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蟹の友情

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2部分:第二章


第二章

「だからね。よかったらね」
「よかったら?」
「この沼に住まない?一緒にね」
「えっ、いいのかよ」
「僕は毒には何ともないし」100
 彼の特殊な体質だ。毒が効かないのだ。
「だから。君さえよかったら」
「ここにいていいのかよ」
「いいよ。一緒に住もう」
 こうヒュドラーに提案するのだった。
「二匹でね」
「俺をここに住ませてくれるのかよ」
「だって。君も居場所がなくて僕もずっと一匹だから」
「だから一緒にか」
「一緒にいよう」
 ヒュドラーに対して言っていく。
「ずっとね」
「ずっとここにいていいんだ」
「いいよ。君さえよかったらね」
 カルキノスのこの言葉にだ。ヒュドラーは。
 静かに笑ってだ。こう彼に答えた。
「有り難う。それじゃあ」
「うん。一緒にいようね」
「ずっとね」
 こうしてだ。彼等は一緒にいることになった。カルキノスとヒュドラーはいつも共にいた。
 ヒュドラーが餌を取りに行き帰ってくるとだ。カルキノスもそうだった。
 カルキノスは山のよ様な魚を取って来ていた。そしてヒュドラーは大きな鹿だった。
 それぞれ持って来てだ。お互いにこう話すのだった。
「凄いね鹿なんて」
「お魚をそんなに一杯獲ってきたんだ」
「君も食べると思ってね」
「僕もだよ」
 こうお互いに話すのだった。沼のほとりで。
 沼はいつも通り暗く澱んでいる。空もそうなっている。
 周りも朽ち果て実に暗い。しかしだ。
 彼等はお互いに笑っている声でだ。話すのだった。
「だからこれをね」
「これだけね」
「そうだね。じゃあ一緒にね」
「一杯食べよう」
 こうしてだ。お互いに獲ってきたものを仲良く食べ合うのだった。彼等は何時しかそんな仲になっていた。そしてその中でだ。カルキノスは沼の中でだ。こうヒュドラーに言ったのである。
「僕は君の友達だから」
「だから?」
「君に何かあればね」
 その時はだというのだ。
「絶対に助けに来るから」
「俺を助けてくれるんだ」
「だって。友達だから」
 友だから。だからこそだというのだ。
「君を助けたいよ。何があってもね」
「俺にそんなこと言ってくれるんだ」
「そうだよ。友達だからね」
 沼の中で共に泳ぎながらだ。ヒュドラーに話すのだった。
 沼の泥は黒い。底さえ見えない。そして彼等の他には何もいない。
 その暗い沼の中でだ。彼はこうヒュドラーに話すのである。
「だからだよ」
「俺を。そうしてくれるんだね」
「そうだよ。そうするから」
「そうだね。じゃあ俺もね」
「君もなんだ」
「俺もカルキノスを助けるよ」
 ヒュドラーもだった。こうカルキノスに言うのだった。
「友達だからね」
「そうしてくれるんだ。君も」
「友達だから」
 まさにだ。それ故にだというのだ。
「そうするよ」
「じゃあお互いにね」
「何かあったその時は」
「助け合おう」
「そうしよう」
 ヒュドラーは暖かい声でカルキノスに応えカルキノスもそのヒュドラーに頷く。暗く冷たい沼の中だがそれでもだ。彼等は今は温もりと明るさを感じていた。
 
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