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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第30話 会話が切られるきっかけって大体がクシャミ

 
前書き
どうも、蛹です。
「ハクションッ!!」と急にクシャミをされたら会話が止まりますよね。
話している本人がしたら当然止まるし、話していない人の場合でも
大きさによってはビックリして止まってしまいます。
まぁ、だから何だという話ですけど。

雷が鳴った瞬間に異変が起こったジェーン。
彼女が雷を恐れる理由とは?
残念なことに今回だけではわかりません。
意外と5000字は短いんです。
よくある数話かけての過去編で明かしていきます。

それでは第30話、始まります!! 

 
「‥‥‥‥‥‥‥‥うぅ」

俺は寒気を感じて、ようやく目を覚ました。
頭痛がして、とても気分が悪かった。
周りを見ると、全員は各々楽なのであろう体勢で休んでいた。

「あ、起きたよ!」

マリーは俺の方に駆け寄りながら言った。
他の全員も俺の方を見ている。

「そうか、それなら良かった」

迅は一息つくとそう言った。
よく見ると、シートで作ったような
簡易的なテントのようなモノの中にいた。

「ん?そうやって作ったんだって言いたげな顔だな。
 俺達が持ち合わせていたシートを全部繋げて、雨を完全に防いでいる。
 柱は枝を凍らせて補強したものを、四隅もそれで固定している。
 山のど真ん中に作ったものだが、土砂崩れでもない限り危険はない」

成程、それでさっきから寒かったのか。
地面にもシートを敷いたことで濡れないようにしている。
天井のシートの隙間も凍らせることにって解決している。
寒いという点を除けば、これは最善の策だろう。
リオさんの"超技術″はなかなか便利なものだった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

毛布も多めにかけられていて、とても暖かい。
誰の物かは分からないが、後で返すべきだろう。
このままだと、持ち主が寝ることが出来ないからだ。
だが、それよりも‥‥‥‥‥

「誰もあの時の事を問わないのか、って顔だな」

アスラは俺の心を読んだかのような事を言った。
そして、それは見事に御明察である。
俺は軽くうなずいた。気分は優れないが、このくらいは出来る。

「‥‥‥別に訊く気はねぇよ」
「なっ‥‥‥‥!?」

その言葉に俺は驚かされた。よく覚えてはいないが
おそらく相当な取り乱し方をしていたはずの
普段の俺からは想像もできない姿を見て
その原因を問う気がないだって?
あまりにも意外な事だった。

「誰にだって言いたくない事の一つや二つあって当然さ。
 それを無理矢理言わせるのは、可哀想だからな。
 お前の方から言いたくなるのを待つことにしたのさ」

今まで恐れていた。このことをいつか問われる事を。

「それに、これはオレ達全員の言葉だ」

だが、彼らは決して俺に無理をさせなかった。
彼らにとって、俺はすでに仲間だったのだ。
仲間に無理はさせない。それが全員の優しさだった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥ッッ‥‥‥」

目から涙が溢れそうになったので、俺は片手で顔を隠した。
駄目だ。俺は女を捨て、弱い心も捨てたんだ。
優しさに心を動かされるようじゃ駄目なんだよ。

「ジェーンちゃん」

 ぎゅっ

不意に全身を温かさが包み込んだ。
毛布とはまた違うものだった。
マリーが俺を抱擁しているのだ。

「無理しちゃダメだよ?
 ジェーンちゃんは女の子なんだから」

そして、片方の手で俺の頭を後ろから撫でた。
俺は彼女に慰められていた。

「それは捨てても、何をしても変わらない」

彼女は俺の頭を撫でながら続けた。

「誰にも頼らずに生きていくなんて無理なんだよ。
 それは男の子でも女の子でもいっしょ。
 だから、頼っていいんだよ?」

溢れる涙を止める事が出来なかった。
俺はしばらく、声を出すことなく
彼女に抱き着いたまま泣き続けた。



    **********



「‥‥‥‥‥グスッ‥‥‥‥ありがとう」

俺は毛布にくるまって体操座りの状態で謝った。
目が腫れて少し痛かった。

「全然いいよ。仲間だもんね♪」

マリーは笑顔で言った。
俺は目を逸らして少し照れた。

「何だよジェーン?お前泣いてたのかよ」

ホークアイは笑いながらそう言った。
何故だかズブ濡れになっている。

「お前、見張りはもういいのか?」

アスラは少し慌てて彼に訊いた。
ホークアイは鼻を軽く啜りながら答えた。

「あぁ、もう空は晴天、とまではいかないが
 嵐はすでに過ぎ去ったし雨も止んだよ。
 もう見張りは必要な‥‥‥‥ハクションッ!!」

言葉の途中に大きなクシャミをした。
そして、また鼻を大きく啜った。

「クソッ、カッパまでテントに使うはめになった上に
 オレは外で見張りをする羽目になるとは
 不運にもほどがあ‥‥‥‥‥ハクションッ!!」

要するに、彼がズブ濡れなのは外で見張りをしていたからで
カッパも何も雨具を着ていないから、風邪を引いたと。

「グスッ、どっかタオルないか?」

それを聞いた迅はバックの中を漁ると
タオルを一枚引きずり出した。

「ほら、ホークアイ」
「おっと。ありがと、迅」

投げ渡されたタオルでホークアイは
頭を拭いて水気を拭きとった。

「あーあ、銃まで濡れちまってるよ。弾、大丈夫かな?」

そして、相棒である銃をホルスターから取り出して
銃身の水気を拭きとり、弾倉を取り出した。

「ちくしょう、やっぱ中に置いとけば良かったぜ‥‥‥‥」

そのまま地面に座り込んで銃を分解しながら
ブツブツと何かをつぶやいていた。

「‥‥‥‥ホークアイ!!」
「んおうッ!!?」

こちらに背を向けて銃の整備をしていたので
俺に声をかけられた瞬間、変な声を上げて驚いた。

「な、何だよ!?」

ホークアイはすぐに顔をこちらに向けた。
俺は少し息を吸って心を落ち着かせた。

「‥‥‥みんなも‥‥‥‥聞いてくれ」

そして、着ていた上の服を脱いで
あの火傷の痕が見えるようにした。

「今から‥‥‥‥この火傷についての話をする」

そして、俺は過去の体験を全員に語り始めた。



    **********



7年前、俺はアメリカに住んでいた。
その時の俺は少し活発な普通の少女だった。
この後、戦いに関わることになるだなんて
考えもしなかったぐらいだ。

「ジェーン、みんなとは仲良くしてるかい?」

この人は俺の父親である。
きりりと通った眉、端整な顔立ち。
自慢じゃないが、なかなか男前な顔立ちだった。

「うん!あれ、お父さんは今からお仕事なの?」

バックの中によくわからない道具を入れている様子から
いつもの仕事に出るのだろうと予想が出来た。

「あぁ。だから、おばさんにはよろしくな。
 いい子で待ってるんだぞ?」
「うん!行ってらっしゃ~い!!」

俺は大きく手を振りながら笑顔で見送った。

そして、今の会話で分かるだろうが
俺には母親がいない。
だが、別に離婚したというわけではない。
病気で亡くなったとのことだ。
とても綺麗で優しい女性だったと聞いている。

そして、母親の代わりに隣のおばさんの家に世話になっている。
おばさんの家には男の子が一人いて、その子とも仲良しだった。

 ガチャッ!

「お邪魔しまぁ~す!マイケル遊ぼー!!」

勢いよく隣の家のドアを開けて
大きな声でこう叫んだ。

「あらあら、今日も元気いっぱいねぇ。
 マイケルは先に遊びに行ってるわ。
 公園って言ってたから、そこにいるはずよ」

マイケルとは、さっき言った男の子の事である。
まったく、家で待ってるって約束したくせに。

「私も公園行ってくる!」
「あ、ちょっと待って!」

踵を返した俺をおばさんは引き止めた。
俺は振り返って聞いた。

「何?忘れ物?」
「家の鍵はしっかり閉めた?」

行くときに家の窓はすべて閉めて鍵をかけたし
裏口や表のドアの鍵もしっかり確認してきた。
俺は銀色に輝く家の鍵をポケットから取り出した。

「しっかり閉めたよ!」
「そう。じゃあ気を付けてね」

彼女は笑顔でそう言うと家事を再開した。
俺はドアを閉めて、今度こそ公園に向かって走った。


 ー公園ー


「よーし、いっくぞーーーッ!」

 ドカッ!

蹴り上げたボールは空中に弧を描いて
俺の足元まで飛んできたので、俺はトラップで止めた。

「次はあたしの番だぁ!!」

言い忘れていたが、俺は昔は一人称が“あたし”だった。
俺はドリブルで相手を次々と抜いて行った。
誰も俺を止められないかと思われた。しかし‥‥‥‥

「もらった!」

 パシッ!

マイケルは爪先で突くように俺の足元にあったボールを蹴り飛ばした。
ボールは主を失い、ただ次の主を求めて向こうへと転がって行った。

「待てーッ!」

俺は一心不乱にボールを追いかけた。
そして、ようやく追いついて足で止めると
そこはすでに公園に敷地内ではなく、車道の上だった。

 キキィィィーーーーーーーーーーーッ!!

黒い車が俺の姿を確認してブレーキを踏んだ。
しかし、とてもじゃないが間に合いそうにはなかった。
轢かれる。そう確信した俺は目をギュッとつぶった。

「危ないッ!ジェーーンッ!!」

 

 






記憶が抜け落ちていた。何があったのか。
俺は何故、車道で寝ているのだろうか。

「う‥‥あ‥‥‥痛っ‥‥‥」

どこで怪我したのか。体に擦り傷が出来ていた。
そして、あの時の光景が鮮明に思い出された。

危ないと叫ぶ男の子。

俺は再び目を開く。

黒い鉄の塊はすぐそこに来ていた。

男の子は俺を突き飛ばした。

俺はそのまま転がった。

そして、意識を失った。

「‥‥あっ‥‥‥マ、マイケル‥‥‥」

俺は身体を起こして周りを見回した。
そして気付いた。ここは歩道だった。
車道が隣に見えたので勘違いしただけだった。

「あ。大丈夫か、ジェーン?」

マイケルが俺に訊いてきた。
おそらく突き飛ばしたのは彼だろう。
よく思い出してみると、彼の声だった。
そして、俺を突き飛ばした後
そのままの勢いで避けたのだろう。

「イテテ、おれもこけちまったよ。ハハハ」

否、勢い余ってこけたらしい。だが
そのおかげで、車に轢かれなかったようだ。
代わりに腕や脚には擦り傷がたくさん出来ていた。
彼は自分がドジをしたかのように笑った。
その原因を作ったのは俺なのに。

「う、うぅ‥‥‥‥」

俺の目に涙が溜まっていった。
そして、それはそのまま頬を伝って地面に流れ落ちた。

「ごめんね‥‥‥あたしのせいで‥‥‥グスッ」

あまりの情けなさに涙が出てきた。
周りのみんなは心配そうに俺に
「痛いの?」「他にも怪我してるの?」と声をかけて来る。
だが、それが逆に俺の心を追い込んだ。

「とうっ」

 ビシッ!

「いたっ!‥‥‥マイケル‥‥」

マイケルは俺の頭にチョップを打ち込んだ。
俺は片目を擦りながら顔を上げた。

「お前よりおれの方が強い。
 もしお前が困った時はいつでも助けてやる」

マイケルの一言に俺はポカンとしていた。

「女の子を守ってあげるのが男の仕事だって
 ママが言ってたからな。だから
 お前が気にする必要はない」

そう言って、俺に笑顔をくれた。
照れくさそうな、はにかんだ表情だった。

「あ、あり‥‥‥が‥‥‥とう‥‥‥」

俺は嗚咽しながらお礼を言った。
そして、そのまま泣き始めた。



俺は他人を不幸にする星の下に生まれたらしい。
今回のような事故だけでなく、前にも何度か
一歩間違えば死んでいたであろう事故が起きていた。

“俺が大切だと思う人”ほど不幸はより強くなるようだ。
現にそれが当てはまるおばさんやマイケル、父さんは
よく不幸に襲われている。

つまり、俺は人を大切に思えないのだ。
いや、思ってはいけないのだ。

大切だと思ってしまえば、その人は不幸になる。
幸せに生きる権利を持つ人々を不幸に落とし込む。

俺は‥‥‥‥‥‥‥自分を恨んだ。



 ザーーーーーーーーーーーーーーーーーッ



朝から嵐が俺たちの町を襲っていた。
豪雨が窓を叩き、暴風が木々を揺らしていた。

「今日、天気悪いね‥‥‥」

俺は窓の外を眺めながら言った。
外には誰一人出歩く人は見えなかった。

「そうだなぁ‥‥‥‥‥」

父はそう言うと、さっき入れたコーヒーを飲み干した。

「お父さん、今から頼まれてた修理に出るけど
 ジェーンは危ないから外に出ないようにね」

ティーカップを流しに置くと
父はいつもの道具とコートを掴んで
入口へと向かって行った。

「お父さん、気を付けてね‥‥‥‥」

自らの不幸と言う名の呪いを知っていた俺は
バッグを床に置いてコートを着る父の後ろ姿に心配そうに言った。

「あぁ、ジェーンも気を付けるんだぞ?」

 ギィ‥‥‥ッ

そう言って開いたドアの隙間を通って向こうに身体を運び。

 ガチャンッ

ドアを閉めた。ドアに張られたガラスから覗く
父の後ろ姿が完全に見えなくなるまで俺は立ち尽くしていた。

「‥‥‥‥帰って来るよね」
 
確信のない不安が俺の中に広がっていった。



    **********



「‥‥‥‥‥ヘクシュッ!」

俺は話の途中に大きなクシャミをした。
そして、鼻を啜った。

「この中で上を脱いだら、そりゃ寒いだろうな」

アスラは笑いながらそう言った。
話しているうちに完全に体が冷えてしまったようだ。
しかも風邪を引いているというのに
この服装は愚行というに他ならない。

「早く服を着た方がいい。これ以上
 風邪がひどくなったら大変だからな」

迅にそう促されたので俺は上を着た。
よく考えたら、包帯で隠れてたとはいえ
ほぼ裸の上半身を全員の前に晒していたのだ。
そう思うと、急に恥ずかしくなった。
熱とは別のもので身体が熱くなるのを感じた。

「はい、ジェーンちゃん」

マリーが俺に毛布を掛けてくれた。
俺はそれで全身をくるんだ。

「何かスゴイ気になる所で切られたな‥‥‥」

リオさんは先が気になってしょうがない様子だった。
物凄くソワソワしているのが見て分かる。

「で、どうするんだ?続きは」

ホークアイは止めていた銃の整備を
再開していいのか否かを問いたいようだ。

「あぁ、もちろん話すさ」

また熱が上がったのか、視界が少しぼやけて来た。
だが、今を逃せばもう話す勇気は出ないかもしれない。
俺は再び過去の話を始めた。 
 

 
後書き
テントをあり物だけで作るとは‥‥‥‥リオさんの能力はなかなか便利です。
氷は天然の接着剤かつ、隙間を埋める役割までも果たしています。
凍結能力ってけっこう便利なものなんですよ。

ジェーンの半生を少し語りましたが、まさか不幸を呼ぶ少女とは。
故に彼女は孤高を好んだ。いや、そうするしかなかった。
仲間なんて存在は、おそらく真っ先に不幸に会うでしょうからね。
ですが、彼らなら大丈夫。なぜなら彼らは"侵略虫″と戦う″鎧人″なのだから。
(一人は″侵略虫″だし、もう一人はただの人間ですが)

そしてやっぱり、5000字は長いようで短いです。
確かに、普通に書いていると長いのですが
ノリに乗って来ると、途端に短く感じます。
これを何とかするのが我々小説家なのですが
やはり素人には難しい話です。
でも、頑張ってこれからも皆様の読みやすいように
話を書いていきたいと思います。

次回 第31話 開けてはならない背中のチャック お楽しみに! 
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