレベーターから降りると、やはりか存在する監視カメラの所為で戻れず、仕方なしに少女姿のままで閉まるエレベータののドアを見やる。


『だから今回は偵察で終わらせたノヨ。アジトも分かったナラ、今後幾らでもチャンスはあらァナ』
「あ、カレーの匂い……独自のスパイス……
『いや聞けケヨ? てかその姿でも喰う事ばっかカヨ』


 名残惜しいのか何度も振り向きながら、ジュルリと涎を垂らしながらも扉を開け、此処に入る際入口に陣取り座っていた男が、あれから結構時間がたつのにまだ入り口で黄昏ている様を横目で見やり、関係無いと無視して歩き出す。


「ああ、マスター……俺は何処へ行けばいい? 俺にとっての安息の場(いえ)など、もう此処にしか残っていないと言うのに……(もど)ってこられたのかも、解らないと言うのに……」

「……アレは……何?」
『いい年こいての中二病ダロ』



 身も蓋もない意見でバッサリ切り捨て、二人は帰路へと着くのであった。


「決まり。カレー屋に行く」
『そりゃ金はあるけどナァ……そんなに喰いたかったのかよカレー』
「うん」
『即答カイ』



 否、帰路には着けない様だ。

 次の日のニュースや新聞に、

『謎の大食い少女現る!
 1人で特別メニュー“ジャンボカツカレー” のビーフのロース、ヒレ、豚のロース、ヒレ、チキン、フィッシュ、コロッケ風味、他三種全てを完食! 
驚異の胃袋は正にモンスターガール!』


 との見出しや特集が組まれたのは、また別の話。 
 
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