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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 中学編 12 「キリエとのデート?」

 週末、俺はフローリアンの買い物に付き合うため、とある公園にやってきた。
 本格的な夏を迎えつつあるため、翠屋といった馴染みの店を待ち合わせ場所にしようかとも思ったのだが、フローリアンと一緒に居るところを知り合いに見られるのは困る。
 はやてとかシュテルとか……俺の知り合いには面倒なやつが多いからな。何度注意しても聞かないし、より自分が面白い方向に持っていこうとするから実に面倒臭い。あのへんがなければもっと楽しい時間を過ごせるんだけどな……まああれはあれで楽しくはあるんだが。そう思えるのが後日になるだけで。

「あら、早いのねん」

 背後から覚えのある声が聞こえたため振り返ってみると、そこにはTシャツに短パンと年相応の格好をしたフローリアンの姿があった。普段やたらとセクシーさを強調してくるので、てっきり私服の肩が出ていたりと露出が多いとばかり思っていたがこれは意外だ。

「女の子よりも先に着てるのはポイント高い……その顔は何なのかしら?」
「いや……別に」
「……はは~ん、さては私のあまりの可愛さに見惚れてたのね」

 格好について思考はしていたが別に見惚れていたわけではない。無愛想だの女心が分かっていないだの言われる俺だが、これでもそれなり異性との交流はあるのだ。
 というか、はやてとは小学生の頃から頻繁に会っていたし、足が治ってからはこれまで行けなかった場所に一緒に行った。あいつはデートと口にしていたが、感覚としては家族で遊びに行っているようなものだっただろう。
 だが異性としては最低限意識しているし、デートと見ることもできなくもない。同年代に比べれば、俺は異性との交流に慣れているのではないだろうか。はやてやシュテル、目の前にいるフローリアンといったあるカテゴリに分類される人物の相手が得意なだけかもしれないが。

「お前は元が良いし、性格的にコスプレしても似合うだろうさ」
「うーん、何かしらこの褒められているようで貶されている感じは。あのねショウ君、そこは普通に褒めるだけで良かったんじゃない?」
「フローリアンみたいなタイプは褒めると調子に乗るだろ」

 もしくは純粋な気持ちで褒められると照れるかもしれないが……変に意識されたら俺までおかしな気分になる。今日はあくまで先輩との過去を知るために買い物に付き合うだけ。必要以上の言動は避けるべきだ。

「あら、その発言はまるで過去に女の子を褒めるシチュエーションがあったってことかしら」
「一応俺にだって親しい異性くらいいるからな」

 親しい故に甘えてくるというかじゃれてきて面倒臭いことが多々あるが。特にはやては普段は素直に褒めろとか感想を言えと言ってくるが、本気で言うと大いに照れる。そして決め台詞のように「あんまそないなこと言うとると女の子が誤解するで」と口にするのだ。
 女心が分かってないだの言ってアドバイスをしてくるくせに真逆のことを口にする。あいつのおかげで余計に女心というものが分からなくなっている気がするのだが、それは俺の気のせいだろうか。
 まともな感性をしていそうなディアーチェにでも聞いて……いや、これはこれで嫌な流れになりそうだな。まずディアーチェはあまりこの手の話が得意ではないし、義母さんにでも聞かれたらあの人の餌食になる人が出てくる。
 ここは……桃子さんやリンディさん、エイミィあたりに聞くのが無難だろうか。いや待てよ、前者ふたりだとなのはやフェイトと云々という話になりそうな気がする。あの人達意外と茶目っ気があるから。エイミィに関しては……名前を挙げてみたけど頼りないよな。仕事してるときは頼れるお姉さんって感じがするけど。

「ショウ君、親しいと口にしながらそんなげんなりとした顔をするのは、あなたの脳裏に浮かべられた人達に悪いんじゃないかしら?」
「問題ない。本人の前でもするときはするから」
「そういう問題なのかしら……まあ私には関係ないことだから別にいいんだけど」

 別にいいというなら呆れたような顔をしないでもらいたいんだが。というか

「予定よりも少し早いが、揃ったんだからさっさと出発しないか? ここにいるのは暑いし」
「あのさショウ君、何だか言い回しがあれだから言っておくけど今日がデートだって分かってる?」
「買い物に付き合うだけだろ?」
「それでも女の子と出かけるんだからデートでしょ。それとも……私は女の子に見られてないのかしら? 楽しませてくれないと昔のことは教えてあげないわよ♪」

 フローリアンは右手の指を口元に当てながらいじわるな笑みを浮かべる。このような仕草が似合って見えるだけに余計に苛立ってしまうのは俺だけだろうか。
 デートという点についてはまあ認めてもいい。確かに男女が一緒にどこかに行く行為はデートと思われても仕方がないことなのだから。
 しかし、ろくに互いのことを知らないのに楽しませろとはハードルが高いのではないだろうか。俺は明るくはしゃぐほうでもなければ、自分から話題を振って楽しませるタイプでもないのだが。

「まあまあそんなに緊張しないで。ショウ君はショウ君らしく振舞っていればそれでいいから。変にキャラ作られても意味がないし」
「意味がない?」
「別に大した意味はないわよん。素のあなたがどういう人間なのか知りたいだけ」
「……それなりに意味があるように思えるんだが?」
「それはあなたの受け取り方しだいよん。ほら、出発するんでしょ。私、まだこの街に慣れてないからリードよろしくねん♪」

 フローリアンはそう言うと俺の腕に腕を絡ませてきた。柔らかな感触が触れているのは俺の気のせいではあるまい。また花のような香りが鼻腔をくすぐり、緊張にも似た感情が芽生えてしまう。
 身体的接触はレヴィやユーリと手を繋いだりするため、同年代の男子と比べると慣れているかもしれない。だがしかし、あのふたりはあまり異性を意識していない。それがあるから耐えられるのだ。さすがにフローリアンのような相手には無理だ。

「……頼むから離れてくれ」
「あら、親しい異性がいるって言う割には意外と初心なのね」
「親しい=身体的距離が近いってわけじゃないだろ。というか、面白半分でこういうことするのはやめろよな」

 俺はこの手のことにある程度慣れがあるから勘違いしたりしないが、他の男子なら「まさかフローリアンさん……俺のこと好きなんじゃ」とか思ったりしてもおかしくないぞ。フローリアンが相手は選んでると言っていた様な気もするが。
 まあ正直に言えば、他の男子は勘違いしてもいいから俺にちょっかいを出すのをやめてほしいと思っている。ただでさえ俺の周りには、はやてとかシュテルとかレヴィとか接するのに体力を消費する人間が多いのだ。これ以上増えないでもらいたいと切実に願うのは当然だろう。

「仕方ないわね。でも隣を歩くのはOKよね? それとも少し後ろを歩くべきかしら。ここではそういうのができる女なんでしょ?」
「隣でいい……後ろにいて何かされるよりは」

 というか、今フローリアンが言ったのって大和撫子的なことだよな。月村あたりはそういう教育されててもおかしくないけど、一般人は今時少し後ろを歩いたりはしないだろう。
 そんなことを思いながら俺はフローリアンと歩き始め、街を回ることにした。まずは衣類やアクセサリーを見てみたいということで昔からはやてへのプレゼントを買っていた馴染みのある店に案内する。
 店内に入ると涼しい空気が体中の熱を奪い始め心地よさを覚える。その一方で、視線をフローリアンに向けてみると、それなりに瞳を輝かせていた。世界が違っても女の子に大した違いはないらしい。

「パッと見た感じ品揃えも良いし、お客さんも多くて雰囲気も良いなかなかなお店じゃない」
「そいつはどうも」

 正直女性ものはプレゼントとかで買うことがあるが、基本ここでくらいしか買わないから他に店知らなかったんだよな。気に入ってくれたようで何よりだ。

「じゃあ片っ端から見て回ろうかしら」
「……全部見て回るみたいに聞こえたんだが」
「ショウ君、良いことを教えてあげるわ。女の子のお買い物は長いのよん」

 いやいや、早い奴は早いだろ。たとえば……はやてとかディアーチェとか。買出しなんてすぐに済ませるぞ。他は……うん、まあ人並みには掛かるな。今日1日はフローリアンに付き合うって決めてるわけだし、ここは潔く諦めますか。

「はいはい、じゃあ入り口あたりで待ってくるからゆっくりどうぞ」
「あら、ショウ君も一緒に見て回るに決まってるじゃない。似合ってるかどうか聞く相手はほしいし」
「何でも似合うので俺の意見は必要ないと思います」
「却下、君も一緒に来るのよん」

 ……分かったよ。でも服とかアクセサリーのところしか行かないからな。男の俺が水着とか下着の売り場に行ったら問題になるだろうし。
 軽い足取りで店内を進んでいくフローリアンのあとを追う形で俺も歩いていく。それなりにカップルや親子で来ている客がいるので居心地はさほど悪くないが、抵抗を覚えてしまうのは俺がまだ彼女に慣れていないからだろう。

「あ、ショウ君これなんかどうかしら?」

 フローリアンが手に取ったのは淡い青色のシャツ。見ている者に涼しげな印象を与えるので夏場の服としては好ましいだろう。だがしかし

「……何で男物なんだ?」

 今日はお前の買い物に来たはずだろ。どうして男物に手が伸びるんだ。発育の良い体が原因で大きめのサイズがほしいとしても、お前くらいの体格なら女性用の大きめのサイズで事足りるだろうに。

「何でってショウ君に合うかなって手に取ったからよ」
「俺のじゃなくて自分のを選べよ」
「別にいいじゃない。時間はたっぷりあるんだし、淡々と買い物をするだけじゃつまらないでしょ」

 いや別につまらなくはないし、可能な限り早く終わらせてもらったほうが個人的にはありがたいのだが。一緒に居る時間が延びれば延びるほど知り合いに出会う可能性が高くなるし。ディアーチェあたりならまだいいが……

「……え」

 なぜ自分に都合が悪いことを考えるとそれが現実になってしまうのだろうか。
 目の前には服を手にしている金髪の少女。長く伸びた髪は先端のほうで結ばれてばらつかないようにしてある。こちらを見る顔は驚愕のまま固まっており、実に分かりやすい反応だ。
 少女の名前はフェイト・T・ハラオウン。かつてこの店でクロノへの服を一緒に選んだことがある人物だ。彼女ならばここにいてもおかしくはないが……今日に限って会わなくてもいいだろうに。



 
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