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生み出すもの

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3部分:第三章


第三章

「それでなんです」
「それでか」
「家から持って来てです。そのうえで売ってたんです」
「それでか」
「その通りです。まああれです」
 日本人は多分に愛想のが入った気さくな笑みでスコフコスに応える。
「日本って国は色々なものがあるんでそれを売れば」
「金になるか」
「はい。それでどうですか?」
 日本人はスコフコスに対しても言ってきた。
「何か買われますか?」
「売ってくれるのか」
「それが仕事ですから」
 だからだというのだった。
「それでなんですけれどね」
「そういうことか」
「ええ。それじゃあ何か買われますか?」
「そうだな」
 日本人の言葉に乗ってだった。スコフコスも言うのだった。
「それならな」
「それなら」
「筆か何かあるか」
 彼が言うのはそれだった。
「描く為のものが欲しいのだが」
「あっ、ありますよ」
 こう返答が来た。
「硯でも何でも」
「硯といえば」
「まあ日本の墨は聞いてるでしょうか」
「名前はな」
 芸術家としてだ。それは聞いていて知っていたのだ。
「黒い。それで文字や絵を描くのだったな」
「その墨を入れるものですけれどね」
「そうだな。それを買おう」
「毎度あり」
「それとだが」
 その硯を買うと決めてからだ。スコフコスはさらに言うのだった。
「他には。筆は」
「それもですね」
「あるか?日本の筆が」
「はい、勿論ですよ」
 若者は笑顔で彼に答えてきた。
「それもとびきりのが」
「とびきりか」
「年代ものです。百年筆です」
「百年か」
「ええ。うちは骨董品屋ですから」
 それが理由だというのだ。
「そうしたものもありまして」
「そうか。しかし作られてから百年の筆か」
 スコフコスはそのことに驚いていた。彼はそこまで古い筆など持っていなかったし使ったこともないからである。それだからだる。
「それはまた凄いな」
「筆ですからそんなに高くないですしね」
「値段も安いのか」
「はい、筆ですから」
 またそれを理由にしてきた。
「ですからそんなには」
「そうなのか」
「それでどうされますか?」
 若者はあらためて彼に尋ねてきた。
「買われますか、その筆を」
「そうだな。そうさせてもらうか」
 スコフコスは彼の言葉に頷いた。それで決まりだった。
 こうして彼はその先が流線型になっている筆を買った。如何にもアジア系といった筆であった。その筆を手に自宅に戻ってだった。
 すぐに絵に取り掛かる。その不思議な色の果物達を描いていく。
 その時にだ。今さっき買った筆のことを思い出したのだった。
「そうだな折角買ったんだしな」
 こう思ってだった。それからすぐだった。
 その筆を取り出してそうしてである。絵の具を付けて使ってみた。すると。
 
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