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いつか止む雨

作者:九曜 瑞
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高水鎮守府
  3.秘書艦

「さて、決めることは決めてしまおうか。時雨、秘書艦をお願いするよ」
「うん、了解だよ。ちゃんと出来るか自信ないけど、他の子来るまでは頑張るよ。……で、本当にこんな話し方でいいのかな?」
「ははは、問題ないよ。さて、取り敢えず書類を片付けようか。手伝いよろしく」
 最初は慣れない様子で書類の処理をしていた時雨だが、30分後には処理速度が私とほぼ変わらないレベルに。事務仕事についての飲み込みはかなりいいようだ。

「提督、これで終わりかな?」
「お疲れ様、時雨のお陰で思ったより早く終わったよ。」
 時雨ははにかんだ微笑みを浮かべつつ、
「こんな僕でもお役に立てたなら嬉しいよ、他の仕事はないかな?」
「ん、今日はこのくらいで大丈夫かな。後は休んでていいよ」
「ありがとう、休ませてもらうね。提督も今日ついたばかりだから無理はしないでね」
 ありがとうと伝えつつ、時雨の頭をぽんと撫でた。無意識でやっちゃったけど、時雨も怒ってないようだから大丈夫かな。気をつけよう。

 

 さて、こんなところか。あの後自分で処理すべき書類を終わらせた時には夜も深くなっていた。
 時雨を帰した後は少し静かだったな……もっともあの子はいても静かだけど。
 初めての艦娘との仕事、どんな子か不安があったがとてもいい子のようで安心した。真面目すぎる部分があるかもしれないが、それは彼女の美点であろう。
 まぁ、一日も一緒にいないから決め付けるのは早いな、と食事をしつつ考えていた。
 食事は鎮守府の厨房で簡単に作ったけど、そういえば時雨はちゃんと食べたのかな? 厨房が使われた様子もないけど。
 


 自室に戻る途中、庭で座って夜空を見上げてる少女をみかけた。
「隣、いいかな?」
「うん」
「星、見えないね」
「雨はあがったけど、星が見えるほどじゃないね。でも月明かりが雲からうっすらと見える」
「あ、本当だ。夜空は好きなのかい?」
「うん、落ち着くんだ」
 二人で静かに、星の見えない空を見上げ続けた。

「提督、付きあわせちゃったかな。ごめんね」
「いや、静かで落ち着いた時間だったよ。私もこういう時間は好きだよ」
「そう、良かった。それじゃそろそろ僕は戻るよ、提督はどうするの?」
「私も戻ろうかな、そうだ時雨」
「ん、何かな?」
「厨房使ったあとがなかったけど、食事はちゃんと採ったのかな?」
「うん、大丈夫。支給された保存食を食べたから」
 食料が入った箱は手を付けられたなかったはずだけど……
「何か支給されてたかな?」
「うん、乾パンが部屋にあるんだ。僕は割りと好きなんだ」
「厨房の食材使っていいのに」
 苦笑いをしつつ、時雨に話しつつ有ることに思いついた。
「もしかすると、厨房や食材使うわけにはいかないと思ったのかな?」
 困ったような表情を浮かべる彼女の手を取り、厨房へ向かいつつ、
「時雨に新たに命令、ここの敷設は自由に使うこと」
「えっ? 僕はただの新米艦娘だよ。そんな迷惑かけちゃうよ」
「食事をおろそかにして、体調崩す方が迷惑になるから注意すること」
「ごめんなさい、迷惑かけないように……します」
 もう厳しい顔をすることもないな、苦手だしね。
「よし、それじゃご飯を食べよう。乾パンだけじゃ足りないだろ、と言っても簡単なものしか作ってないし、私の料理じゃ美味しくもないだろうけど」
 食堂へご飯と味噌汁を運び、時雨の正面へ座った。
 時雨は嬉しそうに食べ、そしてちょっと恥ずかしそうに
「提督、ありがとう。とてもおいしいよ。今度は僕が提督の分も作っていいかな?」 
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