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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 中学編 11 「桃色の誘惑?」

 気温も上がり夏らしい季節が到来した。その証拠に学校ではプール開きを行われ、今は俺のクラスが使用している。
 授業時間はすでに折り返しに入っており、担当の教師が最初から飛ばしてやるのもやる気が削げるだろうとのことで自由時間だ。無論、クラスメイト達が喜んだのは言うまでもない。
 クラスメイトが水の中ではしゃいだり、フェンス近くでしゃべっている中、俺は黙々と隅の方を泳いでいた。話す相手がいないというわけではないが、これといって話す理由もない。
 それに熱い思いをせずに体を鍛えることができるのだ。夏でもランニングといったトレーニングは行っているが、うちの同居人が熱中症を起こすのではないかと心配するのだ。早朝の涼しいうちにやっているから大丈夫と言っているのだが……。

「……あいつは心配性のところがあるからな」

 といっても、過干渉・過保護というわけではない。面倒見が良いくらいのレベルだ。それが元でシュテルにいじられたりすることもあるが、そのへんが彼女の魅力のひとつだろう。

「ショウ君って泳ぐの速いのね」

 聞こえた方に意識を向けると、跳び込み台あたりからこちらを覗き込んでいるフローリアンの姿が見えた。
 フローリアンは男女から人気があるため、話し相手には困っていないはずだが何かと俺に話しかけてくる。まあ幼い頃に出会った頃があるらしく、またクラスメイトなのでおかしくはないのだが。
 ただ……俺にはそのときの記憶がないんだよな。アミティエさんに何かしたらしいから思い出したいとは思うんだが、小学校に上がる前の記憶なんて両親と義母さん、ファラとのものしか覚えてないし。リンディさんとかを覚えてたのは両親絡みだからな。

「何ぼう~として……お姉さんに見惚れちゃってるのかしら♪」

 彼女に関わることを考えていたのは事実だが、見惚れた覚えは毛頭ない。
 というか、とある部分を強調するように腕を組むのはやめろ。年頃の娘ならもう少し恥じらいというものを持て。スク水だろうと目のやり場に困るんだぞ。

「そういうのは他の奴にやったほうが喜ぶぞ」
「日に日に私への対応が冷たくなってるのは気のせいかしら」
「さあな」
「ひどいわね……はは~ん、ショウ君って好きな子にはいじわるしたくなるタイプなんでしょ」

 いじわるだと過去に言われたことはあるが、今フローリアンが言った言葉は否定させてもらう。
 ここ何年かで知り合いの異性の数はかなり増えた。今時の子供のようにノリが良いわけでもない俺によくしてくれているのだから、それぞれに違いはあれど好意は持っている。だがそれは友人としての好意だ。恋愛という意味で好きな相手はまだいない。

「それはフローリアンのほうじゃないのか?」
「キリエでいいって言ってるのに……まあいいわ。今のはどういう意味かしら? 私、好きな人がいるなんて言った覚えはないし、ショウ君以外にちょっかい出してる男の子はいないんだけど」
「ちょっかいって認識があるならやめろよ」
「嫌よん」

 可愛らしく言えば許されると思うなよ。この手のことははやてやシュテルで慣れているんだ。
 とはいえ、ただスルースキルが上昇した結果であって、彼女達の行動をやめさせることは出来ていない。なので俺がフローリアンにできることは、とりあえずやめろということだけなのだ。嫌と言われてしまったので、もうこれ以上言えることは何もない。

「はぁ……それで?」
「うん?」
「何か用なのかって聞いてるんだ」
「あぁ、別に用って用はないわよ。ただお話したいなぁ~と思って来ただけだし」

 普通はこういうことを言われた男子はときめくのだろうが、俺からすれば「そうですか」くらいのものだ。この手のことは、反応するほうがかえって面倒なことになるということを今までの経験から学んでいる。

「俺はそこまで話したくないんだけど」
「あのねショウ君、私でも傷つくんだからね。それにそんなことばかり言ってると彼女できないわよ……いないわよね?」
「知らないのにできないとか言ったのか?」
「だって私はお姉ちゃんみたいに昔のこと覚えてるわけじゃないし。君との思い出なんてお姉ちゃんとかから聞いたことを除けば、今年からの分しかないのよねん」

 それってつまりは俺と同じような境遇だってことだよな……何でここまで積極的に話しかけてくるんだ。記憶がある先輩のほうならまだ分かるんだが……あの人は記憶があるから俺と会うとおかしな反応をするんだろうけど。

「あぁ……でもショウ君って結構女の子と仲良くしてる感じよね。王さまとかはやてちゃんとか……ねぇねぇ、誰が本命なの?」
「は?」
「何言ってるんだこいつ? みたいな反応しないでくれるかしら。あれだけ可愛い子達が身近にいるんだもの。ひとりくらい気になる子いるでしょ?」

 見ておかないと何をするか分からない、といった感じに気になる奴は何人かいるが、フローリアンの言っているような意味は今のところいない。
 異性として見てはいるけど……つい目で追いかけたりすることはないし、関係としては友人だからな。一緒に遊ぶことはあるが、大体数人単位でだし。ふたりっきりがないわけじゃないが、基本はやてとか距離感の近い奴だけだからな。
 かといって、ここで誰かの名前を出せば面倒になりそうだ。何も答えなくても面倒になりそうではあるが……。

「……まあ違う意味でならいないこともない」
「うーん、まあそれでもいいわ。誰かしら?」
「フローリアン」

 俺の返事に彼女は固まったまま何度か瞬きを行う。どうやら自分の名前が出るとは思っていなかったようだ。

「えーと……それは現在は好きではないけど、親しくなりたいってことかしら?」
「いや、そうじゃない」
「……君、もう少し乙女のハートを理解したほうが良いと思うわよ」

 確かにこれまでにその手の言葉は何度か言われたことがあるが、今回ばかりは俺ではなく彼女が悪いだろう。俺は前もってそういう意味ではないと伝えておいたのだから。

「で、どういう意味で気になってるのかしら?」
「俺と君……いや君達と昔どういう風に出会ったのか、どんな会話をしたのかってことで気になってる」
「ふーん……それってつまり、完全に何も覚えてないってことよね?」
「そうだな。悪いとは思うけど」
「別に悪いと思う必要もないけどね。パパとかを除けば、覚えてるのなんてお姉ちゃんくらいだし。内容も小さな子供がよくやってる類だからね~」

 いやいや、フローリアンに対してはともかく先輩に対しては悪いだろ。今の言い方からして、自分は覚えてないからいいけど先輩は覚えている。しかもそのときに何かしらあったってことだろうし。

「だったら教えてくれ」
「ダメよん、ダメダメ。勝手に言ったらお姉ちゃんに怒られちゃうし……でも~、今度デートしてくれるなら考えてあげてもいいわよん♪」

 己の魅力を最大限に活かして放たれた言葉に、俺は思わず後退する。
 俺にも人並みの感性はあるのでフローリアンの仕草は可愛いと思う。のだが……はやてやシュテルといった人間と同じ匂いがするだけにどうしても警戒してしまうのだ。彼女達に比べれば、物凄く分かりやすく危険を漂わせているのでマシにも思えるのだが。

「……ふたりでか?」
「と~ぜん。あっ、別に警戒しなくても大丈夫よ。買い物に付き合ってくれるだけでいいから」

 買い物か……まあフローリアンはこの街に来て日が浅いと言えるし、異性とふたりで買い物なら今までに何度もしたことがある。
 誤解されて困るような相手は……いないけど、迷惑を掛けそうな相手はいるな。とはいえ、昔にあったことが分からないと先輩とどう接していいのか分からない。覚えていないことを謝るだけでは釈然としないものがあるし、買い物なら道案内か荷物持ちといったところだろう。この話を受けても何も問題……

「おニューの水着とか買いたいからね」
「――っ、待て!」

 洋服ならまだしも、水着なんか一緒に見れるか。周囲からの視線がやばすぎるだろ。学校の連中に見られでもしたら面倒なことになること間違いなしだ。同居していることがバレれば、ディアーチェにも飛び火するだろう。

「そういうのは女友達と行けよ!」
「あらあら、顔を赤くしちゃって。私の水着姿を想像しちゃったのかしら?」
「人の話を聞け!」

 あぁくそ、言動に違いはあれどやっぱりはやて達と同種の人間だった。狡猾さで言えばあいつらに劣るが、話の内容が人に聞かれると誤解を招きそうなことばかりなのである意味あいつらよりも性質が悪い。

「そんなに怒らないの。学校外で着る水着なんか見せるための水着じゃない。異性の意見も聞いておきたいだけよん♪」
「だったら他に男子はいくらでもいるだろ」
「他の子だと誤解させそうだし……お姉ちゃんのためにも君の周りについて調べとかないといけないからね」

 おい、誤解されそうって後に何を言った。絶対俺に関することだろ。顔は背けているのに挑発するように何度か視線だけ向けてきたし。

「で、どうするのん?」
「……水着だけは勘弁してくれ」
「もう照れ屋さんなんだから」

 照れもあるが、世間の目を考えた結果だ。都合の良い解釈ばかりするな。

「まあいいわ。水着はまた今度遊びに行ったときに見せればいいし」
「…………はぁ」
「ため息を吐くと幸せが逃げるって誰かが言ってたわよ」
「幸せじゃないからため息が出るんだよ」


 
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