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子供

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3部分:第三章


第三章

「もう二人共何騒いでいるのよ」
「むっ、母さんか」
「お袋かよ」
 二人はその女の人に顔を向けて言った。
「もう食器洗いは済んだのか」
「今ね。それで何の騒ぎなの?」
「こいつはわしの息子か!?」
 いきなり妻に対して無礼極まることを言う為由だった。
「左利きでしかもピッチャーでじゃ」
「お父さん、為雅の顔いつも見てるでしょ」
「うむ」
 妻の言葉にまずは頷く。
「それこそ毎日な」
「見たくもねえぜ」
 為雅は為雅で悪態をつく。
「ったくよお、うざいったらありゃしねえよ」
「わしにそっくりじゃ」
「それでどうして自分の子供じゃないって言えるのよ」
「それはそうじゃが」
「それとも」
 ここでお母さんは両手を腰に当てて怖い顔をしてきた。
「私が浮気したとでもいうのかしら」
「め、滅相もない」
 青い顔になってそれは否定する為由であった。
「母さんに限ってそれはな」
「そうでしょ?だったらわかるわよね」
「うむ、確かに」
「顔も性格もそっくりじゃない」
「ううむ、確かにのう」
「俺は髭は生やさねえからな」
 父の髭を見て言う為雅だった。
「そこまで親父そっくりでたまるかよ」
「それは別にいいけれどね」
 お母さんもそれはいいとした。
「それにしてもよ」
「うん」
「ああ」
 二人はまたお母さんの言葉に応えた。
「何で騒いでいるのかはわかったわ」
「そうか」
「別にピッチャーでもいいじゃない」
 お母さんの考えではこうであった。
「それはそれで」
「いいというのか!?」
「だって同じ野球でしょ」
 些細なことだと言わんばかりであった。
「野球のポジションじゃない。どう違うのよ」
「全然違う」
 また実に意固地な感じの言葉だった。
「ピッチャーはな、とかく迷惑な連中でだな」
「だからキャッチャーにこだわり過ぎでしょ」 
 強い言葉で言ってきたお母さんだった。
「お父さんは。幾ら何でもライバルチームの監督とはずっとバッテリー組んでいた間柄でも」
「小学校の頃からだった」
 また厳しい顔で語る。
「あの時からいけ好かない奴だった」
「喧嘩ばかりしていたわよね」
「中学も高校も一緒だった」
 実に見事な腐れ縁である。
「共に甲子園にも行った」
「何だよそれって」
 横で話を聞いていた為雅が言う。
「見事な腐れ縁ってやつじゃねえのか?」
「プロになって別れたのよ」
 お母さんがここでその為雅に話した。
「それでそこからは」
「ライバル同士だったんだな」
「そういうこと。だからそれもあって」
「何だよ、何かって思えばよ」
 事情がわかって呆れた顔を見せる息子であった。
「下らねえ。親父も器が小せえな」
「御前にわかってたまるか」
 為由は憮然とした顔で返した。
「わしのこの気持ちがな」
「相手チームの監督ってあの人だろ?」
「そう。佐藤崇さん」
 名球界にも入っている。監督としては熱血漢で育成に確かなものを持っている人物として知られている。そういう意味では為由と同じだ。
 
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