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呼ぶ子

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4部分:第四章


第四章

「戻るぞ。いいな」
「うん。けれど」
 剛はここでふと父に対して言うのだった。
「父ちゃん、呼ぶ子見つからなかったな」
「ああ、それはな」
 父も我が子のその言葉に対して頷いた。
「仕方ないな」
「仕方ないんだ」
「また今度の休みにここに来るか」
「うん、今度こそ絶対に見つけるよ」
 彼は何としてもその呼ぶ子を見つけるつもりになっていた。絶対にだ。
「絶対にね」
「ああ、頑張ってな」
 こうしてこの日は父の手に連れられて家に戻った。そうして家に戻ると母に遅いと少し怒られてから食事になった。彼は次の休みもまた次の日の休みも父を引き摺るようにして呼ぶ子を探した。しかし遂に見つからずやがて飽きてしまって他の遊びをするようになった。それが彼の子供の頃の話だ。
 大人になってから彼は都会に出て自分の子供の勇夫を連れて自分の故郷のその山に来ていた。そうしてそこで山を見て声をかけていたのだ。
「お父さん」
「何だ?」
 その勇夫が彼に声をかけてきたのだった。
「こうして声あげると声がかえって来るよね」
「ああ」
 我が子のその言葉に頷く。
「山は何処でもそうなるんだ」
「これって何でなの?」
 こう父である剛に対して問うてきた。
「何で声をかけたらそれが返って来るの?」
「それはな」
 本当のことを言おうと思ったがふと考えを変えた。そうしてここであの時のことを思い出しながらそのうえで言うのだった。
「これはな」
「どうしてなの?」
「呼ぶ子のせいなんだよ」
「呼ぶ子って?」
「山の方にいてそれで声を返してくるんだよ」
 こう我が子に対して教えるのだった。
「声をね」
「何かそれって妖怪みたいだけれど」
「まあ妖怪かな」
 ここでも父の言葉を思い出しながら教える。
「それか妖精か」
「妖怪?妖精?」
 勇夫はその言葉を聞いて目をしばたかせた。
「そんなの本当にいるんだ」
「いると思うかい?」
 本心は隠して真面目な顔を作って我が子に尋ねてみせた。
「その妖怪や妖精が」
「それはちょっと」
 勇夫は父の問いに首を捻った。父は息子のその姿を見てやはり自分の息子だと心の中で思った。思いながら話を続けるのだった。
「どうかな。いるのかな」
「いると思うんだったら」
「うん」
「実際に見てみればいいよ」
 あの時とは違うがわざとこう我が子に言ってみせた。
「実際に。呼ぶ子を探しにね」
「それで呼ぶ子って何処にいるの?」
「もう一回声を出してみるんだ」
 教えるより先にこう我が子に告げた。
「声を。まずはそうして御覧」
「うん、それじゃあ」
 勇夫は父の言葉に頷き実際に声をあげてみた。両手を口元に置きそのうえで声をあげる。すると山の方からその声が返って来たのだった。
「声は何処から返って来たんだい?」
「ええと」
 父の声に応えながらその声が返って来た方を指差す。そこは幾重にも連なる多くの山の中の一つだった。彼はその山を指差すのだった。
「あの山だよ」
「呼ぶ子は声を返して来るんだよ」
「あっ、そうか」
 ここで勇夫はわかったのだった。
「じゃあ呼ぶ子はあそこにいるんだね」
「そうなるね。じゃあ今からどうするんだい?」
「呼ぶ子探しに行こう」
 彼もまたあの時の剛と同じことを言うのだった。
「今から。あの山まで」
「おいおい」
 自分の手を握って引っ張ってきたのも同じだった。
「今からか」
「だってさ。あそこにいるんだよね」
 父の方を振り返らない。やはり。
「だったら行こうよ。早く」
「仕方ないな」
 一応はこう言ってみせるのだった。
「けれど。夜になるまでだぞ」
「それまでに見つけろってこと?」
「そうだ。約束できるか?」
「うん、するよ」
 やはりこれも同じだった。あの時と。
「だから行こう、お父さん」
「よし、それじゃあ行くか」
 こうしてあの時と同じように行く剛だった。進みながらあの時のことを思い出してもいた。父がどういった気持ちでわざと呼ぶ子のことを言ったのかも。そうしたことも今わかったのだった。父になってそして今に至って。わかったのだった。


呼ぶ子   完


                    2009・4・14
 
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