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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十一話。人喰い村からの脱出

「川、か……」

2人で走って真っ暗な森を抜けると、川に行き当たった。
川幅は大体10メートルくらいで、水位は膝丈くらい……に見える。渡ろうと思えば渡れる川だ。
だが、今は夜でDフォンのライトが無いと視界もよく見えない。
いざという時は渡って逃げないといけないだろうが、今はラジオのノイズが鳴るまでここで小休止をしようと思う。

「少し休もうか?」

「はぁ、はぁ、はぁ……いいの?」

「うん。川の水は飲めないけど休むだけならね」

川の水を使って手や顔を洗いたいところだが、うっかり口に含んでしまい飲んでしまえば大変な事になる。
『異界の食べ物などを口にしたら戻れなくなる』。
キリカから聞いた言い伝えだが……確か、「黄泉戸喫(よもつへぐひ)」と言うんだっけな?
もっとも既に手遅れかもしれないがな。自治会館で食べ物や飲み物を出され、出したのがリサという事もあって俺は気にせず口に含んでしまったからな。

「はぁ、はぁ、ふぅ……」

隣を見れば音央もすっかり息を切らしていて、川をじっと見つめていた。
さっき、勇気を振り絞ったとはいえ、その表情には戸惑いが見える。
無理もないと思うが……変に気遣うよりも、いつも通りに接した方が彼女のためかも。

「川は使えそうもないな」

「ん……やっぱり川の水もアウトなのかしら?」

「異世界の物を口にしたら戻れなくなる……んだろうな、多分」

「なんかどっかで聞いた黄泉の国の話みたいね」

一般人の音央でも知っている有名な神話。
伊奘諾(イザナギ)伊邪那美(イザナミ)の異世界での夫婦喧嘩。
……そう。
確か黄泉の国の食べ物を食べると、人間の国には戻れなくなる、というのがその神話に出てきたはずだ。
黄泉の国、つまり死者の国。
そして、俺達がいるのは______
人喰い村、人が消える村。
______この村にいる人々はみんな死者だという。
その死者に追いかけられているのだから、あながちその表現は間違っていない気がした。

「ふぅ……」

汗だくな体を持て余しているのか、音央は胸元をパタパタとして空気を送り込んでいた。じっとりと体に張り付いている衣服がなまめかしい。
その姿を見て気持ちが高ぶり血流が良くなり、ヒステリアモードがより強くなった。

「何見てんのよ」

じとーっとした視線は、いつも学校で彼女が見せるものだった。
本当ならこんな世界に入ってくる事はなかった彼女に、俺は……

「可愛い子の、可愛い仕草は絵になって目の保養になるなぁー、と」

「バカっ。スケベっ」

「ははっ、男だからね!」

極力いつものノリ、いつもの会話を心がける。
音央もそんな俺の気遣いに気づいているのだろう。
なんとか頑張って『いつもの自分』でいられるようにしているように見えた。

「んもう……あんたって、ほんっとエッチよね。こんなピンチな時でもそうなんだもん」

「ピンチの時の方が生存本能が上がるっていうからね」

俺達、遠山の一族が持つ力……ヒステリアモードは性的な興奮をトリガーに発達したものだが『生存本能』も発現には関わっている。あれは『子孫を残す』という本能により発現するものだからな。

「ハイハイ。一之江さんと会長にチクるわよ?」

「すみませんでした音央さん。清廉潔白(せいれんけっぱく)な紳士を目指します」

「よろしい」

くすっ、と笑いながら座り込む音央。俺もその横に座って、ふぅぅぅ、と息を吐いた。
……また連中が襲ってきたら、走り出さないといけない。
だから今のうちに休んでおかないと。

「ま、あんたがいつもと変わらないままでいてくれるから……助かってるわ」

「ん、こっちこそ、だよ」

「あんたも実は混乱してたりするの?」

「ああ、実は今回の事件は俺にとっては三つ目くらいの怖い都市伝説なんだ」

『ご当地ロア』の時は一之江とキリカが側にいたからそれほど恐怖は感じなかったからな。
何も知らずに追いかけ回された一之江の時や親友だと思っていたクラスメイトに殺されかけたあの事件に次ぐ厄介な事件になってしまった、と今は後悔している。
俺一人がそういった事件に遭うのならまだいい。だが今回の事件は何も知らない一般人の音央も巻き込んでしまっている。しかも、事件現場となった村の中に前世の知り合いや死んで生き返った子供達もいるといった状況だ。
混乱しても仕方ないだろう。

「へえ、そうなんだ?」

音央は俺の顔をまじまじと見つめてきた。
俺はまだロアといったものがどういった存在か、ある程度の知識があるからいいが、何も知らない音央からしたら怖くてたまらないだろう。
音央はそれでもついて来てくれているんだ。
感じている不安は俺の想像以上なのかもしれない。
それでも落ち着いて見えるのは、多分……頑張って強い姿勢を見せているからだろう。

「ごめんな」

「うん?」

「本当は君まで怖い目に遭わせるつもりはなかったんだ」

怖い目に遭うのは俺だけでいい。
こんな、可愛らしく、明るい美少女に味わせていいものではなかった。
だから一之江と一緒に俺達だけでなんとかしようとしたんだ。
……いくら事故とはいえ、巻き込んでしまったのは事実だからな。

「ぷっ、あははは!」

巻き込むつもりはなかった、と謝罪したら何故か大笑いされた。
……なんか変な事言ったかな? 俺……。

「なんだよ?」

「ううん、あんたらしいわ、と思っただけ」

「えっ?」

「元々はあたしが誘ったんだもん。あんたはあたしに巻き込まれただけでしょ」

「いや、だけど……」

「いいの。別に気にしていないから。それに、なんだろ」

「うん?」

「怖いし、戸惑ってるし、落ち着かないけどさ。でも……なんでかは知らないけど、なんとなく大丈夫って気がしてるのよ」

「大丈夫……?」

「うん。なんだか怖い村なんだけど、同時に懐かしいっていうか……」

「懐かしい? この人喰い村が?」

それは意外な言葉だった。
改めて音央の顔を見てみるが、当人もなんでかは解らないような、迷っているような面持ちで。

「うーん……ノスタルジックかな」

そんな事を呟き、考え込んでいる。
実は俺も似たような感覚をさっきから感じていた。
デシャヴっぽい感じなんだが、何故か妙にこの村が懐かしく感じるんだ。
知っている場所のような、やっぱり知らない場所のような、不思議な感覚。

「そういえばさっきも言ってたね。知っている気がするって」

「うーん。でもちゃんとした記憶はないのよ」

考え込んでいた音央はやがてふるふる、と頭を振って言った。

「懐かしい風景、って誰にでもあるのかもね」

「かもしれないね」

それが心の中で描く原風景的なものなどならいい。
あるいは家族や友人と遊びに行ったキャンプやバーベキューで感じたなら感動して終わるだけだろう。
だが、目の前の現実は違う。
今の俺達は危険にさらされているんだ。
……悔しいな。
音央の横顔を見てみる。
彼女だって、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかっただろう。
当たり前のように、『何もありませんでした』で調査は終わり当たり前の日常を過ごしていく。
そんな程度の気持ちだったに違いない。
それなのに、今はこんな事になっている。
そういう当たり前の日、というもので……終わらせてやりたかった。
それができないのが悔しい。

「音央は後悔していないか?」

「うん?」

「……こんな事なら、とか思ってるか?」

こんな事なら、ああすれば、こうすれば……。
たら、なら、ればをいい始めたらキリがないが、そういう気持ちになってしまっても仕方ない事だと思う。
だけど音央はあっけらかんと言い放った。

「そんなの、今思ってもしょうがないでしょ?」

そして、目を細め。ちょっとだけ俺の方に身を寄せてきた。

「後悔なんて、すっごく安心した時にすればいいの。今はまだ危ないんでしょ?」

「ん……そうだね」

その言葉は、正しくその通りだった。女は度胸と前世の幼なじみがよく言っていた気もするが……音央の度胸も半端ない。

「だから、無事にここから出て、それから後悔すればいいのよ」

「そうだな。今は出る事を優先しようか」

「うん。さっさと出ましょう。もしくは会長への想いでも語ってればいいのよ」

こんな時に、こんな場所で。
騒げばすぐに村人達に見つかりそうだというような状況だというのに。
音央はあくまでいつも通りを俺に要求してきた。

「そうだね、ここにいたのが先輩だったら……」

「だったら……もっとカッコつけてた?」

「いや、普通に会話してたと思うよ。
普通に、『先輩の髪、いつもにも増して艶やかで纏まっていて綺麗だね』とか。
『この前のようにお姫様にしてあげよう』とか言ってたね、きっと」

「……は?」

音央の顔を見ると、彼女は俺が言った言葉に呆然としていた。
その目は『あんた……ヘタレじゃなかったの?』と言っていた。

「……なんてね。冗談だよ。冗談」

「そ、そうよね。モンジだもんね。
うん。モンジは不器用でヘタレだし」

音央は静かに立ち上がると、川の方を見つつ、ラジオを耳に当てていた。
俺も視線を向けて、耳を澄まし、Dフォンを確認する。

「どうかな?」

「なんの音もしないわね。そっちも?」

「赤く光ってないし、熱くもなってない」

「もう少し休めるなら、そのうちに色々教えてよ」

「そうだね。よいしょっと」

Dフォンを手に持ったまま、立ち上がった。

「やっぱ、一之江さんが転入してきた頃にこういうの始めたの?」

「まぁな。あいつもちょっとした都市伝説のオバケなんだが、それに追われたんだ」

「へえ? オバケな転入生なのにモンジと仲良しになったの?」

「……仲良しだったらいいんだけどねぇ……」

思い返せば、死ぬだの、殺すだの、殺害予告しかされていない気がする。
ちょっとからかったり、胸の話題を出すとすぐにグサグサしてくるし。あの辺り、アリアと共通して『キレるポイント』になっているのかもな。
従姉妹の理亜もそういった話題は苦手みたいだし。

「モンジって会長が好きなのよね?」

「うん? ああ。もちろんだよ」

「じゃあ、一之江さんは?」

「うん?」

「キリカちゃんは?」

「相手がオバケでも美少女なら大歓迎だよ!」

まあ、先輩やキリカは普通に友人や憧れている人っていう感じで、一之江に至っては相棒(パートナー)といった感じだけどな。

「そっか……そうなんだ」

音央は何か含んだように気にしている。
こんな状況でも、女の子にとって恋話は大事なのかもしれない。

「それじゃ……あたしは?」

「うん?」

音央の視線が俺の目を真剣に見つめていた。
不安……なのは確かだろう。強がっていてもやっぱり音央も普通の女の子なんだ。
だけど、どうしてだろう。今の音央は、いつもと少し違う気がする。
まるで別人のような……そう、何故かは解らないが、誰かの代理でそれを訪ねているような、妙な違和感を感じてしまうんだ。

「当然、好きだよ。愛してると言ってもいい」

「あたしは嫌いだけどね」

「えええぇぇぇ⁉︎」

いい雰囲気があっさりと終わった瞬間だった。

「弱いわねー、いかにも雰囲気に飲まれて」

「いや、そうかもしれないけどさ!」

「ふふっ、ばーか」

「いや、まあ……音央も可愛いからさ。っていうか、どうしたんだよいきなり、恋愛話なんて」

今の状況でいきなり尋ねてくる内容としてはずれてるよな?
もっと、ロアとか戦いに関する事を聞かれると思っていただけに戸惑ってしまう。

「わかんない。なんとなくこの村の空気を感じていたら……モンジに尋ねておきたいなーって思ったのよ」

「なんとなく?」

「そ。なんだろう……なんとなく聞いておきたくなっただけ」

音央は胸に手を当てて、目を伏せた。

何故だろう。
______その横顔に見覚えがあるような気がして、胸がドクンと跳ねる。



そう、だ。
俺は……この村みたいな場所で……音央みたいな少女と……。






























「……モンジ?」

「ん? うおっ!」

気が付くと、音央の顔がすぐ側にあった。

「どうしたのよ、ボーっとして」

「わ、悪い。ボーっとしてたか、俺」

「うん。なんか起きたまま夢でも見てるみたいにぼんやりしてたわよ?」

夢でも見てるみたいに、か。
そうだ。俺はなんとなく、夢で会ったあの少女を思い出していたんだ。
あの夢の中で感じた雰囲気や空気とこの村の雰囲気や空気は……どこか似ている、そんな気がする。
ただの夢のはずなのに、夢じゃないような……そんな気がする。

っといかん、いかん。
ボーっとしてる暇はない。
村人達が迫っている状況で音央を一人にするなんて大失態だ。

「ごめんよ。で、なんだい?」

「脱出の仕方の相談。この村から、ひとまず出るんでしょ?」

「あ、うん。そうだったね」

「あたし達が最初にいた場所に戻ってもダメなのかな?」

「入り口イコール出口、その可能性も考えたけど……スタート地点はあの村の中なんだよなー」

「そうなのよね。あの場所が分かり易いくらい『門』とかだったら良かったのに」

『門』か。
だけどその場合、『門番』とかがいそうで嫌だなー。
普通の門番ならともかく、『五十頭百手の巨人(ヘカトンケイル)』とかが門番だったら帰還できない無理ゲーになるぞ。

「山の中をこのまま直進すれば……いや、ダメだな。今日、明日ならともかくずっと飲まず食わずだと持たないな」

「詞乃ちゃんをなんとかする……っていうのは無理なのかしら?」

「難しいなあ。あの子、傷つけても傷つけても回復しちゃうからなー。普通に戦ってもジリ貧するだけだな、あれは」

人の姿をしているが、彼女は『人喰い村のロア』だ。
つまり『村そのもの』があの子なんだ。
そのロアは、迷い込んだ人を殺し、自分の村に住まわせるというもの。
ある意味、『村に食べられた』という事になるのだろう。

「脱出の方法が分かり易く、ボスを倒せば……っていうもんでもないだろしね」

「うん。死んじゃった人が生き返るなんてありえないしね……」

そのありえない出来事をついさっき『やっちまった』んだが、さすがの俺も村人『全員』を生き返らせるなんて事は出来ない。
全員助ける方法があるとすれば、それこそタイムスリップして、ここに迷い込まないようにするしかない。
______もう、決して助からない人々や犠牲者も存在する。
それが『ロア』と戦うという事なんだ。

胸の中に重いものが積み上がったような感覚がして、音央に気づかれないよう、顎を下げて唇を噛む。
『大切な人を守る為に相手を殺す』
一之江はとっくにそれを知っていて、覚悟して戦っている。
俺も時には『殺す』覚悟を持たないといけないのかもな。
そう思って顔を上げると。


「……モンジ……」

音央が心配そうに俺を見ていて、俺は彼女の手を握り締めていた事に気づいた。

「ごめん。もう大丈夫だ」

「ううん。 ……一人で考え込まなくていいからね?」

音央のそんな優しさが胸に染みた。
みんなを救いたい。
そう思っているのは音央も同じはすなのに、彼女は俺を気遣ってくれている。
そんな彼女の優しさに甘えながら思う。
____少なくとも、何があろうと音央だけはちゃんと帰そうと。




ザザザザザザザザザザッ‼︎


「チッ!ついに、来たか……!」

長い間休ませる気はない、って事か。
俺達はすぐに反応して、より村から遠ざかろうと川の方を目指そうとしたが……。

「モンジ、あれ!」

だが、川の方からいくつもの懐中電灯の明かりが見えた。

「挟み撃ちか⁉︎」

村の方角からも複数の足音が聞こえる。
前後挟まれる形で、かなりの村人が迫っている。
まさか、一斉に集まってくるなんてな。正直、この数はどうしようもない。

「あははっ、モンジさんっ?」

その声に反応し、上を見上げる。
高い木の枝に、詞乃ちゃんがニコニコ顔を浮かべながら座っていた。
彼女の格好はさっきと同じ赤いワンピースだが先ほど見たときよりもビリビリに切り裂かれていて、痛々しい服になっている。
(……彼女がここにいるという事はもしかして……)
悪い予感が頭の中で過ぎったが、今は弱みを見せるわけにはいかない。

「詞乃ちゃんか……」

彼女の名前を呟きながら彼女の顔を見る。
どうせ見つかっていて、挟み撃ちされているんだ。逃げ場はないだろうしな。
ならせめて時間を稼ごうと彼女に話しかけようとした。
だが、俺が声をかけるよりも先に詞乃ちゃんが口を開いた。
不本意ながら会話の主導権までもを彼女に取られてしまう形になってしまった。

「モンジさんだけじゃなく、一之江さんもハーフロアだったんだね?」

さっきまで可愛らしく聞こえていた声が、今は何処と無く怖く感じる。

「ああ____名乗りが遅れたね」

本当はまだルーキーで、この世界の戦いについてはよく解っていない、というのをバラすわけにはいかない。
ロアとの戦いは情報戦。
だからこそ、彼女は今ここで、話しかけてきたんだ。
俺がどんなロアなのかを見破る為に。

『不可能を可能にする男(エネイブル)』と『101番目(ハンドレッドワン)の百物語』の『主人公』、一文字疾風だ」

「『百物語』の主人公!」

詞乃ちゃんがいきなり声高に繰り返した。ビックリしたのか、ワクワクしてるのかは解らないが、やたらと興奮している。
『百物語』は、一之江が警戒し、キリカが驚いて排除しようとしたほどの存在だ。
知られているだとしたら、警戒させるには充分なはずだが。

「物語を改変出来る、『不可能を可能にする男(エネイブル)』だけじゃなくて、よりによって『百物語』の主人公も持っているなんて⁉︎」

詞乃ちゃんは興奮して俺を見つめているが、俺ってそんなに凄い存在なのか?
そもそも『主人公』と普通のロアの違いもよく解らないのだが、どう違うんだ。
そんな風に浮かんだ疑問も、今は顔に出ないようにする。

「百物語としては異質だからね。
存在しないはずの101番目の百物語。
言うならば『101番目(ハンドレッドワン)(エネイブル)物語の主人公』っていう感じかな?」

「まさか、複数のロアを同時に持つ人がいるなんてね……モンジさん、貴方本当に人間?」

失礼な奴だな。
俺は紛れもなくただの人間だ。

「毎回、色んな人に言われるが俺は普通の人間だよ」

「でも、そっか……それなら、君を倒せば、わたしのロアも強くなるんだね?」

「だろうね。『二つの物語を持つ主人公』を倒したロアとして、より強くなるはずだ」

「そっか……さっきも名乗ったけどわたしは『人喰い村(カーニヴァル)のロア』だよ」

「朱井詞乃っていう名前は誰が付けたんだ?」

「付けて貰ったんだよ。『神隠し』さんにね?」

一瞬、俺の背中に激しい寒気が走った。
この子は今、『神隠し』に名付けられたと言った。
つまり『神隠し』は他にいるという俺の仮説は当たっていたんだ。

「あれ、知らなかったんだ?
意外に情報収集はないんだね?」

「情報収集担当が今はお風呂に入っているからね」

適当な事を言って誤魔化そうとしたが……。

「 へえ、情報収集担当がいるんだ?」

いらん情報を与えてしまったな。
しかし、詞乃ちゃんの話し方。
最後に語尾を上げる口調は、かなり精神的にくる。いちいち確認されているみたいな感じがするからな。
詞乃ちゃんみたいな美少女がやるから許せるが、男がやったら『桜花』で殴ってるな。間違いなく。

「で、モンジさんはこのわたしの村から出られるの?」

「ああ、出られるさ」

ニヤリと笑って音央の手を寄せる。
音央は俺の手を握り返しながら、それでも気丈な視線で頷いてくれた。

「ふぅん?」

詞乃ちゃんは俺を見て何かを考えたようだが……クスっと笑って。

「じゃあ、見事に出てみせて、101番目(ハンドレッドワン)(エネイブル)物語さん!」

その言葉と同時に、大量の村人達が一斉に襲いかかってきた。
バシャバシャと川を渡ってくる音も背後から響く。

「ど、どうすんの、モンジ⁉︎」

「とりあえず……!」

『待つ』のではなく、用意していたDフォンを操作して、彼女を『呼ぶ』。

「来てくれ!」

瞬間、俺の周囲にぶわっと風か吹き上がって____




『もしもし私よ。今貴方の後ろにいるの』



一之江の声が背後から聞こえた。

「っ⁉︎ 誰⁉︎」

音央が俺の後ろにいるであろう彼女を見て驚く。
無理もない。どうやら普段の一之江とは見た目が違うようだからね。
俺は車のバックミラーやカーブミラーで見ただけだからハッキリと見た事はないが。

「わたし、わたし」

「え、一之江さん……?」

「そうそう、一之江ですよ。一之江」

「なんで詐欺っぽく言うのかな」

「はふぅ、そんな事より、もう戦い疲れたので帰りたいんですが」

背後の一之江が珍しく肩で息をするような語調でそう言ってきた。

「そうだね。とはいえ……」

まだリサ達と合流できていない。
そう告げようとした矢先。
集団の先頭にいた村人達が、突然倒れた。

「っ⁉︎ 何が……」

音も無く上空から飛弾した物体が村人達を潰していく。
あれは……石?
村人達に降り注ぐそれは上空から飛来した大小様々な石だった。
頭上を見上げるとそこには蝙蝠、鷲、烏が飛来していて、その蝙蝠達が飛んで来た方角からは獣のものと思われる咆哮が聞こえる。
……リサ達も無事なようだ。

「……今です。行きましょう」

背後の一之江がそう言って俺の背を引っ張った。
途端に身体が自然に動き、襲ってきた村人達の攻撃をするりと回避した。
そのままふわりふわりと、俺と音央の体はまるで空を舞う綿毛のように、彼らの攻撃を回避して進んでいった。

「わっ、わっ、何これ⁉︎」

「人の動きには流れがあります。それを見抜けば、こんな操り人形のような人達の動きはいくらでも操れるという事です」

一之江は凄い武術の達人みたいな事を言った。
一之江が促した動きに沿っての移動。
時に引かれ、時に押され、ゆらりゆらりと人の波を流れる水のように動き続ける。

「ははっ、まるで流水のようだな」

名付けるなら『流水』で決まりだな。
一之江が使う技に名前を考えていると。
……気が付いた時には俺達はもう、詞乃ちゃんがいる木の真下に到達していた。
村人達は俺達はまださっきの場所にいると思っているのか、わらわらとそちらに群がったままだ。

「ああ、上を見たら刺しますよ」

「……見ないよ」

詞乃ちゃんのスカートの中を見る気はない。
大変魅力的だが、今の状況でそんな事をするつもりはない。
いや、今の状況じゃなくてもしないが。

「へえ、面白い技を使うんだね?」

真上から聞こえる詞乃ちゃんの声。
俺は上も後ろも見れないという首固定の状態だ。

「詞乃ちゃんは強いのか?」

「何度ザクザクしてもすぐに治ったので、飽きて逃げてきました」

ああ。だから服がビリビリに切り裂かれているのか。
ブラド並みの回復力だったもんな。詞乃ちゃんの体は。

「そんなわけで逃げますよ」

「ああ、そうだな。
だけどどうする? 今のままだと追いつかれるよ?
この村から脱出出来る手段があれば、な……」

「私の能力で出ればいいでしょう」

ん?
一之江の能力で出る?

「キリカさん辺りに電話かければいいんですよ」

「あー、なるほどな」

『どんな所からでもかけた相手の場所に移動する事が出来る能力』。
それが一之江が持つロア、『月隠の呪禁人形(メリーズドール)』の能力だからな。

「音央達も連れて行けるかな?」

「ええ、大丈夫です」

その言葉を聞いて安心した俺は、一之江の姿を見ないように気をつけながら詞乃ちゃんがいる場所を振り向いて見上げて言う。

「じゃあ、詞乃ちゃん。『また』ね!」

「そう、脱出手段があるんだね? させないよ⁉︎」

村人達が一斉に迫ってきた。
その速度は先ほどより速い。

「リサ!」

俺がリサの名前を叫ぶと、もの凄い速さで金毛の獣が村人達を薙ぎ払いながら近づいてきた。
リサは俺達の側に来ると、背中に乗せていた子供達を下ろして人間の姿に戻った。
みんなで輪になるように手を繋ぐ。
さっきかなりの距離を稼いだが、村人達との距離はもう百メートルくらいしかない。

「よし、行くぞ!」

俺はDフォンを操作し、キリカに電話をかけた。
操作を終えた後は耳に押し付けて首を倒し、肩と首の間で挟むようにして手を握った。


トゥルルルルル……トゥルルルル……。

電話を待つ間にも村人は迫っおり、一之江は何故かリサの胸をぎゅっと掴んでいる。

「ひゃん⁉︎ 一之江様なんで後ろから胸掴むのですか⁉︎」

「掴みやすかったのでつい」

「掴みやすかったなら、いいのかしら?」

驚いた声を上げるリサと、一之江の動きに戸惑いの声を上げる音央。
掴みやすいって……ああ、自分のは掴めないからもしかしてデカイのを掴みたかったのかもな。

「そして、このまま、モンジに抱きついてください。
音央さんも一緒に」

「えっ、ご主人様に⁉︎」

「えっ、い、嫌よ⁉︎」

「臭くてキモいかもしれませんが、なるべくくっついてください」

「臭くもキモくもねえよ⁉︎」

俺の抗議をスルーした一之江は「脱出に必要ですから」とリサと音央に囁いた。

「わ、わかりました。えーい……」

むぎゅ。
リサが抱きついた事により、その豊富な部分が当たって……ヒステリアモードはより強くなった。
更にリサからは甘いメープル系の匂いがしてきた。
意識し始めたら、一呼吸毎にヒス的な血流メーターが微増し始めた感じがしている。

「相変わらずいい匂いがするな、リサは」

「んもう、ご主人様ったら。まだお昼ですよ?
ですが今まで相手が居らずお辛かったのですね。ついにそのようなお気持ちになって下さって……リサはリサは嬉しいです……」

なんだかよくわからん事を言っているリサは置いといて。
そのリサの発言を聞いた音央の顔が途端に不機嫌となり、背後からもゾクッと背筋が凍るような冷たい感覚を感じた。

「へ、変態⁉︎ バカー⁉︎ 匂いフェチ」

「……女性は胸の大きさで優れるわけではありません。
それが解らないなんて……そんなに死にたいならぜひ後ろを振り向いてください。
すぐに楽になりますから……」

前門の(音央)、後門の(一之江)⁉︎
このままだと村人や詞乃ちゃんにではなく、音央や一之江に殺されそうだ。

「キリカ、早く出てくれ‼︎」

そんな事を言っている間にも村人達は手に各々の武器を持って近づいてきている。
距離にしてほんの10メートルほどだ。

「きゃあああ! 迫ってきてるわよ‼︎」

「いででで‼︎ 抜ける。抜けてしまううう‼︎」

俺に抱きつきながら俺の髪を引っ張る音央。
あまりの力強さに毛根が死滅しそうな勢いだ。

その時。
ようやく電話が繋がった。


『わっ、も、モンジ君? ごめんね今おふ……』

「ごめんキリカ、今からそっちに行くよ!」

『今⁉︎ わ、ちょっ!!!』

想起跳躍(リンガーベル)です」

一之江が呟いた直後。





俺達の視界は一変し……そこは真っ白な空間になっていた。 
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