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偽の高潔

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第一章

                       偽の高潔
 職業は市民活動家だ、福嶌喜代美は常にこう言っていた。
「いいですか、市民に権利があるのです」
「市民の権利を守りましょう」
「戦争反対!」
「環境保護を!」
 いつもこう言っていた、そして。
 デモを主導してその他にもパンフレット等を出してそうして自分達の行動を喧伝していた。だがその彼女を見てだ。
 刑事である牧野真一は妻の喜和子にだ、苦い顔でこう言うのだった。
「あの福嶌とかいうのはな」
「最近結構テレビに出てるわね」
 喜和子は自宅で夫と共に夕食を食べつつ応えた。
「あの人ね」
「絶対に信用するなよ」
 こう言うのだった。
「何があってもな」
「そんなに悪い人なの」
「悪いなんてものじゃないんだよ」
 牧野は口を歪ませて妻に答えた。
「それこそな」
「あなた刑事だけれど」
「ああ、そこから先はな」
 牧野は厳しい目になって妻にこうも言った。
「悪いがな」
「お仕事のことだから」
「御前でもな」
 妻である喜和子でも、というのだ。
「言えない」
「そうよね」
「他のことなら言える」
 それこそだ、隠しごとなくというのだ。
「全部な。けれどな」
「それでもよね」
「ああ、言えないんだよ」
 そうだというのだ。
「仕事のことだけはな」
「あなた刑事さんだしね」
「俺はこのおばさんとは関わりないがな」
 このことは言うのだった。
「それでも。目を見てわかるんだよ」
「目、ね」
「濁りきった目だよ」
 丁渡テレビのコメンテーターとしてあれこれ言っている福嶌を見つつの言葉だ、言っていることは市民だの庶民だのいう単語がどんどん出ている。
 牧野はその目を見つつだ、こう妻に言ったのだ。
「見ればわかるだろ」
「この人の目を」
「どう思う?」
「そうね」
 喜和子は夫に言われて福嶌のその目を見た、そしてよく見ると。
 何かが違っていた、普通の者の目と。常に何かを探りそして狙おうとしている感じだ。そのうえで死んだ魚の様に濁っている。
 その目を見てだ、妻は夫に答えた。
「いい目じゃないわね」
「こうした目の奴はな」
 それこそ、というのだ。
「碌な奴じゃない」
「犯罪をする人の目なの」
「それもかなりタチの悪いな」
 そうした犯罪を、というのだ。
「する奴の目だ」
「だからなのね」
「こいつの言うことは信用出来ない」
 絶対に、というのだ。
「御前もこいつの言うことは聞くなよ」
「そうね、目を見るとね」
「そういうことだよ」
 夫婦で福嶌を見つつ言う、その福嶌はというと。 
 環境保護を常に訴え戦争反対を叫び市民の権利を主張していた。特に女性の権利保護には五月蝿かった、だが。
 その福嶌についてだ、牧野は警察署の中でだ。同僚の津田和毅にこんなことを言われた。
「おい、公安の奴等が福嶌を調べてるらしいぞ」
「俺がいつも言っているあいつのか」
「ああ、何かなとんでもない連中とつながってるらしいな」
「過激派か?」
 とんでもない連中と聞いてだ、牧野はすぐに彼等の名前を出した。 
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