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101番目の百物語 畏集いし百鬼夜行

作者:biwanosin
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第十話

◆2010‐05‐12T09:30:00  “Hinokage City”

 既に学校は始まっている時間なんていう表現で済む時間ではなく、もうじき一時間目も終わる時間。諸事情によりわずかな遅刻は何度もある俺なのだが、ここまでの遅刻はそうそうない。インフルエンザにかかった時くらいだ。
 そんな時間に車の中、それも別の街にいるなんて、なんだか悪いことをしているようでドキドキしてきてしまう。が、まあ俺の中で勝手にテンに責任転嫁して落ち着くことにしよう。
 いや、このことに心が痛まないではないんだけど……隣で何でもないかのように紅茶を飲んでいるテンを見る限り、この行動に間違いはないように思う。

「それあたしの仕業、ってオマエな……」
「ん?何か間違ってた?」
「いや、まあ確かに俺の想像通りの回答だったけどな。それより、死ぬところだったんだぞ?」
「そうね。そういう物語だもの」

 あっさりとそういう姿に、なんかもう呆れてしまった。力もどっと抜けて、座席にもたれかかる。

「あのさぁ……もっと他に言い方ないの?」
「そう言われても、仕方ないのよ。そういう物語だから。……それと、もうあんなことはしないから」
「……さいでっか」

 そういうことなら、もういいや。というより、元々テンが相手でも、もしそうでなかったとしても、許すつもりではいたんだ。なんせ、最後に向こうが歩み寄ってくれたからこそ、あのただ握手をする夢を見せてくれたからこそ、こうして生きていられるのだから。

「でも、色々と説明はしてくれよ?」
「……ずいぶんあっさりと流すのね」

 ちょっと……いや、大分驚いた様子のテンに、何か間違えたのかと思って聞いてみる。

「マズイか?」
「いいえ、むしろいいことよ。今回の件で熱くなるようなら、これから先貴方の前任者と同じ目に会っていただろうから」
「ええ……物語として、終わらされる目に」

 終わる、ではなく終わらされる。つまりは、他者によって強制的に、ということだ。それはつまり……

「……前もって言っておきたいんだけど」
「うん?」
「あたしは今回の件、本当に何とも思っていないわ。カミナを殺そうとしたのは、あたしにとってはやらなければならないことだった。だからやった。そこには、本当に何も思うところがないの。少なからず仲良くなったカミナ相手でも、ね。それでも」
「それでもいいよ。正直、俺はまだ分からないことだらけなんだ」

 だから、きっと。

「でも、そこにちゃんと理由があることだけはわかった。テンが絶対にそうしないといけなくなるだけの理由が。だから……それならそれで仕方ないな、って」
「……あっそ。確かにあんた、『百鬼夜行』の主人公にふさわしいわね」

 テンはどこか納得した様子なのだが、俺はまだ何も納得できていない。というか、まだ何も知らない。

「そういうわけでさ、説明してくれよ。テンは一体何者なのか、俺は一体何に巻き込まれたのか……主人公ってのは、なんなのか」
「ええ、分かってる。あたしとしてももう、あんたに早々に消えられると困るもの。……でも、その前に一つだけ聞かせて」

 そう言うと、テンはとても真剣な表情で俺の方を見て、

「あんた、『ペスト』って知ってる?」

◆2010‐05‐12T13:30:00  “Yatugiri High School 2-A Class”

「あ……二人揃って遅刻ですか、カミナ君にテンさん。何かあったんですか?」

 昼休み。教室に入った瞬間にとてもニコニコしたティアがそう聞いてきた。
 そしてその次の瞬間、『ざわっ……』とクラス内の全員が箸を止めてどよめく。さて、隣のテンはまだ状況を理解しきっていない様子なんだけど……ふむ。

「さすがは俺だろ?」

 よし、ここはテンが理解する前にできるところまでいじろう。楽しそうだし。
 すると、俺がそう考えていることが読めたのか、ティアも乗ってきてくれた。

「ええ、さすがはカミナ君。半日学校をサボって何をしていたの?」
「んー。そういう俺からサボったって感じではなく、サボらされたって感じだな」
「わぁ……やっぱり、テンさんって大胆……」

 と、ここでようやくこの状況が周りからどう見られるのか、そして俺がどれだけあおったのかを理解したのか、テンは一気に真っ赤になり、

「ちょ、別にそう言うんじゃないわよ!ちょっと用事があったから呼んだだけで!」
「ほう?学校をサボってまでの用事とは、一体何なのだ?」

 あ、珍しい。アレクまで乗ってくるとは。まさかの本気の疑問かと思ったけど、どうやらそうじゃなくて面白がってるだけっぽいし。

「そ、それは……ちょっとカミナ!」

 テンがなんとかしろ!という感じの表情でこっちを見てきた。ふむ、ここまでなってしまうと、もうどうしたものか……

 キーンコーンカーンコーン

「あ、チャイムだ。皆ー、席つこうぜ~」

 このどこか乗りのいいクラスメイト達は、俺が言うのと同時に自分の席へと向かっていった。もちろん俺自身も自分の席について、持っていたカバンから筆箱と教科書を出したりして準備を進める。
 そんな中、テンは少しの間状況をつかめていないのか教室の入り口でポカンとしていて……あ、こっち向かってきた。そういや、席俺の後ろなんだよな……マズッたか?
 とか考えている間にテンは自分の席について身を乗り出し、

「何してくれてんのよ!」
「ゴフッ」

 思いっきり、背中を殴ってきた。その様子に周りのやつらが笑っている中、テンはさらに身を乗り出して、

「あんたねぇ!ティアのこと探ろう、って言ったの忘れたんじゃないでしょうね!?」

 そう、周りには聞こえない程度の声で囁いて来る。これはこれでまた誤解されそうだけど……ま、いいか。

「いや、忘れたわけじゃないけどな……」
「信じられるわけないでしょ!」
「ですよねぇ……」

 本当に真っ赤な顔でそういうテンを見て、俺の口はそう動いていた。でも、仕方ない気がする。あの状況だったんだから、悪乗りしても、さ。

◆2010‐05‐12T09:30:00  “Hinokage City”

 時間は少し戻って、テンの家の車(?)で日影市を走っている時。
 俺はテンに、『ロアの世界』について説明をしてもらっていた。

「まあ、かくかくしかじかなのよ」
「まて、その言葉はなんでも伝わる便利ワードじゃないんだぞ」
「ツー」
「カー、ってツーカー錠も飲んでないんだよ!」
「よく分かったわね」

 テンはそう言うと、笑顔になった。まあつまり、俺を落ち着かせるためのやり取りだったのだろう。ありがたいものだ。がしかし、なぜ秘密道具。

「まあ、ティアにせよ亜沙先輩にせよ、話しのバリエーションが広いんだよ。……って、亜沙先輩のことは知らないんだっけか?」
「あんたが好きな先輩のことでしょ?」
「なんでそんなこと知ってんだよ!?」
「転入前に一通り調べたもの」

 いやなんで調べてんの、そんな超個人情報!というかどんなルート使えばわかっちゃうの!?

「それにしても、危険そうな趣味よねぇ……ああ、別に人の趣味をとやかく言うつもりはないわよ?でも、身近なところにああいう姉系の人がいると自然とそうなるのかしら?」
「……いや、姉さんにドキドキすることもあるから、そういうわけではないと思う」
「そうなんだ?てっきり未発達な感じの子限定なのかと」
「それはかなり危うい人だ!」

 ただのロリコンだよそいつは!俺はそんなんじゃねえ!

「……って、そう言えば……」

 こんな話をしていたからか、ふと思い出した。そういえば、昨日のあれの最後に出てきた女の子は胸大きかったなぁ、なんて言うことに。だからまあ、自然と視線はテンの胸元に向かって……

「……あぁ」
「って、あんた今何を納得したのかしら?」
「いえいえ、何でもないですよハイ」

 うん、間違いなく発言を間違えたら殺される。ここで『夢のやつとはサイズが違うんですね』とか言ったら、間違いなく殺される。そういう笑顔だ、あれは。

「……まあいいわ。次はないから」
「はい、ありがとうございます」

 どうやら、初回限定のお許しを頂けたようだ。

「じゃあ話を戻すけど、ある条件に当てはまる人を転入前に調べてたのよ」
「ある条件?」
「ええ。……魔女としての条件もあるんだけど、これは放置してもいい?あたしが調べた人たちについては、こっちは知らなくても大丈夫だから」
「……面倒がってないなら」
「少しだから大丈夫ね」

 それは大丈夫じゃない気がする。が、言っても聞いてはくれないのだろう。

「で、まあその条件なんだけど……『周りが、病気にかかっている、病弱』等の印象を抱く可能性のある人、よ」
「……なるほど、な」

 実際にはそうじゃないんだけど、確かにそう思われるかもしれない。年の割に多少小さいならまだしも、あの人は大分小さい。それに、昔は病気しがちだった、という話を聞いたこともあるし。といっても、()なんだけど。

「でも、そういうことなら」
「ええ、ティアも調べたわ。で、二人に関わりのあるあんたのことも調べたってわけ」
「……ちなみに、どのような情報が?」
「いいと思うわよ、あたしは。部活の時間を合わせて一緒に下校できるようにするの。純情ボーイっぽくて」
「うわああああああああああああああああ!!!」

 つい頭を抱えて叫んでしまった。慰められている分なんだかつらく感じる!なんだこれは!しかもこの感情を当てる先がない!

「さ、話を戻しましょうか」
「そうしてください、お願いします」

 これ以上脱線させて俺にダメージがくると、本当に死にかねない。精神的に。

「えっと、そうね……都市伝説って、知ってる?」
「まあ、一応。昨日あんな目にあったし、その関連で調べたりもしたし」

 なんだか怖くなって、対処法とか知っておけば少しは楽になるかなー、って思っていろいろと調べたんだ。まあ、本来なら一回で終わるやつが何度も続いたりしたから、そこまで安心できないのかもしれないけど、精神的には楽になる。

「そういう都市伝説が実体化したものを、あたしたちは『ロア』って呼んでるの。フォークロアなんかに使われてる言葉ね。意味は、伝承とか知識とか」
「それ、ちょくちょく聞く言葉なんだよな。短いから覚えやすい」
「そうね。で、それぞれのロアには、そのロアしか持たないルールがあるの。あたしの『正夢造り』のロアなら、無限に繰り返してでも相手の見た夢を再現し続けて、いつか再現する。基本的には元ネタの通り相手を殺すことになるんだけど」

 つまり、そうしないと終わらないということなのだろうか?だとすれば、本当に機能はテンのおかげで助かったということになる。

「……じゃあ、もし相手が夢を再現する前に死んじゃったりしたらどうするんだ?」
「ああ、大丈夫よ。死なないから」
「…………へ?」
「基本的に、そのロアの持つ伝説的なルールは、『ロアの世界』っていうのに取り込んだ相手に対してはほぼ絶対になるの。だから、『こうこうこうなって死ぬ』っていう夢を見せてる間は、それ以外の要因では死なないわ」
「そう、なのか」

 それはまあ何とも、無茶苦茶な話だ。でも、変に理屈っぽい話をされても理解できない自信はあるから、こっちの方が助かる。

「都市伝説によっておこる現象なんて、常識では証明も暗証もできないことだらけでしょ?でも、それは『ただ現実として』そこに起こる。ありとあらゆる都市伝説は『ロア』になり、現実のものになった瞬間。そのロアが影響を及ぼせる範囲では『ロア』の法則がすべての空間になる」

 つまり、『ここでは俺が法だ!』がマジで起こる、とかの認識でいいんだろうか?きっといいと思う。そして、そこから出たいならその法律をどんな形でもいいからぶっ潰せ。

「ちなみに、お前がそれを守らなかったときはどうなるんだ?」
「最悪の場合、『別に夢の通りにしても何ともなかった』って噂を流されて消えるわね」
「噂を流されて消えちゃうのか」
「噂がロアを形成するもの、最悪消えるわよ。それを止めるシステムみたいな役目をいろんな学校にいる『三枝さん』が引き受けてくれてたりするし」

 いろんな学校にいるんだ、三枝さん。そして、ロアに協力してるんだ。

「そろそろ、俺のキャパシティを超える話になってきそうだ」
「そう言われても、これくらい理解してくれないと困るのよ。昔っから妖怪だったり悪魔だったりの形で『ロア』は存在してきたんだから、それをかいつまんで話して行ったとしてもそこそこになるレベルの量があるのよ」

 あんなのもロアになるんだ。人の認識で力が変わるなら、妖怪レベルになるともう固定なんだろうなぁ。

「……なんか大変そうだけど、頑張れよ?」
「人ごとじゃないのよ?『百鬼夜行』の主人公さん?」
「……はい?」
「あんたは、『8番目の世界』から『百鬼夜行』の主人公に選ばれた存在。『畏れ集いし』なんてついちゃうほどの存在になった、ってこと」
「なんか凄そうな感じなのは置いといてだ。どゆこと?」
「あんたもとっくに、『ロア』に片足突っ込んでる状態ってこと。最終的には、あたしみたいに『ハーフロア』になるわね」
「えっと……なんて?」
「ハーフロア。人間からロアになった人のことよ」

 テンは指で自分と俺をさしてそう告げる。えっと、つまり……

「人間が、『ロア』に?」

 そういうことが起こる、と。そういうことだろうか。

「ええ、そうよ。うーん、そうね。何かいい例えは……『口裂け女』でいっか。知ってる?」
「ああ、昨日調べたら出てきた。べっ甲飴とかポマードが苦手な、耳まで裂けた口のある女性だろ?」
「マスクをしてる、『私綺麗?』って聞いて来る、とかいろいろとあるけど、そんな感じね。あとは、そこを除けば美人、なんてのもついたり」

 まあ、調べなくても名前くらいは聞いたことがある話だ。超有名、って言ってもいい気がする。

「で、ここからがハーフロアの説明なんだけど……あたしたちは、『世界』の認識がゆがんだところから現れるの」
「スイマセン、もう少し説明をください」
「いいわよ。まずメインの登場人物として、きれいな女性Aさんがいたとします」
「はい」
「Aさんはある日、たまたま大きなマスクをして歩いていました。まだ分別のつかない子どもはそれを見て、『あ、口裂け女!』と言いました」

 ありそうな話だ。子供なら、いいそうである。

「これはだんだんと子供たちの間で広まっていき、その噂を聞いた大人や学生といった層も、『この街には口裂け女がいる』と噂をして広めていった」

 何か物語でも語るような口調だけど、とても真面目な話なのだろう。だから、俺は何も言わずに聞いていきたいと思う。

「やがて、Aさんを見て『口裂け女』だと思う人が増えていきます。そうなっていけばいくほど、Aさんは『口裂け女』の体現であると認識されていき……Aさんは『口裂け女のロア』になってしまったのでした」
「え、ちょ!」
「どうしたの?」
「どうしたも何も……」

 今のテンの話。これがもし本当なら、かなり怖い話だ。
 最初、子供がそう言った。これだけなら、ちょっとイラッとするか、微笑ましい光景だと思う程度だろう。だがしかし、そこから噂が広がっていくにつれて多くの人がその人のことをそうだと思う。やがて、その人はその都市伝説の『ハーフロア』になる。とても信じられない話だ。でも。

「人の噂が、人間を『ロア』に変えるってのか?」
「この世界は大いに『歪んだ認識』によって存在してる。人の心は安定していないから、その歪みもどんどん現れる。そんな歪みは、やがて『世界からの認識のズレ』を発生させる」
「……で、『世界』がその人を『そういうロア』だと認識してしまったせいで」
「あたしたちは、人間でもロアでもない存在、『ハーフロア』になるの」

 あっさりと言ったが、俺やテンはそういう存在であるということ。俺はまだ理解しきれていないから何とも言えないんだけど、テンははっきりと理解しているだろうということ。だったら、なんでこんなにも簡単に話せるのだろうか。辛くは、ないのだろうか。

「そんなにあっさりと、噂されなくなったら消えてしまうような存在になるのか……」
「そういうこと。で、あんたは今」
「それになりかけてるわけだ」

 さて、一体どんな噂が流されたのやら……

「ちなみに、俺はどんなことをすればいいんだ?『百鬼夜行』の主人公って言うとぬらりひょんをイメージしちゃうけど、あれってよく分からない奴だった気がするし」
「知らないわよ、自分とは他のロアの物語なんて。でも、あんたが主人公である以上はあたしたちよりも多い制約に縛られてるはずよ」
「……そっちについて知ってたりは?」
「絶対正確、って言えるわけじゃないけど、一つ。昨日あたしに殺されてた場合、あんたの物語は終わってたでしょうね」
「つまり、消えてしまっていただろう、と?」
「そういうこと。あんたがDフォンを受け取ったその瞬間に、その『ロア』としての運命を受け入れたってことなんだから」

 ラインちゃんや。俺はそんな説明、一切受けていないのですが。
 とはいえ、彼女もまたロアであるのなら、こうしてDフォンを配るという行為が実行しなければならない物語なのかもしれない。なら、まあとても責めることはできないな。

「ついでに言うなら、あたしは『百鬼夜行の主人公を倒したロア』って噂されて、一年か二年くらいなら何もしなくても消えないくらいになる予定だったんだけどね」
「え……主人公のロアを倒すって、そこまでのことなのか?」
「だって、『百鬼夜行の主人公』って超がつくくらい有名だもの。ぬらりひょんの名前を知らない人って、日本にはほとんどいないだろうし」

 まあ、あたしはこれまでにもたくさんのロアを屠ってるから簡単には消えないんだけど、とテンは続けたが、俺としては見過ごせない点が一つ。つまり、俺はこれから先も超狙われるということだろうか?勘弁してほしいんだけど。

「あー、俺もテンみたいに他のロアをやっつけたりしないといけないのか?」
「そりゃそうよ。主人公なんて、事件を解決し続けてなんぼじゃない」
「それは確かにその通りなんだけどなぁ……」
「大丈夫よ。相手にも意識があるとかを気にしてるなら、完全に噂から生まれたロアを狙えばいいから」

 うん?

「というのは?」
「そういうロアは、たいてい噂に尾ひれがついて残虐性とか危険性がアップしているのよ。さらには、意識なんてなく、ただ噂の通りに動こうとするから……」
「やらないと他が危ない、か」
「そ。意識なんてないも同然のやつらばっかりだし」

 そう言われても、多少の抵抗が残るもののようだ。ついでに、昨日のテンが相手の時にあそこまで苦労したんだ。これから先もあんなんばっかりだった場合、もう本当にどうしようもない。が、『百鬼夜行』の主人公である以上は、あと九十九個もあるということ。そうもいっていられない。

「当然、解決し続けないとあんたは消えることになるから」
「人に知られる形じゃないとだめなのか?」
「それはさすがに大丈夫。アピールする相手は『世界』だから」

 つまり、たいていのことは『世界』が判断するということか。的なのか味方なのか、よく分からない相手だ。

「と、以上よ。あとは退治するかしないかの見極めも大事になってくるとか色々とあるんだけど、それはちゃんと判断できるでしょうし」
「悪事を働いてるかどうか、か?」
「主人公なんだから、自分の物語の進行の邪魔になる存在も相手しないといけなくなるんじゃないかしら。まあ、そのあたりはこれからあたしの手伝いをしつつ判断、ってことで。あたしも相談には乗るし」
「うん?手伝い?」

 いやまあ、できることはやらせてもらう所存だが、一体何をしろと?というかそもそも。

「素人の俺でいいのか?」
「べつにいいわよ。確かに経験も必要でしょうけど、主人公にとって最も重要なのは知恵や勇気、そして機転で窮地を脱するものだから」
「それこそ俺にはないと思うんだけど」

 少なくとも、知恵はないと胸を張って言える。

「そうでもないわよ。勇気がなかったら、昨日あんな状況になってあそこまで抵抗できないでしょうし、銃を撃てるはずないじゃない」

 それはまあ、確かにあるのかもしれない。といっても、人にあてる、となればやれていた自信はないのだが。

「じゃあ、他の二つは?」
「知恵はないでしょうけど、機転はあると思う。大分偏ってて、相手によっては一瞬で殺されて終わりそうだけど」
「……?」
「でも、相手を抱きしめて正直に話す、っていうの。あたしには十分に効いたわよ」

 それかー!って、いやいやいや。

「あれは機転でも何でもなく、ただあきらめただけなんじゃないか?」
「だとしても、相手の心を動かせる。主人公が相手の心を動かしたら、それはもう勝ったも同然じゃない?」

 確かに、そういう作品はよく見るかもしれない。でも、そんなんが理由でいいのか?そして……

「……言ってて、恥ずかしくない?」
「言うなバカ!」

 あ、一気に赤くなった。ちょっと面白いかも。
 そして、恥ずかしくてもそういてくれたんだ。俺にほんの少しでも自信を持たせるために。だとしたら、かなり嬉しいし、出来ることは協力したい。

「……で、テンは何をしに転入してきたんだ?」
「そ、そうね。ちょっと手を打っておきたい『魔女』が一人。その候補者としてさっきの二人が上がってきたから、あたしは転入してきた」

 ここで、さっきの話に戻るのか。しかも、あの二人が『魔女』かもしれない、と。正直信じたくはないのだけれど、テンがこのタイミングで冗談を言うとは思えない。

「でも、転入前日にあたしの『ロアの発動』を回避したやつがいた。普通の人にそれができるはずもないから、『魔女の手下』か『魔女に利用されている人間』のいずれかではないか。そんな推測のもと、仕留めるかせめて事実の確認のために、より一層力を入れて襲ったの」
「で、結果はどうでしたか?」
「もしそうなら、あそこまで怖がらないわね。魔女に接触する様子もなかったし」
「それは良かった」

 でも、まあ。つまりはその『魔女』は俺にとっても敵になるということ。しかも、相当おっかない相手らしい。
 ……生き残れるのかな、俺。
 
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