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映画

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14部分:第十四章


第十四章

「今回もいい出来だな」
 そこにいるのは監督だった。彼はフローリングの部屋で大型のテレビを前にして柔らかい白いソファーに座り満足した笑みを浮かべているのだ。
 観ているのはその映画だった。彼が撮影したその映画だ。その映画を観て満足した顔で笑っているのであった。
「夕菜ちゃんも朝香ちゃんもよく動いてくれたし」
 丁度主役の二人が同時に出ている場面だった。平安時代において。
「いい出来になったよ。あの世界の中で」
 何故かここであの世界と言うのだった。
「さて」
 彼は観終わると背伸びしつつまた声をあげた。
「次回作はどういったものにしようかな」
 もう次回作についての構想に入っていた。
「寝ながらそれを観るか。そしてその中に皆を入れて」
 言いながらDVDを切りソファーにもたれかかる。するとそのまま早速眠りに入ろうとする。
「次回作にしよう。次はどんな夢なのかな」
 少しにこにこと笑いつつそのまま眠りに入るのだった。眠りに入った彼は夢の中の、幻想的なこの世とは何もかもが全く違う世界に入っていった。そしてそれはそのまま彼の映画の世界であった。不思議でかつ美しく有り得ない世界がそこにある、まさに彼の映画の世界に入っていくのであった。そこに誰かを入れようと考えながら。今は一人で眠るのだった。しかしやがて皆を入れることを考えつつ。
 その夢の中で彼は会っていた。もう一人の自分に。そして深い森の中、青い花と緑の木々に満ちその花や木に静かな人の顔が出ている世界でもう一人の自分と話す。もう一人の自分は彼に問うていた。
「また人を案内するんだね」
「うん、頼むよ」
 彼は森の中で自分自身に話していた。
「この夢の中にね」
「わかったよ。けれどあれだね」
「あれって?」
「こうして自分の夢の中に人を入れてそれを映画にするなんてね」
 もう一人の彼は言うのだった。笑いながら。
「君も凄いことを考えたね」
「それをできるようにしたのは君じゃないか」
 しかし彼は自分自身にこう反論するのだった。
「それは。違うかい?」
「ははは。そうだったかな」 
 もう一人の彼はまた笑ってその言葉に応えた。
「そういえば僕が出て来たのは君がまだ子供の頃だったね」
「そうだったね。夢の世界の君に出会って」
「僕はそっちの世界の君じゃない」
 このもう一人の彼は言うのだった。
「君であるけれど夢の中の君だから」
「そう。夢で遊ぶ僕がその心を夢の中に永遠に分けたもの」
「つまりこの世界での君の分身」
「そうだね。けれど君はただもう一人の僕であるだけではなかった」
 彼は自分自身を見つつ微笑みつつ語る。
「他の誰かを。僕の夢の中へ引き寄せ入れることができた」
「夢の世界の住人にはそうした力もあるんだ」
 そのようである。この世の者でないのだからこの世のものでない力も備えているということであろうか。少なくともこの世のことでは説明がつく話ではない。
「そして」
 そのもう一人の彼はさらに言った。
「君はその人達を使って映画を作ることができるようになった」
「そうだね。君のおかげだよ」
「いや、映画を作るのは君さ」
 もう一人の彼はこう言葉を返した。
「僕は君に手助けをしているだけだから」
「そんなものかな」
「そうだよ。御礼はいつも通り」
「いつもこの世界で遊ぶ」
「うん」
 微笑んで自分自身に応えるもう一人の彼だった。
「いつも通りね。それで御願いするよ」
「わかったよ。じゃあこれからもね」
「頼むよ、僕自身」
「うん、僕自身」
 それぞれ自分自身に対して言い合う。彼は今夢の中で自分自身とこれからについて語り合っていた。誰も知らない彼だけの秘密であった。


映画   完


                  2009・2・20
 
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